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絶滅記  作者: banbe
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オックスの村1

 魔女の居た森よりさらに南西。

 集落を作っている途中のノバ族を見つけた魔女とルインは、魔女が診ていた老婆の墓に祈りをささげた後、彼らの家作りに少し手を貸す。

 その後二人は山岳地帯の国を目指し道を進む。

 ルインは黒馬を引きながら魔女と話す。


「俺他の国に行くなんて初めてだ、どんな所なの?」

「物作りが得意な亜人が治めてる国ワドファーよ」

「なんか凄そうだ、ロボットとかあるのかな」

「あなた……森にいた時から思っていたけど世間知らずね」

「そ、そうなのか……」


 ルインは見るからに落ち込む。


「あなたの親はいったいどういう人なの?」

「ポル婆は確か竜族だって」

「あーなるほど」

「?」

「竜族って言うのは凄く寿命が長いのよ……彼等にしたら十数年なんて一瞬でしょうね。大方色々教える前にあなたが大きくなったという状態かしら」


 人間の国の南の亜人街では、竜族のくしゃみが響いていた。


「そんな状態でよく国外に出ようと思ったわね」

「追われてたし……」

「ならワドファーに着くまでの間色々教えてあげるわ。あなたの力を調べるより授業料貰った方が良さそうね」

「お手柔らかに……」

「ともかくワドファーは、山で採れた鉱石なんかを加工して色々な物を作ってる国よ。一応人間の国と同盟国だから取引をしてるけど、種族間の差別なんかも少ない良い所ね」

「じゃあなんでみんなワドファーに行かず亜人街に住んでいるの?」

「国自体が大きくないの、山岳地帯だから住む場所も限られてるし。さて人間の国の手配も共有されてるだろうし、あなたをどう入国させようかしら」

「変装の準備とかするの?なんだか楽しみになって来た」

「まあ着くまでに村や集落を幾つも通るから、そこで物を調達しながら考えますか」


 それから魔女の授業が続き日が傾き始めた頃、二人は集落に到着する。


「ふう、一日でここまで来れたわね。ここの集落には宿があるからそこで休みましょう」


 ぽつぽつと小さい家が並ぶ集落で、魔女は一件の大きめな建物を目指す。


「あなたは金貨しか持ってないから旅の費用は私が立て替えるけど……ワドファーに着いたらまとめて貰うわよ?」

「いっぱいあるんだから俺が出してもいいのに」

「いちいち金貨なんて出してたら驚かれるわ、それにそんなに持ってると知られたら変なのに狙われるし」

「そっか……なんか色々ごめん」

「それも込みの旅なんだから良いの。入るわよ」


 ルインが馬から荷を下ろし建物の前に馬を繋ぎ二人で中に入る。


「こんばんは、二人なんだけど二部屋開いてる?」

「あら魔女さん久しぶりね」


 二人を出迎えたのは耳の尖った小太りで初老の男と細い初老の女だった。

 魔女は慣れているのか、親しげに宿の人達から鍵を受け取るとルインを呼ぶ。


「部屋は二階よ」


 魔女は階段を登って行き、ルインも後に続く。


「はい、この部屋ね」


 魔女はルインに鍵を渡す。


「お腹が空いたなら下の二人に言えば何か作ってくれるわ」

「うん、ありがとう」


 魔女はそれだけ言うと一つ奥の部屋に入って行く。

 ルインも自分の部屋に入り休み一日が終わった。



 翌朝ルインは寝ぼけ眼で階段を降りると、そこには既に魔女が新聞を読みながらお茶を飲みながらのんびりしていた。


「あらおはよう、顔を洗うなら外へ出て右よ」

「ああ、うん」


 ルインが外の井戸で顔を洗い戻ってくると、魔女が座っている机の向かい側には朝食が並んでいた。


「朝食はサービスだって」

「ありがとう」


 二人が朝の時間を過ごしていると手が空いたのか、初老の女が近づいてきた。


「あなた達、気をつけなさいね。最近はこの辺でも人間を見かけるようになったんだから」

「へぇ、国から結構離れてるのに」

「殆どの人間は国の中にいるけど全てって訳じゃないわ、旅したり国外に家を持ってる人間だっている。その人間はどんな感じなの?」


 魔女はお茶を飲みながら聞く。


「私もちらっと見ただけなんだけど何でも道沿いに簡単な集落を作って何かしてるみたい、ワドファーに行くなら通ると思うわ」

「人間の集落か、あまり近付きたくないなぁ」

「でも道沿いにあるなら通る事になるわね。おばさん分かったわありがとう」


 ルインの朝食を終え二人は宿から出る。馬に荷を乗せ出発準備が出来た二人はワドファーを目指す。

 しばらくして日が高くなった頃、魔女の話を聞きながら進んでいたルインは歩みを止める。


「あれは……」


 話していた魔女も前を見て止まる。


「あんなところに集落は無かった、あれが朝言っていた人間の集落ね」

「どうする、遠回りする?」


 ルインは尋ねると魔女は自分の荷物から小さな瓶を取り出す。


「これがあればそんな必要はないわ、一時的に姿が変わる香水」

「おお、すごい!魔女っぽい!」

「効果時間はそんなに長くないけど、少しでも嗅いだ者は周囲を自分と同じ種に見えるの。だから色んな種族が居る場所では気づかれちゃうけど、人間だけの集落なら問題ないはず」


 二人は香水をつけ人間の集落に向かう。


「なんでこんな所に人間が集落なんて作ってるか確かめるわよ」

「チウィーさんって意外とアグレッシブなんだね」


 ルインは集落の入り口付近で馬を縛った後、香水をつけて興奮気味で魔女に自分の見た風景を教える。


「すごいね、チウィーさんの髪も眼も肌も俺と同じだ」

「私もあなたが魔女に見えるわ」

「……えっ!?」


 驚くルインをしり目に、魔女は早速見かけた集落の人間に話しかけに行く。


「すいません旅の者ですが」


 家の前で作業をしていた三十代くらいの男は、魔女の言葉に振り向いた。


「おや、人間の旅人なんて珍しい」

「私もこんな所で人の集落を見るなんて初めてで……どうしてここに集落を?」


 男はルインと魔女を少し観察する。


「?」

「あぁ俺達はここで動物の保護をしてるんだ」

「保護?こんな国から遠い所で?」

「ああ、見てくれ」


 男は集落の中心にある木製の柵の向こう側を指さす。そこには角が生え、黒い毛むくじゃらで四足歩行の大きい動物が数頭居た。


「あれは……オックス?」

「あぁ数年前までこの至る所に居たんだ、だけどオックスの肉を使う料理が本国で爆発的に広まってな。最近もう国周辺では見れなくなってしまったんだ」

「それでこんな所まで来て保護を?」

「そういうこと」

「そんな珍しい人も居るのね」

「ははは、よく言われるよ……それで俺達は家族や仲間同士でここへ来たんだがオックス保護には金がかかる。珍しく人間に会ったのも何かの縁、よかったら金落としてってくれよ」


 二人は男に集落の真ん中に建てられている大きな飯屋に連れられる。


「金を落とすってこういう事か」

「ああ、ここは俺の店なんだ。味は保証するぜ。おい、お前!旅の人連れて来たぞ!」


 店の亭主は飯屋の奥にむかって誰かを呼んだ。

 すると奥から三十代くらいの人間の女が出てくる。


「あら人間の客なんて珍しいね」


 二人は亭主に案内され適当な場所に座る。


「ここには何があるんです?」


 ルインは亭主に尋ねる。


「オックスの肉は出せないが乳なら取れる、ここの名物はシチューさ!」

「それしかないんだけどね」


 亭主が自慢げに説明するが女は呆れたように補足する。


「じゃあ俺はそれで」

「ごめんなさい、私はお茶で良いわ」


 ルインと魔女は注文する。


「ありゃそうかい、ならシチュー一人前だ!」



「うん、確かに美味かった」


 食後、ルインが一息ついた後、店の扉が勢いよく開き年端もいかない一人の少女が走って入ってきた。


「!?」


 少女はルインと魔女二人の姿を確認すると驚いたようですぐ店の奥に入って行った。


「な、なんだ……」

「あ、こら」


 店に立ってた人間の女は少女を追い店の奥へ入って行く。


「すまん、ウチの娘なんだ。ここに来てから機嫌があまりよくなくってな……ところで旅の人よ宿はあるのかい、もしよければ……」


 亭主が言い終わるより先に魔女は断る。


「結構よ、まだ日は高いし」

「そうか……まあ無理にとは言わない。だがこの辺は国も遠いし凶暴な獣や亜人も多いから気を付けろよ」

「ああ」


 魔女はルインを少しせかし店を出る。


「どうしたの?」


 店を出たルインが魔女に聞く。


「貴方忘れたの?」

「え?ああ、香水!」


 二人は人目につかない木陰に向かう。


「少し事情を聞くだけだと思ってたから長い間は続かないわ。事情は分かったし早い所先に進みましょう」

「害もなさそうだしね」

「とはいえもういつ効果が切れるか分からないから完全に効果が切れた後また香水をつけてから行きましょう」 


 それから数分も経たない内に、徐々にお互いの姿を正しく見える様になってきた。


「おぉ……」

「効果が切れたわね、この後少し置いてから……」


 魔女は途中まで言うと一点を見つめ固まってしまう。


「どうしたの?」


 ルインも魔女が見てる方を見ると、先程の店で見た人間の少女が二人を見ていた。


「もしかして見られた?」

「ちょっとまずい事になったわね……」


 二人が動揺していると少女は近づき話しかけてきた。


「もしかして二人はあじんって人?」


 少女の突然の行動に二人は顔を見合わせる。


「……そうよ、お嬢ちゃんは亜人が怖くないの?」


 魔女は怖がらせない様に少女と目線を合わせ、優しく話しかける。


「少し怖い、けどお姉ちゃん達が人間じゃないなら助けて欲しいの」

「?」


 二人はまた顔を見合わせる。

 少女の話を聞く為、少女の案内で人目の付かない集落の外れの丘まで移動する。


「パパの言う事とは違ってあじんはあまり怖くないのね」

「亜人にも色々居るのよ」


 少女の質問に魔女は困ったように答える。


「それで助けて欲しいって?さっきの言い方だと、人間以外の助けが必要みたいな言い方だけど」


 少女は躊躇うように俯いた後話し始める。


「……あそこにいるオックス達を助けて欲しいの。パパが言ってたわ、オックス達は今どんどん数が減っていてもう少しでみんな居なくなっちゃうって」

「だからお父さんが保護、守って助けてるんでしょ?」

「違うの!パパは守ってるんじゃなくてオックス達を売ってるの!」

「どういうこと?」

「パパは最初オックス達を守るために来たって言ってた、だから私ここオックス達とお友達になったわ、だけどお友達になったオックスはどんどん居なくなっていった。ここは広いし最初は気のせいかと思ってたんだけど見ちゃったの、パパのお客さん達がオックス達を鉄砲で撃ってたところ」

「それは……」

「撃ったオックスのお肉をその人達に売ってるのも見たわ、パパもママも集落の人達もそこにいたからみんな知ってることなんだと思う。でも私お友達が殺されちゃうのはもういやなの!」

「それでよそ者の私達に……」


 魔女は一考した後ルインを見る、ルインは頷くと魔女は少女の頼みを受け入れた。


「分かったわ、何とかしてみるから貴女は帰って待ってて」

「ありがとうあじんのお姉さん、お兄さん!」


 少女が帰ったあと二人は事実確認の準備をする。


「まずは調査が必要ね」

「まさかチウィーさんが積極的に人間に関わると思わなかった」

「私もこの辺の生態系が崩れるのは困るのよ、だから辺りの動植物達は把握してたわ。もちろん人間が国周辺でオックスを乱獲して数が減ってるのも知ってた。だから少し寄り道になるけども」

「ああ、急ぐ旅じゃないし人間を懲らしめるなら俺も力になりたい」

「ありがとう、とはいえこんな事になるとは思ってなかったから大したものは持ってきてないの」


 魔女は持ってきた風呂敷を広げる。


「何か使える物は……」


 魔女は持っている道具を確認し、手筈を整える。

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