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絶滅記  作者: banbe
23/53

チェックメイト1

 王の就任から、ルインは忙しい日々を送っていた。

 亜人街で育ち、パンしか作ってこなかったルインは、圧倒的に常識が不足しており、最初の内は宰相も講師も教育に苦労した。しかし物覚えは悪くなく、図書室の知識をどんどん吸収していく。


 また王としての国民の前に出た当初は、国民から不信の目で見られていたが、積極的に外に出ることで顔を覚えて貰い、持ち前の腰の低さで徐々に民とも打ち解けて行った。


「ふぅ疲れた……」


 図書室の奥は、隠し部屋になっており、ルインと宰相や一部の者しか立ち入る事は出来ない秘密の部屋になっていた。故に王の仮面をかぶるルインにとって数少ない気を抜ける場所となっていた。


「ご苦労様です、ルイン様」


 普段の立ち振る舞いに厳しい宰相もここでだけは、ルインがだらけるのを見逃してくれる。


「国民の反応も徐々に良くなってますね」

「まだ顔見せに大通りを歩いてるだけだけどね。受け入れてくれるのはありがたいよ、俺自身自分が誰かなんて知らないのに」

「我々国の上層部が、王位も無い他人を勝手に王にしてしまいましたが……根回ししてるとは言えこんなに反発が少ないとは」

「色々一度に発表しちゃったからなぁ」

「……国公式の発表はワドフ前王の死去と、新王のルイン様の発表だけですが」

「そうだった」


 宰相は公式の発表とは別に、幾つかの噂も国中に流していた。

 王を殺した犯人は人間、新王の就任は前王の遺言、現王は単なる代理など、真実を噂として流す事で国民に事実を教えた。

 またあくまで噂なので、これを人間に聞かれても問題はなく、もし人間の耳に入り軋轢が生まれても、単なる噂と一蹴できる形にした。


 特に王を殺したのが人間という部分、これは同盟である両国のバランスを崩しかねないデリケートな部分で、今公式に発表してしまえば両国に決定的な亀裂が生まれてしまう。なので噂という形でしか事実を広める方法がなかった。

 厄介な事に王を殺した実行犯は、西の都の地位のある人物だったのだ。


「犯人は?」

「国に帰せの一点張りで」

「えっと、盟約では……」


 ルインは人間の国との同盟の盟約が書かれた書を開く。


「互いの国で出た犯罪者は自国に帰し、裁くというのが決まりですね」


 宰相は書の該当部分を指す。


「最も人間はそれを守っていませんが」

「向こうで勝手に裁いてるって事?」

「ええ、追及しても行方不明としか返ってきません」

「裁かれた人は?」

「正式なルートでは誰一人戻ってきません、なので今回我々は人間が盟約を守る気が無いと判断し人間に倣います」

「じゃあ今回の犯人は」

「引き渡さずこちらで尋問し、裁きます。自国の王殺しの犯人を他国に任せるなどありえない!」


 宰相は珍しく語気を荒げ強く言い切った。


「しかしそうなると追及されるのは目に見えてます、なのであなたにはしっかり勉強していただかないと」

「その追及を躱すのが俺の仕事かぁ」

「あなたなら多少のことを言っても、暗殺に怯える必要が無いですからね」


 実際、ルインが国中に姿を見せる中、すでに五度ほど暗殺未遂と見られる事件が発生していた。


「人間にとってこの国の王はそこまで邪魔なのか」

「この盟約のせいでしょう」


 宰相は書の別のページを指す。

 そこには互いの国に何かあった時、代理として同盟国が国の運営を手助けするという内容が書かれていた。


「これが一体?」

「文面だけ見れば助け合いだと見えますが、我が国と人間の国では規模が違います。万が一彼等の国で何か起こっても、我々が出る幕はないでしょうね」

「それはこの国も一緒じゃ?現に王が俺でも機能してる」

「それは前王があなたを後継者に指名したからです。本来ならこの盟約通り人間の国から使者が来ていました。そうなれば最終的にあっという間にこの国を牛耳ろうとするでしょう」

「侵略じゃないか」

「人間は魔鉱石が取れるこの地と、加工できる技術者を前々から欲しがっていました。そんな彼等がこの好機を逃さないでしょう」

「この国は単なる労働力くらいにしか思われてないんだね」

「今後、ここに書かれてある通り王にもしもの事がありその後、後継者が決まらなければ、人間はどんどん人員を送り込んでこの国を支配しようとするでしょう。もし断れば盟約破棄を理由に、堂々と攻めて来てどちらにしてもこの国は人間の手に落ちます」

「今も狙われてるし、本当に俺が死なない事が前提なんだな」


 ルインは予想以上のプレッシャーにうなだれた。


「そういえば前に言ってた王様の息子って?その人は狙われてないの?」

「彼は今遠い地に居ます、命の心配はないでしょう。ですが性格的にあまり王には向いてなく……どの道すぐに表に出られる状態ではないのです」

「安全ならよかった、ここに居れば確実に命を狙われただろうし」

「大変遺憾ながら、現在の我々では抵抗も糾弾も出来ない、これが国の力の差です」

「でも俺が王になったからって、この国が強くなる訳じゃないよ」

「しかし時間は稼げます。少なくとも我々は今回の事件、泣き寝入りするつもりはありません」



 そしてある晩、城の地下の牢獄で王殺しの犯人の尋問が行われた。

 犯人は目隠しされ、両手両足を椅子に括りつけられた姿で、牢の中央に座らされていた。


「こんな時間に尋問か、それにこの拘束……盟約違反ではないのか?」


 目隠しをされている状況でも、犯人の声に恐怖の色は無かった。


「盟約には反しません、あなたはあの事件の後早々にこの国を出立、国外で行方不明になったのです」


 二人の大男を連れ、犯人の前に立つ宰相は言う。


「は?貴様何を……」


 宰相が連れて来た大男の一人が、犯人が言い終わる前に水を掛ける。


「ゴホッなんだこれは!」

「順序良くやって行きましょう、あなたは我々の質問に答えてください。まあ現行犯なので減刑はないですがね」

「貴様!これは拷問だろ!明らかな盟約違反だ!」

「……王が受けたあの爆発と毒はなんなのですか?いったいどこから入手を?」

「クソッいいから離せ!」


 男にまた水が掛けられる。


「ブッ、このっ……!」

「何故王にあんなことを?」


 宰相は淡々と質問を続ける。

 しかし、数分経っても宰相の質問に犯人は答えなかった。


「……この獣臭い人外共が……!」

「やはり我々のやり方では温いですかね、おい」


 宰相は牢の中に一人の男を呼ぶ。


「彼はお前達に捕らえられていた我が国民だ。人間達の報告では行方不明と聞いていたが……なんとか逃げ出したところを保護した」


 大男の一人が犯人の目隠しを取り、呼ばれた男を犯人に見せる。

 呼ばれた男の体には様々な拷問の後が残っていた。


「彼にはあなた達の国で受けた行いを聞いていきましょうか」

「待て……やめろ……そいつに喋らせるな……」


 その言葉を聞いて犯人は初めて怯えた声を出した。


「俺が受けたのはまず……」


 拷問跡の男がボソボソと喋り出す。


「分かった!喋るから!」

「それはどうも、では始めますか」


 それから数時間、地下には悲鳴が響いた。


「さて、そろそろ切り取る部分も無くなってきましたね」


 拘束された犯人の身体には火傷、切傷、打撲など色々な傷が出来ていて部位の欠損も見られた。


「た、頼む……もうやめてくれ。全部喋ったじゃないか……」


 所々歯が無くなった口で、犯人は必死に許しを懇願する。

 その横で、宰相は涼しい顔をしながら記録を取っていた。


「そうですね、様々な自供をいただきましたし、尋問はこのくらいにしておきますか」


 その言葉を聞いた犯人は安心する。


「では次に刑を執行します」

「お……おい、裁判もなしにいきなりそんな……」


 ホッとしたのも束の間、宰相の言葉に焦る犯人。


「あなたは裁判なんてしましたか?」


 宰相は尋問を指示していた傷だらけの男に聞く。


「いえ……いきなり拘束されそのまま連れて行かれました。裁判らしいことは特に」

「では人間のやり方に特に間違いは無いようですね」

「そんなの亜人だからに決まってるだろ!我々人間には公正な裁判が……!」

「だから間違ってないでしょう?あなた達の国は他国民にそうするのですから、この国の他国民である人間には、同じ目に遭ってもらいます。国として良い所は積極的に取り込んでいかないと」


 犯人の顔が絶望に染まった。

 その後夜が明けるまで地下室の悲鳴は止むことは無かった。



 翌日、ルインと宰相は図書室の奥の部屋に居た。


「犯人が全部吐いてくれましたよ」


 宰相の顔は少し疲れていた。


「おつかれ、大丈夫?」

「ご心配なく、むしろ王の仇を取れて清々しい気分ですよ」

「そっか。で、自白内容は?」


 宰相は犯人から聞き取り書いていた紙を取り出し、犯人が自白した内容を並べていった。

 まずは動機、端的に言えばこれは上からの命令だった。

 しかし、その上とは誰かという事は分からなかった。命令は何人もの手を介して伝えられており、誰が本当の発信者かは分からなかったのだ。

 実行犯の男は、西の都の外交官で、土産と称した爆弾を王に渡すという命令を受けていたという。


「この件を追及しても、人間は責任を問われそうな者を処分して終わらせるでしょう。あるいは、都合よく他の種族に罪をなすりつけるかもしれません」


 犯人の外交官の男は捨て駒だった。

 次に使った武器だが、現在人間の国では、魔力を持たない一般兵でも強力な攻撃を行えるように、魔獣の力を応用した武器の開発が進められていた。今回王に使われた爆発物も、その試作品が使われたと犯人は自白した。


 残骸や犯人の証言から王に使われた武器には、ボマービーに似た力が使われている事が分かった。


「この武器は中に入れる物の種類や容量によって威力や性質を変えられるよう作ってますね」

「そんな武器が開発されてるのか……」

「真の犯人は分かりませんでしたが、やはり人間はこの国を狙っています」

「これから打って出るの?」

「いえ、あなたが王として学び終わるまで、下準備に専念します」

「下準備か……」

「ですが急いでください、人間の王はワドファー新王に面会を求めてます。今は着任したばかりなので待ってもらってますが、長くは持ちませんよ」

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