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絶滅記  作者: banbe
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決戦前夜5

 こうして人間追撃へ軍の再編成がエルフの指示の元、迅速に行われた。

 悪魔とルインも人間の国へ向かうべく、装備を入念にチェックする。


「魔力通信用の予備の魔鉱石です、本当は国中からかき集めた全てを持って行って貰いたいのですが……」


 戦いの準備で人が少なくなった会議室にて、宰相は大きな袋いっぱいに詰めた魔鉱石をルインに渡そうとする。


「これ貴重なんでしょ?それにそんなに持てないから……」


 ルインはその中から数個手に取りポケットにしまう。


「あなたはこの作戦の要です、失敗すれば亜人は滅びるのですから出し惜しみはしません」

「インテ……彼が困ってるじゃないか、程々にしないと」


 宰相を止めたのは、新王ワドフ四世だった。


「あなたは新王の……」

「先程は簡単なあいさつで済まなかった、あなたにはずっと会いたかったんだルイン殿」

「殿?」


 ルインは王からそう呼ばれ驚く。


「はぁ……王よ」


 宰相は呆れて溜息を吐く。


「いいじゃないか宰相、周りにはワドファーの関係者は少ない、今はプライベートって事で。この国に生まれ住む者として僕はあなたに感謝を伝えたい」

「は、はぁ……どうも」


 困惑するルインに新王は苦笑いしながら返す。


「この国の前の王……父が亡き後、国が滅ぼされない様王を務めてくれたんだ。命の危険もかなりあったと聞いた。この国の為にありがとう」

「力のおかげさ、俺は何もしてないよ」

「いや十分やってくれた、あまつさえ王という地位を手に入れてもあなたは権力に奢らなかった」

「訳も分からず必死だったからね、それどころじゃなかったよ」

「少なくとも父や僕が出来なかった事をやったんだ。誇りに思ってくれ」

「どうも……そう言えばあなたはあの時居なかったようだけど何を?」

「……恥ずかしながら僕はこの国には居なかったんだ」


  新王は言いにくそうに話し、宰相はそれを補足する。


「前ワドフ王は彼に急いで王位を継ぐ事を求めませんでした」

「僕自身も王に向いてるとは思わなかったし、継ぐのもまだ先の事だと思ってた。だから自分の得意分野、芸術を学ぶ為に西の方へ行っていたんだ」

「勿論ワドフ様、父君も了承していたし何よりあの方は、王位にとらわれず好きに生きろとまでおっしゃっていました」

「……あの強かった父が敵の手でこうも簡単に倒れてしまうとは。僕が父が死んだと聞いたのは事が起きてから一か月後の事だった」

「一か月と言うと俺達が王都に向かってる頃か」

「前王が倒れてすぐ使いを走らせましたが、西にある国はかなり遠く……その結果、王が戻ってきたのはルインさん達もご存じの通りです」

「そうだったのか」

「王の責任や作戦の要まで、あなたに頼りっぱなしなのは一国の王族として正直不甲斐ない……だけど僕じゃ代わりにはなれない。だからこそ、我が国はあなたを全力で支えるよ」

「それはありがたい」

「戦いが終わったら改めて礼をさせてほしい」


 ルインと新王は静かに握手を交わした。


「ではそろそろ行きましょう」


 会議室の壁際にて、悪魔は手をかざしポータルの魔法を使い準備する。

 ルインを見送ろうとする者達が集まる中、大きな声で制止する声が響いた。


「ちょっと待って!」


 声の方を向くと魔女が息を上げながら向かってきた。


「ふぅ、間に合った」

「チウィーさん?何かあった?」

「私も南の亜人だから南の進攻を手伝おうと思ってね、けど、今から行くには時間がかかる。だから私もポータルで連れてって貰おうと思って」

「ほう、まあ構わないですが……」

「対価でしょ?これでどう?」


 魔女は悪魔に一本の杖を渡す、ルインはその杖に見覚えがあった。


「その杖は」

「私の師、コズが使っていた杖。形見よ。それと、ポータルを使う時の魔力は私が払うわ」

「ほう……」

「チウィーさんいいの?」


 ルインは心配そうに魔女に聞く。


「形見だけど……あれは師匠用に調整された杖。私じゃ使いこなせないし、あれは私が持っていても持て余すだけよ。実は北に行く前に私専用に調整された杖を作っていたの。それにもう一つの形見、魔導書なら受け継いだ」


 そう言う魔女の手には新たな立派な杖が握られていた。


「そっか」


 悪魔は形見の杖をじっと見る。


「……まあギリギリですかね」

「これでギリギリなの?」


 ルインは驚くが悪魔は至って冷静に説明する。


「悪魔の契約も色々ありますから、事悪魔と魔女なら尚更。そうですね……対価としてその心の内も明かして貰っていいですか?」

「はぁ、これだから悪魔は……ポータルの魔法、便利そうだから私も覚えたいと思ってね。あんたに教えて貰うより身体で覚えた方が安いし覚えやすいでしょ」

「はい、よくできました。これで対価は揃いました、覚えられるかはあなた次第ですが」

「一回で覚えてみせるわ」

「ではルインさん、どうぞ」


 悪魔はルインに黒い空間に入る様促す。


「お、おぉ……」


 しかし、ルインは真っ暗で先の見えない空間に足を進めるのを一瞬躊躇った。


「大丈夫です、目を閉じて数歩歩けばもう向こうに着いてますから」


 ルインは言われるまま目を閉じ数歩歩く、すると気づけば匂いも明るさも音も全てが変化しており、驚いて目を開けるとそこは全く見覚えのない倉庫の様な場所だった。

 後ろを振り向くと黒い空間、ポータルがぼんやりと浮かんでおり、その中から魔女が出てくる。

 ルインは少し興奮気味に魔女に感想を語る。


「すごいよ、全身ゾゾゾってしたと思ったらもう別の場所だった」

「まあ待って、今やってみる」


 魔女は目を閉じ、少し集中した後、手のひらに小さなポータルを出現してみせた。


「なるほど、こういう事ね」

「すごい!再現できてる」

「あらま、本当に一回で覚えるとは」


 ポータルを通って来た悪魔は魔女の再現を見て驚く。


「でもいいんですか?悪魔の魔法なんて覚えたら人間達から反感を買いそうですが」

「その人間達はこれから大きい顔出来なくなるから問題ないわ。それよりどうしてここまで私達に協力するの?前に聞いた時は人間の混乱が目的だったみたいだけど、このままだと人間の数は減るわよ?」

「ダメですか?」


 悪魔はポータルを閉じつつ答えた。


「情報提供だけならまだしもポータルを使わせて、さらにかく乱にも協力する。正直驚きよ。明らかに、私たちに肩入れしすぎでしょう?」

「……まあ隠す事でもないですしね。簡単な事です、各都の人間達の感情の揺れが物凄く美味でした。云わばお代ですよ」

「美味でしたって……」

「ふふ……戦争中の国は良いですねぇ。国中が不安に包まれてるから、ほんの少し囁くだけで感情が大きく揺さぶられる。今や人間の国は、悪魔にとって最高の娯楽場です。この情報は特別ですよ?」

「戦争中の国ってそれはワドファーもじゃない……」


 魔女の言葉にルインは反応した。


「え、ワドファーも悪魔の娯楽になってるの?」

「確かに多少悪魔居ますが人間の国ほどじゃないですね。ワドファーは人間の国と違い既に後が無く余裕のない状態ですからね、手軽に遊べる国が隣にあるのにわざわざ難易度の高い方を選ぶ者はあまり居ません」

「それならいいけど……」

「その言葉も本当かどうか怪しいけど協力の理由も知れたしまあいいわ。それよりここはどこなの?」

「西の都の王都近くです」

「西の奥か……南側に行くには少しかかりそうね……時間もないしそろそろ行かなきゃ」

「では出口はこちらに、二人共そろそろ変装を」


 悪魔に催促されるとルインはマントで人間に変装し、魔女は香水を自らにかける。

 三人が居たのは地下倉庫の様で、悪魔の案内で階段を上がり倉庫の扉を開けると急に日の光が入りルインは目を細める。

 光に慣れ周りをよく見ていると、確かに人間が数多く歩いておりルインは一瞬で人間の国に来たことを実感する。


「おお、本当に人間の国だ」

「今いる所は裏通りの奥まった場所ですが、この道をまっすぐ行けば大きな通りに出られます」

「分かったわ、じゃあ二人とも作戦を頼んだわよ」

「はい、お気をつけて」

「悪魔に心配されるなんて変な気分ね」


 魔女はそんなことを呟きながら南へ向かって行った。


「さて、我々は偽の情報を流すとの事ですがそれは私に任せていただきたい」

「えっ、一人でやるの?」

「はい、簡単に言うとルインさんあなたは邪魔です」

「……」


 あまりにも悪魔が清々しく言うのでルインは反論できなかった。


「この手の事は私は慣れています。あなたはこの後、単身王都に乗り込むのですから力を温存しておいて下さい」

「……確かに俺がやると事が大きくなりそうだしね、でもそれまで俺はどうすれば?」

「西の都と王都を行き来する門の近くに私のアジトの一つがあります、そこで待機をしておいて下さい」


 そう言って悪魔はルインに小さな紙の地図を渡した。


「先程の魔女と同じく大きい通りから行けば分かり易いはずです」

「分かったよ、じゃあ情報の事は任せる」

「ええ、ではお気をつけて」

「そっちもね」


 悪魔はルインとも分かれた。


「ふむ、悪魔に心配とは……これがさっき魔女が言っていた変な気分ですか」

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