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絶滅記  作者: banbe
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決戦前夜6

 悪魔はその足で自分が勤めている新聞社に向かった。

 新聞社の扉を潜ると、早速人間が一人話しかけてくる。


「おお!マッド、帰ったか!今回はどんなスクープを持ってきたんだ?」


 新聞社の一室は十人前後の人間が作業しており、その声に気づいた他の人間も作業を中断し悪魔の元へやって来た。


「マッドさん!今回は負けないぞ」

「お前はいつも勝負になってないだろう。それより何かあったら戻って来たんだろう?早く教えてくれ」


 どうやら悪魔は同僚達にかなり信頼されている様だった。


「ええ、今回魔王の手からワドファーを解放したので取材に行ってました。しかしなんと取材中に魔王の部下がワドファーを取り戻しに来たんです」

「なんだって……大丈夫だったのか?」

「はい、魔王の部下は愚かにも少数でやって来て、屈強な我が軍に捕らえられました」

「おお、まあ俺達の国の軍が亜人共に負ける訳はないが……だが魔王の部下を捕らえたのがスクープか?確かに凄いがお前にしては少し弱いような……」

「まだ話は続きます、その魔王の部下達は自らを幹部と言いました」

「なに?幹部を捕えたのか、それなら魔王の詳細な情報が手に入るかも……いや、お前の事だもう情報は手に入れたんだな!?」

「まあまあ落ち着いて」


 悪魔は逸る同僚を諫めながら続きを語る。


「その後、幹部を尋問すると、魔王は近くに居る事が判明したのです」

「なんて事だこの前まで魔王は東に居たんじゃないのか?」

「そして我が軍は勇敢にも魔王の元に向かいました」

「まさか魔王と戦ったのか!?」

「そうです、そしてその結果……」


 話を聞いていた周りの同僚達は一斉に息を飲み、悪魔の次の言葉を待った。


「なんと我が国の軍は、魔王を捕らえる事に成功したのです」

「……おおおおおお!」


 悪魔の言葉を聞いた新聞社の中は一瞬時が止まり、一拍遅れで周りの人間達は歓声を上げた。


「凄い!大スクープじゃないか!確かなのか!?」

「確かに捕まった魔王をこの目で見ました」

「この事を他の新聞社は?」

「分かりません、誰よりも先にワドファーを出て、それこそ寝ずに戻ってきたつもりですが……」

「これは大ニュースだ!今ある紙を全て使って直ぐに新聞を刷れ!この大事件を俺達が一番早く国中に広めるんだ!」

「待て、軍から情報が降りてきてない。お前の事は信じるが、軍が発表してない事を出す訳にはいかん」


 部屋の一番奥の椅子に座っていた人間が、歓喜する悪魔の同僚達を止める。


「ですがこんな大スクープの記事は急いで作らないと」

「勿論だ新聞はいつでもばら撒けるように準備しておけ、マッドはいつ軍の発表があるかわからん。王都に行って軍に張り付いておくんだ。みんな!ウチが一番に情報を広めるぞ!」


 その一言で社内は湧き全員が直ぐに作業にかかった。



 それから数時間後、王宮、軍の会議室にて一人の伝令が急ぎ走ってくる。


「で、伝令!ワドファー国で魔王及びその部下達と交戦。その後、我が軍は魔王を捕らえる事に成功しました!」

「なんだと!」


 会議室で魔王の対策を話し合っていた面々は、伝令の言葉を聞いて驚く。


「現在は捕らえた魔王を連れ、こちらに向かっています!」

「本当か……こちらへの到着はいつになる?」

「魔王の残党に警戒し、警備も厳重になるので時間がかかるかもしれません」

「戦闘が起こればさらに遅くなるか……それ以外に情報は?」

「特にありません、この事をいち早く伝えるようにとだけ」

「分かった、下がっていい」


 伝令を届けた兵は部屋から出ていく。


「これは吉報だ、あんなに被害を出した魔王をついに捕えるとは」

「うむ、捕らえた英雄達を盛大に出迎えなくては」


 会議室では、すぐに魔王捕獲の発表の準備が開始された。



 魔王捕獲の伝令を届けに来た兵は王都の王宮を出ると、そのまま西側の門がある方へ向かう。

 西の門を潜り、通りから外れると、一軒の寂れた小屋に入る。


「さあ、これでお膳立ては出来ましたよ。直に魔王は捕獲されたと発表されるでしょう」


 兵はそう言いながら装備を外すと悪魔の姿に変わる。


「ご苦労様」

「どうです?私の隠れ家の居心地は」


 悪魔は小屋の奥で座っていたルインに聞いた。


「外見に反して中は快適だね。でも、まさかここまでしてくれるとは」

「これもお代の内の一部ですよ、それとこれから来る大混乱の前金って所ですかね。これからの作戦で成否はどうあれ必ず人間達は感情を乱すでしょう」

「成否はどうあれね……」


 ルインは苦笑いする。


「これでしばらく人間達は油断するでしょう。おそらく祭りも開催されます。せっかくですから私達も一緒に楽しみましょう」

「図太いなぁ」



 魔王捕獲の報道がされ数日、人間の国は各地で浮足立っていた。

 都全てに壊滅的なダメージを与え、多大な被害を出した魔王の恐怖から逃れた人間達は、その解放感に浸り至る所で宴会や祭り、果てはパレードまで行われていた。

 ルインと悪魔は、人間達の宴に密かに参加しながら作戦の時を待つ。

 そして、西の都が魔王を捕らえた英雄達の出迎えの準備が整った頃、事態は動く、本物の伝令が来たのだ。

 伝令が持ってきた情報は先に知っていた情報とは真逆で、そればかりか人間達は、自分達が信じていた軍がワドファーから追い出され、しかも今も亜人達の追撃を受けていると知る。計画通り人間達は大混乱に陥った。

 西の都はお祝いムードから一転、すぐさまワドファー軍と亜人達を迎え撃つ準備に入る。

 しかし急に真逆の報告が流れ、どちらの情報を信じるか揺れる者が多く連携を取るのに困難をきたす。

 また、魔王が捕らえられたという勝利の情報とは異なり、ワドファーの駐留軍が亜人に敗れて逃げて来たという不名誉な情報はすぐには広まらず、国は情報を広めるのに苦労する。



 王宮軍部では至急、対策会議が開かれていた。


「ええい!先日の伝令はなんだったんだ!」

「魔王は魔法で姿を変えられるとか……おそらくその類の術で、攻撃は先日から始まっていたという事だろう」

「まんまと奴等に嵌められたという訳か!」

「他の都には今から伝えても軍の編成は間に合うかどうかわからんな」

「だが戦力はこちらの方が上だ、西の都に集結させ堂々と出迎えてやればいい」

「そうだ!北と西の連合軍はまだ健在だし何より王都軍は無傷!」

「動ける兵を西へ集めれば迎撃も難しくはないだろう」


 伝令が直接情報を伝えに走った西の都と王都以外の都は、軍の編成に大きく出遅れ、防衛は西と王都に集中する事になる。



「我々の予想通り西の都を中心に防衛するようですね、早速布陣をワドファーに伝えます」

「分かった、俺もそろそろ出るよ。皆にかかる負担を少しでも減らす為にね」

「ではここでお別れですね、私も特等席に向かいます。もう会うことはないでしょう」

「そっか……思えば最初に助けてくれたのは君だったね。今までありがとう」


 悪魔は手を上げ最後の挨拶をした、そうして魔王は悪魔に見送られながら寂れた小屋を後にした。

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