森の戦闘2
数日後、準備を経てルイン率いるワドファー国軍が北東へ出立した。
人間の軍が動き出してしばらく経つが、街道や村に現れる様子がないことから、指揮を執ってるのは北の都と予想された。
不毛の森がある北東に向かうワドファーの進軍は道のりが険しく、速度は思うように上がらなかった。
「地面が固くて疲れるなぁ」
ルインは自分の黒馬を引きながら軍師と進軍していた。
「おまけに足場も悪いですからね。ですがそろそろ着きます」
部隊は不毛の森の前に到着する。
そこは木こそ沢山生えてはいるが、葉のついている木は少なく、木が密集しており、間隔が異様に狭く何とも見通しの悪い場所だった
ルインは木に触ってみると岩のように硬かった。
「おお、本当に硬い。さて、森の前で止まるという事は戦闘は森の中で?」
「数の差は埋められないので地の理を生かし、この森では奇襲で対抗しようと思います」
「わかった、ここを抜かれたらワドファーは大群を相手にすることになる。何とか足止めしなくちゃ。人間達はどう動くかな……」
部隊は陣を張る部隊と偵察部隊に分かれ、森の中と周辺を調査する。
「我々が先に到着したようで、人間はまだ森には入ってはいないみたいですね。今のうちに森の中の各所にも野営地を作っておきます」
偵察の結果、人間の姿は森の中では見なかった。
「野営地?……人間に攻められたらそんなの簡単に奪われちゃうよ」
軍師の提案にルインは疑問を投げかける。
「見せかけです、そしてそれを囮として使います」
「囮?」
「まずは人間達が森へ入って来たら攻撃を仕掛け、反撃して来たら撤退、逃げたように見せかけます。その後、野営地を制圧させ、油断した所に奇襲を仕掛けます」
ワドファー軍と人間では圧倒的に数の差があり、普通に奇襲しても次々と森の中に入ってこられては対応が追いつかない。なのでまず人間の部隊を分断する事を目標にした。そのために軍師は森の至る所に誰かが居た痕跡を残す。
準備を終え翌日、見張りが森の反対側に人間が陣を張っている事をルイン達に伝える。
「既に人間達は到着していたのか」
「作戦の下準備が間に合ってよかったです」
人間の部隊は森の調査の為、偵察隊を出し森の中へ入ってきた。
「彼等は大部隊だから森を抜ける準備に時間がかかったのでしょう。まずは先遣隊が攻撃を仕掛け人間の偵察隊を誘い込みます。その後ルイン様は隊を率いて奇襲をお願いします」
作戦は開始された。
軍師の言う通り、先遣隊を追ってきた人間の偵察部隊は設置した野営地を調べ出す、そこでルイン達は奇襲をかける。その効果は抜群だった。
奇襲を受けた人間達は咄嗟に反撃しようとするが、そこに変装したルインがいる事は分かるはずもなく何が起こったか分からないまま全滅する。だがそんな事が続けば人間も森に何かある事を気づき始める。
人間の偵察隊を五回奇襲した辺りから人間は森に入らなくなり、日も傾き始めていた。
夜の森での行動は危険であることを、両軍とも理解していた為、その日は人間の偵察部隊の消耗で幕を閉じる。
「人間の本隊も、森に何かがあると気づいたはずだ。ここからどう動くの?」
夜、森の外の陣でルインは軍師に聞く。
「もう少し人間の数を減らしたかったんですがね……明日人間は大勢で動くかもしれません。真正面から対抗しても敗北は目に見えてるのでこちらは奇襲に徹しますが、大群相手にどれほど通用するか」
「まさかもう策は無いの?」
「いえ大部隊を動くには時間がかかるはず、それまでに罠を張ります」
周りの兵達を見るとみんな罠を作っていた。
「しかしそれでもまだ戦力に差はあります、だからこそあなたの力が必要なのです。魔王がここにいると分かれば、人間もむやみに攻めて来ないはず」
「でもそれじゃ国に俺が居ないことがバレちゃうよ……」
「ええ、ワドファーの国が狙われます。なのでルイン様にはここの敵をなるべく減らして貰い、その後、国の守りに向かって貰います」
「なるほど……本当に俺頼みの戦いなんだな」
「戦力差は埋められませんからね」
ルインは改めて自分の力の重要さを知った。
翌日、ルイン達は日が昇りきるのを待たずに森の中に罠を仕掛ける。
「なんとか人間達が動く前には形になったね」
罠は何とか朝には仕掛け終わる、主に人間の隊が構えている方角、森の北東に集中して仕掛けられた。
「これで森に入る敵の第一軍は多少崩れた状態で相手できます。お前達、森の向こう側まで行きすぎるな!」
軍師は兵達に注意を促した。
「特にルイン様は気を付けて、あなたが罠にかかってしまえば味方に被害が出ますので!」
「わ、分かってる……」
軍師は強く忠告した。
ワドファーの多くの部隊は、密集した木の間や岩肌の影など奇襲の為、身を隠しやすい場所に待機する。
そしてルインが率いる小隊の役目は奇襲のポイントや罠へ人間を誘導する事、つまり囮であった。
人間の兵達が動き森へと入って来る、最前線に居たルイン達は罠の作動でそれを確認した。
「来たか!」
人間の兵達は偵察ではなく小隊が複数森へ侵攻してくるようだった。
ルイン達は罠を抜けて来た人間の兵達の前に姿を現し、撤退する様に見せながら奇襲の場所へ誘導した。
「はぁはぁ……この囮役とんでもなく疲れる!」
最前線で足場の悪い森の中を駆け回る行為は、かなりの体力を消耗した。
「げっ、また人間!ここから近い所は……」
そのおかげかルイン達の誘導は本当に逃げ回ってる様に見え、多くの人間をおびき寄せた。
近くに罠や奇襲のポイントが無い場合は、ルイン達が直接相手をした。ルインの変装のおかげで囮がピンチになることもなく、第二段階の作戦も、順調に進んでいた。
しかし三日目、ルイン達が再び森に罠を仕掛けていると森の端から人間の本隊の異変を察知した兵が急ぎ軍師へと報告に向かった。
「いよいよ本隊が動き出す気配です。こちらの兵数が少ないことも、そろそろ敵に知られた頃でしょう。多少の犠牲を出して数で押してこの森を一気に抜けるつもりです」
「じゃあ、いよいよ俺の出番だな」
「ええ、人間にここにルイン様が、魔王が居るという事を教えてあげましょう」
この日ルインは変装で姿を変えず戦場に出る。
ワドファー軍はルインを先陣に立てて前面に押し出し、かく乱したところを迎え撃つ作戦だ。
森の中へさえ引き込んでしまえば大勢では俊敏に動けず、動きやすい少人数の方が有利と軍師の考えた。
「いいか、あくまで森の中での迎撃だ。森から逃げる人間は深追いするな。それとここには魔王が居ると人間共に吹聴せよ。そうすれば人間はますます恐怖で動けなくなる。まずは前哨戦、敵戦力を削ぐ事を考え無理はするな!」
軍師は兵達に作戦内容を伝えた後、森の中に陣取った。
人間も森に入り戦いが始まった。
「魔王ルインここに見参!」
ルインはワドファーの兵達を庇うように立ち周る。人間達は迂闊に攻撃できず、その隙を突いてワドファーの兵が攻撃、そして攻撃後すぐに離脱を繰り返した。
加えて森の中、木の陰から出てくるのがワドファーの兵かルインかは全く予想できず人間達は全く踏み込めずにいた。
しかし、それはルインの居る森の中央付近だけで、他の場所では人間の数の多さからワドファーの兵達は苦戦を強いられる。
別の場所では軍師も前に出て戦っており、戦線を維持できているのはルインと軍師が居る場所だけだった。
「やはりこの数の差では徐々に押され始めるか……だがこちらには魔王が居る!ふん!」
「軍師殿!?すみません……」
「良い、無理せず下がれ!」
軍師は部下をかばいながら引かせる。ルインと軍師は一つの場所の人間達を倒すと、別の場所の味方を援護へ向かうという行動を繰り返す。
次第にこの森に魔王が来ていると伝わり始めたのか、人間達の攻撃は勢いが弱まり森の中での戦闘も徐々に少なくなっていった。
日も傾いてきた頃、人間の陣営にて。
「何?魔王がこの森に?」
「は!あの特徴的な肌と紫の目、直接見た兵が何人もいます」
人間の陣の中では兵は将に報告していた。
「数はこちらが勝ってるのに中々抵抗が激しいと思ったがそういう事か。ならば今ワドファーは魔王の守りが無い、至急本国と西に連絡だ!今のうちに西にはワドファーへの道を開いてもらおう」
人間の将は連絡用に早馬を出した。




