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絶滅記  作者: banbe
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東の技術8

「やはり……魔女チウィーの言った通り、あなたは力によって死なないようですね」


 ぼんやりと覚醒したルインは、混濁する意識の中で声を聞く。


「あ……ぁ」


 状況を確認しようと声を出すが掠れた声しか出ず、うまく口が回らない状況にルイン自身が驚く。


「しかも意識も回復し始めている。ウイルスは完璧だったはずなんですが……」


 徐々に意識は鮮明になり、自分が何かに揺られている事に気づくルイン。焦点が合ってきて周りを見渡す、そこは海に浮かんだ小さな小舟の上だった。


「な、なん……」

「その上この短時間で回復。やはり今の私達の科学ではあなたを殺す事は不可能みたいですね……」


 小舟に一緒に乗り、ルインを観察していたのはエルハイナだった。しかし、そのエルハイナもどこか様子がおかしく顔は青白く生気がない状態だった。

 ルインは朦朧とした意識を正そうと、自分の顔を両手で叩く。


「くっ……!い、一体何が……」

「症状発症から約一時間、喋れるまでに回復する。驚異的な回復力、いえこれは恐怖する程の回復力ね……」

「俺に……何をした?」

「研究所から逃げる時あなたに投げた球、あれにはウイルスが入っていたのです」

「ウイルス?」

「簡単に言えば目に見えないくらい小さな病気の元……」

「なんだって……そんな物あそこで撒いたのなら!」

「安心してください、ウイルスが効くのはあなた一人だけ」

「そんな事が可能なのか……」

「私の医療魔法なら……私の魔法は火も出せないし風を起こすことも出来ません。しかし、生物の身体の構成を詳しく知り、様々な病気の原因やその治療法を知る事が出来たのです」

「そうか、原因が分かるなら故意に病気にさせる事も出来るって事か」

「その通り、そして、私はあなたにしか効かないウイルスを魔法で作り、あなたを病気にさせた……」

「だから俺はあの時気を失ったのか?」

「ええ、しかし、あのウイルスはあなたの命を奪う様作ったはず。なのにあなたはこうして生きています。あなたのウイルスが変異したのか、それとも力による別の要因か……研究所が魔獣達に荒らされてしまった今、最早知る由もありません」

「……なんで俺をこんな海の沖へ?」

「もしウイルスが変異を遂げ都に拡散されれば大変なことになります」

「共生を目指してたのはウソだったのか?」


 エルハイナは悲しげな顔をして返答する。


「いえ、私は本気でした、しかしあなたに見つかった時、ちょうどあなたの抹殺命令が出たのです」

「あの研究所での会話はそういう事か。だがあそこには誰もいなかった……」

「これですよ」


 エルハイナは魔力通信機用の魔鉱石を見せる。


「それは!奪ったはず……」

「これを設計、製作したのはこちらの国ですよ?親機がないためかなりの制限はありますが東の技術で少数作りました。……この際ですから全てをお話しします」


 研究所でエルハイナが一人喋っていたのは王都の権力者の一人。その権力者はエルハイナが魔王を都に招いたと知り、エルハイナの医療魔法で抹殺させようとしていた。

 エルハイナの魔法は現在内政の道具として使われていた。

 特定の誰かを病死させる。その魅力的な力を高慢な王都の人間が放置するはずもなく、権力に従わない者、都合の悪い者、亜人を次々と屠って行った。


「次の犠牲者は俺だったという訳か。でもあの様子だと……」

「ウイルスを作る為あなたの身体を調べられたのは好都合でした……しかし、ディムから聞く限りはそんな物があなたに通用するとは思いません。だから抵抗したのです、何よりこの都の為に……」

「けどあなたは俺にウイルスを使った」

「あの光景を見たあなたはもうこの都を許す気はないでしょう?だから私も覚悟を決めざるを得なかったのです……」


 エルハイナはヨロヨロと小舟の上で立ち上がる。


「なるほど、ディムワズの轍を踏まない様完全に俺を孤立させた訳か」

「これなら失敗しても犠牲は私一人で済みます。都の方は多少被害は出るでしょうが、貴方が戻らなければいずれ応援で呼んだ冒険者達が魔獣を鎮めてくれるでしょう」


 エルハイナは白衣の懐から三本の試験管を取り出す。それを小舟の上に落とし割った。


「それが……」

「ウイルスが入っていた試験管です。これらは私が即効性と殺傷力を強化した物……」


 次第にエルハイナはむせ始める。


「やはりあなたには効かないのか、それとも私に返ってきているのか……」

「このウイルスは俺専用に作ったってやつじゃないのか?」

「たった二日で魔王専用のウイルスを幾つも作るなんて不可能ですよ……」

「命を賭けてまでくるとは……」

「私にできるのはこのくらい……ですがそれもダメだったみたいですね……ゴホッ……」


 エルハイナは膝をつきその場で倒れ込んでしまう。衣服の下に見える肌は爛れ彼女の咳には血が混ざっていた。


「せめて……あなたをあの都に帰す訳には……」


 倒れたエルハイナの目には涙が浮かんでいた。ルインは、彼女が徐々に冷たくなっていく光景を黙って見ているしかなかった。


「どうしてこんな事に……昔は仲よくしていたのに……」


 エルハイナは最後にそう言い残し、事切れた。


「人間が自らを変えない限りそんな日は来ないよ」


 ルインの一言を受け取る者はその場にはいなかった。

 それからしばらく、ルインはエルハイナの遺体と共に海の上を当てもなく漂う事になる。


「うーん漕ぐものもないし困った。俺を都へ帰さないという目的は達成してるな……」


 船の上で悩むルインだが持っていた魔力通信機用の魔鉱石が微かに反応する。


『ルイン!?そっちはどうなってるの?都の外から見てもとても収拾がついてる様に見えないのだけれど』


 ルインは慌てて短剣の柄に装飾された魔法石に手をかけ、通信の為の魔力を引き出し返事を返す。


「実は俺、エルハイナ……というより人間の策に嵌ったんだ……」

『もしかして海の上に?』


 魔女は鋭く言い当てた。


「な、なんで分かったの?」

『少し前に以前あなたの体から出た光の柱が海から見えたの。まさかとは思ったんだけど……』

「そうだったのか……」

『そっちの状況は?』


 ルインは簡単に起こった事と今の状況を説明する。


「そんな訳で今自分がどこにいるのか分からないし、戻る手段もないんだ……」

『なるほどね……まず最初にすべきことはエルハイナの亡骸を海に沈める事ね。彼女が死んだあともウイルスが残っていれば、船に触れた者に病気が移る可能性がある』

「そうか、誰も近寄れないと助けも何もないもんな」


 ルインはエルハイナを船から降ろすと、エルハイナの体はどんどん海に沈んでいった。


「……よし、終わった」

『後はあなたの場所ね……私達は分かれてからそんなに時間は経っていない、女一人が貴方を連れ船に乗せ沖まで漕ぐとなると行ける範囲は限られているはずよ。周囲に目印になりそうな物は?』

「無いね、日の出前の海。辺りは真っ暗だよ」

『明るくなるのを待ってたら流されるかもしれないわね……仕方ないみんな手伝って』

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