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絶滅記  作者: banbe
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魔王1

 西の都の出入口。ルインと魔女は残った護衛兵に守られながら、馬車を探しに行った兵の帰りを待っていた。

 国外へ向かうために設けられていた馬屋は、ワドファー軍の進攻に伴う戦闘で崩れ、馬も四方に逃げ出してしまっていたからだ。

 そのため、数人の兵士が代わりとなる馬や馬車を求め、周辺を探しに出ていた。


 魔導師の亡骸は藁袋に包まれ、その傍らには魔女が静かに寄り添っている。

 やがて、捜索に出ていた兵の一人が、息を切らせながらルインのもとへ駆け寄ってきた。


「ルイン様すみません、もう少し捜索範囲を広げようかと。何分戦闘が激しかったもので……もう少し時間がかかりそうです」

「大丈夫だよ、それより離れるなら数人纏まった方が良いね。ここは敵地だから」


 魔女はその光景をじっと見ていた。


「あなた本当に王様になったのね。森を出た頃から比べると、違和感あるわ」

「ははは、これでもワドファーで色々勉強したんだよ」


 二人が話していると、都の出入口にワドファー兵の一部隊が通り、彼らはルインを護衛している兵から状況の説明を受けていた。


「これで三隊目だ」

「人間に抵抗できるチャンスですもの」


 状況説明が終わると、ルインに気づいた兵達は敬礼し、都の中心へ進軍していった。

 西の都の戦闘はなだれ込んだワドファー軍が優勢で、軍師が居た先行部隊はもう都の宮殿周辺まで到達しているという情報が入って来ていた。


 西の都の軍は、前日の亜人の反乱を収めようと準備していた。しかし、先程の都内での一斉暴発により指揮は壊滅。そこへワドファー軍の突入が西の都の混乱に拍車をかけた。その上、都の亜人達もワドファー軍に協力的で、現在は非常に有利に事が進んでいるという報告をルインは受けた。


「処刑台の広場ではあんなことになったからね、都の亜人達の不満が爆発したんでしょう」

「彼らも武器を手にしてるみたいだし、もう内戦に近いかもね」


 そう話していると、明らかに軍とは無関係な風貌の男が近寄って来て、兵士達は警戒する。

 男の顔は近づくにつれ徐々に明らかになっていく。はっきり認識できる距離になると、ルインは声を上げた。


「あ」

「おや、あなたは」


 現れたのは全身黒ずくめの男、マッド・ワンだった。


「ルインさんじゃないですか、お久しぶりですね」


 マッドは気さくにルインに近づこうとする、だが兵達は無関係の彼を通すはずはなく、行く手を遮られる。


「止まれ、民間人か。何者だ」

「ワドファーの兵の方ですか。私はルインさんの知人、マッド・ワンと申します」


 丁寧に頭を下げるマッド。

 その様子を見た魔女がつぶやく。


「あなたにもああいう知り合いが居たのね」

「南の都で少しね……」

「こんな所で会えるなんて偶然ですね。まさかこの事件の首謀者もあなたですか?」

「首謀者なんて……」


 マッドに対してルインの態度はよそよそしかった。

 魔女がじっとマッドを見ていると、マッドは物怖じする様子もなく魔女に近づいた。


「初めまして、森に住んでいる魔女ですね。お噂はこの国にも広がっていますよ」

「それはどうも、あなたは……」


 魔女がマッドを怪しんでいると、ルインがマッドの紹介をする。


「この人は……南の都を出る時に色々教えてくれたんだけど……」


 だが、そこで言葉が詰まってしまう。


「ふーん。あまりお近づきになりたくはないわね」


 ルインの態度を見てか魔女は、はっきりと言い放つ。


「これは手厳しい」


 ルインは魔女に人間を滅ぼすと言った手前、マッドと関わる事に躊躇いがあった。


「非常に言いにくいんだけど、彼はこの国に住んでいる……その、人間だ」


 その一言で、護衛達は一斉にマッドに武器を向けて構える。

 しかし、魔女だけは納得した顔をした。


「なるほど、あなたはここでは人間なのね」


 魔女の言葉に違和感を抱いたルインは、その意味を尋ねる。


「どういうこと?」

「さすが。高名な魔女は誤魔化せませんね」

「え?」


 ルインは魔女とマッドの会話に戸惑っていると魔女は、はっきり告げた。


「ルイン、こいつは人間ではなく悪魔よ」

「あ、悪魔?それってあの?そんなの存在するの?」

「ふふふ、こうやって堂々と姿を現す同胞はあまり居ませんがね。この国の記者は仮の姿、本当は人間の感情を糧にしている悪魔、マッド・ワンです。改めてよろしく」


 マッドは魔女に正体を明かされたにも関わらず、にこやかに頭まで下げ挨拶をする。


「その悪魔が何の用?」

「それは記者ですから取材ですよ。私の発表で人間は一喜一憂してくれる。人間の感情を好む悪魔にはこの職業は天職なんです」

「な、なるほど」

「マッチポンプじゃない」

「嘘は書いてませんよ。それに食料の確保は人間もやってる事でしょ?農業や畜産という形で。私からすればここは人間牧場ですね」


 その発言に魔女は呆れ、ルインは苦笑いした。


「まあ見つかれば殺されちゃいますが」

「な、なるほど……でもチウィーさん。悪魔って大丈夫なの?」

「まぁ少なくとも今は、人間より危険はないでしょう」

「なら……」


 ルインは護衛達に武器を下すよう指示を出す。


「敵の人間でなく安心しましたか?さて、さっそく取材なんですが、今回の事件もルインさんが?」

「……どうなんだろう、今回はちょっと色々あって、何が起こってるのか俺も把握してないんだ」

「ここまで都の中を通ってきましたが、既に町中は戦場と化してます。この都の領主が死んだという報告もあるので、私はてっきりルインさんがやったと思ったのですが」

「何度か聞いたけど本当なの?それ」


 領主、マリアの死の話を再び聞き魔女は確認を取る。


「死因については魔女の呪いだとか色々言われていますが、死自体は本当らしいです」

「まさかさっきの光が……」


 ルインは自分の手のひらを見る。


「何か、心当たりが?」

「ちょっと不思議なことがあってね……」

「フム……良い機会です。南の都を出た後の話、聞かせていただけますか?」

「……分かった、都から出た後……」


 ルインは南の都からマッドと別れた後の事を簡単に話した。


「今王をやっているのですか、凄いですね!」

「目的もなく流されただけだけどね」

「普通なら絶対体験できない事ですよ、そして今回の件はなかなか根が深いですね……」

「これも記事に?」

「ここまで大事だと全部は無理ですね。ですが領主の事とこの戦闘の事は面白おかしく、人間の感情が動く様まとめましょう」


 話が終わるタイミングで、護衛達が数頭の馬と馬車を発見し、ルインの元へ戻ってきた。


「ルイン様、とりあえずこれでワドファーに帰れます。王が使うには粗末ですが……」

「いやこの状況じゃ仕方ない、ありがとう。戻ろう」


 ルインの言葉ですぐに帰り支度が始まる。


「……本当に王をやっているんですね」

「なんでみんなそれを言うんだ……」


 魔導師の遺体、帰り分の食糧など、必要な物を積み支度は完了した。


「なかなか面白そうですね、私も連れていって貰っていいですか?」


 マッドはルイン達の帰国に同行を求める。


「えっ、いやどうだろう……」

「ルインさんの許可、つまり王の判断があれば、問題ないのでは?」

「俺は単なる代理だよ、決定権はあまりない」

「止めておきなさいよ、まず悪魔なんてあの入国審査が厳しい国に入る許可なんて出る訳ないだろうし」

「私は役に立ちますよ、人間としてこの国に住んでいるので情報を集めることも出来ますし」


 魔女はマッドを睨むが、マッドはにこやかに躱す。


「うーん、俺の一存じゃ決められない。とりあえず連れては行くけど、入国できなかったら諦めてね」

「それでもいいですよ。私は取材したいだけですから」


 こうしてマッドもワドファーに同行することになった。

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