鬼6
そして数十分後、二十人程の冒険者の増援が到着する。
冒険者達がまず見たものは、自慢の赤い鎧が紙切れのようにズタズタにされ、自身を槍で支えなんとか立っているボロボロになったシュンの姿だった。
「おい……あれ大型ルーキーのシュンじゃないか?」
「お……お前ら……助けて……」
シュンはおぼつかない足取りで、増援に来た冒険者達の元へ向かい助けを求める。
「増援が来たぞ、良かったな。これで楽にしてやれる」
「ひっ……」
鬼人はシュンの後ろに立ち、増援に来た冒険者達に言い放つ。
「村人も倒しこいつ以外の冒険者は既に始末した。こいつより実力のない者は帰った方が良い。俺は弱者をいたぶる趣味など無いから素直に引いてくれると助かる」
「馬鹿を言うな!そいつは大型とはいえルーキーだ」
「俺達は国が認めた実力ある冒険者だ!大人しく引くわけないだろ!」
冒険者達は馬を降り、交戦体勢に入る。
「そうか……ならばとことんやり合おうか。言っておくが俺を倒しても魔王の加護を受けた彼の方が遥かに強いぞ?」
鬼人はショウウオ族を指して言った。
「という訳でお前はお役御免だ、楽しめはしなかったが暇つぶしにはなったよ」
鬼人はそう言うとシュンの首を剣で跳ねた。
それを見た冒険者達は絶句する。
「さあまずは誰だ?」
シュンの首を持ち冒険者に近づく鬼人、その異様な光景に冒険者達の戦意はすっかり失われていた。
「ひっ……」
「も、もう守る村はないなら俺達の仕事は無いのかな……」
そんな事を言いながら馬に戻る冒険者達、中には既に逃げ出している者も居た。
「なんだ、引き上げるのか。だったらこれも持っていけ!」
鬼人はシュンの首を冒険者の一人に向かって投げた。
「ひゃぁ勘弁してくれ!」
急いで逃げる冒険者の馬に、シュンの首が上手い具合に引っかかり、冒険者はそのまま走り去ってしまった。
「おお、本当に持って行ってしまった。どうだ?これでしばらくは中途半端な戦力は来まい」
「もし次にここに来るなら大軍勢だろね、そして軍は今ワドファーに付きっきりのはずだからこの場は安全かな。ひとまず俺達の勝ちだ」
二人は戦いを終え、数人のショウウオ族を連れ魔女の元に戻る。
「なんとか終わったよ」
「お疲れさま、どうなったの?」
畑の中で、ショウウオ族の治療をしながら出迎えた魔女は、ルインから戦いが終わった経緯を聞いた。
「……それならやっぱりそのまま村に住むのは危険ね。もし本当に人間達が大戦力で来たら今度こそ彼等は滅びる事になる」
「むぅ、やはり俺の策は強引だったか?」
鬼人は申し訳なさそうに聞くが、その場に居た全員は気にした様子はなかった。
「いいえ、人間を村から追い出した時点で結果は同じだったはずよ。むしろ早く終わってラッキーかもね」
「俺達だけじゃもっと時間かかっただろうしね」
「俺達ここの人間倒したら少し北上するつもりだった、必要だったのは人間が追ってこない事ともともと俺達の物だった物資。土地は魔王さまが人間を倒したらいずれ手に入る」
「各員そう言ってくれると助かる」
その日は皆戦いの疲れを癒し、翌日集落から戦えず置いてきたショウウオ族とルインの黒馬を連れてくる。
それから、村から物資を運び出しルイン達三人もそれを手伝った。
ショウウオ族は、奪われた物やこれから必要そうな物を片っ端から荷車に詰め込んでいき、かなりの大荷物になった。そして――。
「この畑広いわよねぇ……」
ルイン達三人とショウウオ族は広大な畑の前で茫然とする。
時期ではない為、収穫出来る物は全体で三分の一程度。しかし、それでもここは人間の国の食料事情を担う為の畑、残る作物は膨大な量になる。
「俺達食料こんなに要らない」
「俺も馬には乗らないしこれ以上必要ないな」
「同じくだ」
「何より加工前だしね……でもこれがあると食料を取り返しに人間達が来るかもしれない」
「人間達にこの食料を渡すのも面白くないね」
「勿体ないけど燃やしちゃましょうか。ここに何もなければ人間達が近寄る理由にならないし」
一同は魔女の案に賛成する。
それからはそれぞれ広大な畑に火を入れて行く。
ついでに誰も住み着かないように村の家屋も燃やし、ルイン達三人とショウウオ族の作業は完了した。
「さて、殆ど燃やしたし作業は完了かな」
村の真ん中に集まった一同は作業の完了を確認し、出立の支度を整えた。
「魔王さま達、今回はありがとう」
「だから魔王は止めてって……俺達も道に迷ってた所を助けて貰ったからお互い様だよ。それじゃあ元気で、なるべく人間に見つからない様に」
「魔王さまも人間の討伐を頑張って」
「それはどうなるのかな……」
ショウウオ族と別れその場はルイン、魔女、鬼人の三人だけになった。
「キドウはこれからどうするの?」
「むぅ、それなんだが迷っていてな……スタナも死んでいると言うし墓もあるかどうかわからない。この剣はしかるべき場所に返そうと思ったが形見として送って来た物なら俺が持っておくのが良いのか……君達はどうするんだ?」
鬼人はルイン達に聞き返す。
「俺達はここから南下するんだ。東の都を目指してる」
「南下……そうか、船着き場があるし俺も君達に着いてく事にしよう」
その言葉にルインと魔女は顔を見合わせた。
「迷惑か?」
「いや、剣の腕もあるし心強いよ」
ルインと鬼人は握手を交わし三人は出立した。
所変わって、王都のとある飲食店ではかなりの賑わいで溢れていた。
「はいお待ちよ、冒険者風プレートだ」
出てきた料理は、肉を丸ごと焼いてタレをかけ鉄板の上に置かれただけの武骨な料理、それを出した人間も髭面でむさ苦しい金髪の筋骨隆々な大男だった。
「いやー、作ってる奴も料理もむさ苦しい見た目に反して、味は妙に繊細で奥深いのは謎だよなぁ」
「ボリュームあるのに全然飽きないから何度でも通っちゃうよ」
「おい!見た目の話は余計じゃないのか!」
「オーナーも面白いしな」
「あぁ?」
客とオーナーのやり取りで店中がドッと沸き、料理は客達からは大絶賛される。店は非常に繁盛していた。
しかしそんな中、店の扉が乱暴に開けられ一人の若者が息を切らし入ってくる。慌ただしい若者にオーナーは注意しようと近づいた。
「おいおいここは食事を取る所だ、そんなに乱暴に入ってきたら埃が……」
しかしオーナーは若者が青い顔をして懐に何かを持って居るのに気づく。
「それは……」
「ご……ごめんジュノーさん、俺にはこいつを持ってくる事しかできなかった……!」
店のオーナーのジュノーは、若者が持っていた物を確認すると大声で吠え、若者を壁に押し付けながら問い詰める。
「うおおおおおおお!お前ぇ!何があった!全部話せ!」
木製の壁はミシミシと音を立て、今にも割れそうな程に若者が押し付けられる。
しかし若者は泣きべそをかきながらなかなか話そうとはせず、それに苛立ったジュノーはさらに問い詰める。
突然の事に唖然と見ていた周りも、その異常な行動を見かねて声を掛ける。
「おいおいオーナー、そんなにしちゃ話すもの話せないだろ。少し落ち着いて……」
「うるせぇ!部外者は黙ってろ!今日はもう店仕舞いだから関係ない奴は出ていけ!」
ジュノーは声を掛けて来た客を追い払い、店の客全体に聞こえる様に叫ぶ。
客達は横柄な態度のジュノーに文句を言おうと近づくと、若者が懐に持っていた物を落としてしまい店の真ん中に転がって行った。
転がった物を見た客達は驚き、泣き叫ぶ者も出て、店には悲鳴が響く。
客達が見た物はジュノーの息子、シュンの切断された首だった。
首を見た客達はまだ食べていた途中の者も含め、逃げ出すように店の中から次々と出て行く。
「おい!いつまで泣いてるんだ!早く話せ!」
ジュノーは問い詰め続け若者はやっと口を開く。
「俺達は……村を助けに行ったんだ……魔王が出たって……」
「今都を荒らし回ってる魔王にやられたのか!」
「いや……仲間の……角のある亜人に。俺達が着いた時には、ボロボロで……弄ぶ様に俺達の目の前で首を……」
「クソォォォォォ魔王軍!ぶっ殺してやる!」
ジュノーは壁を思い切り殴りつける、すると壁には大きな穴が開いた。
「ひぃぃぃ……」
若者はそれを間近で見て漏らしてしまう。
「待ってろよ角の亜人、てめえの首を俺の槌でぐちゃぐちゃに潰してやる!」




