海2
「ひゃあ!海だー!」
近くの岩場に馬と荷物を置き、上半身の衣服だけ脱いだルインは勢いよく海に入って行く。
「はぁ―冷たくて気持ち良いなぁ」
ルインはそのまま倒れると海面に浮かぶ。ルインに続き鬼人も同じ格好で海に入る。
「おお!これは良いな、しばらく歩きっぱなしだった足が冷やされて気持ち良い」
鬼人はルインよりも沖に向かい、足が届かない所まで行くと息を吸って潜る。その方向を見ていたルインだったが、鬼人は突然隣から出てきてルインは驚く。
出て来た鬼人は手に魚を持っていた。
「おお凄い!でも魚って手で捕まえられるものなの?」
「捕まえたから持ってるのだろ?沢山いたからコツを教えよう」
「あーでも……」
ルインが言い淀んでいると水着に着替えた魔女がやってくる。
魔女の水着は黒いビキニで腰にパレオを巻き、特徴的な魔女の帽子を被ったまま向かってくる。
「あんた達ねぇ……こういう時は時間のかかるレディを待つものでしょ?」
ルインと鬼人は魔女の姿に一瞬目を奪われるが魔女の言葉に我に返る。
「……へぇそういうものなんだ?」
「時と場合によると言っておこうか」
「全く……しかも水着の感想も無いなんて……」
魔女は男性陣の反応にブツブツ文句を言いながら海へ入る。
「あぁ冷たくて気持ちいいわね、水浴びにもなって一石二鳥かもね」
「チウィーさん水着なんてよく持ってたね」
「そんなの魔法でチョイよ」
「へぇやっぱり魔法って便利だなぁ……ん?魔法で取り出したの?それとも水着自体が魔法って事?」
「それは秘密ー」
魔女はルインの隣まで来ると、海面から頭だけ出し、器用に沖に向かって泳ぎ出した。
「まあ女性にあれこれ聞くのは無礼だろう。さあルイン魚はこっちだ」
鬼人も泳いで沖に向かう。
「……よし、じゃあ俺も……」
ルインは海に顔を付け体を浮かせた後、腕を動かす。しかし全く進まず顔を上げる。
「あれ……思ってたより難しいな……それに波もあるし」
その光景を見ていた魔女はルインに近づく。
「あぁ海見たの初めてって言ってたものね。泳げなくても当然よね」
鬼人も後を付いてこないルインの元に戻って来た。
「あんなに海に入りたがってたから、俺はてっきり泳げるものかと……」
「ご……ごめん」
「謝る事ないわ、簡単な泳ぎ方なら私が教えてあげる」
魔女はルインの泳ぎの指南役を買って出た。
「二人で教えるのも効率が悪いな、俺は飯の魚を取って来よう」
そう言って鬼人は再び沖へ向かい泳ぎ出した。
「じゃあまずは足の付くところで……」
二人は浅瀬に行き、魔女はルインの手を取りながらバタ足の練習をする。
「うぅ……この体勢はなんか恥ずかしいな……」
「文句言わないの、誰でも初めてはあるんだから。体は浮いてたんだから後は移動する方法だけでしょ?すぐ覚えるわよ」
「なるべく早く泳げるよう頑張ります……」
「……ところであなたが今溺れたらその力って私に向かってくることになるのかしら……?」
「ど……どうなんだろう……」
それから数十分後、魔女の言う通りルインは一人で水へ入っても支障が無い程度の泳ぎを身に付ける。
「うん、前に進めて息継ぎできるなら溺れる心配はないでしょ」
「ありがとうチウィーさん、自分で水の中を進むのって爽快感あるね」
「喜んで貰えたのなら何より、でもあまり深い所へ行かないでよ?あなたが溺れたりしたら私達か、この海全体がどうにかなるかもしれないんだから」
「自分の事ながら冗談として笑い飛ばせないのが怖いなぁ」
その後も、三人は海を満喫した。
水飛沫を飛ばしたり鬼人から魚の取り方を教えてもらい、休憩の時は取った魚を食べる。戦いの連続だったルインは、王という肩書から解放され、久しぶりに一日を満喫したのであった。
海水浴は日が落ちる前に終了となり、魔女は空中に水を溜めた後三人の頭上に降らせた。
「海水は乾くとベトベトするから真水で洗わないとね」
「へぇー」
「じゃあ私は着替えてくるから」
そう言うと魔女は少し離れた岩場の陰に向かう。
「今日の野宿はこの辺でもいいかもね」
「そうだな、船着き場と東の都、互いの目的地も明日には着くだろう。今日くらいはゆっくりするか」
魔女が戻ると早速三人で今日の寝床を探す。だが途中、浜で亜人が三人の人間に囲まれて棒で殴られているのを発見する。
「あれは……」
「暴力を受けてる!助けないと」
言葉と同時にルインは連れていた馬に乗り浜へ駆け出す。
「正義感が強いんだな」
「自分が動けば大事になるのに……」
そう言った後、遅れて魔女と鬼人もルインの後を追った。
「お前達!何やってるんだ!」
ルインは颯爽と亜人と人間の間に割って入り馬から降りた。
亜人はヒレのような手足を引っ込めながら背中の固い甲羅で身を守り、人間の暴力に耐えている様だった。
「はぁ?なんだお前?」
「こいつも亜人か?だったらついでにやっちまおうぜ」
人間達は棒を構える。
「やるか?」
ルインは背後の亜人に攻撃が行かない様、体を大の字に広げる。
「あなたがやったら確実に大事になるじゃない……」
「こんな所で死者を出せば海が汚れる……ここは任せてくれ」
人間達は後ろからの声に振り返る、そこには魔女と鬼人が立っていた。
「なんだ?女と……でっか」
「人間達よ何かあるなら俺が相手になるぞ?」
鬼人はそう言うと、鬼人を見上げ茫然としてる人間から棒を奪い取る。棒は人間の腕と同じくらいの太さがあったが鬼人はそれを易々と折ってしまった。
「ひっ……これだから亜人は!最後に力で訴えやがって!」
「お前ら野蛮なんだよ!」
人間達は力で勝てないと分かると、罵声を浴びせる。
「最後に力で訴えるのが野蛮なら、最初から暴力していた君達は何かな?猿?」
「てっ……てめえ!」
ルインの煽りに釣られ、人間の一人がルインに手を上げそうになる。
「ぎゃあ!」
しかし、それを察知した鬼人は、振り上げた腕を掴み思い切り人間の肩を外した。
「お前ら悪い事は言わん、彼に手を出すのは止めておけ、冗談抜きで死ぬぞ?」
「クソ!なんだお前ら!もういい、お前ら行くぞ」
鬼人が凄むと人間達は逃げていった。
「むぅ……戦わずに引かせるには迫力って大事なんだなぁ」
ルインは鬼人を見上げながら呟いた。
「ありがとうございます」
甲羅の亜人はルイン達に深々と頭を下げた。
「海に住む亜人なんて珍しいわね、どうしてここに?」
魔女は亜人に尋ねる。
「私めタートス族と申します。普段は海の沖の方や底の方で生活してるんですがこれが沈んで来るのを見まして」
タートス族の亜人は懐から小瓶を取り出し見せる、中にはピンクの液体が入っていた。
「物珍しかったので光に当ててよく見ようと海から出たら、人間達が探していた物らしく盗んだと言われ……」
「そりゃひどい」
「それは一体?」
「人間は若返りの薬と……」
「はぁ!?」
魔女は亜人の言葉を聞いて驚く。
「そんな物あるんだ?」
「いちおう魔女にはそういう物を作れる技もあるけど……そんな特殊技術を人間が持ってるのは不自然ね……」
「助けてくれたお礼というのもなんですが、これは差し上げます。持っているとまた人間に狙われそうですし」
「……あなた丁寧な言葉遣いの割には性格があけすけね。単なる厄介払いじゃないの」
「やはりこの地の人間に関わるとロクなことになりませんね、では私めはこれで」
そう言うとタートス族はヒレのような手足を動かし、ノロノロと海へ帰って行った。
「行っちゃった。随分マイペースな亜人だったね」
「単に一刻も早くここから離れたかっただけかもしれないわね」
その後、三人は野宿を経て翌日を迎えた




