表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

姉様モーニングルーティン

薄ぼんやりと目が覚める。

大きな硝子窓から入ってくる淡光が鳥たちの賑やかな声を連れてくる朝まだきのなか、布団から出ようとすると後ろから姉様が私を抱きしめ眠っている事に気づく。

姉様はまだすぅすぅと寝息を立てており随分と起きそうにない。くるりと体全体を姉様の方に向けて私も抱きしめ返す。精一杯背伸びし首元にちゅっとキスをした。少し恥ずかしくなって顔を隠すように姉様の胸元に顔を埋めもう一度眠りについた。

輝夜が寝て暫く。


「朝霧。朝霧。今の見ておったかえ。」


鴉の噛み締める様な苦しげな声が誰かを呼ぶ。

部屋の隅にすぅとこれまた美しい女が現れた。


「はい我が主。きちんと見ておりましたとも。愛らしくて愛らしくて私叫ばなかったことが奇跡と存じますわ。」

「そうでしょう。そうでしょう。わたくしの輝夜は可愛い。さすが朝霧分かっておるではないか。」

「もちろんですとも我が主。夕霧も昨日は悶えておりました…くっ………羨ましい………」


完全なるペットを可愛がる会話である。

身の毛もよだつ様な美貌の女がもちもちを囲んできゃいきゃいとしている。硝子から差し込む淡光をクリスタルのサンキャッチャーが屈折させ七色の光を美貌にのせる。


「眩しい…朝霧。今何刻か?」

「明六つと半刻で御座います。今日から輝夜様も此方で暮らしましょう。ご説明等なさるのでしたら起床をお奨め致します。」

「…」

「朝の四つと半刻に天照様がいらっしゃる様ですよ。」

「あ。」

「主様…忘れていらしましたね?仕方の無い方です事。夕霧が朝餉の準備をしておりますうえ。主様はちゃっちゃとお着替えと顔を洗っておいでくださいまし。分かりましたか?」

「はぁい…」

「はい。よろしい。お待ちしておりますわ。」


朝霧がすぅと空気に溶けて居なくなると鴉は小さく溜息を吐き輝夜にちゅっとキスをし支度を始めた。

檜の廊下をゆらゆらぺたりと歩き丸い鏡のついた洗面台で顔を洗う。大きな窓からはさわさわと揺れる木漏れ日が鴉を照らしており、洗顔用に貯めた水からは赤色のベタが飛び出し空中を泳ぎ始めている。

ベタに続いて精霊も顔を覗かせぺこりと挨拶をする。鴉は精霊の核、真珠に微量の神力を流してやり頭を一撫でする。バシャリと顔を洗いふかふかタオルで顔を拭く。

目が覚めたからか気分も上向き軽やかな曲を口遊ながら姿見の前に立つ。

皮膚が薄い桜色の瞼、そこから覗く艶やかな古代紫。小さい口が弧を描く。

今様色の背中がバカリと空いたロングドレスを雪解けのような身に纏う。脚には大胆なスリットが入っており、絹のように滑らかな肌にお日様が当たりツヤと輝いている。

真っ黒なスティレットヒールを履き、手櫛で髪を整え庭園に出る。石畳を軽やかに踏みカッとヒールを鳴らす。一歩足を踏み出す事にふわりと風が吹き、そこから

錦鯉とベタ、妖精や妖達。小さなもちもちがいる池泉へと足を進める。鴉以外のモノたちが足音に気付き一斉に頭を下げる。


「表を上げなさい。私の愛しい小鳥達おはよう御座います。今日からわたくしの輝夜。あなた達の後輩小鳥が此方で過ごす事に成りましたの。んふふ。仲良くしてやって下さいましね。」


鴉が言い終わると皆一斉に鴉にわらわらと集まってきてお喋りを始める。


「やたさま!やたさま!おはようございましゅ!お嬢は今居ないの?」

「はい、おはようございますね。輝夜は今寝ておりましてよ。」

「八咫烏様。八咫烏様。おはようございましゅ。水飴作ったのであげます。じょーずにできたです。」

「はい、君もおはようございますね。わぁ水飴ですか。君の作る甘味はいつも美味しいですからね。大切に頂きますね。」

「八咫しゅしゃま、八咫しゅ様。おはようございます。神力下さい。」

「はい、貴方もおはようございますね。あらあら仕様がない子。池泉に少し多めに注いでおきましょうね。」


鴉を中心に集まってきた小鳥達を連れ池泉を囲む護岸石に膝をつく、手をちゃぷりと池の中に入れて神力を流し始める。

途端に池が煌めき始める。水面は波打ち飛沫が次々と煌めく宝石に変わる。ダイヤモンドにクォーツ、ボルツにフォスフォフィライト。色様々な真珠や神鉱石が水面にぽちゃんと落ちていく。またその飛沫からピカピカの石が生まれている。木々は揺らめきさわさわと声を上げている。宝飾の花々は神力に揺れる種を飛ばし若緑の芽を出している。

風に煽られた鴉の黒檀のような髪もしゃらりと揺れ水墨の川の様である。

一瞬の様な、それでいて何時間も眺めていた様な曖昧な感覚でこの煌めきの作業は終わった。

鴉が池泉から手を抜き、手についた水にふぅと息を吐き真珠を三つ創り出す。鴉の桜貝の様な淡紅色の薄く繊細な爪よりも大きく、霙飴玉のような大きさである。

先程水飴をくれた子と神力をねだった子を呼び出し腕に抱える。


「先程は美味しそうな水飴をありがとう存じます。此方心許りですが受け取ってくださいましい。君も神力枯渇しかけでしたので少し多めに注いでおきましたわ。池泉にも多く注いでおきましたので何かございんしたらここから補給なさいまし。」

「わぁあああ!八咫しゅしゃまあいやとおごしゃいましゅ!」

「ん!やたさま!あいあとうございましゅ!」

「んふふ。可愛らしい子達です事。さぁ皆と遊んできなさいな。何かあったらスグ申すのですよ。分かりましたか?」

「「はぁい!」」

「はい、良い御返事ですね。やたがちゅーしてあげましょうね。」

「きゃぁ!あたしもすゆ!」

「あう…わたちもちゅーすゆ!」

「有難う御座いますね。私の可愛い子、遊んでらっしゃい。はぁ、ここが楽園って事ですわね。」


てってともちもちの塊にもちもちを送り出しソレを眺める。鴉は知っての通り小さくてもちもちしたものが大好きなのでにっこにこで眺め続けた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ