北の山7
北の森の村へエルフ達と戻ったルインと魔女は、さっそくワドファーに北の都の壊滅と、エルフの協力を得られたことを魔力通信機で伝える。すると、そのまま通信機越しに簡易的な会議が開かれた。
「協力することになったノウド・リーグだ。さっそくだがワドファーの現状の戦力を教えて貰おう」
通信には軍師が応じた。
『先生お久しぶりです。早速、今の我が軍の戦力ですが……』
ワドファー軍の戦力を伝えられたエルフは、渋い顔をし少しの間考え込む。
「……不毛の森と西の都への道で相当無茶をしたようだな」
「これでもかなり頑張った方なんだけどね」
あまりに不利な状況を聞きエルフはルインを見ながら言うが、ルインは頬を掻きながら返す。
前の戦いでワドファーが勝利を収めたとは言え、消耗は激しく既にワドファー軍は兵に余裕が無い状態だった。
「余裕も無く、なんとか回せている状態か。だが、これ以上戦場を広げると追いつかなくなるな。平時ならこれでもいいが……戦っている最中、これではもう増援は出せまい」
『元々人間の国の方が大きく数も上、俺にはこれが限界でした』
「これだけの戦力差なら仕方なかろう。そうだな……北の軍も動けなくなっただろうから守りを固めよう。まずは――」
そこから軍師とエルフの専門的な話が始まり、ルインと魔女は横で聞いているしかなかった。
「――そうして、これから守りに専念すれば人的被害は少なくなるだろう」
『ですが攻撃は……』
「この規模で人間側に攻撃を仕掛けるのは無理だ。都を落としているとはいえ、まだ戦力差は倍以上ある。その上、王都の兵は質も高い事は知っているだろう」
『それでは戦いが終わりません。兵達も終わらない戦いに身を投じるとなると士気は高くないでしょう』
「そこで魔王の出番だ」
突然自分の事を言われたルインは驚く。
「正直彼の力は扱いづらく、戦場で戦うには不向きだ。不毛の森でお前もそれは感じただろう」
『それは……』
軍師はその言葉に反論できずにいた。事実、不毛の森で指揮を執った軍師自身も、最終的にはルインを少数で別行動させていた。
反論をしない軍師にルインは落ち込む。
「故に、魔王には少数精鋭で人間の戦力を潰して貰う。南、西、北と領主は死んだが、兵の数はそれなりに残っている、その原因は技術の塊である東の都があるからだ」
東の都は、その名の通り人間の国の東に面しており、他の都とは比較にならない程、あらゆる技術・医術が発達しており、人間の国の技術はほぼこの都の成果と言っても過言ではない。
国で一番最初に都として成立し、今尚最先端を行く理由は、都が海に面していて他の大陸からの技術が流れてくるからであった。
戦場では死者よりも負傷者の方が多い。東の都はその高い医術で早急に負傷兵を前線に戻していた。
「東には高水準の医療がある。これでは、いつまで戦っても戦力の差は縮まらない。だからと言って常に戦場に魔王を出せば彼の負担が大きすぎる」
さらに、エルフはルインの力の戦場での問題点も挙げた。それは、ルインだけでは軍隊の数を減らすには限界があるという事だった。
「確かに攻撃を返すから突破力はある。だが、それだけだ。今は冒険者達が積極的に魔王の打倒を狙っているが、ここまで打撃を受けた人間が、これからも同じように無理して魔王を倒そうと思うか?兵士や軍は既に魔王を無視し始めている」
既に、ルインの力は研究され、変装しなければ戦場では役に立たなくなりつつある事をエルフは問題視する。
「ディムワズは君との勝負が成立したからあんな結果になった。だが、逆に言えば真っ向から相手をしなければ、あれ程の損害を与えるのは難しい。その北だって兵はまだいる」
「そこまで言うなら俺にどんな攻撃をしろと?」
「簡単さ、ワドファーが強固に守っている間、人間の国に妨害工作するんだ」
「妨害?」
「そう、先程言った東の都は技術と医療の中心地。ここを麻痺させれば人間の兵も装備にもかなりの損害を与えられる。誰かを傷つける攻撃ではないから君も自由に動けるはずだ。そして、君を止めようとする者がいれば君自体が、敵にとって最大の地雷になる」
「なかなかえげつない事を考えるわね。つまりルインにはこのまま東に行けと?」
話を聞いていた魔女はエルフに尋ねた。
「その通り。東の都の領主……勇者のパーティはヒーラーだ。攻撃力は持っていない。他の都と違い戦う事自体が難しいだろう。だが妨害ならやりようはある」
「そうか、俺は誰かを傷つけようとすれば身体が動かなくなる。でも、相手が人間じゃなかったら……」
「そう、工作なら別だろう。その力があれば妨害工作は確実に成功する。これはワドファーにとって強力な武器になる。時間はかかるがこれがワドファーを守りつつ人間の国と渡り合う方法だ」
「……」
「ちょっと待って、ルインがワドファーを離れたら勇者が動くんじゃないの?」
「ふっ、勇者とは勇気ある者という意味、彼は戦争などに加担しない。今まで戦場に出た例はないしな。まして最初から数で勝てる国など尚更相手にしない。それに人間の王亡き今、勇者を動かせる者などほとんど居ない。もし彼が動くなら魔王、君が理由だろう」
エルフはルインを指しながら答える。
「俺が理由?」
「そうだ、だから勇者に注意するなら、ワドファーではなく君の行く先だ」
「え、じゃあ東に行くとしたらそこに現れるって事?」
「可能性の話さ。ともかく、私の助言はこんな所だ。ここからどう動くかは君次第」
判断は現ワドファーの王であるルインに託された。




