力の正体2
「……」
ルインは寝床を抜け出し外に出る。
魔女の家がある沼の辺りは木がなく、月明かりが直接森の中に入って来ていた。
貰った黒馬を撫でた後明かりも持たないまま、暗い森の中へ入って行く。
(足元真っ暗なのに躓いたりもしない……)
「お前、こんな時間に何してる」
魔女の家を見張っていた隊長と呼ばれていた獣人に声をかけられた。
「少し散歩を」
「こんな夜中に灯りも持たずにか?」
「ちょっとした実験も兼ねてるからね」
「実験?ますます怪しいな」
「疑うなら着いて来て見張ってくれてもいいよ」
獣人とルインは少し距離をとったまま歩き出す。
しばらく歩いているとルインは大きめの石を見つけ、そこに腰掛ける。
獣人は距離を保ち、立ったままルインを見張る。
「ねえあなたは自分で自分を傷つけたことある?」
「はぁ?」
突然話しかけられた獣人は困惑の声を出す。
「なんだ、傷つけて欲しいなら俺がやってやるぞ」
「出来るならお願いしたいけどね、無理な事は分かってるでしょ?」
「ッチ」
獣人は舌打ちして横を向く。
「刃物を扱ってる時に少し切ったり、装備を整えてる時に擦りむいたとかはあるな。故意ではなかなか無い。それよりも敵から傷を受ける数が圧倒的に多いな」
「だよなぁ」
魔女から借りた針を懐から出したルインは、昼と同じように指先を見ながら固まる。
だがなかなか動かないルインに獣人はしびれを切らす。
「なんだ、ビビってるのか」
「怖い訳じゃない、魔女にも言われたよ。力のせいで自分でも出来ないんじゃないかって」
「俺達は自分の力も制御できない奴に負けたのかよ」
「制御する為に力を調べようとしてるんだけどね……血が必要で」
「なるほどね……だったら傷つけるんじゃなくて、血を取り出す為にすればいいんじゃないか?」
「取り出す?」
「そうだ、お前は自分の中にある血を取り出す為に、穴を開けるだけ」
(俺は必要な物を取り出すだけ……)
ルインは目を瞑り血を取り出そうと考えると体が思うように動き出した。
やがて手に持った針はルインの指先に触れるくらい近づいた。
(後はほんの少し力を入れれば血を取り出せる)
数分の間ルインは固まったままだったが、身体がピクリと反応する。
「痛つ……」
ルインの指から数滴の血が流れていた。
慌ててポケットの中にあったシャーレを取り出し血を落とす。
「はぁ……出来たぁ……」
「たったそれだけの為にこれだけの時間をかけたのか、自分の思い通りに出来ない力なんてもはや害だな」
「魔女も言ってたよ呪いに近いかもって。だから調べるんだ、何もわからないままじゃ取り返しがつかなくなるかもしれない」
「……俺の仲間の命を奪った事は取り返しがつくとでも?」
獣人の声色を変え突っかかる。
「……戦場は命のやり取りをする場所だ、そんな所で起こった事なんてどうしようもない」
「なにぃ?」
「それともあなたの仲間達は自分の意志とは別に、誰かの意思で戦場に立ったのかい?」
「いや……」
「だったらその結末も受け入れるべきだよ、俺はあの戦場で前に立った人達には悪いと思ってない。あなたも打ち取った者に悪いだなんて思ってないでしょ?」
「ッチ正論だよ……」
ルインの言葉に獣人は突っかかるのをやめた。
そしてルインは足早に魔女の家に戻り、二階にある魔女の部屋をノックする。
「血、持ってきた!」
魔女はラフな格好でドアを開ける。
「へぇ傷、付けられたんだ」
「いや……俺は血を取り出しただけだよ」
「……ははっ屁理屈ね。じゃあさっそく今から調べましょう」
「え、今から?」
「血が固まりかけてる、早い方が良いわ」
「でもこんな遅くからなんて……なんかごめん」
「私は魔女よ?一晩くらい寝ずに活動なんて大したことないわ」
「そ、そうなんだ」
二人は一階に降りてきた。
「私は地下に籠るから最初に言った通りここで休んでて、少しうるさくなるかもしれないけど」
「屋根の下で休ませてもらえるだけありがたいよ」
魔女は地下に降りて行く姿を見送ったルインは荷物で作った寝床で目を閉じる。




