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絶滅記  作者: banbe
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森の戦闘5

「ルイン!」

「チウィーさん!」


 ルインは変装を解き、馬から降りて魔女達に近寄った。


「来てくれたのね。あなたが来たという事は森の戦闘は上手くいったのね」

「うん、こっちの戦況が分からなかったから、基地も村も突っ切ってきちゃったけど……兵がこれしか居ないという事は……」


 ルインの頭には全滅という文字が横切る、しかし魔女は否定した。


「いえ、多くの兵は既に撤退して無事よ。人間は多くの兵と冒険者を投入して最初から数でごり押ししてきたわ。最初から勝てないと分かっていたから、兵を温存する為に早いうちに引いて私達はその殿だったの」

「まだ兵は居るんだね、でもチウィーさんもこんなに前で戦ってたなんて」

「あの宰相なんでもこっちに回してきて……とんだ貧乏くじよ」


 魔女の不満そうな顔にルインは苦笑いする。


「王様も来たしここの指揮は任せるわ。私は本来こんな前線で戦う気は無かったんだし」

「分かった。俺はこの辺を取り戻さないと」


 ルインは再び馬に跨る。


「ルイン王、我々も連れて行ってください!」


 ワドファーの兵達はルインに同行の許可を求める。


「もちろん、ただし無茶はしないで」


 ルインは馬を方向転換させ出発しようとすると魔女が声を掛ける。


「待って。いくらあなたでも、前の戦場から来てまたすぐに戦うなんて疲れてるはずよ」

「でも、敵が混乱してる今がチャンスだ」


 急いでいたルインは、魔女の制止を聞かず行こうとする。


「あなたが過労で倒れる場合、そのダメージはどこに行くのかしらね」


 魔女の一言にその場にいる全員が固まった。

 ルインはワドファーの為に苦労を背負っているのだから、少なくともワドファーの国民は無関係ではいられない事を全員が直感で理解する。


「でも、拠点は取り戻さないと……何か作戦が?」

「敵を引かせるだけなら真正面から向かう必要ないって事。恐怖の魔王登場を演出しましょう?」

「演出?」

「そう、私の全魔力で……」


 魔女はルインの方に杖を向ける。


「ヒーリンと、フライ!」

「これは……」


 魔女はルインと馬を回復させ、馬ごと宙に浮かばせた。


「魔力も少ないからそんなに長く持たないわ。あなたは今すぐ元の姿で敵の陣地に乗り込んで人間達を驚かせていらっしゃい」

「そういう事か……分かった」

「とにかく、敵を引かせられればこっちの勝ちよ。私は戻りついでに撤退した兵を呼び戻してあげる、兵はどの道追いつけないし数が揃ったら向かわせるわ」

「ありがとう!」


 ルインは馬に跨ったまま、空へと舞い上がり飛び去っていった。

 その姿を見送った魔女は、その場に倒れる様に座り込んでしまい、兵に支えられる。


「あなた達は戦力を維持する為に、増援が来るまで偵察しながらゆっくり前進よ。それと悪いんだけど、何人か支える為に着いて来てちょうだい……」


 魔女は急ぎ戻り、数部隊を増援に向かわせた。

 幸い、殿の魔女達とワドファー軍本隊はそこまで離れておらず、増援を出すのにそこまで時間はかからなかった。



 占拠された村に向かったルインは、人間のど真ん中に降り立つ。

 荒々しい巨大な黒馬に乗り、空から舞い降りてくる光景を目撃した人間達は息を飲んだ。


「空から……馬が!? まさかあれが、魔王……不毛の森に居るはずじゃ……」

「ああ、向こうの人間共があまりにも弱すぎてな。さっさと戦いを終わらせてこちらへ来た」

「なんだって、不毛の森は北の正規軍が居たはずだ……それに距離もあるはずだ」

「俺の力を持ってすればどうという事はない。せっかく取り戻した彼らの村をまた戦場にして……誰から死ぬ?」


 ルインの冷酷な振る舞いを見せる。すると、魔王の力を知る人間は、自らの記憶とその光景を見て早々に逃げ出す。

 しかし、それでも魔王を初めて見た冒険者達が我先に手柄を挙げようと魔王へ挑んでいった。


「奴を倒せば俺達も勇者だ!」


 複数の冒険者はルインを囲む。


「はぁ……俺はお前達なんて倒しても何の得もないのに……」


 ルインは溜息をつきながら馬を降りる。そして、短剣を抜き冒険者へゆっくり近づいて行く。

 そのつぶやきと、余裕そうな態度が癇に障ったのか、冒険者の一人は、ルインに斬りかかる。


「俺の英雄譚の糧になれ!」


 そんな冒険者にルインは手をかざす。振り下ろした剣の刃は折れ、先端が冒険者の首に刺さった。

 その光景は、あたかもルインが何かをしたように見えた。

 当然、仲間がやられれば冒険者達は反撃をする、今度は魔法使いが杖の先に火球を作る。またしてもルインが手をかざすと火球は暴走し魔法使いごと燃やしてしまった。


「どうなってるんだ……あれは何をやってるんだよ!」

「魔力や魔法じゃない、見えない……力? いや、力って呼べるのかこんな……!」


 間近で見ていた他の冒険者は、手をかざすだけで謎の攻撃をする不気味な魔王に狼狽えだす。

 しかし、目の前には、倒せば英雄になれる魔王が居るという事実が冒険者達を狂わせる。


「くそっ、あんなのは数で押せばどうってことない!ここに居る全員でかかれ!」


 一人の冒険者達そう叫ぶと手柄を立てようと周囲の冒険者達は、ルインに向かい攻撃を仕掛ける。しかし結果は同じく、ルインは手をかざすだけで周囲の冒険者は倒れていく。 


「無駄だ、人間がいくら抵抗した所で俺には勝てない……滅びたくなければここから去れ!」


 ルインのハッタリと力を見た冒険者達は、次第に恐れをなし撤退する。

 魔女が向かわせた部隊が村に着いた頃には、人間側に戦意は無く簡単に村を取り返すことに成功する。

 しかし、人間達は村のすぐそばにある基地に立てこもり、ワドファー軍はそれ以上進攻不能となった。

 今のワドファー軍には、都と繋がった人間の基地を落とせる程の兵力は無く、村と人間の基地の間で戦況がこう着してしまう。

 それから数日間、ワドファー兵と最前線で、追い込んだ人間達を見張っていたが、戦闘の連続で疲れ切っていたルインはワドファーに戻る事に決めた。



 ルインが戻った翌日、久しぶりに城の会議に参加する。


「しばらく見張っていたけど人間達は全然出てこなかったよ。偵察には出て来てたみたいだけどね」

「演出、ちょっと効きすぎたかしら。軍師の方の森もこう着状態が続いているみたいだし人間の侵攻は阻止したわね」


 二つの戦場で人間は積極的に仕掛けてくる事は無くなった、しかし、ワドファーも攻めきれる戦力がある訳ではないので、自分達から仕掛ける訳にもいかずにらみ合いの状態が続いていた。


「どっちの戦場にも俺の姿に似せた影武者が居る、それも効いてるのかもね」

「人間の目的は潰せました、とりあえず我らの勝利です。しかし……」


 宰相の勝利の言葉に浮かれる者はいなかった。このままこう着状態が続いても状況が好転しないことは、誰の目にも明らかだ。

 数の少ないワドファーでは、戦場に居る兵に常に負担をかけてしまう。しかし人間側はまだ動いていない軍もあり、兵の補充も時間を掛ければできてしまう。


「戦力差はどうにもならない、こうなったら軍師に聞くしかない」

「そうですね、戦いの流れなら彼に任せるのが一番です。招集しますか?」

「いや森は離れられないだろうから直接ここで聞こう」

「え?」


 数分後、魔力通信機が会議室に運ばれた。


「離れてても会話出来るんだから、こういう場でも使わないと」


 重量や魔鉱石の安全性も考え、通常は持ち出される事などまずないのだが。ルインの意向で、魔女が管理している城の魔術研究部屋から会議室に運ばれる。

 軍師にはあらかじめ次の会話は会議室で行われることになる事を伝え、通信を開始する。


『私もこの状況が続くのは良くないと思っています』

「これからどう動くか、策はある?」

『……何をするにも戦力差がありすぎて……今までは人間の攻撃をかわす事が目的だったので何とかなりましたが、ここからは正直私の力では……』


 会議室に落胆の色が見られた。


『ですが、私が学んだ先生なら何か良い策を与えてくれるかもしれません』

「先生?」

『指揮、戦略など軍事の事はその方から教えて貰ったんです』

「その先生はこの国に居るの?」

『いえ先生は北の山、ワドファーと連なる山脈の麓の森に居ます――』



 人間の国王都、王宮では大臣の糾弾が行われていた。


「あれだけの事言っておきながら、二つの戦場で返り討ちに合うとは」

「やはり大臣ごときには荷が重すぎたのだ」


 大臣は玉座の前に膝を床につかせられ、人間の権力者達に囲まれながら、数人の兵から身包みを剥がされていた。


「ど、どうかもう一度だけチャンスを……今度こそ確実に奴ら亜人を!」


 大臣は懇願する。


「あれだけ偉そうなことを言っておきながら……次などあるはずがない」

「お前のその地位は剥奪、家も私財も没収だ。これは以前、自ら言っていた事だからな」

「そ、そんな……もう一度!もう一度だけチャンスを!」


 床に頭を擦り付けながら土下座する。しかし、権力者達は大臣を無視して部屋を出て行ってしまった。


「ま……負けた?わしは奴等を本気で滅ぼすつもりでやった。そこに一切の侮りや手心はない。それなのに北も西もあの魔王に敗れた?」


 部屋に残された大臣は茫然と宙を見上げる。


「おのれ魔王……おのれ、おのれえええええええ!」


 人間の城には大臣の怨嗟の声が響いた。

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