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絶滅記  作者: banbe
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魔女の火刑1

 西の都広場にて、ルインは大勢の人だかりの中にいた。

 フード付きのマントを被り旅人に見立てた格好で、処刑を見に来た人達に溶け込んでいる。

 変装の服や鞄は、昨夜荷物をまとめる手伝いをしたウェルから貰った物で、ルインはその時教えてもらったアドバイスを思い出していた。


『この都は昔、亜人街との境は無かったので小路に行けば行くほど複雑になっているんですよ、そこを行けばもしかしたらうまく逃げられるかも』


 処刑を見に来た周囲の人達は、お祭りを見に来た様にウキウキしながら話していた。


「いやー公開処刑は久しぶりだなぁ」

「最近は治安も良くなって来たから、処刑を見る機会も少なくなってきたもんな」

「戦争になったらまた増えるんじゃないか?」


 この国では公開処刑は娯楽の一種で、ルインも南の亜人街に居た時から見る機会はあった。

 この日の公開処刑は、時間までは公表されておらず、日が高くなっても処刑は始まる様子は無かった。そして徐々に時間だけが過ぎて行った。

 人々が待つのに疲れ帰る人も現れ始めた頃、ようやく広場に兵達が現れる。


 兵に連れられた魔女はボロボロの姿で口元や両手を縛られ、それを見たルインは怒り、拳を握った。

 数人の兵は処刑を見に来た人々をかき分け、処刑台に向かう。

 現れた魔女に、敵意をむき出しにする者や、処刑見たさに喜ぶ者など、反応は様々だった。

 ルインは近くまで移動しようとするが、人混みでなかなか前に進めず、その間に魔女は広場の中央に設置された処刑台に到着し兵達数人と処刑台に上がってしまう。

 処刑台に上がった兵の一人が大衆に向かって大声で話す。


「今回の処刑は今までと趣きを変え斬首ではなく火あぶりとする!」


 そう宣言すると、他の兵達は魔女を大きく太い棒に張り付け、足元に薪をくべた。


「もうはじまっちゃう!」


 ルインは急ぎ近づこうとするが、処刑台に近付くほど人混みは厚くなり、思うように進めず焦り出す。

 手早く準備を終わらせた兵達は、魔女と松明を持つ兵だけが残り他の兵は処刑台を降り準備は整ってしまった。

 処刑台から降りた兵は、広場に集まった人を近づかせない為警備を始める。


「これより国に反逆した魔女への火刑を開始する!」


 台の上にいる兵が松明に火をつけ大きく宣言すると、待ってましたとばかりに人々が歓声を上げる。


「間に合わない!こうなったら!」


 ルインは宰相から貰った爆弾を空に向かって思い切り投げる。

 爆弾は上空で爆発し、その音に驚いた人々は一瞬静かになった。その隙にルインは大声で叫ぶ。


「その処刑待て!」


 周囲の注目は一瞬でルインに集まり、周りの人間が引いて処刑台へと道が開く。


「俺は彼女の友人だけど彼女はどうして処刑されるんだ」


 ルインは処刑台に近づきながら警備している兵達に問いかけると、他の兵とは違う装飾の男が処刑台の前に立ち言った。


「国家反逆罪だ、この都の領主であるマリア様に立てついた」


 ルインの姿を確認した魔女は、男の言い分に反論するように唸り声をあげるが、口は縛られ言葉が出せずにいた。


「それだけ?」

「十分な理由だ、そもそも都に亜人なんぞ……王都の裁判官である私が来たからには少しずつ綺麗にしていかなくてはな」


 男は亜人の混じる群衆を見て呟く。

 ルインの近くにいる亜人達は、男の登場に「嫌味野郎」や「無能裁判官」などの陰口を叩き、男は好かれてはいない様子だった。


「罪人はこの国の民ではないし、生かすも殺すも我等の勝手だ。この魔女と知人という事はお前もこの国の民ではないな?」

「そうだがこの国では、国外の罪人は好きに命を奪えるのか」

「ああ、だからお前も裁判などせず魔女と一緒に燃やしてやる!捕らえろ!」


 男の命令で兵達はルインを囲む、だがルインは気にせず処刑台へ走り出した。

 ルインを捕らえようと兵達は警棒を手に、殴ろうとするが人混みの中上手く武器を振るえず、お互いが邪魔をしてしまう。


「なにをやってるんだ!」


 その光景を見た裁判官は焦り、台の上に残っていた松明を持つ兵に命令する。


「お、おい!早く火をつけてしまえ!」

「待て!」


 ルインは急ぐが魔女の足元の薪に火を付けられてしまう。


「待つのはお前だ!」


 裁判官の男は懐から銃を取り出す。


「近づけさせはせん!」


 ルインに向かって引き金を引くが、弾はルインの後ろにいる女性の亜人に当たってしまった。


「へたくそ!後ろに大勢居るんだぞ!」


 ルインはそう言いながら裁判官の横を駆けていく。


「何を!おいお前、そいつを止めろ!」


 裁判官は処刑台で火をつけた兵に指示する。

 ルインは急いで処刑台の上に登るが、燃料が撒かれていたのか火の回りが早く、既に魔女の膝にまで火が回っている状態だった。


「んんんんんん!」


 魔女は口を縛られながらも悲鳴を上げた。


「チウィーさん!」


 横にいる兵を無視してルインは火元の魔女の足元の薪を蹴飛ばし、体の火も手で払った。

 魔女にかかっていた火は消えたが、処刑台上に居た兵が松明を振りかざしてルインに殴りかかる。

 だが松明を勢いよく振り被ったせいで火の粉が兵自身に飛び、兵の体中に火が回り倒れた。

 ルインはマントに隠していた短剣を抜き、魔女を拘束していた縄を斬り口枷を外す。


「ルイン……ありがとう」


「おい!誰か応援を呼べ!」


 感動の再会もつかの間、裁判官は指示を出し、処刑台の上に兵と共に登ってくる。


「そのまま逃げられると思うなよ」


 二人は兵には囲まれるが、裁判官の言葉を無視しルインは魔女を心配する。


「足の火傷が酷いね……」

「魔法さえ使えればすぐ治せるけど……」

「そうか、あの魔法を封じる弾が撃たれてるのか。ともかくここから脱出しないと」


 話しているルインに、裁判官が近くに落ちていた燃え尽きた薪でルインの後頭部を狙う。


「亜人風情がいつまでも無視しやがって!」


 だが薪は後頭部に当たる事は無く、代わりに裁判官の男の後頭部に石が直撃していた。

 頭を打った事で裁判官はよろけ、処刑台の上からみっともなく転げ落ちてしまう。


「クソ!誰だ!」


 石を投げたのは、先ほど銃弾が誤って当たった女性を抱えた亜人の男だった。


「貴様!これは重罪だぞ!」


 裁判官は亜人の男を指さし怒鳴る。

 だが亜人の男は反論する。


「あんたが俺の娘を撃つのは犯罪じゃないのか!ここを通してくれ!娘を医者に連れて行く!」


 亜人の男はそう言って撃たれた女性を抱えその場を離れようとするが人間達に囲まれる。


「裁判官に逆らったこの亜人たちも一緒に処刑だ!」

「そうだ、その方が面白い!」

「やめてくれ、ちょっとやり返しただけだろう!」


 亜人の男がたじろぐが、見かねた周囲の亜人は男を擁護し守る様に集まりだす。


「彼女は撃たれたんだ通してやれよ!」

「先に手を出したのはあの裁判官だろ」


 広場は亜人と人間に割れ、諍いが始まりそうになる。

 だがそんな中、亜人達に裁判官は宣言する。


「丁度良い!私に危害を加えた者と擁護する者は罪人だ!まとめてこの場で処刑する!」

「そんな!横暴だ!」

「俺達はこの国の民だ!そんな事許される訳ないだろ!」


 亜人達は口々に言う。


「黙れ!人間の成り損ないなんかに裁判を受ける権利なんてこの国にある訳ないだろ!」


 裁判官のその言葉が辺りに響くと、場は一瞬凍った。


「……あーあ、寄りにもよってこの都でそれを言っちゃった」


 魔女は呟く。

 裁判官の一言は今まで待遇に不満だった西の都の亜人達を爆発させるのに十分な物だった。

 先程の撃たれた女性の亜人を擁護せずただ見ていた亜人達も、その言葉を聞き一気に人間に反発しだす。

 人間と亜人の対立の波は処刑台のある広場全体に広がっていた。


「良識のある人間達は辺りの亜人共を捕らえよ!」


 広場は一気に人間と亜人が対立する戦場と化した。

 その光景に見かねたルインは裁判官に抗議する。


「同じ国民でも相手によって内容を変える!それが人間の国の法か!」

「そうだ、人間の人間による人間の為の法であってお前達人外に適用されるはずがない!」

「種族や立場で変わる法なんて、規範として破綻している!お前達が自分達に都合の良い勝手な決め事を法と言い張るなら俺達も同じ事をさせてもらうぞ!」

「貴様!人間の法を愚弄するのか!私は法の代弁者だぞ!」

「愚かなのは法じゃなく法を自分達の都合の良いように解釈しているお前達だよ!」

「人間以下の畜生が偉そうに!お前さっきから何者だ!」

「俺の名はルイン!ワドファーの新たな王だ!法を名目に殺戮を繰り返す集団を倒しに来た!」


 ルインは処刑台の上でマントを脱ぎ、広場に響くように名乗り出た。

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