東の技術4
翌日、魔女と鬼人を宮殿に残しルインは一人研究所に向かった。
ルインは何事もなく研究所へ到着し、以前と同じ道を辿って機械がある奥の部屋へ入って行った。そして互いに椅子に腰かけ対面した。
「さて、検査結果ですけれど……」
ルインは息を飲み込む。
「結果から言えばあなたの種族を特定することはできませんでした……」
「えっ……」
ルインは明らかに落胆した表情を見せる。
「私達も国周辺の種を全て把握している訳じゃありません……国が亜人を駆逐すると発表した際、種族の調査、保全を行おうとしていたこの東の都は出だしが遅かったのです」
「そうか……」
「しかしあなた見た目と特徴、血の成分から近い所まで絞る事は出来ました」
「えっ?」
ルインの顔は再び明るくなる。
「今の南の平原、あそこは元々森で本当に複数の亜人の集落がありました。しかし、その中であなたに近いとされる、私達が保管している資料は一種だけ」
エルハイナはルインに非常にリアルな亜人達の絵と、詳細が書かれた紙を手渡す。
「記録では彼らと似た種族が多く存在したらしいので、近縁の種族であることは確かだと思います」
紙に描かれた亜人の肌の色は、ルインよりもずっと薄い物で髪色も黒だった。
「彼等は空翼人を慕っていた種だったそうです。おそらく遥か昔に空翼人との交流があったのでしょう。ですが特殊な力を持っていたという記録はなく、本当に近いだけの種です」
ルインは渡された絵と紙をじっと見る。
「この都の資料に残っている近しい亜人はこれだけ。それ以前に貴方の種族が滅ぼされていたなら、もうこの国に手掛かりがある可能性は低いでしょう」
「じゃあ……力の方は?」
「そちらもあまり芳しくありませんでした。なにせ公で空翼人の祝福という力を持つとされていたのは勇者一人だけでしたから」
エルハイナは再びルインに別の紙を渡す。
受け取った紙には数字や図形が書かれていたが、ルインにはさっぱりわからなかった。
「それはグラフと言って、比較を分かりやすく見せるため形にしたものですが……片方が勇者の物でもう片方があなたの物」
説明を受けたルインは再び紙に目を戻す。
「説明されればなんとなく分かる気がする」
比較されたグラフは全く同じ物が全くなく図形はバラバラだった。
「似ている数値は無いね、これは一体?」
「……正直に言うと、勇者の力も空翼人の祝福かも分かってないのです……」
「は?」
ルインは素っ頓狂な声を出す。
「空翼人の祝福。先程も言った通り持っていたのは勇者ただ一人。彼の申告と伝承として伝わっていた力と似ていた事、何より私達は過去に空翼人と行動を共にしていたという状況証拠があるからその呼称を使っていただけ。なので恐らくそうだろうという事しかわかってないのです」
「じゃあまさか勝手に空翼人の祝福って名乗っていたって事?」
「確率は高いはずですが、断言できる程の確証がないのも確かです。何分確かめるには空翼人の祝福という定義が曖昧なもので……」
エルハイナは困ったように目を伏せた。
「そうか……空翼人の祝福と判断するにはまず空翼人の祝福がどんなものか分かって無きゃいけないんだ」
「少なくとも彼……勇者は力を使う時、魔力などを消費してる様子はありません、それはあなたも同じ」
「俺は魔法を学んだ事は無いよ」
「そう、そして似ているのはそれだけで、勇者は祝福の力を自分の好きな時に使えるし制御も出来ます。それに比べあなたは……」
「俺の力は完全に周囲の環境に依存していて自分で止めることも出来ない……じゃあ勇者の空翼人の祝福ってどんな力なんだ?」
エルハイナは話すのを一瞬躊躇ったが説明を続けた。
「彼の力は弱者を守る力……弱い者の思いや応援を自らの体に宿し肉体や体力、魔力を強化増幅する力です」
「そんな力を自在に使えたのか……」
「私も当事者ではないので感覚的な事は分かりませんが。実際、守るものがある戦いの時は、私達も今まで見た事ないような……まさに奇跡の力を発揮しました」
「という事は民の応援が力になるのか……伝承で伝わっていると言っていたけど勇者の力も具体的に伝わっていたの?」
「直接伝わってはいないですが……これは貴重なまだ空翼人が地上に居た時に書かれた本、その写本です」
エルハイナはルインに一冊の本を手渡しあるページを開かせる。
本の内容は、空翼人が人間にどんな恩恵をもたらしたか物語調に書かれており、開いたページには弱者を助け支えられる勇敢なる祝福という話が書かれていた。
「へぇ……」
ルインはその勇敢なる者が出てくる物語をサラッと読む、本には先程聞いた勇者の力と同じような描写が書かれていた。
「その物語に載っているから事から、勇者の力は空翼人の祝福という認識になっています」
そしてエルハイナは再びルインにページを指定する。
「もしあなたの力が空翼人の祝福だとして、私が一番近いと感じた物がそれです」
言われた通り開いたページに書かれていたのは幸せを返す者という文字。
「幸せを返す祝福……?」
「ええ、事象を返すという意味では同じ、もし当てはまるならそれではないかと」
「う―む……」
ルインは本を真剣に読む、その間エルハイナは席を立ちルインに渡した資料を片づけ始めた。
「今私達の力ではこの結果が限界でした……ですが南の都が亜人を襲った時の情報をもっと集められれば進展することがあるかもしれません」
「そうか……じゃあ引き続き調査を頼むよ」
ルインはエルハイナに本を返し、引き続き調査を継続する事を頼んだ。
それから二人は研究所を出る。エルハイナは別の研究所へ仕事に、ルインは馬車で都の宮殿へ戻った。
夕方、戻って来たルインを、宮殿の部屋で魔女と鬼人が意外そうに出迎えた。
「お互い何もされなかったのね。本当にあの女はあなたに協力しただけなのかしら」
「成果はあったか?」
ルインは二人に研究所で教えてもらった事を話す。
「何よ、結局分かった事は無いじゃない、確かその本はワドファーにもあるし、王をやったあなたならいつでも見られると思うわ」
「実は俺もそんなに期待はしてなかった、この国に滞在する為の口実だしね」
「でも検査は終わって猶予もなくなりつつあるわね」
「追い出される前に事をなさねばな、はてさてどうなる事やら」
三人は夜の作戦決行の為、準備を始めた。
それからしばらくしてエルハイナは仕事から帰り、最早通例になりつつある四人での食事が始まった。
「さて今日魔王の検査結果が出た訳ですが、これからも調査を続けます、ですが一区切りつきました。あまり納得いく結果ではないでしょうが……」
「そうだね、でもこれ以上はどうしようもないだろうし明日大人しくこの都を出るよ」
ルインの言葉を聞きエルハイナの顔は明るくなる。
「ではこの都は見逃してもらえるのですね?」
「見逃すも何もそっちに攻撃の意思がなければ俺は何もできないのは知ってるだろ?」
「逆にあなた達は魔王一行である私達をこの都から素直に出してくれるの?」
食事を取らない魔女はワイングラスを片手に質問する。
「当然です、私は本来人間亜人を区別しないで共生する道を探していました。これで少なくともこの都と魔王ルインは共生できると考えていいでしょうか?」
エルハイナは恐る恐る質問する。
エルハイナの行動は全てこの都を守ることに直結しており、その心境は民を人質に捕らえられていた事と同義だった。
「そうだね、そっちから何もしないならそう言うことになる」
「良かった、次来る時はあなた方が外を出歩ける様な、人間と亜人そんな関係になる様尽力します」
「……そうなってる事を願うよ」




