共生1
会議から数日後、会議室にて各々はルインに成果を伝える。
「ワドファー周辺の集落八か所のうち、協力の返事をもらえたのは三か所でした。残りは交渉次第で、返答がすぐに出来ないと先延ばししている状態です」
「いきなり人間に攻撃するから、協力してくれって言われても困るだろうね。引き続き交渉を頼むよ」
その後、宰相と魔女も会議室に入って来て同じく成果の報告をする。
「マッドから連絡が入ったわ、勇者は傷の治療の為しばらくは戦闘に参加する素振りはないとの事よ」
魔女と入れ替わり宰相も報告する。
「次は私が、西の都のデモですが徐々に人間の側が盛り返している様です。これから西の都の亜人を我が国に受け入れ準備を始めます」
「準備をしといてよかった。それにしても人間は西に人員を割き始めたのかな」
「いえ報告ではおそらく冒険者かと」
「冒険者?なんで今更そんなのが」
宰相の報告を聞き魔女は尋ねる。
「先日発表があったらしいんですが……人間の国はルイン様を魔王と認定したとの事で……」
「何ですって!いや……でもあれだけの事をすれば当然そうなるか」
魔女はかなり驚いた様子だったが、ルインにはピンと来ていない様だった。
「えと、魔王ってあの?それに認定って一体……」
宰相はルインに説明する。
「そのままの意味です。人間の国はあなたを魔王として公式宣言しました」
簡素な説明にルインは反応に困った。
「あのねぇ……」
宰相の説明に納得のいかない魔女は口を挟む。
「魔王に認定されるって事は、人間達に絶対悪と認識されるって事よ。命を狙われる機会も増えるし国も攻撃を受ける。そしてそれに関わる者全てが敵視される」
ルインと宰相は顔を見合わせた後言う。
「それってこれまでと変わらないんじゃ?」
「でも悪評が広まれば協力をためらう者も出てくるかもしれないわ」
「それも大丈夫かと、今やルイン様の名前より人間の横暴さの知名度の方が上です」
「それはそうだけど……あなたは今までと変わらないでしょうけど、この国の協力者は狙われるんだからね!」
魔女はそれだけ言って会議室から出て行った。
「彼女の言う事にも一理あります。ルイン様は無事でもこの国に、何か害があるかもしれません」
「魔王を倒そうとする命知らずの不法入国者が増えそうですな。国周辺の警備を強化しないと」
場に居た軍師もそう言ってから会議室を出て行くと、報告をしていた各々も会議室から去っていく。
「魔王か……人間達からしたらこの国は、魔王が治める国になったって事だよね。宰相として、それは良いの?」
ルインは残った宰相に尋ねた。
「前回の魔王との闘いの時もそうでしたが、人間達が勝手に言ってるだけですからね。我が国も人間に対して魔王認定しますか?」
宰相は冗談めかして言う。
「はは、そんな事しても意味ないってさっき言ったばかりなのに。でも前の魔王か……」
「気になりますか?」
「まあ話によく出てくるし」
「では後で前魔王の記録が書かれた書物を用意しましょう」
「ああ、ありがとう」
夜、仕事が終わりルインは自室に戻る。その手には二冊の本があった。
宰相から借りた本は、人間側から見た魔王の事が書かれた本と、ワドファーで編纂した物だった。
ルインはベッドに座り一冊開く。
それは、人間の意見を元にした勇者と魔王の本。
人々を殺し土地を奪って人間を脅かしていく強大な敵、魔王。そんな敵を前に力を合わせ、抵抗する人間の先頭に立ち戦った勇者とその仲間。最後は勇者が死力を尽くし、魔王を打ち破り世界が平和になったという美談で本は締めくくられていた。
ルインはもう一冊の本に手を伸ばす。
ワドファーで編纂した本は人間側の本よりだいぶ厚かった。
本の時系列は先程見た本と同じく、人間の国が魔王と争い始めた頃からだ。
しかし内容は違っており、争いの発端や魔王が蜂起した理由、軍勢で攻めた事情が事細かく書かれていた。中には検証した文献や、人間の国と魔王が交渉した記録、本を書く上で元になった種族の証言など、細かく書かれていた。
「一冊目は物語だけど二冊目は記録だなぁ」
人間の国は都合の悪い事は記録に残さず、魔王との戦いを勧善懲悪の物語にしたのだ。
「勝てば官軍、死人に口なしか……」
翌日、会議室に向かう途中、宰相はルインに本の感想を聞いた。
「うん、あれが人間の国での公式記録で、人間達に信じられているなら魔王は悪って事になるよね。戦いの発端も今と変わらない互いの防衛だし」
「人間の寿命は短いですからね、我々は前の戦いの事を覚えていますが、人間達はもう世代交代している頃でしょう」
「歴史を繰り返してるって事か」
ルインは溜息をつきながら今日も会議室に向かう。
ワドファーは人間への対策を考えながら数日が過ぎ、互いの国は戦いの準備段階と誰もがそう感じていた。
会議室にて連日会議は続く。
「西の都の亜人達の受け入れは順調です。彼等にはまず城壁の外に作った簡易的な家で生活して貰っています」
「国の職人達にも武具の製造させています、受け入れた亜人達にも近々装備が行き渡ります」
連日報告を受けるルインは、王としての貫禄が身に付いてきていた。
「わかった、俺達は多種多様な種族の集まりだから、得意分野が違う、適材適所で活躍をして貰おう。流れてきた者や協力してくれる集落の住民には、くれぐれも無理矢理命令しない様に。でも仕事はきちんとしてもらうんだ」
「国外の若い者達は、軍の訓練に参加したいと言った者も多く居るそうですが……」
「なら参加者を募って合同訓練をしよう、その者達には国との作戦の連携の要になって貰う」
各方面からの報告が終わると宰相が立つ。
「では次の議題です、今一番問題になっている我が国と西の都の間にある村の事ですが」
議題は移る。宰相が言う村はワドファーが協力を仰いでいる村の一つだった。
「ただの村なら協力を得られなければそれでいいのですが……この村はそういう訳にはいきません」
宰相は円卓の中央にある地図を指す。その村は丁度互いの国を行き来する道に面していた。
しかもそれだけではなく、この村は亜人と人間が共生していたのだ。
「ここにいる住民は、前の魔王の戦いの時に人間の国から追い出された亜人、それに付いて行った人間が居ます」
「人間が亜人に付いて行った?」
ルインは驚いて宰相に聞く。
「はい、前の魔王と戦うまでは人間も亜人もそこまで仲は悪くなかったのです、それこそ冒険者のパーティには獣人などが重宝されました。数十年前まで亜人を仲間にしていた人間は多いんですよ」
「その村は協力要請になんて言ってる?」
「種族間の争いなら自分達を巻き込まないで欲しい、自分達は中立だと」
「……そういう訳にもいかないよね、ここは両国の通り道、必ず戦火に巻き込まれる」
「どうしますか?ここには人間もいますよ?」
「人間か……」
ルインは少し考え込む。
「よし、その村に行ってみよう」
ルインの発言に会議室はざわめき出す。
「ルイン様自ら!?」
「中立って言ってる人間の意見を聞いてみたいんだ、それには西の都がゴタついてる今しかないと思う」
「……はぁ、分かりました。確かにあそこは両国の要地で戦略的にも重要です。ルイン様の出陣を手配しておきます」
宰相の言葉で会議は締めくくられる。




