ワドファー3
魔女とルインはワドファーの中央にある大きな城の中にいた。
「これはいったい……」
周囲に兵は居るが拘束はされず、それどころか目の前の大きなテーブルには豪勢な料理が並べられており、明らかに歓迎されているようだ。しかし何の説明もなしに連れて来られたので戸惑う二人に対面し座る大男が言う。
「ははは!いきなりでビックリしたか!」
突然連れて来られた上に、豪勢な歓迎で違和感に怪しむルインは大男に問いかける。
「ここが国の城なのは分かるけどあなたは?」
ルインの一言でその場に緊張感を生んだ。兵達は持っている武器を構えるがそれを大男が手で制する。
「そういえばまだ名乗ってなかったな」
「しかし自分が居る国の王の顔を知らないのは失礼では?」
話をさえぎるように、会話の途中で部屋の奥から眼鏡をかけた男が現れた。
「この方はこのワドファーを統べる王、ワドフ様だ!」
「えっ、国の王様?」
ルインは驚く。
「お久しぶりですね」
魔女は以前にも面識があったのか軽く会釈し、挨拶する。
「そして私は宰相のインテ。お見知りおきを」
宰相はルインに頭を下げ丁寧に挨拶をした。
「森の魔女よ久しいな、お前の師には世話になってる。随分前にこの国を出たと聞いたが……」
「みたいですね、私も師に会いに来たのですが」
「空振りという訳か。さて本題だ、下手なごまかしはするな。先程人間の兵が言っていたが、お前は本当に人間の国の都を壊滅させた者か?この国に来た目的も話してもらおうか」
ワドフはルインをまっすぐ見ながら問う。
今までの対応と違い鋭い眼光で見られたルインは硬直し、不安そうに魔女を見る。
「チウィーさん……」
だが魔女は、静かに首を振る。
「王をごまかす事は出来ないわ、正直に話して」
魔女の言葉を聞いたルインも、王をまっすぐ見返しはっきり答えた。
「……結果的にそうなっただけで俺がやった訳じゃありません」
「ではその過程も聞こう」
王はこれまでに起こった事を話す様ルインに促し、ルインは人間の国の事からここに来るまで出来事順に語った。
「なるほど、さしずめ相手に被害を返す力というところか」
ルインの話を聞いた王は顎に手を当てながら、ルインの力を推測する。
「インテ、どう思う?俺は使えそうだと思うが」
「……詳細が不明でどんなデメリットがあるかも分からない、不安ですね。それにその容姿は?手配書と違う様ですが」
続けて宰相は不安要素を挙げ、ルインの全身をじっと見て指摘する。
「それは……化粧とかで変装を……」
決して褒められないような入国の仕方を聞いて王は、笑い飛ばしながら再び問う。
「度胸のある奴だ!変装して入国したのか。で?お前達はこの国に害をなす気はないと?」
「それは勿論!俺はただ自分の力を知りたいだけで……」
「ふむ……」
ルインの答えを聞いた王は、腕を組み何か考えている様子だった。
「あの、もし何か罰があるのならチウィーさんは許してください!彼女は俺の依頼でここへ来ただけなんだ!」
「?何を言ってるんだ?」
王は首をかしげる。
「あの王、もしやここまで何も説明してないのでは?」
宰相が小声で王にささやく。
「おおそうか、お前は手配されてるし、いきなり呼び出せば何かあると思うよな!」
宰相の指摘に王は豪快に笑いながら言い放つ。
「俺はてっきり捕らえられるんだと、昼間の事もあるし」
「昼の?あぁ、人間などどうでもいい、あれは事故だ」
「事故?」
王の説明によれば、演習の準備中に投石台を運ぼうとした所、誤って起動してしまったらしい。
「それで石が……」
「話を戻そう、実はな……協力して欲しい事があり魔女の家を訪ねたのだ。強力な力を持つ君も話を聞いてくれ」
「協力?」
ルインと魔女は顔を見合わせる。
王はルインが街の露店で聞いた魔獣の話を二人に聞かせた。
「で、その魔獣退治を俺達も協力しろって事?」
「平たく言えばそうだな、勿論褒美は出すぞ」
王の言葉に、宰相は呆れたような口調で付け加える。
「はぁ……本来は魔女に依頼するだけだったんですが……人間の兵の話を聞いた王の思い付きであなたもと……断ってくれてもかまいませんよ」
「だから先程力の事を聞いただろう、戦力は足りてないし、俺はなかなか使える力だと思うが……どうだ?」
王はルインに尋ねた。
「どうだと言われても……それに人間の兵が応援に来てるんですよね」
ルインの言葉に王も宰相も困ったように顔を見合わせる。
「人間の兵も居るが……大して役に立っていない。そればかりかその人間共の態度には我々も困って居るんだ。だが兵を借りてる以上無下には出来ないし、人間の国に対して借りを作り続けてる現状だがさっさと何とかしたくてな」
「今この話には、人間の兵は頭数に入ってません」
「チウィーさんと俺は人間の代わりか……」
「そうだ、悪意がないと分かった今、我が国はお前に手は出すつもりはないし、人間の国に引き渡すこともしない。手を貸してもらえないか?」
協力の申し出にすぐ返事が出来なかったルインは考える時間が与えられ、ルインと魔女は城の使用人に客間へと通される。
「チウィーさんはどうするの」
ルインは顔を拭き化粧を落としながら魔女に聞く。
「私は詳細を聞かないと何とも言えないわね……でもあなたはどの道予定はないんでしょう?」
「そうなんだよなぁ……」
「まあ断ればあなたはこの国に長居は出来なくなると思うわ。引き渡さないとは言っていたけど、人間の国が手配してる者を長時間匿う事はしないんじゃないかしら」
宰相の話では、魔獣は既にワドファーと人間の軍を以てしても抑えるのが限界で、退治どころでは無かった。しかしワドファーとしては、これ以上人間の国に借りを作る訳にはいかず、切羽詰まっている状態だった。
「今選択できる道は三つね、この国に協力する、師匠を探しに人間の国へ、その他」
魔女は指を三本立ててルインに示す。
「人間の国には行きたくないね、手配されてるし」
「それは私も同感、亜人への差別もあるし好んで行きたくはないわね」
「その他って言うのは……」
「それはあなたが決めるのよ、この国に協力しないで人間の国に関わらず自由にどこかへ。もっと西には種族差別のない土地があるそうよ」
「へぇ」
「何をしてようと、貴方の居場所が分かれば師匠がこの国に帰って来た時、教えるくらいのことはするわ」
ルインはしばらく考え込んだ後答えを出す。
「……うん、なら俺はひとまずこの国に協力しようかな、悪人って印象がなければ俺もこの国に住めるかもしれないし」
「そう、良いと思うわ。とりあえず師匠は今居ないから調査依頼は一時中断って事でいい?」
「人間の国に行くつもりないし仕方ないね」
「じゃ、早速で悪いけど今までの諸経費、よろしく」
「お、おう……」
急な切り替えにルインは苦笑いを浮かべながら財布を出した。
話は終わりルインは部屋の前の兵に協力の意思を伝えると、魔女と共に二人はすぐ賓客として扱われ、まずは風呂に案内された。
「おお!でかい!」
城の風呂はとてつもなく大きく、ものづくりの国らしく細部まで装飾が施され、職人のこだわりを感じさせる作りだった。
「変装で気持ち悪かったから助かるなぁ」
ルインの能力はまだ分からないことが多く、事故など起きない様にルインは一人大きな浴場を満喫していた。
一方、女湯の方では魔女が城の女性の使用人に、体をマッサージしてもらっていた。
「ふぅ極楽、お風呂まで頂いちゃって悪いわね」
「客人のもてなしは仕事ですので」
うつぶせになった魔女に腕や脚などをマッサージする使用人は答える。
魔女は王城のもてなしをしっかり堪能する。その後、二人は別々の部屋に通されその日はゆっくり休んだ。




