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緑の病室

 天方はその後も、人の病室を好き勝手キャンバスにして、絵を描き続けた。

ボクは当初、病院側やボクの両親、天方の両親が止めに入るだろうと踏んでいた。


 そんなことはなかった。

 病院側も最初こそ止めに入ろうとしたようが、ある日を境にぱっと止み、天方の自由にさせているようだった。うちの両親と天方の両親の間でも何らかの取り決めがなされていたようで、干渉してくることはなかった。

 

 そうこうして月日が流れていく間に、キャンバスはどんどん埋まっていく。天方の絵が地面から壁へ蔦を伸ばし始めた頃、

何が出来上がるのか少し楽しみになっている自分に気付いた。


 床だけの緑で草原のようだった部屋が、今や壁に蔦を伸ばし樹海になり始めている。

 僕には草原のほうが広く開放的で好ましかったが、天方は絵が進むたびに、「どんどん空がひろくなるな!」と繰り返した。


 天方には絵の才があったようで、写実的な風景に奇怪な色を組み合わせた独特な世界が病室いっぱいに広がっている。


「どうだ、ヨモ。空が広く見えるだろ~」

「緑しか見えないけど」

「またまた~、想像力が足りないよ、ヨモ。心の目で見るんだよ」


 窓の外は、いつもと同じ都会の喧騒にあふれているのに、ひとたびこの部屋の中に戻れば見たこともない景色に連れていかれたようで。


「ふっ、ど●でもドア、ね」

「ネーミングセンスあるだろ」

「いやパクリだよ、まぁいいんじゃない。この部屋ごと旅に出てるみたいだし」

「ワトソンクン!キミにも感性が!」

「うるさい。扉はピンクに塗るなよ。この色変え妖精め」





 この世にはない場所に連れて行ってくれる箱舟、という言葉は音にのらずに消えていった。





―2073年10月2日

  完成するんだろうか。

  間に合うんだろうか。

間に合わせたい。

  ようやく思えたんだ、もう少し、って。

  この世じゃない場所につれていかれてしまう前に。

  目が見えなくなる前に。

  見てみたい。

  見せてあげたい。


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