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絶滅記  作者: banbe
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死返し3

 溜息をつきルインが歩き出そうとした時、パチパチと誰かが拍手する音が聞こえた。

 音の方を見ると黒いハットに黒い手袋、黒いコートを着て細い目をした男が拍手をしながら炎が燃え広がる宮殿から出てきた。


「いやぁお見事、まさかこの男を倒すとは……」


 ルインは怪訝な目で男を見る、視線を感じた男が慌てて自己紹介する。


「おっとこれは失礼、私はマッド・ワン。マッドと呼んでください」

「マッド?」


 名前を聞いてもルインは疑いの目を止めなかった。


「……決して怪しい物じゃありません、新聞記者です。ほらそこに転がっている兵長さんに自分の記事を書けと迫られ仕方なくここまでついてきたんです」


 記者が指を差すが、兵の死体は多くルインには見分けがつかなかった。


「ふーん……。で何の用ですか?彼等みたいに俺を殺すつもりなら話なんかかけないだろうし」

「あなたの戦いを見させて貰いましたよ。次から次とくる兵をバッタバッタと薙ぎ倒しついにはあの大戦士まで真っ二つ!」

「戦いって……俺はただ立ってただけだよ」

「そう!立ってただけ、立ってただけでこの結果」


 記者は両手を広げ周囲を指す。


「あんたは……」

「ただの人間ですよ」

「ただの?」


 全身真っ黒で胡散臭さ全開の記者を再び訝しむ。その視線に気づいた記者は慌てて弁解する。


「……安心してください、記者なんて仕事してるせいか国外の色んな考え方を知っていましてね。国に引きこもってる人間と違い人間至上主義ではないです。そんな事より私は貴方を取材したい!」

「取材ぃ?」


 突然の提案にルインは一気に引く。


「ここらの人間は民も兵もみーんな逃げました。そしてこの事はすぐに王都にも伝わるでしょう、南の都の宮殿を一人で落とした亜人として」

「俺は何もしちゃいない……」

「人間はそんな事信じないでしょう、そして記者として様々な種を見てきた私ですらあなたの種族は見たことが無い。だから知りたいのです」

「勘弁してよ……そんなことになったら俺はお尋ね者だ」

「いえ、既にあなたは追われる身になりますよ?こんな広間で被害者も目撃者も多数いる事件を起こしたのですから、すぐに身元は割れるでしょう」

「それは困る!そしたらポル婆や亜人街にも迷惑かけることになるし……」

「だからあなたはこれから逃亡しなければならないのです」


 記者はルインを指差して言った。


「正体不明の亜人が都の宮殿を落とし、それを取材した記者!私も有名になれます」

「俺にメリットがなさすぎる!」

「ですので!」


 記者はルインの手を取り興奮気味にまくしたてた。


「そこで私の取材です!あなたを記事にする許可を貰えれば、偽の情報を流し逃亡の手段とルートを教えましょう」

「……」


 記者の思いもよらない提案にルインは少し考えた後、記者に握られた手をほどき答える。


「だったらやっぱり無理だよ」

「おや、ここは承諾する流れじゃ……」

「別に記事にするのは良いよ、手を貸してくれるという事は少なくとも俺の不利になるような事は書かないだろうしね」

「ええ、こんな面白そうな話題の種をすぐダメにする様な馬鹿ではないつもりです」

「けど俺はあんたに教えれる情報は無い」

「というと?」

「俺は自分の事を何も知らない、どこで生まれたのかなんという種族なのか、この力の事も全く。全て不明じゃ記事にはならないしあんたにメリットは無いだろ?」

「なるほど……いえ、それでも記事にはなります。『この事件を起こした犯人は本人も分からない謎の種族』こう書けば娯楽に飢える豚共は勝手にああだこうだ考え、エンターテイメントにもなる。良いじゃないですか!」

「なら分かった」

「ええ、契約は成立です。あなたは自身も何も知らないという情報をくれた。後はこの事件の事を書けばしばらくは私の記事が一面を飾るでしょう」

「じゃあまずは俺はどうすればいい?」

「そうですね……まずは先立つものが必要です」


 記者は下に転がる死体を蹴り、仰向けにすると懐をまさぐる。


「何を……」

「これです」


 記者が手に持って見せたのは財布だった。


「彼等にはもう無用の物でしょう、逃亡中これが多過ぎて困るなんてことは無いはずです」

「な、なるほど……」


 二人はある程度死体から金を漁ると手には収まりきらない程の金銀銅貨を手に入れる。


「さすが宮殿前の大通り、皆羽振りがいいですね」

「俺の財布にはこんなに入らないよ」

「そうですね、では私が取材してた兵長の財布をいただきましょう。彼のは大きく頑丈でしたから」


 兵長の財布には金貨は何とか入ったものの銀貨銅貨はどう頑張っても持ち運べそうもなかった。


「では残りは私が失敬しましょう」


 記者は残りの金を懐に入れてしまった。


「さてここからですが……」


 そう言うと記者は兵の死体から鎧を外し自分に着けて、ルインには旅人のような商人から、顔が見えにくくなるようフード付きのマントを剥ぎ取って渡す。


「まずは人が居ない今の内に急いでここを離れます、そして逃げるにはこの国から出なければなりませんね」

「国外か、その前に一度亜人街に行きたいな……逃げる前に育ててくれた人にお礼を言いたい」


 ルインは顔を伏せてつぶやく。


「少しの間なら大丈夫だと思いますが……あまり時間をかけては亜人街の皆さんに迷惑をかけることになりますよ」

「そうだよな……」


 南の都をさらに南に行くと、国外へ続く大きな門があり亜人街は門の外にある。

 二人は逃げ惑う人間や、体制を整える兵達の目につかぬようやり過ごし、門へ到着する。

 避難した人間や兵は、南の都の西と東にある各都へ繋がる門や、北にある王都へ向かったので反対側に位置する亜人街の門付近にはあまり人が居なかった。


「兵は数人、あれなら無理やりでも行けるでしょう」


 物陰から門を見る二人。門は閉じられ、門の前では衛兵が二人話していた。


「はぁ~俺も応援の方に行きたかったなぁ」

「この大事だ、こりゃ王都からも兵が出るかもな」

「本当かよ、どさくさに紛れて俺も王都に行けないかなぁ……」


 やる気無さそうに喋っている兵の前に、記者とルインは堂々と出て行く。


「こんな所にまだ兵が余ってたんですね」

「なんだ?お前、見ない顔だな」

「王都から来た者ですから、住民誘導中に亜人が混ざっていたのでここまで連れて来たんですよ」


 フードを深くかぶったルインは記者に突き出される。 


「おおそうか、ご苦労だったな」


 人間の記者を信用したのか、兵は簡単に門を開ける。


「彼の住んでる所を確認したらまた戻ってきますので」

「あいよ!」


 二人は難なく門を通過した。


「人間同士ならこうもすんなり通れるんだ」


 門から離れフードを取りながらルインは言う。


「人間は権力に弱い者ですし、今は非常事態ですからね」


 二人はルインが育ったパン屋へ向かった。

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