青い世界地図
月日はあっという間に流れ、天方との奇妙な縁が紡がれてから、1年。
二人での時間つぶしは、折り紙・ボードゲームから姿を変えていた。
「ヨモ見ろよ、これ!いい感じ」
「マチュピチュと、万里の長城が、繋がってる…」
机の上に乱雑に広げられているのは、旅行会社のパンフレットと、世界地図だ。
ただし、普通の世界地図とは少し違う。
陸地をすべて青く塗りつぶした、真っ青な世界地図だ。
ボクと天方は、新たな遊びを考えた。
パンフレットの写真をパッチワークのように切り貼りして、世界地図に張り付けるのだ。
ボクら二人だけの世界地図の組み立て、それが新たな時間つぶしだった。
二人で作ったルールは、
「見たことのない景色をつくること」。
現実にはないような場所でいい。それこそ、目の前では、天方が万里の長城とマチュピチュをつなぎ合わせて、真っ青な海の上に浮かべている。
なんで海の上にポツンと浮かべようと思えるのか、甚だ理解しがたいが見たことをないものを作るというルールにおいてコイツの右に出る者はいないと思わせる。
ボクは自分の手を止め、天方の作業を見守った。ボクが作ると、どうしても”ありえそうな世界”になってしまう。
天方にその都度、「おや~?想像力が足りませんよ、ワトソンクン」とニヤニヤ茶化される始末だ。
仕方なかろう。もとの建造物と歴史を知っていると、つなげようという発想にいたるまでわずかな抵抗があるのだから。
それこそパンフレットを持ってこられた当初は、パッチワークして貼るなんてことはなく、ただ純粋に世界のどこかにある観光地を二人で眺めていたのだ。
食べたことのないモノ、見たことのないモノであふれた本は、いつもの学術雑誌よりもうんと輝いて見えた。
ある時、「ヨモの行きたいところは?」と天方にたずねられた時、答えに窮したものだ。
この優しい牢屋から出るなんて考えたこともなかった。
想像しようと思ったことさえなかった。
本で見るだけで満足だった。
『ない』
『え~、もったいない』
『考えるだけ無駄だからな』
生から解放される方が早いから。
『しいて言うなら、アスポデロスの野原かな。もう牢屋はごめんだし』
『どこだよ、そこ』
『冥界の花畑だよ。死んだ後、悪人じゃなかったらそっちにいけるの』
『ふ~~~~~ん?』
そんな会話の次の日に、天方は塗りつぶした世界地図を両手で抱きかかえて突撃してきた。
『なければ、つくればいい!
俺が連れてってやるよ、あすぽでろす!
一緒に走って遊べる感じがいいよな!』
『は?』
そうして始まった、「青い世界地図作戦」。
動くはずのないこの牢屋が、旅人の庭になった瞬間だった。
―2073年8月1日
あすぽでろす、一緒に行けるかな。
マチュピチュと万里の長城のメタモルフォーゼ
「万里のマチ」がつくれるんだから、見に行けるかもしれない。
なんで、海の上っていわれるんだか。
こんなにも大きい大陸なのに。