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絶滅記  作者: banbe
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ワドファー1

 オックスの集落を出発して既に三日、二人の位置からもうワドファーは目視できる距離に居た。

 歩く道には徐々に勾配がきつくなり、周囲の景色には背の高い木々が多くなってくる。その光景は山道が始まったことを二人に知らせた。


 遠目から見えるワドファーは尖った山肌に囲まれ、その堅牢さを物語っており、ワドファーを眺めるルインは物珍しそうに感嘆の声を上げた。


「はえ~あれがワドファーか」

「えぇ、岩盤と山肌に囲まれて半ば天然の要塞になっているから入国できる場所は限られてるわ、勿論入国審査もある」

「方法は考えるって言ってたけど」


 人間の国と同盟関係を保っているワドファーに指名手配されているルインがそのまま入国するには、魔女自身にもリスクある行為だった。


「変装ね、あの国は色んな種が居るからあの香水は使えないし」

「それでこの荷物」


 ルインは馬に積んでいる荷物を見る。そこには道中ルインの変装の為に買った衣服や化粧道具が入っていた。


「そろそろ人通りも多くなるわ、木の陰で変装しましょ」


 二人は道を逸れて木の陰に行くと、魔女は馬から荷物を降ろし、中を漁り様々な色の小瓶を取り出す。


「まずは肌の色を……それから髪も」


 魔女は慣れた手つきでルインの顔の肌に白い化粧を施し、髪を塗料で黒く染め上げた。


「うぅ……なんかべたべたごわごわする」


 ルインは慣れない厚い化粧と髪の塗料の違和感で顔をしかめた。


「文句言わないの、擦って化粧を落とさないようにね」


 服も少し身なりの良い綺麗な服に着替え、元のルインの特徴なくなり、明らかに別種族に変装なった。


「これでもしワドファーで指名手配されていても、あなたと分からないわね。行くわよ」


 魔女先導の下、しばらく山道を登って行くと山肌に囲われた大きな門が見えて来た。


「デカい……」


 大きな門の脇には小さな扉があり、様々な種族の亜人達が入国の為列を作っていた。

 列の先頭では入国希望者一人一人が入国審査を受けており、入国出来る者とそうでない者が分けられていた。


 列の周囲には入国希望者相手に、商売しようとする屋台や大きな馬屋など並んでおり、入国する前からワドファーの周囲は既に賑わっていた。

 ルインは馬屋に馬を預けた後、魔女と一緒に列の最後尾に並ぶ。


「技術者の国って言ってたよね、どういう人が入国を拒否されるの?」

 

 列で待っている間ルインは魔女に聞く。


「まず伝手やアポがない居住希望者。ただ逃げて来ただけの難民や、なんの身分もない種族は誰であろうと簡単に住める国じゃないわ。次にあからさまに悪名が通った犯罪者。貴方みたいなね」


 魔女はルインをからかうような目でニヤけながら見る。


「お、おう……」

「ま、そういう犯罪者じゃなければ観光目的でなら入れるわ、期限はあるけどね」

「ご迷惑をおかけします……」

「審査は正直に私と師匠の客が来たと話すわ、でも正体を知られないよう気を付けてね」

「わ、分かった」


 そんな談笑しながら待っていると、二人の順番がやってくる。


「ああ魔女さんか、師匠に会いに?」


 入国審査をしている番兵は、親しそうに魔女に声をかける。


「そうよ、私じゃ手に負えない客が来てね」

「その後ろのが?」


 番兵は魔女の後ろのルインの顔をじっと見る。


「あれ、なんかどこかで見た顔だなぁ」


 番兵の視線に耐えられず、ルインは反射的に目線をそらす。

 だがその視線の先、扉の横にはルインの似顔絵が描かれた手配書が目に飛び込む。


「!」

「ん?どうした?」


 ルインの反応を不審がった訝しんだ番兵は、ルインの視線の先に手配書があるのを見た。


「ん?そういえば似てるような……」


 そのつぶやきに焦り冷や汗をかくルイン。


「あー、種族は違うけど……この彼に似ているその手配書、何をして手配されてるのかしら?」


 魔女は違う種族であることを強調しながら、番兵の注意を逸らそうと聞く。


「なんでも人間の都を壊滅させて今でも逃亡中らしい」

「み、都を?凄いことしたわね……」

「どうせ人間が恨みでも買ったんだろ。俺達も真面目に探してる訳じゃない。おっと入国だったな、今回も居住する訳じゃないんだろ?何日だい?」


 番兵は顔は似ているが明らかに特徴の違うルインに興味を失い、仕事に戻った。


「そうね、早くて三日って所かしら」

「じゃあまず三日だ、期限を延ばす場合はまたここに来てくれ」


 番兵はルインと魔女に紙を渡す。受け取った紙はすっと手の中に入り込んだように消えてしまった。


「分かってるわ」


 二人は番兵の許可を得て、扉を潜りワドファーに入国を果たす。


「さっきの紙消えちゃったけどいいの?」

「あれは滞在期間が書かれた紙よ、簡単な魔術がかかっていて渡された人の体内でその人の場所と時間が記録され続けてる。居場所も分かるから滞在期間が過ぎた人が国内に居た場合迎えに行ったり追い出したりするのよ」

「すごい技術だ……」


 扉を通った二人の目の前に大きな街が現れる。


「おお!でかい!」


 ルインがまず見たのはまるで入国者を歓迎する様な大きな通り、並ぶ建物や店もよく磨かれた石や上質な木材で出来ており、作りも立派だった。建物の前に並んでいる露店には煌びやかな石や貴金属、陶器などが置いており、まるで観光客を吸い寄せるかのような魅力を放っている。

 

 大通りの先を見ると古いながらも頑丈そうで、未だ現役と言わんばかりの大きな城が立っている。規模こそ大きくないがそこには確かに技術者の国があった。


「こんなキラキラした街見たの初めてだ!」

「この辺の物は観光客向けのお土産だから高いわよ。それよりあなたが用あるのは師匠でしょ、こっち」


 感動するルインを尻目に、魔女は冷静にルインを引っ張り、大通りから外れていく。

 スルスルと街中を進み裏路地に入っていくと、煌びやかな大通りからは雰囲気はガラリと変わり、薄暗く怪しい店が立ち並ぶ。

 街並みも岩を積み上げた物や山肌をくり抜いて作った無骨な建物が多く、雰囲気は一転した。


「一気に変わった」

「物作りの国の裏側はこんな物よ」


 住宅は所狭しと並んでいて、得体の知れない物が置いてある店も少なくない。そんな裏路地をしばらく歩くと、壁にびっしりと蔦が張ってある一軒の家の前に到着する。


「ここよ」


 魔女が家の扉を叩く。しかし、中から返事はおろか誰か居る気配も無かった。


「あれ?」


 もう一度扉を叩いても結果は同じ。


「留守かしら」


 魔女は家の扉に手をかざすと、光る幾何学模様が現れる。魔女が呪文を呟くと模様は崩れ去り、そして、扉を開け勝手に家の中に入ってしまう。


「来て」


 魔女に促されルインも家の中へ。中はしばらくの間誰も居なかったのか空気はよどんでおり、何日も使われていないであろう家具には埃が被っていた。

 家の中央の丸いテーブルの上にはメモが置かれており、魔女は手に取って読み始める。


「……そんなぁ」


 メモを読み終わった魔女は情けない声を出し、へなへなと崩れるように椅子にもたれかかる。


「どうしたの?」

「ごめん、師匠は今人間の国に居るって……しかもしばらく帰ってこれないって書いてある。ここまで来たのに……」

「すれ違ったって事?」

「みたいね……このメモは私がいつ来てもいい様に置いて行った物ね。幸い家は自由に使って良いと書いてあるから滞在場所には困らないけど……」

「肝心の師匠さんが居ないと俺の事も……」

「ごめんなさい、分からないわ……とりあえず少しここを掃除してから落ち着きましょう」

「手伝うよ」


 二人はしばらく使われていない家の掃除をし、掃除が終わる頃には日も傾いており、二人はきれいになったテーブルを囲みながらお茶を飲んでいた。


「さて、これからどうする?師匠に会いたいなら人間の国に行くことになるけど……」


 改めて魔女はルインに尋ねた。


「うーん……元々、力の正体が分かったからって、どうするとは決めてなかったしなぁ……」

「……まあこんな所まで連れ出した私が言うのもなんだけどあと二日滞在できるし、とりあえず観光でもしてみる?異国の物に触れれば何か目標ができるかもしれないわ」

「そうしようかな」

「必要なら人生相談にも乗るわよ、占いで」

「人生相談じゃないけど変装でベタベタしてるからどうにかならない?」


 魔女は師の部屋を、ルインは客間を借りる。こうしてワドファーでの最初の一日目は掃除で終わった

投稿時間安定しなくてすいません…

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