森の戦闘1
ワドファーへ向かう途中、何度か人間の兵に模した冒険者に襲われたが、ルインが盾となり何とか撃退した。
冒険者達もルインの力に対策が必要だと判断したのか、追撃の手はどんどん弱くなりやがて途切れる。
村の亜人達を連れたルインは、ワドファーへの道中で応援のワドファー軍と合流する。
応援軍はかなりの大部隊で、それが来たという事は人間との大規模な戦闘が始まることを意味していた。
「ルイン様は先に国にお戻りください、彼等の事もあります」
宰相は満身創痍の村の亜人達を見ながら言う。
「インテはここに残るの?」
「はい、あの村の状況や冒険者達の情報も必要でしょうから」
「……分かったここは任せるよ」
ルインと宰相は、ワドファーへの街道の途中で分かれた。
それからの道中は平和なもので、一行はスムーズにワドファーに到着できた。
村の亜人達は国の城壁外に設けられた国外協力者用の仮設住宅へ移された。
国に帰ったルインはワドファー城で事態の報告後、すぐに休んだ。
そして翌日、会議室で魔女からワドファー国軍と人間の冒険者達が衝突したと報告が入る。
「冒険者の一部は、あの村からこの国を目指した者が居た様ね、だけど宰相達はこれを撃破、今は村に進攻中と魔力通信で連絡が入ったわ」
「追って来てた奴等かな。朝から宰相達も大変だ」
前日までの疲れのせいか、ルインが会議に参加したのは日が高くなってからだった。会議の内容は主に連れて来た村の亜人達をどうするか、当人達の意見も含めて話し合われた。
会議室には村の代表として、三人の獣人が呼ばれていた。
「村の奪還と村の仲間達の仇を討つ為だ、目的が一致する以上協力させて欲しい」
「そうか……中立という考えだったけど良いの?」
「先に剣を向けて来たのは奴等だ、中立とは言ったがやり返さないとは言ってない」
獣人達は怒りをあらわに訴えた。
「後は、王の許可さえ出れば仮設住宅を増やせます」
「うん許可する。彼等は冒険者で訓練を積んでた者も多い、休息させ準備が出来たらすぐ村に行かせてあげよう」
「了解しました」
「俺達が人間の国方面に軍隊を進軍させた事は、すぐに人間達も知るだろう。そうなれば人間達も黙っちゃいない。人間の軍が本格的に動けば俺達に勝ち目はない。奴らが本格的に動く前に、なるべく俺達が有利になるような状況を作っておくんだ」
会議が終わると、ルインは魔女に話しかける。
魔女は魔力通信機の調整をするとの事で、二人は通信機がある場所に向かいながら話す。
「変装?」
「そう、人間の兵は俺の力は研究されてるって言ってた」
ルインは、村での戦闘中に自分だけが狙われなかったことを語った。
「なるほど……それで姿を変える方法を私にね」
「前に姿をごまかす香水使ったよね、ああいうの欲しいなっと思って。勿論、国としての依頼だよ」
魔女は少し考え込む。
「発想は悪くないけどあの香水じゃダメね、前にも言ったけど、あれは相手の目に影響を与える物だから、色んな種が入り交じる戦場では味方も混乱しかねない。でも姿を変える案は少し考えてみる」
「ありがとう頼んだよ」
それから数日の時が経った。
ワドファー軍が進軍した村での戦闘は中規模程で、ワドファー軍が難なく制した。
人間の兵を模した冒険者達は若い者が多く統制も取れていなかった為、数こそ多かったが本格的な軍隊の敵ではなかった。
十分な休息と装備を受け取った村の亜人達は、ワドファーの協力軍として人間国とワドファーの間にある村へ帰還した。
村制圧後、ワドファー軍は村を拠点に西の都への街道にも兵を差し向け、ワドファー軍は西の都への道を取り戻した。
国の間の街道から人間が居なくなった事で、西の都から亜人達が続々とワドファーに逃げてくる。その結果ワドファーの戦力はさらに増えた。
西の都ではデモで過激な行動を起こした亜人は続々と逮捕、処刑され、数が少なくなった亜人達への差別がさらに激しくなる。
時には命を奪われる事件にまで発展する事も増え、亜人は人間の国から、特に西の都からは逃げる者がかなり増えた。
『人間達の間では、魔王が村を襲った事になってますよ』
ルインと魔女は、マッドからの報告を魔力通信機で受ける。
「人間のやりそうな事ね」
『こちらでは魔王が亜人と人間が共生する村で人間を騙し、人間を全滅させたという話題が持ちきりです。魔王許すまじと冒険者に志願する若者がとても多い』
「勝てば官軍どころか人間って負けても嘘つくんだね」
『嘘もつき続ければ真実になる事がありますからね。さて勇者ですが東の都で以前の仲間達と合流し、情報のやり取りがあったみたいです。詳しい内容までは分かりませんでしたが……』
「彼らが再び顔をそろえるって事は……何か動きありそうなの?」
『いえ、集まりはしましたが、変わらずワドファーに向かう素振りを見せません。そちらに行く素振りがあればすぐ連絡しますよ』
「仲間というとあとはあの二人か」
ルインは鉱山で見た勇者のパーティを思い出す。
「分かった引き続き監視を頼む」
「戦闘は中規模とは言え勇者が動かないなんてね」
マッドとの通信を終えると魔女は言う。
「今の勇者ってどういう立ち位置なの?」
ルインは純粋な疑問をぶつけた。
「簡単に言えば国直属の雑用ね、元々冒険者だし人間の国軍で対処できない事が起こると、規模はどうあれ駆り出されてたわ。国内の事は勇者に、国外で何かあれば一番近い都を収めてる領主の誰かがって具合に」
「じゃあ鉱山の時全員揃って居た事は珍しかったんだ」
「あの時は色々な思惑があったみたいだけど、牽制も理由の一つでしょうね、勇者はいつでも動けるから人間に逆らうなという。現にその後、前王は殺されあなたが居なければワドファーは乗っ取られる所だったしね」
「なるほどね、じゃあ再び勇者のパーティが合流したという事はこれから何かあるのかもしれない。警戒しとかないと」
「それとあなたが前に言っていた変装の件、完成したわ」
魔女は大きく厚めの丈夫な布を広げて見せる。
「これは……マント?」
「そう、あなたは王だしこれなら普段身につけてても違和感ないわ。いつでも使用出来る」
魔女は試しにマントを身に着け、マントの端を持ち自分の体を覆ってみせる。するとマントの色が変わった後マントを広げると魔女の顔や姿も別のものになった。
「お、おお……」
「香水だと見た者の種族に見せる物だったけど、今回はあなたが完全に変化するものにしたわ。勿論人間にも変装出来る」
再びマントを覆うと、毛がふさふさの獣人やスラッとした人間、ドワーフやエルフなどに変わり服、体型、肌までもマントを開く度魔女の姿はコロコロ変わった。
「で、これが一番苦労した所だけど、ただ使う分には変わる姿は完全ランダムなの。だけど魔力を籠めれば……」
マントの色が変わり、開くと魔女は宰相の姿に変わっていた。
「好きな種族、特定の人物に変装出来るわ」
「でも俺、魔力なんて使えないけど」
「大丈夫、あなたの短剣についている回復の魔法石を使えば、同じ事が出来るようにしておいたわ」
魔女はマントを脱いでルインに着せる。
「うん、なかなか似合ってるじゃない」
「王っぽいかな」
ルインは魔女がやったように、マントで自身の体を覆ってみると姿が変わる。
「あーこれ自分がやったら実感ないね、見てる方が楽しいかも」
「楽しむための物じゃないでしょうに……」
魔女は呆れながら言った。
「そのマントの注意点だけど、まず姿を変えるのが目的だから触られれば違和感で気づかれるかもしれない」
ルインは自分の変化した服を触る。外見はワドファーの兵の鎧なのだが、触ればただのマントの布の感触だった。
「これは違和感がすごい」
「それとあくまでも魔法がかかってる布だから耐久性は無いわよ。だから火には弱い、切るのもダメね。あなたが着ていればダメージを受ける事は無いだろうけど」
「でも事故で汚れたり破れちゃった場合は?」
「汚れはそもそも見た目が変わるから気にしなくても良いわ、破れたら……程度にもよるけど、三分の一以上破損したら使えなくなると思った方が良いわね」
「分かった、大事に使うよ」
ルインはマントが気に入ったのか、その後もひらひらといじり続けていた。
後日、ルインはいつものように各方面からの報告を受けていると、火急の知らせが入る。ついに西の都が兵を動かすとの事だった。
今や西の都の亜人はほとんどワドファーに移っており、人間達は軍の再編成を完了し都を出る目前まで来ているという。
「ついにこの時が来た」
会議室が緊張感に包まれる。
「西の都の指揮系統はルイン様の活躍で無力化しました。その後、起こっていたデモに我が軍も介入、西の都の軍上層部は死に体のはずです。なので北か王都の指揮下に入ったと予想されます」
「指揮次第で動きが変わりそうだね……指揮がどっちかは分からない?」
ルインは報告してきた兵に聞く。
「そこまでは……」
今の西の都には亜人がほぼ居ない、つまり協力者も少なく人間の動きもつかみにくくなってる事を意味した。
「そうか……しかたないね。軍師、これからどうする?」
「王都が指揮の場合、これまで通り西の都との道を重点的に守るのが効果的です。北が指揮の場合だと北の軍と合流する可能性があります、なので我が国から見て北東の地に守りを置きたいですね」
軍師は卓上の地図を指す。
「あまり話題にならない場所だね、ここはどういう所?」
「不毛の地ですね」
「え?でも……」
地図には森と書かれてある。
「ここは北の山脈の麓です、あたり一帯は一応木が生え森と表記されてはいますが、地面が岩のように固く、非常に歩きにくい。森の木も深く根を張り岩のように硬い木ばかりで、加工にも向かず誰も手を入れてません」
「なんでそんな所に兵を?」
「未開ですが通る事は可能で、一応道もあります。住んでる者は居ませんが、北の都が指揮を取る場合、西の都の兵との合流の為、北はここから進軍してくる可能性が高いです」
「なるほど……北から横槍を入れられるのは厄介だね。ここからどう動くのが効果的かな」
「現時点で人間がどう動くか分からないので、西の都との間の道はこれまで通りしっかり守っておきます。北の警戒ですが今国に残ってる国軍本隊を分けて……ルイン様が行かれるのが最善だと思います」
軍師の言葉で会議室がざわめいた。
「ワドファーの軍じゃ一つの都と戦うのが精いっぱいだ、二か所を守るのには数を割いて俺が出るしかないか……」
「しかし王が前線に立つなんて何かあったら……」
会議に出席していた一人が声を上げるが、ルイン自身がそれを抑えた。
「まあまあ、俺が前線に出るのは初めてじゃないし王を継ぐ条件にも入ってた。ついにその日が来ただけだよ」
その言葉で会議室は静まった。
「それに、俺はあくまで仮初の王だ。あんまり大事にされるとこの地位から離れにくくなる」
「むむぅ」
皆、納得したのかそれ以降、ルインの前線行きを止めようとする者はいなかった。
「ならばルイン様には北東の森の守りをお願いします、我々本隊も同行しますので」
軍師はそう言いながら兵に指示を出す。
「わかった、なら出立の計画はまた後で……チウィーさんに貰ったマントを試すいい機会だ」
ルインは新しい道具を手に入れ、張り切っていた。




