決戦前夜2
「亜人街か……久しぶりだな」
黒馬に乗るルインは呟く。
「あなたの出身地ね、戻れば人間の国を一周した事になるのね」
「都に被害を与えながらね……」
「どれも人間から仕掛けて来たことだし気にしないの。故郷なんだから少しゆっくりして行けば?」
「お世話になった所には顔を出すつもりだけど長居はしないよ、俺がいる事で人間に目を付けられるかもしれないしね」
そんな会話をしながらルインの黒馬は、ゆっくり荷台を引きながら歩く。
すると、荷台に乗る子供の内、一人の少女が魔女に訪ねる。
「ねえ魔女さん、亜人街ってどういう所?」
「そうねぇ、ルインどういう所?」
そのままの質問を急に振られルインは苦笑いする。
「えぇ、質問丸投げじゃないか……」
「あなたは住んでたから私より詳しいでしょ?」
「うーんそうだなぁ……いろんな姿の亜人がみんなで協力し合って暮らしてる街さ」
ルインは亜人街に住んでいた者達を思い出しながら話す。
「えーじゃあ私より耳の大きい亜人はー?」
少女の頭の上には大きく丸い耳が生えており自慢気に動かす。
「うん居たよ、耳どころか鼻も長い大きい亜人が居た」
「えーすごーい」
「じゃあじゃあ俺よりかっこいい角の亜人は?」
「うーんどうだろうなぁ」
気が付けば子供の亜人達は荷台の前方に集まっており、ルインへの質問タイムとなっていた。
そんなほのぼのとした様子を、魔女と老人達は穏やかに眺めていた。
そんなゆっくりとした旅が続いた三日目の昼、一行は亜人街の入口へ到着する。
「ふう、着いた」
ルインは馬をねぎらう様に撫でる。
「ここがあなたが旅立った所ね」
「そうそう、あの時マッドが……」
ルインが思い出話をしようとすると、複数の武器を装備した亜人達に声を掛けられる。
「おお、ルインじゃねえか。久しぶりだな、それにそっちの亜人は……」
「南の森の魔女、チウィーさんだよ。俺達はここのみんなに頼みがあって……それより皆は一体」
大柄の亜人の一人が前に出てルインに説明する。
「今の南の都は治安が悪い。兵隊達が少なくなったのは良いんだが、今度は普通の人間達が来るようになってな。横柄な態度で水や食料を求めて来て終いには暴力も振るってくる事がある。だから俺達は自主的に警備してたんだ。お前の頼みって言うのは?」
ルインは馬車の荷台の亜人達を見せる。
「……お前の子供か。ずいぶん大家族になったな」
「違うよ!」
ルインはこれまでの経緯を軽く説明した。
「なるほど子供と老人か……それくらいなら全然構わないぞ。なんなら戦いが終わっても行く所が無ければこの亜人街に住むと良い」
亜人達は豪快に笑いながらルインの連れて来た者達を歓迎した。
「俺達もワドファーの協力要請は聞いている。だがまさか人間が恐れていた魔王がルイン、お前だったとはなぁ」
「ここを出た後色々あってね……」
「まあ忙しいかもしれないがポル婆にくらいは会ってけよ」
「せっかくここまで来たんだ、そのつもりさ」
ルインと魔女は荷台で連れて来た子供や老人達を亜人街の亜人達に引き渡すと、子供達に手を振られる。二人はそれを見て手を振り返した。
「あの子達と一緒の旅がいちばん気が楽だったね」
「そうねぇ……」
亜人達と別れた二人はルインの育ったパン屋へ向かう。
「ここがあなたのお世話になった家ね」
「うん、ポル婆居る?」
ルインは店の扉を開け家主を呼びながら入って行った。
しかし中から返事は無く、魔女と奥へ入る。
「あれ……ポル婆?」
中の作業場まで入るが、本来いるはずの店主の姿はどこにもなかった。
すると、ルインも知る常連客が店に入ってくる。
「あらルイン君じゃない、街を出たって聞いたけど戻ってきたのね」
「はい、また出て行かなきゃいけないんだけど、その前にポル婆に会おうと思って……」
「あらぁ、居ないのね。またふらっと街の外に木の実でも取りに行ったのかしら」
「あーそうか。でも店番も居なくなるなら一旦閉めればいいのに……」
「だからこうして近所の亜人が見に来るんだけどね」
「そうだったのか……ありがとうございます。チウィーさん、こうなったらいつ帰ってくるかわからないしワドファーに連絡しよう」
「良いの?」
「タイミングが悪かったんだ、仕方ないさ」
二人は常連客を接客した後、店を一旦閉めルイン達が暮らしていた二階に上がる。そして魔女は魔鉱石を取り出しワドファーに繋いだ。
「こっちは用件を終えたわ、これからどう動くの?」
『待っていたぞ、まず君達がやる事は、人間に占拠されたここワドファーを解放する事だ』
「占拠?ワドファーと人間は、仮とは言え同盟を組んだんでしょ?差別はあるかと思ってたけど占拠なんて」
『……ではまず現状を説明しようか』
二人が北を発った後、その間にエルフはワドファーにて様々な策を講じながら人間の攻撃に耐えた。しかし元々戦力がギリギリだったワドファーとは違い、各都は軍の命令系統は麻痺してただけで兵の数はかなり余していた。
ルインが東側の村で戦っていた頃、壊滅した都の兵達は王都の命令で集結、ワドファーを攻めたのだ。
『どんな策も増え続ける戦力には焼け石に水でしかなかった。我々はなるべく多くの協力者や兵を各地に逃がし、再び人間と同盟を組んだ』
ワドファーは戦力を散らばらせ隠した後、人間の兵達を国に招き入れる。
建物や住民に被害を出しながら、ワドファーは全ての責任を魔王ルインに押し付け、無条件降伏という形で名ばかりの同盟が結ばれた。
当然、人間の出した条件はワドファーの支配、前王ワドフの息子は帰国してすぐ、人間達の傀儡となる事でなんとか国民の命だけは守った。
『これがワドファーの現状だ。今までやった事は全て魔王の命令で私達は逆らえなかったという事になっている』
「それはいいけどじゃあリーグは今どこから話しているの?」
『私は情勢を見極めねばならなくてな、兵達と一緒にワドファーを出る事が出来ず……おかげで地下牢のさらに地下、隠し部屋をこしらえて、君達が東を襲っている間ずっとここに引きこもりっぱなしさ』
「それは大変だったね……」
『ワドファーは戦力の温存と猶予は出来たが、国民は君が救ってくれると信じ今も人間達の支配に耐えている。このまま人間の支配が続けば近い内にワドファー政府は血を以て挿げ替えられる、民も地獄を見るだろう。だが、各地の亜人達にはこのワドファーが解放されたら、人間への大反抗作戦が始まると伝えてある。全ては君次第だ』
「責任重大だね……」
『君が亜人達を救いたいと願っているなら、早々にワドファーに戻る事を勧めるよ』
それだけ言い残しエルフとの通信は途切れた。
「はぁ……あんな事言われたら急いで戻るしかないじゃないか」
ルインは書置きを残した後、魔女と共に店を出て出発の準備をする。
「よし!行こう。ここからワドファーに行ける最短距離のルートは?」
「街道に向かう事ね。でも……」
「街道には人間の軍がいるだろうね、ルートを考えなきゃ」
ルインは馬を亜人街の出口に向けて歩かせる。
出口へ行くと街を警備していた亜人達はルインを待ち構えていた。
「行くのか?」
「うん、もうすぐ決戦だ。ワドファーを解放したら反攻が始まるから準備していて」
ルインの言葉を聞いた亜人達は歓喜の声を上げる。
「やっとだ!やっと人間達に仕返しが出来る」
「今まで虐げられていたんだ、俺達の力見せてやる!」
亜人達の高まった士気の中、ルインと魔女は亜人街を後にした。そこから二人は一直線にワドファーを目指す。
人間の国周辺の幾つかの村を越え、ルイン達はまず街道へ続く道を走る。
「戦闘で時間をロスするのは無駄ね、道は悪いけど街道から少し外れた所を通りましょう」
そして街道が見える所まで来ると案の定、人間の軍の拠点が所々に見られ、魔女の想定通り、街道を真向から行くのは困難に思われた。
「人間達はすぐそこだ、周りを警戒しないと」
ルイン達は人間に見つからない様、ワドファーに向かった。




