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絶滅記  作者: banbe
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決戦前夜4

 まだ騒ぎが冷めきらぬ中、ルインと魔女は大通りで馬を労っていた。そこに軍師が近づいて来た。


「ルイン殿、久しぶりだな」

「軍師さん、久しぶり。軍師が先陣切ってたけど大丈夫なの?」


 先程の戦闘で軍師はルインでも分かる程、最前線で人間達への突破口を作っていた。


「先生がこの国に来てから軍師の仕事は先生に任せてあるんだ、実は俺も後ろで作戦を練っているより戦場に居た方が好きだしな」

「一国の軍師がそれでいいのかな……」

「今回はこの国だけの問題じゃないからな、より能力がある者がちゃんとした役を担ってくれなければ困る。それだけみんなこの作戦には本気という事だ。それより城に来てくれ、その先生と国王がお呼びだ」

「新国王か……」


 ルインと魔女は軍師によって城まで連れられ、そのまま王が座する玉座に向かう。

 城の謁見の間に到着すると、ルインもかつて座った玉座には既に別の者が座っていた。


「この度、この国を人間の手から解放してくれた事に大変感謝している」


 玉座に座っていたのはまだ若い男で、目元にワドファー前王の面影が見られた。しかし、体型は前王と比べて細く、玉座に座る姿もまだどこか遠慮がちのように見えた。

 ルインと魔女を連れて来た軍師は若い新王に膝を付き首を垂れる。しかしルインと魔女は堂々と玉座に座る王の前で立っていた。


「あの……ルイン殿?王の前なのでそれなりの礼儀をして貰わなければ困るのだが……」


 軍師は申し訳なさそうに言うが戸惑うルイン、そしてその言葉に魔女は抗議した。


「その事で私は文句があるわ、ルインが借りの王だという事は分かっていたけど、作戦中にいきなり変更なんて酷いじゃない」


 この強気な発言に軍師も若い新王もたじろいでしまう。


「それはそうなんだが……」

「変わるにしたって事前に教えて欲しかったし、ロクな引継ぎも無しに新しい王ですなんて言われてもね」

「その件は大変失礼しました」


 その声は魔女の後ろ、謁見の間の扉から聞こえて来た。


「その方は前ワドフ王のご子息、ワドフ四世で正式な現ワドファーの王です」


 声の主はワドファーの宰相、その隣には軍師の師のエルフも居た。


「お久しぶりですルインさん」

「正式な王ね、それでもルインは文字通り体を張ってこの国を守ってたのだから、もう少し手順を教えて貰ってても良かったんじゃない?」


 魔女の抗議に宰相の横に居たエルフが説明する。


「急な決定だったのだよ。戦力を温存する為、君達を悪者に仕立て人間達の目を向けさせるという作戦はね。特に魔女、君が居ないから魔力通信機を隠す為、移動させ再び使えるようにするには時間が掛かってね」

「ふぅん、まあ私はこの国の住民じゃないし前ワドフ王と同じ態度で接させてもらうわよ。ルインも仮とは言えこの国の王に名前を連ねたんだからもっと堂々としてもいいんじゃない?」

「そうだね、俺もこの国に住んでる訳じゃないし」

「それでは王の威厳が……」


 二人の態度に困り軍師は宰相に助けを求める視線を送る。

 しかし宰相は肩をすくめて言った。


「まあ仕方ないですね。彼女は前ワドフ王の時からあんな感じですし、ルインさんも仮とは言えこの国の王となられた方、畏まれという方が無理でしょう」

「はぁ……」

「それよりオノ、君には現場の事を任せたい。我々はこれからの事を話さねば」

「分かりました……」


 エルフから指示を受けた軍師は肩を落としながら、まだ騒ぎが収まっていない大通りに戻って行った。

 そしてルイン一行は会議室に向かった。


「さて、改めてこのワドファーを解放してくれたことの礼を言う」


 新王が上座からルインに向かい礼を言った後、新王の隣に立つ宰相は続けた。


「そして短い期間とは言え、王の代役本当にありがとうございました。最後はこちらの勝手な都合で王位を戻させていただきましたが、約束通りルインさんにはこのワドファーの永住権とこの国の確かな位を約束します」

「それだって勝った後でしょう?この戦いで負けたら国は人間が治めるんだから」

「その通りです、なのでお二人には期待していますよ」

「再開の挨拶は済んだか?では時間が無いのですぐにこれからの事を決めよう」


 エルフは各員を急かすように話を始める。


「本来なら直ぐにでも人間達へ追撃と進攻を行いたいが、軍の再編成や各地方の者達とタイミングを合わせるとどう頑張っても半日は掛かってしまう。更に人間はこの事を知らせる為、既に早馬を走らせてるだろう。街道も人間達が占拠しておりこれを破りながら西の都に行くとなると奇襲は難しくなる」

「こっちは大勢で行くから、どうしても時間はかかるか……」

「そう、この時間差が空けば空くほど不利になる。だが彼が協力してくれる事によって、それを混乱に変える事が出来るかもしれない」


 エルフの言葉に応じて登場したのは悪魔のマッドだった。


「みなさんお久しぶりですね」

「あらずいぶん久しぶりじゃない、あなた勇者の同行を追ってたのでしょ?」

「はい、ですがルインさん達が東の都へ向かっている時点で勇者は動かないと確信しまして、それから勇者の監視は打ち切りになったんですよ」

「打ち切りって……こっちは何も聞いてないわ」

「それも私の指示だ。その時この国かなり窮地に立たされており、どこに居ても生き残るであろう君達よりこの国を優先せざるを得なかったんだ。現に君達は妨害工作どころか他の都よりも深刻なダメージを与えたじゃないか」

「それは結果論でしょうに……で?勇者が動かない確信って?」


 魔女は溜息をつきながら悪魔に聞く。


「あなたが東へ向かっていた時、勇者は東に居てエルハイナと会っていたんですよ」

「なんですって?」

「勿論都で魔王が東へ向かってるという噂は流れましたが、ご存じの通り勇者は東に残りませんでした。その後、王都に戻った勇者を監視していたのですが、勇者は都が壊滅したと聞いても動かなかったのです」

「勇者仲間達を見捨てたのかしら……」

「それは勇者に直接聞けばいい。これから目指すのは都ではなく王都なのだから」


 エルフは会話に割って入る。


「話を戻す、彼の協力があれば人間達を混乱させる事が出来るとの事だ。詳しく教えてもらえるか?」

「簡単な事です、私が今すぐ人間の国へ行きワドファーにて人間の兵達が魔王を捕らえたと吹聴すれば、早馬が着いてもしばらく混乱するはずです」


 悪魔の発言に会議室内は呆れかえる。


「そんな事できる訳ないだろう……」

「今から一番早い馬で出たとしても先に人間の国に着くのは人間達でしょうに」

「少なくとも人間達より早く着くことはあり得ないな」


 会議室で話を聞いていたワドファーの関係者は口々に言う。

 しかし悪魔は笑みを浮かべながら、自分の背後に手をかざしながら言った。


「私は悪魔ですよ?皆さんなぜ私が逐一勇者の情報を伝えられていたか疑問に思わないんですか?」


 悪魔の手のかざした背後には黒い空間が現れる。


「まさかそれはポータル……」

「流石魔女、知っていましたか」


 魔女は黒い空間を見て冷や汗を垂らす。


「私は戦闘が苦手なので、こういった諜報や工作でしかお役に立てません。なので自分に出来る事を精一杯頑張らせていただきます」

「そのポータルというのはなんなのですか?」


 作戦を聞いていた宰相が悪魔に尋ねた。


「簡単に言えば空間転移魔法です。この黒い空間が今、人間の国に繋がっており、ここを通ればすぐにでも人間の国へ行けます」

「ほう、そんな便利なものならぜひとも我が軍が使いたいですね」

「勘弁してくださいよ、限度があります。通れて数人、しかも軍は再編成の為動けないのでしょ?まあどうしても軍隊を通したいのであれば大量の対価をいただくことになりますが」


 悪魔の対価という言葉に宰相は押し黙ってしまう。


「ここからやっと作戦の話が出来る、簡潔に述べるとこうだ。まずこの悪魔の術を使い悪魔と魔王で先に人間の国で偽の情報を流して貰う。その後、我々と各地方の協力者で一斉に人間の国へ進攻。人間達が進攻部隊と戦っている間、魔王は王都の城に入り軍を動かしている命令系統を混乱させ、可能であれば破壊して貰う。そうして人間の国を制圧する」


 エルフの作戦を聞いた玉座に集まる面々は考え込む。


「確かに作戦はわかりやすいけど……」

「実行はかなり難しそうね、人間の軍はまだこちらより数も多いし何より王都の軍は無傷よ」

「確かに皆が言う通り難しいだろう、こちらはワドファー軍と協力してくれる亜人達を合わせても大きな戦力差がある。だから奴等に勝つには虚を突くしかない」

「逆に言うとそれが出来なければ我々の負けという事ですね」


 宰相がそう言葉に出すと、話を聞き考え込んでいた権力者達も覚悟を決めた顔に変わる。


「そうだな、我々にはもう後が無いんだ」

「人間達がこの国に直接手を出してきた以上、戦って勝つしか道はないか……」

「これは単なる戦争ではなく生き残りをかけた生存競争だ」


 負ければ人間の国周辺の亜人は全て人間に駆逐される、その事実がそこに居る全員の覚悟を決めさせた。


「では時間も無いので早速作戦に取り掛かろう、まずは各地方の協力者に連絡を――」

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