北の山8
その日の夜、ルインと魔女は森で客として扱われ、それぞれ、エルフから学術を教える為の一室を与えられる。
部屋でゆっくり休んでいたルインの元にエルフが訪ねて来た。
「どうだ、我が城は」
「部屋が広すぎて少し落ち着かないよ。でも、ここから北の都が見えるんだね」
「人間の国で何かあればすぐ分かるようになっている。あの巨大な竜巻が都に出現した時はかなり驚いたよ」
「それは俺もだ……それで用件は?」
「協力するにあたって、私は直接ワドファーに向かおうと思ってね。その許可と、出来れば先方に話を付けてくれると助かる」
「……協力を頼んだのはこっちだからそれは構わないけど……この森は空けて良いの?」
「今の人間の敵は、魔王が治めるワドファー軍だ。こんなに戦力を減らされた今、他の亜人を相手にしている余裕はないだろう。では邪魔したな」
「待って」
エルフは用件を終え部屋から出て行こうとするが、ルインは呼び止める。
「なにか?」
振り向かずエルフは答えた。
「なぜ協力を渋ってたの?」
「……私は君の力を見くびっていたんだ。まさか真正面から戦ってディムに勝つとは」
エルフはそう言って、部屋にあった椅子に座り語り始める。
「なら本当は協力する気はなかったんだ?」
「そうだな、朝も言った通りディムが兄弟である俺と、国との間でどう動くかを見る為に君を送った。だが結果的に君はディムを倒してしまい、この森にはもう後ろ盾がなくなった。故に君達に協力せざるを得なくなった」
「……家族の死のきっかけを作った俺を恨まないの?」
「君はあくまで自分がやったと言わないんだな」
「俺は自分が天災までも操れるだなんて思っちゃいないさ」
「不毛の森の戦いが起こる前、俺達兄弟は一度話し合っていた。そして、戦力差からオノの伝手で君が来るのは分かっていて、その頃から覚悟はしてた。まあ、心残りは、とどめを刺す役を君に取られた事かな」
「じゃあ俺、というかワドファーに協力することに遺恨は無いんだね?」
「なんだ、魔王ともあろう者がずいぶん気にするじゃないか」
「当たり前だ、これから更にワドファーを離れるんだ。わだかまりがある状態はトラブルの元になる」
「へぇ、君のその慎重な所は好感を持てる。では次の行動は決まったのか」
「ああ俺はこれから東に向かう」
翌日、ルインは東へ向かう事を関係者に伝えた。
「このままワドファーには戻らない訳ね」
『分かりました。先生の来訪も含め、国の者には俺が伝えておきます』
その事は、魔女の通信機を介しワドファーにも伝わった。
「不毛の森はまだ人間の兵が居るだろうから通れない。大きく迂回して遠回りする為、私は今日にでも出立する。だが、君達はゆっくり休んでから発っても構わない」
「随分急だね」
「君のように優秀な馬を持ってる訳じゃないのでね」
「なら俺も今日出ようかなぁ……」
ルインはエルフの出立に合わせ、東に向かう事にした。
出立の準備が完了し、日が真上に昇った頃各々は北の森を出る。
そして、ルインと魔女、エルフと護衛の為の少数の獣人は、西と東の分かれ道まで来る。
「その道をまっすぐ行けば……まあそのうち東の都には着くだろう」
「大ざっぱだなぁ、ワドファーの皆によろしく」
「ああ、ではさらば」
エルフと護衛は馬で道を駆けて行った。そして残される二人。
「チウィーさんは戻らなくてよかったの?」
「ワドファーに戻っても戦力として軍に組み込まれるかもしれないし、しばらくはあなたと旅を続けるわ。それに、私が居なかったら魔力通信にも制限ができるでしょ?」
「そうだね、一緒に居てくれると心強いよ」
こうしてルインと魔女も東を目指し歩き出した。




