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絶滅記  作者: banbe
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ワドファー2

 翌日、再び化粧を施したルインは、一人で大通りの露店や店を回っていた。

 大通りの入口には両替商がおり、ルインはそこで金貨を一枚両替して貰う。そして、気軽に使える資金を得て早速観光を始める。


「おお凄い!」


 店や露店にはキラキラした宝石に、立派な剣や鎧、今まで目にした事のない品々があり、ルインは目を輝かせる。


「ふふふ……この財布があれば大抵の物は買えるのか」


 ルインは不審な笑みを浮かべるが、やがて黒くなった髪をつまみながら、魔女に言われた事を思い出す。


(滞在期間中は変装する事!あとなぜか人間も多いみたいだからトラブルにも注意よ!)


「このベタベタが無ければなぁ、しかし人間が多いなぁ」


 周囲を見渡すと魔女の言葉通り人間が行き来し、亜人達は人間に近づかないように道の端を歩いていた。

 ルインの独り言を聞いたのか、ルインが見ていた露店の主はルインに話しかける。


「ああ、それは人間の国の応援だよ……」

「え?」

「あんた旅のモンだろ、ここらじゃ見ない顔だ」

「そうですけど……」

「何しに来たか知らんが時期が悪かったな、山に国の兵じゃ手に負えない魔獣が出たんだよ。で、人間の国から応援が来たって話だ」

「なんで人間が?」

「一応、同盟国だからな。しかも人間達もこの国で取れる鉱石を当てにしてるし、山が荒らされれば困るんだろうよ」

「ふぅん……」


 会話を終えルインは店から離れる。別の露店から飲み物を買い国の中央広場から周囲を眺める。

 辺りに見える飲食店には人間が我が物顔で入り浸っており、その一方で、元々この国に暮らしていたであろう亜人や観光客達は、肩身を狭そうにしていた。


「亜人の国が見れると思ったけど、亜人街と大して変わらないなぁ……」


 そうつぶやいたルインは来た道を戻り帰ろうと振り向く。


「痛っ」


 その瞬間、一人の男にぶつかってしまった。


「ああ、ごめん。あっ人間……」


 ぶつかった男は線の細い人間で、ルインは嫌な予感を覚える。


「あぁ大丈夫です……おや?」


 人間は自分の懐をさぐる。


「お兄さん、スリかい?俺の財布がなくなってるんだけどねぇ……」


 男の後方にはガタイの良い人間の兵士達が数人、ニヤニヤとこちらを見ながら控えていた。


「ああ、そういう……」


 ルインはうんざりした顔でつぶやいた。だが男は笑顔のまま言った。


「いやなに、大事にするつもりはないよ。盗んだ金を返してくれればね」

「最初からやってない物は返せないよ……」


 ルインは面倒くさそうにあしらう態度に、男の笑みが消える。


「だったら仕方ない、ちょっと憲兵さーん!」


 男の呼びかけに応じて、後ろでニヤニヤとこちらを見ていた兵士達は近づいて来て、ルインを囲む。


「どうしたんだい?」

「この兄さんが俺の財布を盗んだのさ」

「おいおいそりゃいけない。早く返してやんな、俺達も他所の国で揉め事は起こしたくない」

「他国にまで来て乞食って人間はよっぽどに困ってるんだね」


 人間達の白々しい茶番を見せられたルインは、溜息をつきながらあきれる。


「なんだと?」

「どいてよ、俺が盗った証拠もないだろ」


 ルインは堂々と立ち去ろうとするが、兵達は前に立ちはだかる。


「大事にするつもりは無かったが仕方ねえ、証拠ならてめえが倒れた後にじっくり探してやるよ!」


 目の前に居た兵はにやりと笑うと、ためらいなく警棒を振り上げルインを殴ろうとする。

 だが警棒はルインのギリギリで止まり、兵は腕を上げたまま白目をむき倒れた。


「なんだ!」


 倒れた兵の後頭部にはたんこぶができており、近くには大きな石が転がっていた。


「石?誰がこんな!?」


 兵達は周りを見るが、騒ぎで人が逃げてしまい、石を投げて当てられるような距離には誰も居なかった。


「これは初めてのパターンだ」


 ルインも驚いた顔でひとりつぶやく。

 周囲を見渡し何もない事を確認した兵達は、再びルインを囲む。


「なんだか知らんが早く金を出せよ!」


 今度は囲んだ全員が警棒を出し、ルインに向け振り下ろそうとした時、再び石が飛んできた。


「ぐあっなんなんだよ!」


 今度は石一つだけではなく、警棒を抜いた全員に体の至る所に石が当たる。


「うわぁぁ!」


 人間の兵達は全員投石に倒れ、その場に立っていたのはルインだけだった。


「こんな石どこから飛んできたんだ……」


 ルインはキョロキョロ周りを見渡す。

 全身に石を浴び、地面に倒れた兵の一人が、ルインを見上げてうめく。


「……こ、こんな現象前にも見たことあるぞ……お前、姿は違うが南の宮殿を壊滅させた悪魔だな!」

「まさかあの時生き残った兵!?」


 不可思議な現象と人間達が倒れたことにより、だんだんと周囲に野次馬が集まってきた。


「何の騒ぎだ!」

「やば!」


 人間ではないこの国の正規の兵達が来るのが見え、ルインは急ぎその場から逃げ出す。だが、その姿は正規兵に見られていた。


「あれは……」



 大通りから裏通りに入ったルインは、狭い道を駆け抜けて、魔女の師の家に入る。


「あらおかえり、思ったより早かったわね」


 家の中で魔女はリラックスしたように椅子に座り、お茶を飲みながら本を読んでいた。

 しかし玄関で肩で息をするルインを見て魔女は睨む。


「まさかあなた……」

「ゴメンナサイ……」

「はぁ……まあ今この国の状態なら仕方ないけど……入国した昨日の今日でってあなた」


 魔女は大きな溜息をつきながら額を抑え首を振る。


「ど、どうすれば……?」


 純粋に聞いてくるルインに魔女は嫌な顔をする。


「私は無関係って事にしたいけど……入国の時、客って言っちゃったし……」


 二人が話していると、ドアが強めにノックされる。


「もう来た!?」

「何かあれば入国時貰った紙で追跡されるわ、逃げても無駄ね」

「そんな……俺この国にまで追われるのか」

「ドアに魔術がかかってるからそう簡単には入ってこれないだろうけど……」


 魔女の言葉とは裏腹にドアに光る幾何学模様が浮かんで消える。それは魔女がこの家に来たとドアを開けた時に見た光景と一緒だった。


「嘘!?」


 師や自分以外が魔術のかかった扉を開けられることに驚き、魔女は立ち上がる。


「ごめん……俺一人で兵達を何とかするから、チウィーさんは俺に脅されて協力したって言って!」


 魔術が解けたドアが開き、数人の兵士が入ってくる。だが襲い掛かってくるでもなくドアの横、左右に整列し敬礼しながら待機する。


「?」


 魔女の師の家をくぐる様入ってきたのは、髭を生やした、いでたちのかなりガタイの良い大男。


「そんな!なぜあなたがここに!」


 大男はルインに向かい話しかけた。


「……お前が人間の国の都を壊滅させた男か」

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