白い監獄
窓の外は眩しいくらいの快晴。青々とどこまでも続く空。
目につく木々は大手を広げて茂り、緑がもはや目に痛い。
遠くから聞こえるのは、町の喧騒と蝉の声。それをかき消す音で、テレビキャスターがお天気情報を口にしている。
『今年は例年に比べて暑くなるようです。10年に1度の熱波が到来しています。外出時は熱中症対策を』
「...またか」
毎年のように繰り返される口上に、そろそろ飽きが来ても可笑しくはない。
毎年、毎年、暑いと言っては冬になり、暑さを忘れて夏が来て、また暑い暑いと繰り返す。
何度”例年とは違う夏”を繰り返せば気が済むのか。
「くっだらね」
窓から外を見やりながら愚痴をこぼす。果たしてそれは、世間への皮肉なのか、己が体への不満の発露なのか、判断することは出来なかった。
「暑い、ってなんだよ」
この病室に囚われた身の上は、暑さとはとんと無縁なのだから。
ボクは物心ついてからこの方、病院から出たことがない。出ることができない。
そんな自分の体を呪ったことは幾何だろうか。百を超えたあたりで数えることをやめてしまった。
現在の医療で直すことのできない病は、ボクを真っ白い監獄に縛り付ける重くて固い鎖だった。
『大丈夫だよ』
『いつか元気になるから』
『すぐに退院できるさ』
そんな見え透いた嘘と、憐憫の滲む不快な視線に耐え続けてはや17年。
ボクはボクを「可哀そうな子」と決めつける煩わしい視線から逃げるために、面会を拒否するようになっていた。
この病室に入ってくるのは病院関係者と親族、それから奇病に好奇心を駆り立てられた物好きな研究者が数名。
「はぁ…、つまんね」
また退屈な夏が始まる。病室の真っ白い壁と、窓の外の鮮やかな風景を見比べ、細く息を漏らした。
―2072年 6月 30日
今年もまた夏が来たらしい。
何度目かも分からない夏だ。
何色かも分からない空だ。
何が面白いのだろう。
あと何度見れるかもわからない。
早く解放してくれないか。