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絶滅記  作者: banbe
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森の戦闘3

 人間の兵をなんとか森から追い返したものの、ワドファー軍は正面から人間軍を受け止めた代償として、決して軽くはない損失を被った。

 そして殿に残ったルイン達は、初日に森の中に設けた野営地で、作戦を確認していた。


「人間達にここに魔王ルイン様が居るという事は伝わったと思います。ですが肝心なのはここからです」

「俺がここに居るという事が伝わればワドファーは狙われる。この事はワドファーにも伝わってるの?」

「はい、本国では協力してくれる亜人達の訓練が完了し、戦力が増えたと報告がありました。応援も出してくれるとの事です」


 軍師は魔鉱石でワドファー本国に作戦協力と増援の要請をしていた。


「だったら、ここがこの戦いの最大の正念場だ」

「皆、どんなことをしても三日耐えて欲しい。増援も要請してある、決してただ耐えるだけの戦いじゃない」


 その場に居るワドファーの兵を軍師は鼓舞する。


「それではルイン様、後ろは頼みます」

「分かった」


 その後、ルインは負傷した兵達を連れ、森の前の基地に戻る。

 翌日、作戦一日目。

 人間達は魔王が居ると分かっているのか攻撃の勢いが弱かった。


「ルイン様を恐れている今がチャンスだ!出来るだけ数を減らすんだ!」


 しかしやはり人間の数は多く、時間が経つにつれワドファー軍は押されていった。


「っく、ルイン様が居ないと、士気が下がってる人間でも止める事が出来んか……!」



 ワドファー軍の抵抗の弱さに人間達も気づき始める。人間の陣では将が戦況報告を聞いていた。


「亜人共の勢いが弱いな」

「隊には森の中へ深追いしない様に言っておりますが……」

「何かの策か?」


 作戦二日目。この日もワドファー軍の勢いは無く人間達は訝しむ。


「これはもしかしたら時間稼ぎかもしれませんね」

「やはりそうか、ならば本国への報告も罠だな。魔王はここにいると見せかけた後、本国の防衛に戻ったという訳か」

「この森の進行を遅らせ、さらに我々がワドファーには魔王が居ないと連絡させることが目的でしょう」

「だろうな、もうここに魔王は居ないだろう。本国と西の都に魔王が向かっていることを伝える」



 森の戦いは激しくなり、魔王がいないと分かった人間の兵達に士気が戻っていく。


「奴等ルイン様の不在に気付いたか!」


 勢いづいた人間達相手では、もう無理をせず戦うという事が出来なくなっていた。

 その日ワドファー軍は大きく後退させられる。設営していた野営地も全て奪われ、多くの死者、重傷者が出た。最早、森が突破されるのも時間の問題だった。

 その日の夜、軍師は陣地で味方を鼓舞する。


「ここまでは作戦通りだ!皆、明日は奴等に仕掛ける!だがこれは特攻ではない、勝機のある戦いだ。命を粗末にすることは許さんぞ!」


 この日、日が昇る前からワドファー軍は森を進む。その数は軍師を筆頭に森を守るため来た部隊の半数にも上る。

 暗闇の中を進軍するが、囮や罠の設置で走り回った経験から、野営地までの道筋は体が覚えており、灯りも不要な程だった。


 野営地に駐留していた人間の数は少なく、軍師達の数の方が圧倒的に勝っている、なおかつ闇に紛れての奇襲なので失敗する方が難しかった。


 進攻の速度は早くはなかったが闇に乗じて確実に野営地を奪い返し日が昇る頃には森の半分を超えた所まで来ていた。

 森の中にまで日の光が差し込むと人間達は異変に気付く。急ぎ陣地にワドファーの進攻がある事が伝えられた。


「亜人共め焦ったか。数では勝ってるんだ、いよいよこの森の部隊を全滅させてから奴等の国に攻め入るぞ!」


 この森で初めての本格的な正面衝突が始まった。

 人間達の準備が整ってない内にワドファー軍は攻める、そのおかげで森の三分の二まで進攻したが、時間が経ち人間達が準備を終えるとワドファーの勢いが削がれ始める。


「やはり戦力差はどうにも出来んか……!」


  それでもワドファー軍は固まりながら進軍し、日が高くなる頃にはどうにか人間側の森の端まで到着する。


「なんとかここまで来れたか……だが大変なのはここからだ。各員固まり盾で守りながら進むんだ!」


  ついにワドファー軍は森を抜け人間の陣地へ攻め込む。

 森の中では木がありお互いの盾や身を隠す影にもなっていたが、森を出れば遮るものは無く混戦になるのは必須だった。


「ここから出れば人間は矢も大量に撃ってくるだろう、頭上にも注意するんだ。前進!」


 ワドファー軍が塊となって人間の陣地に突入する。


「敵の将はどこだ!?」


 軍師は一気に将を討とうとするがここは敵陣の中、周りの敵がそれを許さない。


「ワドファーの軍師、中々の突破力だったが敵陣地の中ではそれもたかが知れるだろう。囲ってしまえばお終いだ」


 人間の陣地の奥、ひと際大きいテントの中で将は兵から話を聞きに不敵に笑った。


「これでこの森の制圧できたな」


 だが一人の兵が急ぎテントの中へ入ってくる。


「敵の別動隊を後方で確認!馬で森を迂回してきた模様!突破力が凄まじくとても止められません!」

「なんだと!?」

「既に陣の中へ入られ大半の兵が森へ向かってる為、残った兵だけではどうにも……さらにその部隊は火をつけ回ってる為被害は大きくなってます!」

「亜人め……こざかしい真似を。だが奴等はそこまで戦力を割く余裕はないはずだ。ここの守りを持って行ってもかまわん、すぐに別動隊を止めるんだ」


 しかし将の守りをしていた部隊は戻る事は無かった。


「む、向かった兵達は全滅……別動隊はここを目指してる模様……」

「な……ここの守りの兵が全滅!?護衛部隊だぞ!?それほどの部隊規模だったのか?」

「いえ、数は少ないのですが……軍師オノだと名乗っています」

「は?軍師オノは森から攻めて来た部隊の中に居るじゃないのか?」

「はい、間違いありません。前線兵達は奴の突破を全力で止めている所のはず」


 軍師オノは策を巡らせ、武術にも長けた存在として、人間の軍の中でも知られていた。

 だからこそ人間の将は、前線に出て来た軍師を全精力で止めていたのだが――。


「どういうことだ。なぜ軍師オノが前からも横からも……」

「わ、わかりません……ですが両方のオノは直接あなたを狙っています。別動隊はもうここにも火を付けに来ます、すぐ離れてください」

「クソ……一体どうなってる……」


 将は兵に催促されその場を離れようとテントから出る、すると遠くの方から大声が聞こえた。


「我が名は軍師オノ!ここの将はどこだ!」

「ひっ……」


 将は身を隠すように低姿勢で移動する。



 前線ではワドファー軍は囲われ苦戦を強いられていた。


「邪魔だ!どけぇ!」


 ワドファー軍は固まって突入したが、数で人間に止められ進む勢いは無くなっていた。

 軍師も最前線で大人数の人間の兵を相手しているが、いくら武が秀でていても次から次と出てくる敵に疲れがたまってきていた。


「ここまでか……?」


 軍師が限界を感じ始めていた時、人間達の囲いが徐々に薄くなっていることに気づく。


「これは……よし皆の者俺に続け!」


 囲いが弱まった所を無理やりこじ開け軍師は走り出す。それにワドファー軍も続き囲いは完全に破られた。

 人間の陣地奥に付けられた火の消化と別動隊を止める為、前線から兵が戻されていた。軍師はその隙を突く。


「あとは敵将を倒しさえすれば……」


 軍師が人間の陣地の奥を見ると火が上がってるのが見えた。


「だったら将はあっち側か!我が名は軍師オノ!ここの将はどこだ!」


 軍師は人間の囲いを突破出来た兵数人と、まだ火が上がっていない陣の奥を目指す。



 馬に乗った別動隊の軍師は、既に人間の将に追いついていた。


「はぁはぁ……お前は前線で兵に囲まれていたはず……」

「お前を倒せばここの士気は落ちるだろう。各員突撃準備!」


 別動隊の騎馬が槍を構える。

 だが将が逃げた先には別動隊対処の為に戻ってきていた兵がおり、守りは決して薄いものではなかった。


「弓を放て!奴らをこれ以上近づけさせるな!」


 弓が放たれる前に軍師は、守りの部隊に馬で突っ込む。


「おおおおおっ!」


 兵達は突然動き出した軍師を咄嗟に狙うが、どれも躱され軍師の接近を許す。


「っく!一人だけ前に出た所で!奴を……軍師を斬ってしまえば我らの勝ちだ!やれぇ!」


 その命令で人間の兵達が軍師に斬りかかる、だがどの剣も軍師に当たる事は無かった。


「なに!?」


 そればかりか、斬りかかったはずの兵達が味方の剣で倒れる。


「まさか……」

「見つけたぞ!」


 馬に乗った軍師とは反対側から、もう一人の軍師が少数のワドファー兵を連れて人間の将へ向かっていく。


「我が名は軍師オノ!行くぞ人間!」

「おおおおっ!」


 二人の軍師の声が場に響く。

 人間達は混乱しながら二人の軍師に向かっていくが、二人の軍師の突破力はすさまじく、止める事は出来なかった。

 そしてついに後から来た方の軍師が、人間の将の首を斬る。


「敵将を討ち取った!」


 軍師は討ち取った将の首を掲げる。

 その場にいた人間達は崩れ落ち武器を捨て降伏する。


「ルイン様、まだ向こうの陣や森で戦ってる者が居ます。この首を掲げ魔王がここにいる事を人間達に知らせに行きましょう」

「分かった」


 馬に乗っていた軍師はマントを広げる、すると姿はルインに変わった。

 ルインと軍師達数名は、未だワドファー軍が戦っている所へ向かう。


「貴様達の将はこの魔王ルインの部下、軍師オノが討ち取った!」


 軍師は勝鬨を上げる。将の首を掲げ、隣には魔王の姿を見た多くの人間の兵が戦意を失い、その場から逃げ出す者も居た。

 特に西の都の兵はルインの力の恐ろしさを間近で見た者も多く、その場にいた人間の兵の半数は、戦意を完全に喪失していた。

 しかしそれを見てもなお戦おうとする人間達が居た、北の都の兵と冒険者達だ。


「魔王はまだここにいたのか!だったらワドファーはがら空きだな!」

「将なんて元々要らないんだよ!奴を倒せば俺達の手柄だ!」


 人間達は将を失い、次第に統率が無くなっていく。


「ルイン様、戦力を削る目的は達成できました、ここは一端引きましょう。殿を頼みます」

「分かった」


 ルインは人間を挑発するように立つ。


「敗れた貴様等の攻撃など怖くもなんともない!さあ来い!」


 冒険者や北の兵達は功を上げようとルインに挑んでいく、だがその力に敵う者は居なく次々と敗れていった。

 ワドファー軍はその隙に森へ撤退する、ルインが敵を引き付けてくれてるおかげで、新たに追って来ようとする人間は居なかった。

 軍は朝から戦い通しで、自軍の陣に戻る余裕すらなく、森に点在する野営地でそれぞれ休息を取った。

 軍師が休んでいる所に、戦いを終えたルインが馬に乗り常足で戻って来る。


「ルイン様、殿ありがとうございます。敵将を討ち取りあれだけの戦意喪失者がでれば、すぐに攻撃が来る事は無いでしょう」

「これでここでの人間との戦力差は同等くらいかな?」

「そうですね、増援も頼んでいますしここはもう我々だけで抑えられるでしょう」

「あとは国の方だね、敵将がどのタイミングでここの報告をしたか知らないけど、俺がここにいるという報告を出すはずだからワドファーが危ない」

「はい、なので急いでください。戦いの後で、これから休まず向こうに行くというのは辛いでしょうが……」

「それも含めての作戦だしね」

「そう言って下さるとありがたい。ここからそのノバ族の馬なら最速三日で西の都のとの道に出ます。どうかご武運を」


 ルインは馬にまたがり、木にぶつからないぎりぎりの速さで森を駆け抜けた。そして外に出ると、そのまま東南の方角へと全力で走りだした。

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