表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶滅記  作者: banbe
54/95

北の山5

 先を歩き階段を下るディムワズは、ルイン達に話を振る。


「先に言った祭りでは、この宮殿も一部開放していてね」


 脈絡のない会話にルイン達は返事に困る。


「さすがに民はこんな奥にまでは来ないが、本来なら私も領主として顔を出していた所なんだ」

「それは何というか……タイミングが悪くて済まない?」

「はぁ何を謝ってるのよ……」


 そんなチグハグな会話をしていると、大きな扉の前に着く。


「ここだ。決闘ならやはり広くて頑丈な場所が良いと思ってね」


 ディムワズが扉を開くと、ルインと魔女の前に無機質な空間が広がった。

 中は石造りの壁に囲まれ、天井は高く、窓は一つもない。光源は壁に掛けられた複数の松明のみで、部屋全体が薄暗く空気は重く冷たい室内だった。

 床もまた石張りで、家具など一切なく、音が反響する程の広さがあった。


「ここは一体何の為の部屋なんだ……」


 ルインが周囲を見渡しながら尋ねると、ディムワズは笑みも浮かべずに答えた。


「決闘の為に用意した部屋だ。絶対に外部に影響を及ぼさない特別な作りでな、石も音を吸う特殊な材で造られている。外から見えず、音も漏れない、つまり逃げ場も助けも来ない。さあ奥へ」


 ディムワズは奥へ行くよう促す。


「確かに、事故は起きにくいだろうね」


 ルインは部屋の奥に向かい魔女も続こうとするが、ディムワズはとっさに止める。


「おっとあなたはここで大人しくしてもらおう。あなたは見ているだけ、戦いに参加する事も出来なければ巻き込みもさせない」


 ディムワズは魔女に忠告した。その時、部屋の中央が大きな音を上げて崩れ出す。


「何!?」


 天井の崩壊が収まり魔女とディムワズは周囲を確認する、するとルインの周りは透明な壁に囲われていた。


「これは……上の階の水槽だな」


 ディムワズは冷静に説明する。

 水槽はルインの上に落ちたが、底は無く直接床に打ち付けてある物だった為、ルインに怪我は無かった。だが水槽は大きく中から脱出するのは不可能だった。


「なんであんなものが落ちてくるのよ!」

「言っただろう、今日は水の祭りだと。あれはその為の水槽だ。祭りの参加者は水をお互いにかけあい水遊びを楽しむ。都の至る所が水遊びの会場になりこの宮殿も例外ではない。しかしただ水をかけあって無駄にするのは惜しい為、至る所に水を貯める水槽が設置されていたんだ。水槽があった上の階は床の耐久性に問題が見つかって工事の検討をしていた……だがタイミングが悪く崩れたのだな」


 ルインが入っている水槽横には、崩れた瓦礫に数人の潰れた人間がいた。


「点検してた者が巻き込まれたか……」


 ディムワズはそう言うが、潰された者達は風貌は明らかに大工や業者の物ではなく、まるで囚人のような恰好をしていた。

 魔女は水槽を見ると不純物が入らないよう網目上の蓋がされており上の階から崩れた天井を通して水がどんどん水槽の中に溜まっていった。


「これも指示でしょう?でもあなたは無事なのはどういう事?」

「私は直接こうしろとは命じていないからだろうな。想定はしていたが……事故では彼の力は発揮しないようだ」

「じゃあこれがあなたの言う決闘って事?」

「明言すると思うか?……この水槽は過去に一度壊れた事があって、大きい事故が起こった。それ以来、魔法による強化と結界が施されている為、あの水槽を壊す事は非常に困難だ」


 水槽の中のルインも、これがディムワズの策だと気付く。だが丈夫な水槽にルインはどうする事も出来なかった。


「という事はこの水の祭りも、夜が明けるまで終わらないんでしょうね」

「そうだ毎年同じだからな」

「でもこの都の領主はあなたよ、ここから出て祭りを止められるあなたがここに残り続ければ、ルインの力の矛先はあなたに返るのではなくて?」

「ならば魔女よ、その扉を開けられるか?」

「なんですって」


 魔女は鉄の扉に近づき押しながら力を込める。だが扉は固く閉ざされビクともしない。


「崩落で扉が歪んだかな?我々も閉じ込められ外にこの事を伝えるのは不可能だ。使用人にも先程、祭りに参加するよう言っておりこの宮殿には居ない、祭りを止められる者は存在しない」

「あくまでも事故でルインを殺そうという事ね」

「……さあ魔王ルイン、その水を流し込むのは君がそこにいる事も知らない罪なき人々。しかも一人一人の行動は確実に死に直結しない。君の力はこの事故の原因をどこに返す?」


 ルインは自らの意思では力は発動できず、水槽の中でただ水が流れてくるのを待つしかなかった。そして、水位はどんどんと上がり、ルインの腰辺りまで到達していく。

 状況はあくまで事故である事を徹底していた。


「私達はもう見守る事しか出来ない」


 ディムワズはルインの居る水槽を観察しながらつぶやく。その隣で魔女はこの計画のどこかに穴がないか必死で考える。


「そうだ、私が飛んで上の階から脱出して祭りを止めればいいのよ、どうかしら?」


 魔女は閃いたように提案する。


「やってみるといい」


 ディムワズは想定していたかのように魔女に答え、それを聞いた魔女はすぐ行動を起こした。

 杖を浮かせ腰かけた魔女はそのまま穴の開いた上階に上って行く、そして扉を開けようとしたのか叩く音が上階から聞こえた後、さらに爆音が響いた。

 それから少しの間があり魔女は杖に乗って上階から降りてくる。


「上の扉も崩落の影響で歪んだみたいね……」

「魔法を放つとは……もし君が出られたとして、この国の祭りが亜人の君に止められるとでも?」

「騒ぎを起こせば中止にはできるでしょ?でもダメそうね。だったら水の出入り口を!フリーズ!」


 次に魔女は水が流れてくる放出口を凍らせる。しかし大量の水が吐き出されている放出口は凍りきる前に水圧に押し負けてしまう。


「魔法の威力が弱いわ!どうなってるの!?」

「この宮殿全体に魔法を弱める結界が張られている」

「なんですって!」

「魔法を使う敵を想定した護身用さ、私は剣も魔法も他の仲間より強くは無いからな。この結界だって十年前から張っている」

「ここまで魔法が弱まるなら私の力じゃどうにもならない……ルイン!」


 魔女は諦めの意思を見せ、ルインの水槽の前に戻ってくる。


「チウィーさん、これがリーグの言ってた俺の力を見る事だと思う。それに最初に言った通りどこまでできるのか見定めたい。決して自分から死にたいと思ってる訳じゃないから大丈夫」


 ルインは水槽の壁に寄り、魔女達に声が聞こえる様大声で言った。


「分かったわ、もう大人しくしてる」


 そしてさらに時間は経過していく。


「いよいよ水がいっぱいになりそうだ」


 水槽の中の水位はかなり上がり、ルインは既に足がつかない状態だった。


「ここからだ、何が起きるのか見せてくれ」


 ディムワズは実験を見守るように水槽を観察する。水位はさらに上がり、水がルインの顔まで来ていた。

 するといきなりディムワズは水槽に魔法で攻撃を始め、突然の行動に魔女は驚く。


「いきなり何を!」

「これはあくまで事故だからな、普通事故を目の前にすると助ける物だろう?君もやりたければ攻撃するといい」

「……だったらやらせてもらうわ」


 ディムワズの言葉で魔女も攻撃を始める、だが水槽はビクともせず水はついにルインの呼吸が出来るギリギリまで溜まってしまう。


「チウィーさん!俺はこの力を信じてる!」


 ルインは大きく息を吸い、心を決めたように水中へと身を沈めた。


「ルイン!硬いわねぇ……この魔法耐性を付けた人間はかなりの腕してるわ!」


 ディムワズと魔女の二人は魔法を放ち続ける。しかしいよいよ限界が来たのかルインは口から空気を吐き出してしまう。


「ルイン!」

「この魔王は極限の事故なら殺せるのか?」


 ディムワズが勝利を確信しかけた次の瞬間、まばゆい光がルインの身体を包み、それが上空へ向かって伸びていく。


「なんだ!?」

「これは西の都で見た……」

「この現象が過去にも?それから何が起こった?」

「力の方向性が変わったとでもいうのかしら、結果マリアは死んだわ」

「なんだと、ならこれも……」


 ディムワズは先ほどよりも激しく魔法を放ち、水槽を壊そうとする。


「やっと本気を見せたわね」

「当然だ民の命が危ないかもしれないんだ!」


 魔女も先程よりも強い魔法を放ち、結界があるにも拘らず、二人の魔法は部屋全体を揺らす程の威力を出す。だが水槽はびくともしなかった。

 すると、後方で鉄の扉を強く叩く音が響き、わずかに隙間ができる。その隙間を広げるように、数人の使用人や兵が力を込めて扉を押し開けていた。


「ディムワズ様!!」


 少しだけ開いた鉄の扉から使用人の声が聞こえて来た。


「休暇を出していたはずの君達がなぜここに!?」


 ディムワズの質問には答えず、使用人は慌てて報告する。


「大変です!都の北東から巨大な竜巻が!もうこの都にかなり迫ってる上に速度も早く、このままだとかなりの被害が……!」

「なんだと?こんな時期に竜巻?いやそれより何故目視できる程近くに来るまで気づかなかった!」

「いきなり現れたんです……しかも今は祭りの最中、多少の天候不良はむしろ喜ばれます、それにディムワズ様の居場所が分からなくて……」

「……ここで議論している暇はないか、緊急避難警報を発令する!住民はなるべく頑丈な建物に逃げる様に都中に伝えろ!」

「ディムワズ様は?」

「私はどの道この部屋から出られない、おそらく元凶である彼を助ければ竜巻も止まるはずだが……君達も早く避難するんだ」

「わ、分かりました」


 使用人達はあわただしく扉から離れて行った。


「これで引けなくなったわね」

「これがこの事故の結果か……竜巻が魔王の力だとしたら本気でこの都を破壊しかねない」

「まったく、大した事故よ!」


 既に水槽には水が溢れる程入っており、中に居るルインはぐったりしていた。

 祭りが止まった影響か注水は止まっており、魔法を放つ二人は宮殿に影響を及ぼす事も気にせず魔法を放ち続ける。


「まさか事故でも結果が返るとは……この戦い私の負けみたいだな。はぁぁ!」


 ディムワズは魔女と並び水槽に魔法を放ちながら言う。


「竜巻なんて自然現象よ?それもルインの力のせいだと言うの?」

「この都の気候は、山が盾になり風が吹き荒れる事はない。しかも水関係の祭りだ。当然、天気は観測している。それが突然こんな事態に……彼を疑わない方が不自然だろう」


 二人の激しい魔法が放たれるが水槽はビクともしない。


「はぁはぁ……魔法じゃキリがないわね、もっと物理的な力の方が効率良いのかもね」

「そういうのはパーティ内でも私の役割ではなかったからな、この細腕で何ができる」


 ディムワズの体格はお世辞にも力がある様な風貌ではなかった。


「それよりもっと魔法の出力を出せないのか?宮殿の事など気にしなくていい!おそらく彼を助けなければ都中が被害に遭う」

「この結界の中どれだけ威力が上がるか……ブラスター!」


 魔女の魔法が水槽に直撃する、だが効果は少し傷がついた程度で水槽自体は壊れる様子がなかった。


「結界に魔法耐性……もう私達の魔法じゃ無理よ!」


 宮殿全体が大きく揺れ出し戸惑う魔女。


「なに!」

「この揺れは宮殿全体が揺れている。これが巨大竜巻の影響だとしたら都は……」


 ディムワズは竜巻の影響を知り顔を青ざめさせた。

 三人の居る部屋は強固な作りの代わりに、窓は一切付いておらず外の様子は確認できなかった。


「どうやらこの決闘の代償はかなりの数の命が必要なようだ……この竜巻が魔王の力によるものなら彼の傍にいれば助かるはず……」


 そう言ってディムワズは魔女を水槽の方へ押し飛ばす。


「っつ、何を!」

「私は勇者のパーティとして魔王の力に真っ向から立ち向かう!」


 宮殿の揺れは激しくなり、魔女は座り込みながら水槽にしがみ付く。


「あ、あぁぁぁ」

「ふん!」


 ディムワズは壁に結界を張る、だがその甲斐なく頑丈さを誇っていた部屋の壁は、いとも簡単に竜巻で吹き飛んでしまった。

 壁が崩れた事で魔女とディムワズは巨大竜巻の大きさを初めて目にする。

 三人が居た部屋は大きい物だったにもかかわらず、一面の壁が吹き飛んでも、風が運ぶ砂や瓦礫で外が全く見えない程の規模だった。


「……これが魔王の力だというのか……彼を生かす為なら環境すらも破壊してしまう……」

「嘘でしょ……これが、ルインの力……?」


 魔女も圧倒的な自然の力の前に、絶望の表情を浮かべた。

 それでも、ディムワズは巨大な竜巻に挑もうとした。


「だからと言って魔王に屈する訳にはいかない!タイフーン!」


 竜巻に対してディムワズは強力な風魔法を使った。


「おおおおおお!」


 しかし結界以前に、あまりにも規模が違いすぎる巨大竜巻に完全に押し返される。


「ル、ルイン……ああああああ!」


 竜巻は魔女の叫びと共に、宮殿を飲み込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ