東の技術7
都は大混乱だった。
一部の魔獣は仲間を呼べる者がおり、都の外からも魔獣が襲来。魔獣の数は研究所から出た時よりもかなり増えていた。
鬼人は魔獣を好きに暴れさせ、劣勢な者がいれば手を貸すという様に動いていた。
それでも鬼人一人だけでは手は回らず、少しずつだが魔獣は人間達に討ち取られて行く。
「ふぅ……俺だけではどうしようもないぞ、ルインはまだか」
またも魔獣の叫びが聞こえ、鬼人は向かった。
しかし、今度は鬼人が到着した瞬間、兵は攻撃していた魔獣を放って逃げ去ってしまう。
「なんだ?」
倒れていた魔獣を立ち上がらせると、また別の場所から魔獣の叫びが聞こえた。
「まさか、これは……」
鬼人は駆け出すが邪魔をするように、複数の人間が立ちはだかった。
人間達の姿は兵が身に着けている様な鎧ではなく、それぞれがバラバラの装備をしている。
「冒険者か」
「へへ、当たりだ。この都の領主に手伝って欲しいと頼まれたんだ」
「魔王達を倒して次の勇者の座に就くのは俺達だ」
冒険者達は軽口を叩き合う。
「都の兵でさえ混乱してる状況で、統率して動いている者が居るとはな」
「あ?東の軍は一番弱いって有名だからな、ぶっちゃけ東の軍より俺達冒険者の集まりの方が強いんじゃないか」
「それよりお前、魔王の側近かなんかだろ?魔王の場所を正直に教えれば楽に殺してやるよ」
「……全く心遣い痛み入るよ、だったら少し手心を加えてくれると助かる」
鬼人はそう言い冒険者達に向かう。
「久々に本格的な戦闘だ」
「楽しめると良いが……」
だが、冒険者達は武器を構える前に通り過ぎた鬼人により、一瞬で真っ二つにされていた。
「は?」
自らの体が分かれた事に気づいた瞬間、冒険者達は血だまりの中に倒れる。
鬼人はその光景を一瞥もくれず魔獣の声がした方へ向かう。すると、先程の光景と同じく人間の兵達が暴れる魔獣を抑え込んでいた。
その兵達を鬼人は声も掛けず斬りかかる。
奇襲が功を奏したのか、鬼人の剣は人間の兵を簡単に斬り伏せた。
襲われていた魔獣を介抱するが、また別の場所で魔獣の叫び声が聞こえた。
「くっ、きりがない!……あまり他所の地ではやりたくなかったが仕方がない」
鬼人は息を深く吐いた後、目を閉じ集中する。すると次第に全身に力がみなぎり顔つきも大きく変わっていった。
額に生えている角は二回りも大きくなり、目が吊り上がる。牙も大きくなり、その表情はまさに鬼そのものだった。
「オオオオオオォォォォォォ!」
鬼人は咆哮を上げる。それに反応した魔獣が、雄たけびや超音波などそれぞれが出来る形で居場所と存在をアピールする。
「やはり少し減っているか……まったくルインは何をしているんだ」
再び咆哮を上げる鬼人。すると、今度は魔獣達の目が赤く光り、バラバラに行動していた魔獣達は鬼人の周囲に集まってくる。
そのまま鬼人は魔獣達を引き連れ、戻ってこない孤立している魔獣の元へ駆け出した。
途中何人かの冒険者に出くわす。しかしその都度、魔獣達と一瞬で蹴散らし、魔獣救出に向かう。
目的地へ着いた鬼人は魔獣を従えた姿を見られ、人間の兵達に驚かれる。
「な、なんだ!魔獣使いか!?」
「魔獣は他種とは群れないんじゃなかったのか!」
鬼人は逃げ出そうとした人間の兵一人を捕らえる。
「この魔獣を襲う指示した冒険者はどこだ?」
「し、知らん!指示を出しながら他の冒険者達と固まって動いてる事しか知らない」
「そうか……」
事情を聴いた鬼人は情報を吐いた人間の襟をつかみ、従えた魔獣達の中に放り投げる。
「ひっ止め……ぎゃあああぁ!」
魔獣達は人間を貪り、その光景を見た他の兵は逃げ出す。
「まず指示を出している冒険者を何とかしたいな、そのためには魔獣をまとめなくては」
鬼人は再び咆哮を上げると、新たに目を赤くした魔獣が集まってくる。
「まだ行動不能な魔獣が結構いるな……ルインも来ないしここは俺だけで何とかするしかない」
多くの魔獣を引き連れ鬼人は再び囲まれた魔獣の元へ駆け出す。
その後も、鬼人は幾度か冒険者を退治しながら魔獣を救出するのを繰り返す。
「これだけの数でまとまっていれば個別に撃退されることはあるまい、後は広がりすぎず魔獣達が暴れるのを見ていればいい」
東の都の研究区画の噴水のある広場。鬼人が暴れている魔獣を見守っていると十人程の固まった冒険者が向かってくる。
「チッどうも作戦が上手くいってないと思ったら……固まって暴れてやがる」
「魔獣に知恵をつけている奴が居たのか、亜人の癖に小賢しい。やっちまえ!」
二人の冒険者は鬼人に攻撃を仕掛ける。だが鬼人は一瞬で一人を斬り伏せた。
「全く、この地の人間はどうして人間以外をこう見下すのか……」
「強いな、だが世間知らずだ。人間が他の生き物よりも優秀なんだから支配は当然の事だろ?」
鬼人は呆れたように溜息をついた。
「世間知らず?違うな、俺とお前の常識が違うだけさ。住む世界が違えば常識は違う、たったそれだけだ」
「戯言を、強者が支配者なのは世界の常識だろうが!」
向かってきた冒険者が鬼人に剣を振るうが簡単に受け止められる。
「俺だって無暗にその地の文化を否定するつもりはない。だが命が狙われるのなら話は別だ」
冒険者の剣を弾き剣を振るうと冒険者の体は一瞬で三等分される。
「それにこの程度で強者やら優秀だと?他所から来た一介の亜人にこんなに簡単に敗れるこの国の優秀は随分基準が低いな、なぁ冒険者達よ」
「なっ亜人風情がぁ!」
自分達を見下された冒険者達は一斉に鬼人に攻撃を仕掛ける。
しかし、鬼人と人間達の衝突は一瞬で終わり立っていたのは鬼人一人だけだった。
「仮にお前達人間が優秀だったとして、その人間に勝てる俺は更に優秀という事でいいのか?」
鬼人は溜息交じりにつぶやくが、足元に転がった人間達は何も答えなかった。
「全く下らない……ならば自称優秀な人間よりも更に優秀な俺がこの都を変えてやろう!」
魔獣は鬼人の言葉に反応する様にさらに活発に暴れ、建物にも被害を与えていく。
都の街が壊れて行く様子を見て鬼人は不敵に笑みを浮かべた。




