決戦前夜1
ルイン達が船着き場に拠点を構え、数日が過ぎた。
「ふぅ……やっと終わったわ……」
魔女は早々に、鬼人や亜人達が病に感染していないと結論付ける。その後、都で蔓延した病について調べていた。
すると、都で広がった病は人間だけが感染し、他種族には無害な事が判明した。
「私達は東の都に入っても大丈夫よ」
魔女は伸びをしながらルインと鬼人に説明する。
「都合の良い病があるのだな」
「確証がある訳じゃないけど……ルインの力が関係してると思うの」
「ほう……」
鬼人は興味深そうに身を乗り出して聞く。
「エルハイナはルインにしか効かないウイルスを作ったと言っていたわね。確かにその時ルインはウイルスに感染したけれども、ルインの力は彼の死を許さない」
「力が死を許さないとは……まるで意思がある様に言うんだな」
「こればかりはそういう仕組みと言うしかないわね。で、彼女はウイルスという武器をルインに向けた。本来武器がもたらす結果、つまり今回は病気の発症と死がエルハイナに返る訳なんだけど、ウイルス攻撃はルインの中で潜伏しダメージを与え続けて、特殊な継続ダメージを抑えきれなかったのよ。実際症状は出て倒れたんでしょ?」
魔女はルインに確認する。
「うん、キドウの所へ行こうとしたら意識を失った」
「その場合も同じように、エルハイナにもダメージが返り続けるんじゃないのか?」
「問題はそこよ。ここからはかなり憶測が入るけど、通常武器のような単純な物ならすぐに周囲の物で同じ結果を返せる。けど今回はルインは病気、つまり特定の効果のダメージを与え続けるという攻撃を受け続けたわ。これを同じように返すにはウイルスを返すのが一番効果的。私はまたルインの力の方向性が変わる時に出る光の柱を海で見たわ」
「光?そんな物が?」
「俺も自分で見たのは一回しかないんだけどね」
ルインは西の都の事を思い返し、自分の手を見る。
「その時ルインの力の性質が変化、ウイルスをも変質させたんだと思う」
「理屈は通るが……それでルインにしか効かないウイルスはエルハイナに返されたと?だがそれでは都全体に病が広がった理由にはならんぞ?」
鬼人は首を傾げた。
「その後、彼女が即効性と致死性を上げたウイルスを撒いた時、同じ事が起こる。だけど彼女は早々に死亡。彼女が死んだ事で攻撃し続けていたウイルスは返る場所が無くなる。行き場の無くなった死の返還は返還先を探し彼女に属していた者、つまり東の都の人間に向かったんじゃないかしら」
「じゃあ都の死体の数は俺がウイルスで死ぬはずだった回数って事?」
「多分ね。後は人間だけに効くウイルスを潮風に乗せてこの地にばら撒けば、死の返還は自動的に完了する。余所者の私達や無理やり連れて来た亜人、魔獣は彼女の所有物とはみなされないから人間だけにしか効かないウイルスの説明がつくと思う」
「うむ…筋は通っている、か?なら今でもこの辺に人間だけ感染する病気が蔓延してるという事になるな」
「簡単な話、死を返す力は受取先が居なければ、別の者がその死を補うと言うと分かりやすいかしら」
真剣に魔女の話を聞いていた鬼人は一瞬背筋を震わせた。
「いや怖いね」
「君のことなんだが……」
鬼人の横で同じく話を聞いていたルインは呟くが、その発言で鬼人を引かせた。
「攻撃を返し、返りきらなければ、さらに相手の周りにも害をなす。……だがそんな都合のいい力あるのか?」
「さあね、私は専門家じゃないもの。ただ目の前の事実と聞く限りの経緯で予想しただけだし」
「だから憶測か……」
「今までの観測から、死という結果を相手に返す事から外れない限り、心配はないと思うわ。あなたも亜人達も健康よ」
「なるほど、よそ者の俺達だから、あの都に入り自由にできるという訳か。皮肉なものだ」
魔女の調査結果が出てから、ルインと鬼人はすぐさま都に向かった。目的は、食料と使える物の調達、そして鬼人に従っている魔獣以外の説得。東の都は他所から来た魔獣の巣窟になっていた。
ルインと鬼人は人間が誰一人として居ない都の大通りで店を漁っていた。
「食糧はこんな物かな」
都は人っ子一人おらず、既に魔獣達は堂々と都の大通りを闊歩していた。
ルインは着いてきた魔獣と荷台を着けた自身の馬に食糧を運ばせる。
「次は研究所と兵舎だ」
道中ルインはエルハイナの最後を鬼人に話す。
『どうしてこんな事に……』エルハイナが最後に放った言葉を、他の国を知る鬼人に意見を求める。
「どうしてか……そんなのは簡単だ、この地の人間が愚かで劣っているからの一言にすぎん」
鬼人は一蹴して続けた。
「俺の故郷では亜人、人間、動物魔獣、共々、共生できている。昔行ったここより西の地も同じだ。他の地で出来ているのに、ここだけ出来ないとなるそういう事だろ?」
物資を持つ魔獣達を待たせ、二人は研究所区画の探索を始めた。
「前の魔王、スタナはどんな亜人だったの?」
ルインの質問に鬼人は手を止め、目を閉じて思い出すように答える。
「……仲間思いで気の良い奴だったよ。だから今でもあいつが魔王と呼ばれてる事に違和感しかない。この地ではあいつは相当歪んだ形で伝わっているんだろうな」
そう言い切り、鬼人は研究所の物資探しを再開した。
「俺も今似たような状態になってる……歴史は繰り返してるのか」
その後も二人は様々な話をしながら探索を続けた。
探索は終わり、二人は多くの物資を運び、魔女の居る船着き場まで戻る。すると、数人の亜人達はルインの戦いに参加する事を申し出る。
「……俺達だけじゃ元居た所に戻ることも出来ない、人間が居る限りな。だから俺達もここに残って戦おうと思う」
その理由を聞いたルインは複雑な顔をした。
「そんな顔をしないでくれ、鬼人さんや言う事を聞く魔獣の大群、東の都の武器があれば俺達でも出来ると思ったんだ」
亜人達は帰ってる途中、襲われて倒れるくらいならと、反抗心をあらわにし息巻く。
「戦いに巻き込んでしまったみたいで複雑だけど……ありがたいよ」
「ただ……戦えない者は……」
捕まっていた亜人達の年齢層は広く老人や子供もいた。
「俺達は戦うが、この子達は足手まといになる。戦場に連れていけないし、何もないここに置いて行く訳にもいかない。だから戦えない者だけでも南の亜人街に連れて行ってやってくれませんか?」
「確かに……分かった、彼らは俺達が南の亜人街に連れて行くよ」
「戦いに勝った後でゆっくり故郷に帰る、現状安全に行動するにはそれしかありませんからね」
亜人は悔しそうにつぶやいた。
「彼等協力者と連れて来た魔獣達、これで東の戦力は揃ったわね。これ下手な軍隊より強力なんじゃないかしら……」
魔女は多数の魔獣達を見て呟いた。
「そうだ俺達はこんなものを見つけたよ」
ルインの言葉で鬼人は荷台を固定していた布を取る、そこには爆弾など研究所脱出の際見つけた武器の他、少数だがフリントロック式の銃やマスケット銃、火炎放射器などがあった。
「どれもこの国では希少な武器ね。これは?」
魔女が指して聞いたのはラッパ状の筒がタンクに繋がった火炎放射器。
「これは見つけて使った時俺達も驚いたよ」
鬼人は長い筒状の物を手に持ち誰もいない方へラッパ型の先端を向ける、そして筒に着いているレバーを手前に引くとラッパ型の先端から炎が勢いよく噴き出した。
「魔力を消費しないで炎が出せるのね。火竜が元の研究かしら」
「数は無かったけどね」
ルインの言う通り、荷台に同じものはもう一つしかなかった。
「兵力は少ないがこの武器や魔獣、それに戦い方をしっかり考えれば、人間の軍にも後れを取る事は無いだろう」
「やっぱり遠距離武器がメインね、ここの亜人達は兵隊って訳じゃないから、遠距離から奇襲してすぐに離れた方が効果的かもね」
「よし、全員のやるべき事が決まった。ワドファーに連絡しよう。大規模な四方挟撃作戦だ!」
魔女は魔鉱石を取り出し、ワドファーに居るエルフに連絡を取る。
『なるほど東からも攻撃に参加してくれると』
「ええ、これから私達は子供達を預けに南の亜人街へ向かうつもりよ」
『分かった、では魔王の持つ連絡用の魔鉱石を戦力をまとめる鬼人、キドウだったか……に渡してくれ。そうすれば全ての方角へ一斉に連絡できる』
ルインは鬼人に自身の持っていた魔鉱石を渡し、魔女が使い方を教えた。
「こちらから連絡するには魔力が必要なのか……」
「受信するだけなら魔力はいらないんだけどね」
鬼人が説明を受ける中、亜人の中に居た女性が恐る恐る手を上げた。
「……私魔力あります」
「そうかではこれは君に預けよう、試しに使ってみてくれ」
女性が魔鉱石に手を掲げて魔力を発する。すると魔鉱石は光りだし通信が繋がる。
『うむ、確認した。これで東側とも意思疎通ができるな』
「では改めて。俺は海の向こうから来た鬼人のキドウだ」
『そうか直接話すのは初めてだったな。人間の反抗の戦略を頼まれたエルフのリーグだ。以後よろしく頼む』
「俺は目的があってな……」
鬼人はこの地に来た目的を簡単にエルフに説明した。
「という訳で俺個人の目的は勇者だ。ルインにも言ったが目的は一緒なので作戦開始は合わせるが、歩調は合わせてやれんぞ」
『それは構わない、各方角も戦力はバラバラなんだ。各自合わせる事など最初から想定していない。それよりも君は協力者の亜人達を酷使しないようにな』
「当然だ、ある程度敵を引きつけたら、俺単独で突破するつもりだ」
『戦力をまとめる者が単独で突出するのはどうかと思うが……まあいいだろう』
その後、魔女はエルフに都の状態と、ルインの力の変化を報告する。
『都全体の病は魔王の力によるものか。それならば我々が患う事は無いな』
「ここにいる誰一人病気にはなってないからそう結論付けたけど……東には近づかないに越したことはないわ」
『我々が目指すのは王都なのだから問題はない。亜人街で亜人達を預けたら連絡をくれ』
エルフとの通信は終わり各々は目的に向かい準備する。
ルインは黒馬の荷台に食料と数人の子供や老人を乗せた。
「よし準備完了」
「作戦までの間、この亜人達に戦の安全な立ち回りを指導しなければ。短い間だったが世話になったな」
「こっちこそ協力ありがとう」
「戦いが終わったらゆっくり会おう」
ルインは鬼人と握手を交わした後黒馬に乗り、魔女と共に子供達や老人達を連れ亜人街へ向かった。




