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絶滅記  作者: banbe
58/95

鬼1

 ***



 とある村で三度笠を深めに被った二メートル近くはある大男が訪れる。


「はぁ、やっと誰か居る村にたどり着いた」


 その男の風貌は、人間の国やワドファーなどでは見ない意匠で、腰に一本反った剣と背中に布で包まれた長い荷物を持っていた。

 男は村の中を歩き、農作業をしていた村人の老人に尋ねる。


「すまん、ここは大陸のどの辺かわかるかい?」

「大陸?あんた海の向こうから来たのかい?」


 村人は大柄の男を見上げながら聞き返す。


「ちょっと用があってね。久々に来たんだが迷ってしまった」

「ふーん……ここは国からみて北東の村だよ。国の食料庫と呼ばれる村の内の一つさ」


 村人は訝しみながらも男に教えた。


「げっ北か、方角を間違えたな……」


 男は手で顔を抑えながら項垂れる。


「……あんた方向音痴かい」

「そういう訳ではないんだが……しかし参ったな」

「用は済んだか、んじゃ儂は仕事があるんでな」


 男は村人が鍬を担いでいるのに気づく。


「食料庫……農業か。だったら俺に手伝わせてくれ」

「はぁ?何をいきなり……」


 村人はますます男を怪しんだ。


「大丈夫、俺も土いじりの経験はある。その代わり食料を少し恵んでくれないか?南に用があったんだが食料が心もとないんだ」

「ははーん、なるほど、お前さん方角を間違えたから食料が足りなくなったんだな」

「う゛っ……」


 村人の言った事は当たりの様で、男は渋い顔をする。


「……まあそういう事なら少しばかり手伝って貰おうかね。こっちだ、付いてきな」


 男は村人に着いて行くと広大な麦畑に到着する。


「ほお……デカいな」


 男の目の前には一面、金色の麦畑が広がっていた。

 村人は仕事仲間であろう他の村人達の元へ行き、男の事情を話す。すると、村人達は男を快く迎え入れた。


「なるほど海の向こうから遥々とな」

「経験者って事なら歓迎するよ」

「そう言えばお前さん名前はまだ聞いていなかったな、なんて呼べばいい?」


 男を連れて来た村人が聞く。


「俺の名はキドウ、よろしく頼む」


 そうして男は村人に混ざり、農作業を手伝う事になった。

 本人が言っていた通り、男は土いじりの経験があったようで、農作業は村人の想定よりも早く進んだ。

 何より村人達は男の怪力に驚いた。鍬を振れば素早く、物を持てば村人の倍は持つ、その上スタミナもありどんな作業をしても男は疲れる事がなかった。作業が終わる頃には村人達も男を頼りにしていた。

 日が落ち作業が終わる頃、男は村人に聞く。


「今日一日でどれくらいの食料を貰える?」

「かなり捗ったからなぁ、一週間分は持って行っても良いぞ」

「一週間か、それだけあるなら別の場所まで持つだろう」


 男は何の気なしに呟くが村人は渋い顔をした。


「一週間分は足りないかもな」

「なぜだ?都もあるんだろう?」

「ここから南方に行くんだろ?それだとあまり村もなくてな、お前さんが来た船着き場には長期保存できるような食料が売ってない。南に行くなら食料の調達は当分出来ないと思った方が良い、都もお前さんが入れるとは思えんしな」

「船着き場は確かに大きくはなかったが……都はちょっと食料を調達する為でも入れないのか?」

「あそこは技術がある者と重症患者しか入れてくれんよ。それよりもう二、三日手伝ってくれるなら旅に必要な分好きなだけ食料を持ってってもいいぞ。勿論ここにいる間は面倒見ちゃる」

「ふーむ、ならばその言葉に甘えるとするか」


 男は村人の提案を飲み、村人が所有していた小屋に泊まる事になった。


「狭くて悪いんだが中にある物は好きに使ってくれていい。これ晩飯な」


 そう言って男は村人から食料を手渡されると小屋に入る。

 中にはぽつんと小さな椅子と机があり、壁際には農具が掛けられている。その下には収穫した作物や藁が置かれていた。


「作業場という所か。まあ屋根があるだけマシだろう」


 男は村人の言う通り、置いてあった藁や布を好きに使い寝床を作ると机で夕食を取って休んだ。



 翌日、男は農作業の休憩中、村人達から害獣の話を聞く。


「大丈夫なのかそれ」

「結構被害も出てるし何より村人も襲われる」

「大事じゃないか」

「だが魔王の動きも活発化してるという噂もあるし、そのせいか国に言ってもなかなか兵を寄越してくれなくてな」

「この大陸には魔王が居るのか……だったら害獣は俺が見てこようか?」

「うむ……あんたなら力も強いし、もしかしたら仕留めてくれるかもな」


 そして、作業終わりに、男は村人数人と害獣の被害に遭った場所に向かい、被害状況を確かめに行く。


「ここだ、柵が壊されているだろう?」


 村人の言う通り、畑を囲っている柵はかなり広いにもかかわらず、東側の柵が全て壊されていた。


「かなりの規模だが……誰にも気付かれずこれをやったのか?」


 男は壊された柵の跡に近づき観察していたが、畑の先に何かの影を見る。


「何者だ!」


 男の声に驚いたのか影は素早く去ってしまう。

 そして、その声に気が付いた村人達が集まってくる。


「どうした?」

「あそこに影が、もう畑で農作業してる人は居ないんだよな?」


 男は村より東側を指しながら村人に尋ねる。


「そのはずだ、姿は見たか?」

「小さい影しか見えなかったが……向こうに行ってしまった」

「害獣は人の腰の丈しかないんだ、あっちは海側。害獣で間違いないだろう」


 男は村人数人と一緒に害獣の足跡を追って村の外に出る。

 しばらく害獣の跡を追っていたが、害獣の痕跡は複数発見され、明らかに統制のとれている痕跡に男は疑問を覚える。

 そして、ついに男と村人達は害獣の影に追い着き、その姿を目撃する。


「亜人?」


 害獣と呼ばれていた亜人の姿は、背が人間達の腰程度しかなく、二本の足とは別に尻から魚の尾ヒレのようなものが生えていた。

 村人が言っていた害獣とは亜人の事だった。


「奴等は村の人間を何人も殺してる!油断するな!」


 村人の声と同時に、後を付けられていると分かった亜人の一人が、鎌のような刃物を持って男に襲い掛かる。

 だが男はそれより早く腰の剣を抜き、亜人の襲撃を止めた。


「何が目的か知らんが大人しくお縄につけ!」

「おい兄さん、何を甘い事言ってるんだ!早くそいつを叩き切ってくれ!」

「そんな事情も聴かずいきなりは……」

「避けて!」


 男は躊躇ってると、掛け声と共に亜人の後方から火球が飛んできた。

 掛け声に反応して亜人はすぐに男から距離を取る。直後、火球は男に命中した。


「ぐっ!」


 火球は男に直撃したが、傷ひとつなく再び剣を構える。

 襲い掛かった亜人達の後方、火球を放った主が声を上げる。


「ルイン!こっちよ!」


 火球を放った主の後ろから、追っていた亜人と同じ姿の亜人が更に複数向かってきて、その中に声と同じ人型の亜人が一人混じっていた。


「仲間か」


 襲い掛かってきた亜人は、向かって来た人型の亜人の元へ向い頭を下げる。


「魔王さま……ゴメン、俺達しくじった……」

「だから魔王は止めてって……」

「魔王?あれが?」


 そして魔王の名を聞いた村人達は動揺し怯え始める。


「魔王だって?何故こんな所に……確かに噂に聞く容姿と一致しているが……」

「魔王だろうが村が迷惑してるなら止めさせなければ」


 そう行って男は集合した亜人達の前に出る。


「その亜人達は魔王の手下という訳か?村人が迷惑してる、大人しくお縄につけ」

「……君は?」

「俺はキドウ、この村に世話になった者だ。恩人が困ってるのを見過過ごす訳にはいかない」

「そうか、俺も似たような理由だよ。この亜人達が困っているから力になっている」

「なる程、お互いに引けない訳か」


 男は剣を構えながら魔王と向かい合う。

 しかし、目の前の魔王は威厳や気迫、それどころか戦う素振りも見せず男は困惑する。


(なんだ?隙だらけだ……罠か?)


 村人や亜人達が見守る中、男はついに魔王に斬りかかる。

 だが、魔王は変わらず、戦う素振りも見せず男はそのまま剣を振る。


「ちぇい!」

「……」


 男の剣が魔王の頭に触れようとした瞬間、突風が吹き辺りに金属音が鳴り響く。


「!?」


 縦に振り下ろされた剣の刃は魔王には当たらず、髪を撫でるだけだった。


「俺は今、攻撃されたのか?」


 剣を振り下ろしたままの体勢で男はつぶやく。

 周囲で見ていた村人達や、亜人達も目の前で何が起こったのか分からず固まってしまう。

 魔王は傷ひとつ負わずに立っており、剣を振り下ろした男が被っていた三度笠が縦に切断され落ちた。


「これは……いや、それ以前にお前……」


 村人達が男を驚愕した目で見る。

 三度笠の無くなった男の頭には、二本の角と尖った耳があり村人はその姿を目撃する。


「亜人?」


 魔王がつぶやき周囲の騒めき出すが、村人達の方の動揺が大きかった。


「お前……亜人だったのか……」

「そうだが?しかし今の攻撃は一体……」


 男は村人達の動揺をよそに再び剣を構えた。だが、魔王は角があらわになった男に尋ねる。


「何故亜人の君が人間に協力を?」

「この国では亜人が人間に協力してはいけないのか?」

「……そうか、でも君は良くても人間達はどうかな?」


 魔王の言葉につられ男は村人達の方を見る、すると村人達の男を見る目が先程と違い冷ややかな物になっているのに気づく。


「なんだ?」

「おい亜人!早くそいつを倒すなり追っ払うなりしろ!」

「なっ、なんだって……?」


 村人達の豹変ぶりに驚く男、だがそれでも再び剣を構え魔王に向き合う。


「あんな言い方をされたのにまだやるんだ」

「恩を受けたのは事実だからな……」


 男と魔王の間に再び静寂が訪れる。

 魔王は先程と同じく構える様子はなく、真正面から男と向き合う。


「さっきと同じで多分君の剣は俺には届かないよ。怪我をする前に止めておいた方が良い」

「……」


 男は魔王の言葉には反応せず集中する。だが、やはり魔王は隙だらけで戦う素振りは見せなかった。


(さっきのは奴の特殊な力か……だが俺にできる事はこの剣を振る事のみ!)

「はぁ!」


 男は先程よりも深く踏み込み速度も上がる、それと同時にまたしても風が強くなる。

 だが、得体のしれない魔王に身体は向かう事を拒み、ついに剣は空を切る。


「はぁはぁ……何なんだお前は……」


 男は剣を振り下ろした後、違和感に気づき自分の身体を見てると、いつの間にか胸に浅い傷があり驚愕する。


「い、いつの間に……鎌鼬?だがこんな偶然……!」


 狼狽える男を見て魔王は声をかける。


「どうする?まだやる?」

「……ダメだ俺がお前に勝てる未来が見えない……降参する……」


 男は剣を腰にしまうと、悔しそうに目を瞑る。


「な……おい亜人!何を勝手に降参してるんだ!」


 村人の一人が罵声と共に男に石を投げた。

 その罵声と石と男は甘んじて受けようとするが、その間に魔王が入る。


「この男は我々に降参したが……お前達はどうする?」

「ひっ……」


 村人達は魔王の標的が次は自分達だと理解し、その場から逃げ出そうとする。だが、既に魚の尾ヒレがついた亜人達に囲まれていた。


「く……来るなぁ!」


 村人は抵抗しようとするが、亜人の数の方が圧倒的に多く、徐々に囲いは狭められていった。


「待ってくれ!」


 突然男が声を上げ場にいる全員が男に注目する。


「降参した身で身勝手なのは重々承知だ、だが、俺の命一つで彼等を見逃してくれないか?俺は何をされてもいい、頼む……」


 男は剣を地面に置き魔王に深く頭を下げた。


「君の命に興味はないけど……でも、今回は特別に見逃そう。みんな」


 魔王の号令で尾ヒレがついた亜人達は村人を解放する。


「くそ!亜人共め覚えてろ!」


 そう捨て台詞を吐いて村人達は一目散に逃げだした。


「ルインいいの?」

「皆には悪いけど彼に興味があるんだ」


 周りの亜人達は不満そうに魔王に抗議しており、魔王は申し訳なさそうに亜人達を諫めていた。

 男は魔王と亜人達の関係に疑問を覚える

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