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絶滅記  作者: banbe
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王様のコッペ5

 翌日、ウェルは店を開けずルインと一緒にパンを作る。

 ルインは店の心配をしたが、ウェルは仕事の片手間にやるより集中して教えてもらいたいと返した。

 しばらく二人で手順を確認しながらパンを作っていたが、流石に店を構えているだけあってルインが改めて教える事など殆どなかった。

 あえて口を出したのはパン生地のこね方と叩き方だ。

 これは本では詳細には載っておらず、ウェルは幼い頃の記憶を頼りに何とか形にしていただけだった。


「なるほど、きちんとやればこんなにも違いが出るのか」

「その日の空気の乾燥とかも関係するからその辺は経験を積むしかないかな。今日は空気が乾いてるから水分を多くした方が良いかも」


 焼き上がったパンは、今までの味は変わらないものの、ルインが作った物のように風味と食感がより良くなっていた。


「こね方だけでこんなに変わるとは……」

「この辺は本来、見て覚えるものだからね」

「なら次はコッペの作り方を!あれはワドファーに行ったらメイン商品にするんだ」


 続いてルインはコッペの作り方を教える。


「しかし俺と年はそんなに変わらないのに本当にしっかり作れるんだなぁ。一体どんな所で手伝ったらこんなに上達できるんだ」


 パンを焼いている間、ウェルはルインに話す。


「んーあまり詳しくは話せないけど、俺にパン作りを教えてくれたのは竜族なんだ」

「あーなるほど色々納得した」


 ルインは頭にクエスチョンマークを浮かべた。


「竜族っていうのは長命種に代表されるほど長い寿命を持つ。この地に人間が栄える遥か前から存在してるとも言われてるし、そんな種族が今の俺達にも分からない技術を持っててもおかしくはない」

「そんなに凄い技術や技巧を使ってたとは思えないけどなぁ」

「後は単純に時間による経験かも」

「経験?」

「例えば三百しか生きられない種族は五百年パンを作ってる種族に絶対にその経験に追いつけない、それこそ一生かけても」

「なるほど」

「でもルインさんはずっとその人のそばでパンを作ってたから、俺達よりもかなり高いレベルなのかも……」


 ルインはパン屋に居た頃を思い出していた。


「それでちゃんと役に立ててたならうれしいな」


 その日の夕食は二人で作ったパンになった。


「これが俺の作ったパンか、今までの物と違うな」


 パンを食べるウェルは、今まで自分が作ってたパンとの違いを文字通り噛みしめていた。



 次の日の早朝、いつもより気合が入ったウェルが厨房に居た。


「さあ、今日は生まれ変わった俺のパンがこの街に登場する日だ!」

「おぉ……頑張って」


 ウェルの高すぎるテンションに、ルインは少し引き気味だった。

 しかしパンの制作中はウェルは至ってまじめで、不安な所や疑問点などしっかりルインに聞いて真剣に取り組んだ。

 そしてパン屋は開店する。この日は最初から客足が多く、明らかにいつもとは雰囲気が違っていた。

 そこには一番最初にルインの作ったパンを売った女性もおり、女性はウェルに話しかける。


「何か変わったパンを売った次の日急に休業でしょ?買った後周りにも勧めちゃったし変な物掴まされたと思って心配したのよ」

「ああそうか、これは少し配慮が足りなかったかも。いやあ、あのパンを出した後、もっと自分はレベルアップできると思って丸一日修行してたんですよ」


 よく見ると、店に来ていたのは以前コッペを買った客達だった。


「なので王様のコッペは元より、今までのパンもおいしさがパワーアップしてまいりました!」


 数人の客の前でウェルは誇らしげに言うが客達はポカンとしていた。


「ま、まあおいしくなるのは良い事だからな」

「そ、そうね何もないならいいわ」


 あまりに自信ありげに言うので、客たちは反応に困り、あえて触れずにおくことにした。

 それからは、先日のウェルのしつこい宣伝や客の口コミのおかげか、コッペを買いに来る客が多く見られた。

 その中にはウェルの友人達も居たようで、度々会話していた。


「凄いな、前来た時より客が多いじゃないか」

「パン作りの腕が上がったのさ」


 そんな言葉に友人は呆れた顔をする。


「いつも手伝ってるフェンは?」

「あーちょっとな、今は居ないんだ」

「そうなのか?しかし惜しいな、明日魔女の処刑があるってさっき広場で発表されたんだけど」

「明日!?」


 ウェルは驚いて一瞬声を上げてしまい、それはルインの居る厨房まで聞こえる。

 ルインはすかさず売り場の会話に耳を澄ませる。


「どうしたそんな驚いて」

「い、いや急だったから。フェンも楽しみにしてたのにタイミングが悪いなぁ」


 ウェルは何とか平常心を保ち会話を続ける。


「魔女はこの国の民じゃないからな、なんか敵国になったワドファーの関係者って噂もあるから、向こうに話が行く前にやろうって事じゃないか?」

「そっか……明日は行けたら行くよ」

「なんだ、久しぶりの公開処刑なのに乗り気じゃないのか」

「フェンが一緒じゃないからな。それに店も波に乗ってきたし」

「時間は昼って言ってた。まあ気が向いたら来いよ、話によるといつものと趣きが違うらしいぜ」

「ああ、教えてくれてサンキューな」


 友人は幾つかパンを買って帰って行く。

 この日も、パンは夕方までに全て売り切れた。

 ウェルは早々に店仕舞いし、奥の厨房に居るルインに話しかける。


「ルインさん」


 ルインも待ってたのか厨房も片づけは終わっていた。


「さっきの友達との話、聞いたよ」


 二人は頷きながら奥にある食卓へ移動する。

 最初に切り出したのはウェルの方からだった。


「いつも処刑は一週間くらい前から住民に知らされるんだけど……」

「俺は明日の昼前には行かなきゃ」

「そんな!準備もなしに行くなんて!」

「元々俺が飛び込むだけの作戦だったんだ。準備なんて要らないさ。ウェルの方こそすぐにワドファーに行けるのかい?」


 ウェルは首を振る。


「下準備はしてたけど明日いきなりは……」

「俺が騒ぎを起こせば、都は大混乱になると思う……」

「それまで出られるよう急ぐよ。ルインさんは明日の事に集中してくれ」

「分かった、ありがとう」

「あ、でも」

「?」

「荷物まとめるの少し手伝って欲しいなーって……」

「それくらいならいいよ」


 ルインは苦笑いしながら答えた。

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