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【13】姉妹

 流石に話がし難いため、真面目にしっかりと仕事をこなす護衛には横へ半歩だけずれてもらった。

 

 そうして目に入ったのは、思い切り顔をしかめたアイロオーテ。口答えをされるとは微塵も想像をしていなかったのだと思われる。

 見目は相変わらず美しく、金の髪は艷やかだ。しかし、化粧の違いによって雰囲気が少々変わり、身を飾る宝飾品が以前より大分少なくなっている。赤いドレスも、見覚えが無いシンプルなシルエットのものだった。

 前者は化粧をする者がいつもと違うから、宝飾品は逃亡生活の資金にするため換金をした……といったところだろうか。


 しかし、美しい顔を盛大に歪めたところで、マイロナーテからすれば何故その要求が通ると思ったのか不思議なだけだ。

 

 思い返せば、マイロナーテはずいぶんとアイロオーテの尻拭いをしてきたものである。

 当主であるヨルド子爵とその妻が、奔放に育ったアイロオーテの相手を面倒がった所為である。

 それはもう、「貴方がたの娘なのだが?」と何度思ったかわからない程度の頻度で対処した。

 

 マイロナーテは、姉本人の評判がどうなろうが心の底から興味が無かった。ついでに言えば、今も無い。

 ただ、ヨルド子爵家の評判を無駄に落とすわけにいかなかっただけだ。せめて、自分が嫁ぐまでは……ということである。おかげで、社交期の王都滞在中は対処に奔走する日々だった。

 そのせいで、アイロオーテは勘違いしているのだろう。


 ――今の悪い状況は、自分のために何もしない妹の所為だと。


「それで、お姉様は長期の謹慎や蟄居でも言い渡されました? それが嫌で私と入れ替わりたいのでしょうが――」

「存在感の薄い貴女なんか全然相手にされてないでしょう。どうせ姿すらも覚えられていないだろうし、入れ替わっても分からないわ。でも、急に魅力的になれば待遇も良くなるでしょうから、その後の心配はしなくていいわよ。さ、早く服を脱ぎなさいな、交換するんだから」

「お姉様、いつになく強引にお話を進めたがっていらっしゃいますけど、もしかして……お父様から勘当でもされました?」

「………………はァ?」


 アイロオーテが、強い苛立ちの様子を全身に滲ませた。

 

 マイロナーテは知っている。アイロオーテは、この世の最下層にいるとばかりに見下している妹に口答えをされるのが、特に大嫌いなのである。

 

 マイロナーテは更に知っている。経験上、アイロオーテから正確な事情を聞き出したいときは、怒らせるのが一番であるのだと。

 ……というよりも、そうでもしなければマイロナーテが放つ彼女に都合の悪い話など、一切が素通りしていく都合のいい耳と頭をしているのだ。


 だとしても、中途半端に刺激をして逃げられでもしたら面倒だし、勘当の真偽がわからない以上は不審者として護衛に捕らえさせるのもリスクが高い。

 勘違いしたアイロオーテが喚いているだけで、実際は貴族籍を保持したままであれば、この程度の諍いで他家の人間を拘束したと辺境伯家が問題視される。

 

 ちなみにこれは、マイロナーテが姉の尻拭いのために時折使った手でもある。アイロオーテに偏った情報を吹き込み誘導して小さな問題を起こさせれば、その前の別の問題を有耶無耶に出来ることがあるからだ。

 

 つまり、今にも口や手を挟んできそうなユフィータや他の護衛を、しばらく抑える必要があるのだ。

 そのためには、マイロナーテがひとりで対処可能だと示さなければならない。


「勘当されたのならもう貴女を姉とは呼べませんね、アイロオーテさん」


 マイロナーテは、今のようなここぞと言うときのために、アイロオーテの前で大人しくしてきた。何もわからない今はとにかく情報が欲しい。

 今がその時だという判断材料の中に、今までの鬱憤と実家を出た解放感が含まれているかと訊かれれば――――その通りなのだが。


「――ふざっけんじゃないわ! マイロナーテ風情が生意気言ってんじゃないわよ! あんたはわたくしの足元で這いつくばってるのがお似合いなのよ!」

「貴女の前で這いつくばったことなど一度もございませんが。ところで、お父様……ヨルド子爵は何と仰ったのですか、平民のアイロオーテさん」

「黙らっしゃい! わたくしは平民じゃなくて辺境伯夫人よ、平民はあんた! 薄汚い醜女のあんた!」

「貴女は愛に生きたいと宣言されておりましたし、その願い通り自由になれたじゃないですか。そういえば、愛のお相手はどうなさったので?」

「ブスは黙ってわたくしの言うことを――――――――」

「春の花のように美しく可憐な俺の妻に何の用かな。そこの平民の女よ」


 落ち着いているのに凄みのあるグレイオットの声と共に、重厚な存在感が石畳を靴裏で強く叩いて近づいてくる。

 

 声の方向に視線を向けると、ゆっくりと……しかし威圧たっぷりに姿を表したグレイオットが――――痩せた縞模様の仔猫を片手に抱えていた。


 マイロナーテが瞬きをし、改めて視界に収めたのは……痩せているが可愛らしい仔猫と怒りの感情を表出させる大男。



 

 ――――――なんで?


 なんだか視界情報のギャップがすごいなと、マイロナーテは謎の感心をすることで精神の安定を保った。

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