決戦前夜3
それから何度か戦闘はあったものの、数日かけてルインの乗る馬車はようやくワドファーの門が見える場所まで到着する。
しかしワドファーは人間達が占領している為、人間の兵の数はワドファーに近づく程増えていった。
「やっと着いたね、ここも人間でいっぱいだ、さすがにもう隠れながら行くのは無理か……」
「仕方ないわ、今やワドファーも人間達の根城だもの」
魔女の言う通りワドファーの国の門は開かれており、複数の人間の兵が行き来していた。
「さて、じゃあ行きますか。手はず通り行けばいいけど」
「ワドファーを信じるしかないわね」
ルインと魔女はワドファーに近づく前、エルフと作戦を立てていた。
まず、ルイン達は正面から堂々と入り人間達を引き付ける。その隙を突き、ワドファー兵達が後ろから人間達を叩くという戦法だった。
「リーグはこんなの戦術なんて呼べないって自嘲してたけどね」
「彼なりのプライドが有ったんでしょう。さあ着くわ準備して」
ルインは魔法石をマントにかざし魔力を使う。するとルインの姿は変わる。そして、広い道に出ると馬の速度を上げる。
「フレイム!」
魔女は馬の荷台に立ち、門の前に居る人間の兵を攻撃した。魔法は複数の人間に当たる。ルインが操る馬はそのま速度を落とさず、人間の兵達が怯んだ隙に二人はワドファーの門を潜った。
「入った!」
「このまま行ける所まで行きましょう!」
魔女は馬と荷台に結界を張り叫んだ。
門での出来事を見ていた人間の兵達により、街中に警鐘が鳴り響く。ルインは大通りを通りワドファーの城を目指す。
だが、馬は警鐘を聞き集まった人間の兵達により、大通りの真ん中で止められてしまった。
しかし、ルインは臆することなく人間達に言い放った。
「我が名はキドウ!お前達が恐れおののく魔王、その部下だ!」
ルインは鬼人の姿をしながら叫ぶ。
「ここは魔王の国だったはずだかなぜ人間共が居る!」
兵の一人が前に出てルインの問いに答えた。
「我々が魔王に脅かされていた国を救ったのだよ、ワドファーの国民も快く我々人間を迎えてくれた」
人間の言葉とは裏腹に、ワドファーの大通りにはかつての賑わいはなく、人間の兵の姿がかなり目立った。所々寂れ建物には戦闘の跡であろう傷も見られた。
ルイン達の突入により、ワドファーの民も大通りから逃げて行き戦闘の舞台は整う。
「ふん、侵略を救国と宣うか。だったら俺も邪悪な使徒から今一度ワドファーを救国しよう!」
「魔王の部下がほざけ!」
ルインは短剣を抜くと、人間の兵達も一斉に武器を構えた。
「俺は魔王の部下で一位二位を争う強さ、簡単には止められんぞ!」
鬼人に扮したルインは馬の上で兵達に向かって短剣を振る。しかしその剣捌きに特別な力や技術は見られず、人間の兵達の失笑を買った。
しかし、荷台に居る魔女はルインの動作に合わせ違和感が無いよう魔法を使う。そのせいで人間達からはルインの剣から斬撃が飛んだ様見えた。
魔法の一撃は手前の兵に当たり、ルイン達を止めていた兵達は騒めきだす。
「貴様!その程度の腕でよくも我々に楯突こうと思ったな!」
あまりに平凡な剣捌きによって、ルインは人間達に大した事のない使い手として認識される。そして、仲間を傷つけられ逆上した人間達はルインに襲い掛かった。
魔女も荷台に立ち上がり、馬と荷台に結界を張りながら応戦する。
ルインは剣を振っている素振りを見せながら馬を進め、魔女は後ろを守りつつルインの動きに合わせ、簡単な魔法を使い尚且つ、自身も魔法を使うという離れ技を演じていた。
「前方の攻撃は跳ね返るからいいけど、なかなか疲れるわね……ワドファー兵はまだかしら」
「混乱が起きたらすぐ反乱に動くって話だったけど……これじゃあ持たない……」
人間の兵達は増えていく一方、攻撃は魔女一人じゃ対処が出来なくなっていた。
「ダメだ、これ以上増えると馬も耐えられない。無理やり突破する!」
ルインはそう言って馬を降り、人間の兵達に突っ込む。
「ルイン!」
「魔王の手下が降りて来た!囲め!」
人間の兵達は鬼人の姿のルインを取り囲み攻撃する、しかしその全てが返される。
魔女の演出が届かない距離で、明らかに動きとは違う攻撃をされ、人間達は違和感に気づく。その時、ワドファーの城からさらに大量の人間の兵士と、その後ろからワドファー軍の兵が混戦しながら流れ出て来た。
「ワドファー軍!来てくれたのは良いけど……混戦してる」
辺りは文字通り大混戦、人間の兵達は侵入して来た魔王の部下と、ワドファー兵達の突然の反乱に命令系統が完全に麻痺していた。
混乱の中ルインはある程度戦ってる様に見せる。
魔女は荷台に結界を張り砲台と化す。ルインが魔王と気付いたと思われる人間達を狙い魔法を放ち、ルインの正体を広めないよう努めていた。
そんな中魔女は、馬車の荷台の上から人間の兵を追いやるワドファー軍の中に軍師を発見する。
「もしかしてあれはワドファーの本隊?ルイン!来たわ、もう少しよ!」
ルインは魔女の声でワドファー軍が近くまで来てる事に気づく。
ワドファー兵の他に協力者も戦いに参加しており、城の他にも店や民家、路地裏と至る所から大通りに現れ、人間達の混乱もあり数で劣ってるとは思えない程勢いをつけ人間の軍を追い詰めていく。
「っく……ワドファー軍だと?反乱か!?」
「快く迎え入れてくれた割には随分恨まれてるようだな」
「だ、だまれ!各員魔王の部下を即時討ち取り、反乱を鎮圧する!」
人間の兵の一人がそう命令すると、ルインの周囲に居た兵達はルインに一斉に攻撃する。
ルインは演技を止め、あえて攻撃を受ける。そして、マントの変身を解いた。
攻撃を仕掛けた人間達は倒れ、ルインの姿も徐々に変わって行く、その光景を見た人間の兵は青ざめ、震えた。
「こ、攻撃の効かない……青い髪……ま、魔王だぁ!」
兵のその大きな一言は混乱の中、戦場でもひと際はっきり聞こえた。
「魔王!?」
「ここにいるのか!?」
「あの侵入者は魔王本人!?」
人間の兵達の混乱はさらに加速し、魔王の恐ろしさを知る者は、ワドファーから逃げ出そうとまでする。
「お、落ち着けお前達!魔王は攻撃をしなければこちらに危害は無い!まずは反乱の鎮圧を!」
「させる訳ないでしょ!」
部下をなだめようとする兵達を、魔女は荷台の上から的確に狙い魔法を放つ。
元々侵入者を捕らえる為に出て来た兵達のその立ち回りは、大軍を想定した陣形ではなく、入念に準備したワドファー軍の奇襲の前では既に烏合の衆と化していた。
「奴等をこの国から逃がすな!叩ける戦力はここで叩いておく!」
そして、軍師の号令と共にワドファーの国の門が閉じられた。
これによりワドファーに駐留する人間達には逃げ場はなくなり、ある者は諦め膝をつき、ある者は覚悟を決めワドファー軍に挑んでいった。
そしてルイン達がワドファーに入って数時間後、人間達はワドファー国軍、そしてその協力者達である亜人達によって鎮圧された。




