東の技術6
「……逃げたか」
「おい、あんた!ここから出してくれ!」
檻の中の亜人が再び頼み込んできた。
「勿論そのつもりだけど……鍵はどこにあるかわかる?」
当然ながら檻には鍵が掛けてあり、ルインの力では鍵が無ければどうすることも出来なかった。
「奥にあの人間が使っていた机がある、そこにないか?」
亜人に言われるまま奥に進むと確かに本や資料が積まれた机がありルインは調べる、すると机の引き出しから複数の鍵が出て来た。
ルインは亜人達の檻に戻り鍵を差し込むと鍵は開いた。
「あ、ありがとうございます!」
「よし、他の檻も……」
魔獣達の檻の鍵も開けようとするルインに亜人達は驚く。
「魔獣達の檻も開けるんですか!?」
「ああ、俺は魔獣とある程度意思疎通できる。魔獣を開放してこの都に混乱をもたらすんだ。良かったら君達も手伝ってくれ」
ルインは亜人の一人に鍵を渡そうとするが、受け取らずそれどころかたじろいでしまう。
「な、なんだって……そんなことすれば人間達が黙っちゃいなぞ。助けてくれたのはありがたいが……」
「もしそんなこと手伝ったらもうこの国、いやこの地方にはいられなくなる……人間は本格的に亜人を排除しようとするんじゃないか……?」
檻から出た亜人達は口々に言い全員がルインから距離を取ろうとする。
「じゃあ君達はこれからどうするつもりだ?ここから逃げるにはそれしかないよ?」
「……に、人間に頼み込めば逃がしてがしてくれるかもしれない?」
「そうだ、わざわざ諍いを起こす必要はない……」
亜人達は完全に人間がトラウマとなっており、安易な発想を次々と口にする。
「な、捕えた相手に許しを請うなんて馬鹿げてる!相手は無理やり連れて来た人間なんだよ!?」
「俺達が言うことを聞いていれば人間は心変わりしてくれるかもしれない……そうだ昔は亜人と人間仲良くやってたんだ……またいつかきっと!」
亜人は自分に言い聞かせるように叫んだ。
「……ありもしない可能性のない希望にすがるな!現実を見て出来る事で戦え!君達は今、命どころか未来さえ脅かされているんだ!」
ルインは亜人の肩を掴み正気を戻す様に叫んだ。
「あ……うぅ」
「それでも人間に逆らえないならここに居るといい。ただ俺達は協力してくれない者達まで守れる余裕はないよ」
ルインは吐き捨てる様に魔獣の檻へ向かおうとする。
しかし檻に入っていた子供はルインに近づき手を差し出した。
「私にも鍵をちょうだい!ここから出る為に協力したいの!」
「分かった」
ルインは亜人の子に鍵を分け与えると二人で魔獣の檻を開けて行く。
「みんな、ここから解放する代わりに俺に手を貸してくれないか!」
ルインは声を張り上げると、魔獣達はその声に賛同するかのように雄たけびを上げる。
魔獣の入っている檻の中には結界が張られているものもあり、強力な力を持つ魔獣も封じられていた。
「これはチウィーさんじゃないと出せないな……」
檻から出た魔獣はルインの言う通り暴れもせず、ルインの言う事を聞き、他の魔獣が入っている檻をルインの元まで運ぶ。
「本当に魔獣が言う事を聞いている……」
魔獣を臆さずせっせと鍵を開けている亜人の子供を見て、捕らわれていた亜人達も突き動かされる。
「……お、俺達にも鍵を分けてくれ」
「そうだみんなでやった方が早い!」
亜人達がやる気を出す、しかし鍵は数個しかなく鍵を持てるのは限られていた。
「余った者はこの前の部屋にある、魔獣の入っている透明な容器を壊していってくれないか?」
「ここの魔獣と違って襲ってこないかなぁ……」
亜人の一人は心配そうな声を上げる。
するとそこに魔女と鬼人が入ってくる。
「あらもう作戦は始まってたのね、場所分かったなら教えてくれればよかったのに」
「チウィーさんとキドウ。ここにエルハイナが居たんだ。亜人の声が聞こえたから思わず入っちゃった」
「魔獣だけじゃなく亜人の実験もしてたのね」
「こっちも発見があったぞ」
魔女と鬼人をよく見ると二人は背中に荷物を背負っており、ルインは尋ねる。
「それは?」
「研究結果って所かしら?魔獣の力を使った様々な武器ね」
「結構な数があったが二人じゃこれだけしか持ってこれなくてな」
「うーん、だったら班に別れよう」
ルインは三班に分かれ作戦を進める事を提案した。
ルインは魔獣達の開放と説得。
魔女は結界を壊しながら弱っている者全ての回復。
鬼人は研究成果の武器を亜人達と共に持ってくるというもの。
「余った亜人と細かい作業ができる魔獣は俺に付いて来てくれ」
鬼人はさっそく部屋から出て二階の研究成果が置いてある部屋に向かった。
結界を全て破壊し終わった魔女は、次に弱っている魔獣の回復に移る。
「まさか魔獣を回復させる事になるとはねぇ……襲われたら何とかしてよ?」
「良いけど……チウィーさん、魔獣と会話できるでしょ?」
「あれ?言った事あったっけ?」
「何となくだけど理解してる感じがして。それに前にマリア達が魔獣と会話してたのを見たんだ、同じくらいの力だし、チウィーさんもできると思ったんだけど……」
「はぁ……そうね、正解よ。でも普通は隠すものなんだからね、人間どころか亜人ですら気味悪く思われ事があるんだから」
「そ、そうなんだ……」
その後、檻が開く程仲間は増え、効率が上がる。
魔獣を全て解放したルインは、魔女を手伝い弱っている魔獣を魔法石で回復させた。
鬼人も二階から沢山の武器を持って戻り、いよいよ作戦が始まろうとしていた。
「えーとこれが手投げ爆弾でこっちは重力矢?」
「これは竜巻ブーメランと衝撃斧。どれも投擲武器ばかりね」
「大量に作り兵に配備することが前提なら単純かつ遠距離の武器が良いだろうからな」
ルイン達は武器の使い方を確認し、亜人や器用な魔獣に持たせる。
「使い方が楽なのは俺達にとっても良い事だな、だが、おそらく拾って投げ返される可能性がある故実践投入してないんだろう」
「さて、エルハイナがここから逃げたという事は、既に都中に人間の軍が配備されている可能性が高いわね」
研究所を出て都を脱出しなければ逃げられない、亜人も魔獣もそれを理解し覚悟は決まっていた。
亜人や様々な魔獣を連れ、ルイン達は地下の階段を上がって行く。
エルハイナが逃げた扉の奥は大きな搬入口に続いており、大型の魔獣も難なく通れるようになっていた。
「まずは俺が挨拶がてら出ますか」
ルインは外の様子を確認する為、一人研究所から出る。
研究所の外は既に人間の兵に囲まれており、人間の兵はルイン達が出てくるのを待ち構えていた。
兵達の先頭にはエルハイナが立ち、研究所から出て来たルインに説得を試みる。
「私達はあなたと本気で友好を結ぶつもりでした。今後お互いの発展の為、今からでも共生はできませんか?」
「人間が亜人を迫害する限り、そんな時は来ない!あれを見てはいそうですかと答える訳ないだろ!言ったはずだ、俺は迫害を受ける亜人との間に立つと!」
「しかしあれは技術発展の為に必要な行為でした!」
「あれを必要な行為と言い張るなら、こんなことをする人間を滅ぼすのも必要な行為だ!」
「人間はこの地を発展させ、治める為に必要な種族です!」
「……それだよ!人間は自分達を特別だと思い込み、都合の良い考えを亜人に押し付ける。そんな歪んだ考え方をしている限り、人間と亜人が手を取り合う日は来ない!少なくとも俺とあんたは絶対にだ!」
「……わかりました、彼はこの都を脅かす魔王です!全員、彼を捕らえてください!」
エルハイナは兵を動かす号令を出し自身は後ろへ下がって行く。
しかし人間の兵達は相手が魔王と知って躊躇する。
「や、奴は魔王です、俺達で敵うか……」
「大丈夫、彼を傷つけるようなことはせず捕らえれば犠牲は出ません。それにこれは領主命令です!」
命令と聞いた兵達はルインに向かおうとする、しかし、ルインの後ろには武器を持った亜人や魔獣が待ち構えており、人間自らが生み出した研究成果が飛んできた。
「うわぁ!奴ら研究所の武器も使ってくるぞ!」
兵達は強力な武器が敵に取られた事を知ると、陣形は一気に崩れた。
その光景を見た魔獣達は一気に外へ飛び出していった。
魔獣達に遅れ魔女と鬼人、亜人達も研究所から出て先に外に出ていたルインと合流する。
「人間に煮え湯を飲まされた彼らは興奮してるな」
「憤りは尤もね。飛びだしちゃったけど、この魔獣達も見捨てるつもりはないんでしょ?」
「勿論、でも亜人達は一刻も早くこの都から逃げたいだろうから、ここからまた別行動しよう」
ルインは再び分かれる事を提案する。
「キドウは魔獣達を援護して欲しい、俺も後からすぐ行く」
「分かったが、俺は魔獣とは意思疎通は出来ん。統率は頼んだぞ」
「うん」
魔獣達は目に入る人間に次から次と見境なく攻撃し、本能のまま暴れているだけだった。
遠くの方では、固まって協力し合った人間に返り討ちにされそうになっている所が見えた。
鬼人は魔獣を助ける為、すぐに駆け出した。
「チウィーさんは亜人達を都の外に避難させて。捕らわれていたみんなは武器を使ってチウィーさんを援護するんだ」
「そう来ると思ってたわ」
指示を出した後、亜人達はルインの周りに集まり感謝の言葉を口にする。
そうして魔女は出発の合図をすると、一行は武器を構え都の外へ向かった。
「よし、俺も……!?」
ルインは魔獣達の方へ向かおうとした振り向いた瞬間、体は痙攣し始め、いきなり力なく倒れる。
「な……なにが……」
自分でも何が起こったか分からず、混乱したままルインは意識を手放した。




