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絶滅記  作者: banbe
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ワドファー5

 夕方、鉱山の南側に到着し馬車から降りると、ルインには二人の兵をお供に付けられた。


「この二人は北東の出入口まで君を連れて行き、作戦開始までは君の世話、開始後は君が女王の間までの援護をやらせる。会議室にも参加してたから作戦は全て熟知している。何かあればこの二人に聞いてくれ」


 軍師から紹介された二人の兵は、ルインに向かい敬礼しながら挨拶した。


「さて、我々はここで出来る限り多くの蜂をおびき寄せる。その隙に速やかに奥の女王を倒してくれ。頼んだぞ」

「分かった!」


 ワドファーの軍は南から西に広がり、ルインはそこからさらに北東へ移動する事になる。

 その日は作戦の核であるルインは移動に専念し、ワドファー軍はその間に作戦の準備を進めることにした。作戦決行は翌日早朝からとなった。

 北東に向かう途中、ルインはお供の兵士から人間達の事を尋ねた。


「そういえば人間達の軍は大丈夫なの?俺との協力がばれたら……」

「人間達は最初だけしか参加してないさ。いきなり出張ってきて、魔獣に勝てないと知ってからは街に戻りずっと居座ってる」

「彼等が言うには国からの指示待ちだとか……」

「そのせいで街の治安も悪くなるし、奴等が来ても本当良い事ないよ」


 二人の兵も人間を疎ましく思っているのか、歯に衣着せぬ物言いで人間の振る舞いに愚痴をこぼした。


「今回の作戦は突発的に決まりましたからね、どのみち奴らは本国の命令でしか動かないし、その間に解決してしまおうという事です」

「ふーん、バレないならそれで良いか」

「では今回の作戦の肝を説明します」


 お供の兵士によれば、今回一番大事なのは鉱山を崩さないことだ。

 しかし相手は爆発する蜂、故に現在までかなりの苦戦を強いられてきたのだが、単体で確実に女王を倒せるなら話は別。

 ボマービーの女王は爆発しない個体、女王の間に入りさえすれば部下の蜂達も女王を巻き込み爆発はせず、仮に別の攻撃をして来ようものならルインの力で倒せるという話だった。


「君にそんなすごい力があるのなら、最奥の女王の間にさえ入ってくれればどうにかなると軍師殿も考えている」

「出来れば穏便に済ませたいので道中は見つからないのが一番ですけどね、見つかってしまったら強硬突破します」

「なるほど……」


 説明を聞いている内に三人は目的の鉱山出入口付近に到着する。

 辺りはすっかり暗くなっていた。


「あれがボマービー」


 馬から降りた三人は、岩場の影からルインが鉱山の入口を覗くと腹が大きく膨らんだ赤い一メートルくらいの蜂が鉱山から出入りして居るのを確認する。


「奴らは鉱山から離れようとしないので、ここまで来ることはないでしょう」

「今夜はここで野宿だ、あんたは作戦の肝なんだから周りの事は俺達に任せてしっかり休んでくれ」


 兵の言葉通り夕食も寝床も全て整えられ、野宿にも拘らず、ルインは不便を感じなかった。



 ワドファー王城。まだ日が昇る前、城内ではちょっとしたパニックになっていた。

 ワドファーの王に四人の人間が謁見しに来たのだ。


「な……何故貴様達が……」


 王の隣に立つ宰相も、その四人を見て明らかに動揺していた。


「魔鉱山の件を解決しに来たのよ。私達はもうみんな、それぞれ立場のある職に就いてるって言うのにねぇ」

「それに、こっちの国の王直々の命令だからな」

「まあまあ、魔鉱石が少なくなると私達も困るでしょう?」

「……」


 それぞれ、金髪ロングヘアの大きな杖を持つ女性。

 長い銀髪の整った顔立ちの知的な男性。

 青みがかったセミロングの控えめな言動の女性。

 そして、周囲を威圧する程迫力のある特徴的な剣を持つ無口な黒髪の男性。


 全員の年齢は四十代から五十代。しかし全く衰えを感じられず、むしろ年齢相応の凄味をまとっていた。 

 他国の城にもかかわらず、無口な男を先頭にした彼等人間は、緊張感のない口調で王と話す。


「私達が今日中に終わらせるわ。現場に向かう前に一応こっちの国にも報告したわよ」

「すいません、私達も忙しくて……終わったらそのまま帰らせて貰いますので」


 四人は王と宰相にそれだけ言うと王城を出て山に向かった。


「あ、あれが勇者達か……再びパーティを組むとは」

「ああ、まさか人間たちがこんなに早く動くと思わなかった……」


 王は拳を握り苦い顔をした。


「ルインがあの四人に見つかればまずいことになるな。インテよ」

「……手配犯を隠していた。それだけならまだしも、共犯と思われれば同盟そのものが危うくなるでしょうね」

「っく、最悪のタイミングだ……」


 王は堪らず玉座の肘掛けを拳で叩いた。

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