海1
東の都へ向かう道中、鬼人は馬を連れたルインと魔女の二人とお互いの事を話す。
ルインと魔女が聞いたのは他の地の人間についてと、鬼人の故郷や文化など。鬼人はルインに自分が敗れた力の事を聞いた。
そして今はルインが質問をしていた。
「じゃあ他の国や大陸の人間は亜人をそこまで嫌っていないの?」
「俺は人間じゃないから絶対とは言い切れないが、俺自身亜人という理由で悪意を向けられた事は無いな。人間だから特別なんて考え聞いた時は呆れたよ。昔、ここに来た時はそんな事無かったしな」
「傘で顔を隠してたのはラッキーだったね」
「実は、船の上で一緒だった人間に言われたんだ、この地に降りたら絶対に傘は外すなと。理由は聞けなかったがまさかこんな理由とは……」
「教えてくれたのは人間だったのか……本当にこの国だけが他と違うんだなぁ」
ルインは東の海の水平線を見ながらしみじみつぶやいた。
「さて、これから君達は東の都へ行ってどうするんだ?村人は、何か技術を持っていないと入れないと言っていたが」
「実はあまり深く考えてなくて。とりあえず東を目指して来ただけなんだ」
「……随分雑なんだなぁ」
「でもそろそろ都が近いし、その情報も含め知恵を借りるのは良いかもね」
そう言って魔女は魔鉱石を取り出し通信を始めた。
「以前も見たが、やはり遠隔から会話できる技術があるのは凄いな」
魔鉱石を見た鬼人は物珍しそうに感心する。
「普及してる物でもないし、人間から奪った物だけどね」
「向こうの準備が出来たみたいよ」
魔女はルインに魔鉱石を渡すと、魔鉱石からエルフの声が聞こえて来た。
『やあ魔王、私がこの国にいる間は国王と呼んだ方が良いかな?』
「国王?ルインは国王なのか?」
通信から聞こえてくる言葉に鬼人は驚き、魔女はルインの後ろで小声で教える。
「成り行き上そうなってるだけよ」
「成り行きで一国の王になるなんてどんな事情だ……」
あまりにも適当な説明に、鬼人はぽかんと口を開けていた。
「……どっちも遠慮するよ」
『では変わらず魔王と呼ぼう。それで私に聞きたい事とは?』
「東の都は技術のある人間か、怪我人・病人くらいしか入れないみたいなんだ。まずは都に入る方法と妨害の具体的な案を聞こうと思ってね」
『なるほど……まあ侵入は君が名乗り暴れ回れば向こうから入れてくれると思うが……』
「えぇ……本気?」
『半分は、君は今や人間の国全体の敵だからね。倒せない分かっても捕らえに来ると思うぞ。それ以外だと……以前聞いた変装の力を利用し潜入するのも有効かもしれない。私は捕まるのが一番楽だと思っているが』
「捕まるか人間に変装ねぇ……」
『人間に化けても技術を持った者しか入れないなら後者は保証できんがな。妨害の方法は、まず魔獣を研究している所に入り込み、魔獣を解放でもすれば間違いなく混乱を起こせるだろうな』
「魔獣を研究……まさか!」
ルインは以前、王に使われたボマービーの力を使った爆弾を思い出す。
「あれは東の都で作られたのか」
『そう、魔獣の力を利用した爆弾、あれには私も驚いた。ついでに他にも使えそうな研究成果があったら持ち出してほしい』
「技術を盗むのか……」
『負傷した兵の方は、病院自体の機能を落せばそれだけ治療に時間がかかる』
「なんだ病院も襲うのか?戦えない者も襲うのはどうかと思うが……」
非人道的な行為の話に鬼人は難色を示す。
『……現状分かっている事のアドバイスはこんな所だろう』
「分かった、チウィーさんと話し合ってみるよ」
『待て、我々……というよりワドファーからも報告があるそうだ』
「ワドファーから?」
『宰相に代わる』
魔力通信の相手が宰相に変わった。
『ルイン様……ですか?』
「ああ、インテ久しぶりだね。報告って一体……」
『実は前王のご子息がワドファーに帰還しまして……率直に申しますと今の王位をご子息に譲り退位してくださらないでしょうか?』
「え?」
「なんですって!?」
宰相の言葉にルインよりも魔女が驚いた。
『勿論当初の予定通りこの国での永住は保証し、それなりの謝礼の用意もあります』
「あなた達ねぇ、散々ルインの力を当てにしておいて……それも、こんな都に行くタイミングでって……!」
「ちょっと待ってチウィーさん、このタイミングでって言うのは俺も引っかかるけど、ワドファーにも訳があるんでしょ?」
ルインの手から魔鉱石を奪い、まくしたてる魔女を諫め、ルインは事情を聞く。
『はい……人間達の攻撃が予想より激しく軍がかなり疲弊しています。そこへ以前連絡した前王のご子息が帰還。人間との新たな同盟を結び攻撃を止めさせるというのが目的でして……』
宰相が言い終わる前に魔女は激怒した。
「それが嫌で戦争になったのよ!同盟を結ぶって事は人間の言いなりになって、更に新しい王様の命も危険に晒されるわ!それに責任はルインに全部押し付けるって事じゃない!」
『それはそうなのですが……』
『まあ待て魔女よ、最後まで聞け。これは作戦だ。水面下で戦力を増やし温存する為、提案した』
「作戦?」
『宰相、ここからは私が説明する』
『お願いします……』
通信の相手が再び宰相からエルフに代わる。
『まずはワドファーの王交代、君にすべての責任を擦り付け、新たに人間の国と同盟を組む。そうすれば今すぐワドファーがどうにかなる事は無い。新たな王は全力で守ろう。その後、ワドファー全体を挙げての人間を奇襲。つまり、服従するフリをするのだ。最初から破棄前提の守る気のない同盟なのだからどんな無茶な盟約だろうと関係ない』
「俺を切り捨てる訳では無いのは分かったけど……」
『案にあった協力者集め、これは順調だ。現在は我々北の森からは勿論戦力を出し、南の森と亜人街に使者を送り交渉中。東は海に面してるので味方を置けないが、ワドファーが決起したと同時に三方向から攻める計画だ』
「騙し打ちからの奇襲か……ちょっと卑怯だね」
『それが作戦というものだ。逆に言えばそれ以外に人間へ抵抗する手段が無い。これが失敗すれば人間は周辺の亜人全て駆逐するだろう。そして、この作戦の核となるのが魔王ルイン、君だ』
「おぉ……俺の知らない所で凄い大事になってる」
『元々君中心で広がった戦いだ、そしてこれは亜人達の最後の抵抗になる』
「ちょっと待ちなさい。ワドファーの国がそのまま反抗を起こさず人間達の言いなりにならないって保証はないわよ。例えば新しい王がすぐに殺されたりしてね。こっちもせっかく行動してるのに、後から裏切られたら溜まった物じゃないわ」
『……そうだな、ワドファーはそれをしようと思えばできるし、万全でないのは認める』
「……」
魔女が置かれている状況を指摘すると、周囲は沈黙してしまう。
「んーでも大丈夫だよ、もしそうなるなら俺はもうこの地を捨てて別の場所に行く。他の所から来た亜人は酷いのはここだけって聞いたし、ワドファーが万が一俺達を見捨てるなら俺はこの地から去るよ」
ルインは正面から言い放った。
「ワドファーが落ちればもう人間に抵抗する手段はない。俺にもどうすることも出来ないし……だったらもう人間に近づかなければいいんだ」
「なるほど……そうね、確かにこの地には師匠の家だったり後ろ髪引かれる物はあるけど命には代えられない。良いわ、それならワドファーの保証は要らない」
ルインの言葉に魔女も賛同する。
『話は纏まったな、ならばこれからは決起を目標に動く。人間達により国の治安は悪くなるだろうが王を変えることでこちらにもある程度の余裕はできるだろう。東の工作が終わり決起の準備が整ったら教えてくれ』
そうしてワドファーとの交信は終わった。すると、魔女が確認するように言った。
「さっきの話本気?」
「半分本気かな。というかワドファーに切り捨てられたら、そうせざるを得なくなると思う」
「それもそうね……」
魔女は納得したかは分からない様な曖昧な返事をし、三人は再び東の都を目指し出発した。
先の通信を横で聞いていた鬼人は、感慨深く感想を語る。
「いやーすごい物を見たなぁ、目の前にいる魔王が王を辞める瞬間に立ち会うとは」
「あなた途中からいやに静かと思ったら……」
「そりゃ俺みたいなよそ者が国家の会議の場で発言なんか出来ないだろう。話し始めた時は単なる仲間との相談だと思ってたのに国の会議だったとは……」
「雇われの王様なんてこんな終わり方だよね、でもこれで晴れて俺は王からただのルインに戻った訳だ」
「でもまだ魔王という肩書は残ってるわよ?」
「それは人間が勝手につけた物だからどうしようもないなー」
三人はそんな話をしながらしばらく進むと大きな浜辺に出た。
「おお、海だ」
「ショウウオ族の村落でも見たでしょ?」
ルインの一言に魔女はツッコミを入れる。
「いやぁあそこは岩場だったしそれどころじゃなかった、けど今は余裕もできたし何よりここは砂浜。少し遊んで行ってもいいんじゃないか?」
「遊ぶったってねぇ……」
魔女は困惑する。
「俺、実は海見たの初めてだったんだ。少しで良いからお願い!」
ルインの純粋な頼みに魔女は根負けする。
「……まあたまには気晴らしも必要よね……」
「よし!キドウも寄り道になるけどいい?」
「俺も急いでないから問題はない、ならば今日の食事は魚介類にしよう。俺の故郷では魚介の美味い調理法があってな……」
「おお、楽しみ」
こうして一行の休息と海水浴が決定した。




