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絶滅記  作者: banbe
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魔王2

 ルイン達の帰国は数日かかった。

 ワドファーの門をくぐると、ルインは国中から歓迎される事になる。

 戦争を招く事にはなってしまったが、人間の王を討ったという事実は、ワドファー中で歓喜とともに迎えられ、国民はその偉業を称えた。


 マッドは、人間の情報を提供するという条件で何とか入国の許可が下りた。

 マッドを初めて見た宰相は非常に不快そうな顔をしていたが、その動機と能力が有用と判断され、入国が許された。

 そして城に着いたルインと魔女は、倒れるように眠る。


 翌日、魔女は魔導師を埋葬する。魔法や魔術を使う者の遺体は、それ自体が魔術の触媒となるため、火葬して灰にした上で厳重に埋葬されるという。


 それからルイン達は、人間の国からの宣戦布告をどうするか話し合う。場は満場一致で徹底抗戦と決まる。

 ルインのおかげで、南の都宮殿周辺は壊滅状態。西の都も、虐げられていた亜人達が武器を取って、過激なデモに突入した。そんな事情からすぐに人間達が攻めてくる事は無いと判断された。

 さらに都の壊滅で戦力がかなり落ちている事もあり、人間に反撃を仕掛ける好機だという者もいた。

 だがワドファーは人間が西の反乱に手を焼いてる間、戦力を整え戦いに備える事が大筋で決まる。


 そしてさらに数日後、軍師率いる都の先行部隊が、ある物を持って帰国した。それはワドファーの王城、王の間に置かれた。


「これが魔力通信機」


 宰相は興味深そうにそれを見る。


「まさか持ってきちゃうなんてね」

「王の勅命だったので!」


 魔女の呟きに軍師はルインに向かい敬礼し答える。


「できればって言ったんだけど……」

「ですがこれで我が軍の情報伝達速度は上がります。魔女さん、大魔導師に代わりこの国に協力してくれませんか?」


 宰相は懇願する。


「元々そのつもりよ」

「では調整と扱う者の教育など任せます、言ってくだされば人員は回しますので」

「分かったわ、さてこの通信機を取りに行った時の事だけど……」


 魔女は軍師にずっと気になっていた事を聞く。


「マリア・デイズィアは本当に死んでいたの?」

「ああ、遺体は確認した」


 軍師の話ではマリアの遺体は、懐に入れていた銃の暴発で、マリアだけではなく近くにあった別の遺体や、都中から同じような死因の人間の兵の遺体が発見されたという。しかも遺体の多くは比較的高い階級の者で、指揮系統を担う立場の兵が多かった。

 謎の死が原因で命令系統が混乱。おかげでワドファーの少数先行部隊と反乱する亜人だけで、西の都の人間を押し切れたと軍師は推理する。


「謎の死を遂げた人間の階級は、現地で降伏した人間の兵で確認しました」

「なるほど……おそらくだけどやっぱりこれも、ルインの力ではないかしら」

「これも俺?」


 魔女は手を顎に当てながら推測する。


「あの時ルインは私を庇ったと同時に光を発したじゃない?あのときの光は、新たな力が発現したか、進化の兆しだったのだと思う」

「それが本当だとして、どんな力か分かりますか?」


 宰相は魔女に聞く。


「状況を聞いた限りだと……おそらくだけど今までは、ルインを傷つける人に結果を返す、という力だったんだけど今度は、それを命令した人にも返るようになったんじゃないかしら」

「ふむ、つまりマリアがルイン様を攻撃するよう命じ、それが兵に伝わり実行されたまで関わった人間全員が、力の効果を受けたと」

「憶測でしかないけどね」

「もしそうなら、これからはルイン様を害そうと命令する人、実行犯、全員を効率よく始末できるという訳ですね」

「……そういう事になるわね」


 その場に居た誰もがルインを見て恐怖した。


 それからしばらく、魔女は通信機の調整と軍が使えるようにする為の教育を施す。

 魔力通信機の使い方は、持ち込まれた大きな通信機を親とし、特定の魔力だけを拾う魔鉱石を製作しそれを子にする。すると親から発信する魔力を子が掴み、魔力に乗る音が聞こえるという仕組みだ。

 親の魔力通信機には、魔鉱石まで届く魔力の量が必要で、子から発信する場合も、ある程度魔力を持つ者か、代わりの魔鉱石を持たなくてはならなかった。

 魔女は魔導師が言っていた、城に保管されていた巨大な魔鉱石を宰相から受け取り、魔力通信機を完成させた。


「子からも会話したいなら、ある程度の魔力は必要だけど命令を聞くだけなら魔鉱石を持ってるだけで良いわ」

「魔力は必要ですが便利ですね」

「他にも機能があって、魔力の特性を変えられると、特定の魔鉱石だけを呼び出すことができるの」


 魔女は魔力通信機に手をかざすと、周りの魔鉱石には反応せず、宰相の持っている魔鉱石だけが反応する。


「ですが、果たしてここまでの機能を使いこなせるでしょうか……」

「これは魔法が主である西の都が設計した物だから、魔力の扱いが長けてる人間が使う事前提に作られてるのね」

「使いこなすには、魔力の扱いに長けてるものがこの国でも必要、ですか……」

「私はあくまで協力者なんだから期待しないでよね」

「それは分かっていますよ」


 通信用魔鉱石はワドファー軍にどんどん配備されていった。



 軍備の強化がされていく中、今後の動きを決める会議がワドファーの王城で開かれた。

 ワドファー政府の要人や軍関係者、協力者として悪魔と魔女も同席しており大きな机を囲んでいた。


「これから我々がどう動くかですが」


 宰相はルインが座る玉座の隣に立ち話を進める。


「まずは現状を整理しよう、今の状態で人間達とまともにぶつかって勝てるかだけど」


 ルインがまず問いかける。


「無理ですね、国民の数も軍の規模も人間達の方が上です。詳しくは軍師に説明して貰いましょう」


 指名を受けた軍師は机の中央にある地図を使い説明する。


「はい、戦力的には人間の国の都一つが、我が国の全軍と同等かそれ以上です。二つの都の軍が行動不能とは言え王都、北と東の都があるので、単純に考えれば戦力は三倍の差があります」

「抗戦するからには、この三倍の差をどう埋めるかだね」

「特に王都を守る王都軍は、他の都よりも規模も大きく、優秀な人材が多いと聞きます。都一つとなら戦えますが、複数の都や王都軍と正面からぶつかるのは、かなり厳しいかと」

「何かしらの策が必要って訳だ」

「次に人間の国最大戦力と言われる勇者です。これはもう知ってる人の方が多いのであえて詳しくは説明しませんが、過去に五人という少人数で、今の我々より規模の大きかった魔王軍を打ち破った程強力です。仲間であったガイ、マリアが死んだとは言え、前に述べた三つの軍よりも危険度は高いでしょう」


 軍師の勇者の説明を聞いた室内は静まり返る。


「……我々は、最初あなたの、王の力は勇者にも有効だと思ってたんですが……王都の王宮で勇者はあなたを傷つけた……」


 宰相の言葉の後、ワドファーの政府関係者が視線を落とす。


「そうか、俺は勇者にやられたんだった。俺の力は効かない……」


 ルインはもう傷が閉じている胸を触る。

 重い空気の中今まで静かに聞いた悪魔、マッドは手を挙げて発言の許可を求める。


「お前は……悪魔、なんです?」

「いやね、その勇者なら、今怪我を負って療養してるって話を王都で聞きましたよ?」

「何だって!?」


 マッドの言葉に会議室はざわつき皆驚く、そして宰相は話に食いついた。


「あなた達に会う前、私はある取材で王都に居たんですが、王宮周りに張っていた勇者の結界が弱まってるのを感じたんです」

「あの城には結界があったのか」

「ええ、人間の国の心臓部ですからね。それで記事にしない事を条件に中の兵に聞いたんですが、ワドファーの王達を追い出す時に傷を負い療養していると。その王ってルインさんですよね?」

「確かに俺達は勇者に攻撃されたけど……」


 ルインは宰相を見る。


「あの時、俺は勇者に斬られて気を失ったから、後の事を知っているのはインテだけだけど……」


 宰相は顎に手を当て少し考える。


「あの時、勇者が我々を逃がしたのは、攻撃が返り怪我を負ったから……?」

「それかルインさんの力が瞬時に危険と判断したからですかね。勇者の事ですから今頃傷は治り、攻める準備をしているかもしれませんが」


 マッドはニヤついた顔で言い周りを怯えさせる。


「止めなさい、この国の者の感情を揺さぶる事は禁止したはずです。追い出しますよ」

「おっと失礼、癖でつい」


 宰相はマッドを咎める。


「しかし宰相、勇者にも王の力が効くなら凄い情報ですよ」


 軍師は興奮気味に立ったが、宰相はそれを収めながら言う。


「それが本当の話ならです。彼は人間の国に住むそれも悪魔だ、根拠も無しに信じられません」

「それは……」

「まあ当然ですね。あなた達から見れば悪魔なんて滅多に姿を現さない怪しい種ですから。ですが……」


 マッドは魔女を見る。


「はぁ……悪魔の良い噂を聞かないのは、関わった奴がロクでもないからよ」


 魔女は頬杖をつきながら嫌そうに説明する。


「そう、悪魔程誠実な種はいませんよ!」

「いやらしさと狡賢さの方が上だけどね」


 マッドが熱弁する隣で魔女はボソっと呟いた。


「結局この悪魔の言う事は信用できるんですか?」

「まあ私もこっちの軍に居るんだし、悪魔に謀られるのも馬鹿らしいからはっきり聞くわ。マッド、あなたの目的を教えなさい」


 魔女は直球に聞く。


「目的というか好みの問題ですね。人間は良くも悪くも感情豊かな生き物です、私も含め悪魔達は亜人より人間の感情の方が好みな者が多い。だからあなた達に味方する理由は単純で、よりおいしい獲物を求めるからです」

「悪魔っていうのはその性質上、感情や心を読むのに長けてるから探り合いなんてせず直接聞くのが良いのよ」

「はぁ……分かりました、あなたの情報を信用しましょう」


 宰相は呆れ、溜息をつく。


「マッド、勇者の怪我は分かったけど、攻めようとしてるのは本当なの?」

「いえ、そっちは単なる噂です。詳細は私も知りません」


 マッドは首を振りながら答えた。


「確かに勇者なら、報復にいつでもこの国を攻める事が出来るはず。ルイン様の力が通用する事や怪我も説得力が出てきますね……」


 宰相は状況証拠だけではあるが、勇者の行動の意味を推測した。


「勇者の事はもっと調査が必要だね、そうすればもし勇者がこの国を攻めて来てもすぐに対応できる」

「いつ動くかはわからないとなると悠長にはしてられませんね、王都にいる勇者を監視するために偵察部隊を送りたいところですが、問題は亜人は王都に潜伏するにはかなり厳しい所」


 軍師は偵察部隊の提案すると同時に問題も指摘する。


「簡単に出来るなら今までもやってましたからね、我々だけでは亜人の多い西の都までが偵察の限界でした。ですが……」


 宰相はマッドを見る。


「私ですか?」

「ええ、あなたが人間の国で暮らせるほど溶け込めてるなら、それを利用しない手はないかと」


 マッドに対し厳しい態度を取っていた宰相からの指示が出て、周囲ハラハラしながら見守る。


「私はこの国に住んでる訳ではないんですが……まあ良いでしょう」


 マッドが少し間を開けて了承の返事をし室内には一気に安堵のため息が漏れた。


「ではこれを。魔力を持つあなたなら魔力通信機の魔鉱石で発信できるでしょう」

「そうですね」


 宰相は机の上で魔鉱石を滑らせると、マッドは受け取る。


「勇者にルイン様の力が通用するのなら今はこれを勇者への対抗策とします。後は軍の兵力差ですが……」

「その様子だと何か手はあるの?」


 ルインは軍師に聞く。


「いえ、三倍の数となるとなかなか……なのでまずこちらも数を揃えるというのはどうでしょう?」

「数?」


 軍師は再び机の上の地図を指し説明する。


「周辺の亜人たちの多くが人間から被害を受けています。まず彼等を助けその後、協力を得るというのはどうですか?」

「なるほど、連合軍を作るって事か」

「時間はかかりますが……」

「数の差はどうにもならないし、俺も増やせるなら戦力を増やした方が良いと思う。異議のある者やこれ以外の提案がある者は?」


 ルインは室内を見回すが、手を上げる者はいなかった。


「私の住んでいる森の彼らにも、協力お願いしてみるわ」

「ああ、あの獣人たちなら協力してくれそうだ」


 ルインは森の中で会った獣人達を思い浮かべる。


「亜人街から逃げてくる者も、数多く居るらしいからな」

「これは上手くいけば、亜人街の住民をまるごと味方にできるかもしれない」


 会議室の中からは、様々な肯定の声が聞こえた。


「静かに、ではしばらくは勇者の調査と、戦力の増強に力を入れるという方向でよろしいですか?」


 宰相は取り仕切る。


「もう一つ、私は西の都の亜人達の支援を提案します」


 マッドは手を挙げて言う。


「なるほど、俺もそれに賛成です。都の亜人達に武器を与えれば、今混乱している西に他の都の軍を当てざるを得なくなります」


 マッドの意見に軍師も賛成する。


「だったら彼等に武器の扱いを教えるのはどうかな。腕が立つ者が増えれば混乱は長引くはず」

「分かりました。では支援の細かい事はまた後にして他にも意見がある者は?」


 手を上げる者はいなかった。


「ではひとまずは、人間達の動きの監視、こちらの戦力の強化、そして西の都の亜人達への支援という目的で動きます。また、戦火を逃れてくる亜人達も今後増えることが予想されます。我が国としては、そうした避難民の受け入れ体制を整える必要があります。この国にも、城壁の外に亜人街のような街を新たに設けた方がよいでしょう」


 こうして宰相がまとめ、ワドファーの目標は決まった。

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