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落陽  作者: いっくん
4/6

部活動紹介

 クラスメイトの名前をあらかた覚え、高校生という肩書きにやっと馴染めてきた頃、僕らはまた、新たな初めてを経験することになる。


 前から配られるプリントに目を落としながら、後ろの席にもプリントを回す。宮前は今日も寝ているので、枕にしている腕の隙間に差し込んでおく。


「今配ったのが部活動希望調査表な。部活動見学に行って、入りたい部活が決まったら記入して先生に出すこと。もう入りたいのが決まってても一度は見学に行っとけよ~」

 池田先生が通りの良い声で説明を始める。二週間ある部活動見学の期間内に希望の部活を決めること。二週間後までに希望調査表を提出すること。そして今日の放課後、体育館で部活動紹介が行われるので用事のない者は見学すること。


「部活は強制じゃないけど、入らないヤツには個別で理由訊くからな。理由によっては入らなくてもいいけど、ただめんどくさいとかだったら適当にどっか突っ込んでやる」

 冗談とも本気とも取れる池田先生の脅しに、クラス中から非難の声が上がる。

「横暴だー!」「ほぼ強制ってことじゃん!」

 池田先生がフランクな性格ということもあって、みんな池田先生には好き勝手言うようになった。それだけみんながこのクラスに慣れてきたということでもあるから、良い傾向なのかもしれない。みんなのブーイングを聞きながら、僕はぼんやりと分析していた。


「青春しなさいってことよ。若いんだから色々挑戦しないと。校長先生も言ってただろ? この学校は部活動も盛んだって」

 片腕を広げて、池田先生がポーズを作る。スタイルが良く、顔立ちもそこそこ整っているので、ドラマのちょい役としてくらいなら出られそうなビジュアルだ。

 しかしどんなにイケてるビジュアルでも、今はただただ非難の対象である。

「そんなことどこの校長も言ってるって」「放課後は遊びまーす。それで青春しまーす」

 女子の声は高い。保育園の頃よく鳴らしていたトライアングルみたいにキンキン響く。今は大地が鳴らしているのだろうか、と家族の顔を頭に浮かべる。


「そんなこと言っといて、部活動紹介見たら変わるかもしれないだろ。きっと感動するよ。ちなみに俺は男子テニス部の顧問だから男子たち、どんどん入ってね」

 最後の方は男子列に向けての台詞だったが、僕は目を合わせないようにしておく。多分、他の男子も同じだろう。


 尚もぶーぶー騒ぐ女子たちをあしらい、池田先生は朝のホームルームを終えると教室を出て行った。


 一時間目の授業の用意をするため、ひとまず希望調査表を仕舞う。読めば解るから宮前は起こさなくて良いだろう。

 宮前がホームルーム中ずっと寝ていても池田先生が何も言わないのは、宮前の事情を知っているからだ。体力テストの時に宮前から聞いた話は、僕の住む狭い世界からは想像も出来ない苦労が詰まっていた。

 クラスのみんなにも説明したら良いのに、と少し思う。宮前の居眠りが黙認されていることをみんなだって感じ取っているはずだ。それをズルいと思うのか、何か事情があるのだと察するのかは、個々の性格と洞察力に委ねられている。

 委ねていいのだろうか。僕の心をそっと撫でた心配は、果たして宮前のためなのか、みんなのためなのか、判らなかった。


「青葉はなんにする?」

 ぐるりと辻井が身体を回して訊く。


「え?」

 考え事をしていた僕は、辻井の不意打ちの登場に頭が追い付かず、何を訊いているのかすぐには分からなかった。

「部活だよ。青葉、もう部活どうするか決めたのかなって」

 幸いにも辻井は僕の鈍い反応に気を悪くすることなく、改めて訊いてくれた。


「あー…部活か…。辻井は?」

「全然決めてない。なんか入りたいなとは思うけど」

 オレンジの眉を下げて、へらりと笑う。

「そっか…僕も決めてないな」

 頭を掻き、僕も困った感じを出す。実際は期限が二週間も先だから、危機感はまだ湧いていない。


「中学は何入ってたの?」

「んー。卓球部に入ってたけど、すぐに妹が生まれたから家の手伝いしなきゃで辞めちゃったな」

「え! 青葉、妹いるの?」

 辻井が目をぐわりと開く。茶色の目の中で光が瞬いているのが見て取れる。

「うん。弟も二人いる」

「え!!」

 辻井がますます目を見開く。目玉が零れ落ちそうだ。


「青葉、四人兄弟の一番上なんだ…」

「まぁ今どき珍しいよな」

「言われてみれば長男っぽい…?」

「そうかな? あんまり言われたことないけど」

 辻井が顔の角度を変えて、僕の顔をまじまじと覗き込む。気恥ずかしくなって、僕は目を逸らす。


「中一の時に妹が生まれたってこと? じゃあ今年三歳?」

「うん」

「弟は幾つなの?」

「上が中二、下が保育園の年長」

「へー!」

 感心と驚きの混じった声が上がる。兄弟構成を話すと、みんな大体同じ反応をする。


「そっかぁ。妹が生まれたんなら、そりゃあ部活なんかやってる場合じゃないか」

「そうそう。一応婆ちゃんとか来てくれたけど、てんやわんやで大変だったよ」

 あの頃を思い出し、肩を竦める。

 まさに毎日が大騒ぎだった。生まれたばかりの妹はずっと泣き通しだわ、大地は赤ちゃん返りするわで母はぼろぼろになっていった。上の弟、飛鷹は生活の変化に耐えきれず日に日に寝不足になっていった。

 必然的に、手伝いに通っていた母方の祖母は母とチビっ子たちの世話に追われることになり、僕と父とで家事を回すことになった。

 おかげで家事のスキルは上がったけど、もう二度とごめんだ。


「でも部活出来なかったのは、やっぱり悔しかった?」

 辻井が遠慮がちに尋ねる。他人の心に踏み込む質問は、さすがの辻井でも緊張するのだろうか。

 そんなに緊張しなくてもいいのに。

「そうでもないかな。誘われて適当に入っただけで、全然思い入れとかなかったし。むしろラッキーくらいに思ってたよ」

 中学一年時は部活が強制だったから、仕方なく入ったに過ぎない。確か友達に誘われて入ったんだったか。その友達は三年間卓球部を続け、青春を謳歌していたけど、特段羨ましいとは思わなかった。


「そっか。それならまだいいね」

 ほっとした顔で、辻井は笑った。

「辻井は? 部活とか入ってたの?」

「俺は…まぁそれどころじゃなかったから」

 目を泳がせ、まごついた動きになった辻井を見て、僕はまた失敗したことを思い知る。


 辻井の過去を聞いて、辻井の傷や苦しみを知ったはずなのに。

「そ、そうだったな。…ごめん」

 しゅんとした僕に、辻井は「いやいや、まぁ進学校だから部活なんてやってる子の方が少なかったよ」とフォローするように言ってくれた。


「だから、高校ではどっか部活に入りたいな」

 期待をいっぱいに込めた笑顔に、僕まで期待値が上がる。

「そうだな。僕もなんか入りたい」  

「じゃあ一緒の部活にしようよ!」  

 目を輝かせた辻井を、「いや、自分が入りたいのにしろよ」と(たしな)める。

 しかし辻井は楽しそうな笑顔を崩さない。

「青葉が一緒なら、どんな部活も楽しいよ!!」

「そうかな…」

 買い被りも良いところだ。だけど悪い気はしない。


 仕舞った希望調査表をまた出して、部活動一覧を眺める。数多く並ぶ部活のどれに僕が入るのか、今はまだ見当も付かなかった。



 四時間の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り始めた頃、生物教師の井上(いのうえ)先生が「あ」と声を上げた。


 午前の授業が全て終わり、もう気が抜けていた僕らは、なんだなんだと井上先生の顔を覗く。

 まさか宿題を課すつもりじゃないよな?

 多分、クラス中が同じ心配をしていた。


 生徒たちの心配をよそに、井上先生は白髪の混じった頭を掻きながら、「忘れてた忘れてた」と口を開けて笑った。

「今日、ノート集めようと思ってたんだ」


 瞬間、クラスがどよめいた。

「え、ヤバ。今日の分まだ書けてないんだけど」

「あ、名前まだ書いてないや」「なんで今日…」


 池田先生みたく表立って声を上げることはないが、授業後に不意打ちをかました井上先生に、クラスメイトたちは抗議の視線を浴びせる。

 しかし鈍感なのか敢えて無視しているのか、井上先生は素知らぬ風にみんなの顔を見回す。

「ちょっとこの後先生急いでるから、悪いんだけど生物係いるよね? ノート集めて理科準備室まで持って来てくれない?」


 クラスが声もなく沸いたのを肌で感じた。

 このクラスの生物係が誰なのかを、みんな知っているから。


 みんなの視線が、僕の後ろで寝こけている宮前に集中する。

 授業中は船を漕ぎつつもかろうじて意識を保っていた宮前は、チャイムが鳴った途端机に突っ伏していた。


 委員会や係を決めるホームルーム中に寝続けていたため、宮前は余っていた生物係を割り当てられていた。

『宮前くん寝てるから、今のうちに急いでノートまとめちゃおう』

 クラスの間で目と目の会話がなされるのを、とっくにノートを書き終え安全地帯にいる僕は呑気に傍観していた。


「じゃあよろしく~。昼休み中に来てな~。挨拶は省略でいいよ~」

 間延びした声とは裏腹に、よほど急いでいるのか、井上先生は駆け足で教室を出て行った。


 井上先生が出て行ったのを合図に、教室は騒然とした。

「もー!! なんで今日!?」

「今までテキトーに書いてたツケがついに回ってきたわ…」

 突然のノート提出で、都合の悪いクラスメイトが口々に井上先生への呪詛を吐く。


 黒板は井上先生が書いた、お世辞にもキレイとは言えない字と図で埋め尽くされている。

 四時間ということで、一足先に気が抜けて板書を後回しにしたクラスメイトたちは多い。彼ら彼女ら全員がノート提出の体裁を整えるまでに、昼休みは終わるのだろうか。


 まぁ僕には関係ない。

 誰が言い出したのか判らないが、ノートは一旦教卓に集めることにしたらしい。少しずつ出来つつあるノートの山へ、僕も自分の分を重ねる。


「だりー、今までの分はもういっか」

 うんうん唸りながら、一条が板書をしている。体力テストの日から彼は髪を逆立てることをやめた。身だしなみ検査で絞られてから染髪もしていないので、癖のある黒い髪がうねうねと頭から垂れている。

「まだみんなも書いてるし、僕の貸すから今までのも書いたら?」

 山からノートを取り上げ、一条に見せる。一条は一瞬迷う素振りをしたが、「いーや」と首を振った。

「早くメシ食いてーもん」

 にひ、と歯を見せて笑い、一条はノートを閉じた。


「そんな怒らねぇだろ、あの先生なら」

 軽やかな足取りで、一条がノートを山のてっぺんに乗せる。僕も自分のノートを山に戻す。

 四十絡みの男性教諭、井上先生は人の好い笑みをいつも浮かべていて、僕らが接する教師陣の中では比較的取っ付きやすいタイプだ。

 しかしああいう人が、実は怒ったら一番恐い。


 怒られなきゃいいけど、と僕はいそいそと昼食の支度を始める一条を眺めながら思った。


 僕も弁当を食べるべく自席へ戻る。

「青葉ー、早く食べようよ」

 律儀に僕を待っていた辻井に急かされ、弁当を取り出す。

 男子勢は宮前を除き、全員提出を終えたようだ。

 血眼になってノートをまとめている女子群を横目に、岡と小林は優雅に食事を始めている。

 もちろん女子だって真面目な生徒の方が多いので、未だ必死にペンを走らせているのは数人程度だ。

 だがその数人のせいで、ノートはなかなか井上先生の元へ届けられない。


 次第に周りからの目が冷たくなるのを、数人の不真面目な女子は体感しているらしく、ペンを動かす手は先ほどより加速している。


 辻井たちと喋りながら、僕は作業に勤しむ彼女らに密かにエールを送った。



「終わったー!」

 最後にノートを提出し、教卓に山を完成させた女子が快哉を叫んだ。

 昼休み終了まで残り二十分。思ったより早かった。みんなも良かった良かったと胸を撫で下ろす。


 すると最後に提出した生徒、竹内(たけうち)はびしっと指を差した。僕に向けて。

「じゃあ夏木くん! 宮前くん起こしてノート持ってってもらって!」


「えっ」

 ミートボールが喉に引っかかった。

 

 なんとか飲み下し、「なんで僕?」と僕なりの抗議の声を上げる。

 

 竹内は僕の質問の意味が解らないかのように、「ん?」と首を傾げた。

「だって宮前くんといえば夏木くんじゃん」

 ごく当然の如く言われても納得はいかない。


 しかしそれは僕だけのようで、周囲のクラスメイトたちはみな、当たり前のような顔で僕を見ている。

 辻井の隣に座る一条も、

「まぁ俺もおまえが起こすんだと思ってたわ」

 へらへら笑う始末だ。


 辻井だけが、不満そうに頬を膨らませているのが救いだった。

「…なんで青葉が宮前とセットみたいになってんの」


 そうだ、僕は決して宮前とセットではないし、ましてやお世話係でもない。

「僕は関係ない…」

「お願い、夏木くん!」

 教卓から身を乗り出し、竹内が叫ぶ。


「私、今からお弁当食べなきゃだし。もうこれ以上時間取れないの! 夏木くんもうお弁当食べ終わるでしょ? お願い!」

 教卓に額がぶつかりそうなほど深く頭を下げる。彼女の長い髪が、頭を覆い隠す。


 起こすだけなんだから大して時間掛からないだろう。そもそもこんなに遅れたのは自業自得なのでは?

 頭の中で反論が渦を巻く。


 だけど周りはみんな、竹内の味方だ。

「夏木くん、すぐ後ろなんだから起こしてあげたら?」

「宮前くんって声だけじゃ起きないよね。揺らして起こすのはうちらにはちょっとね」


 向かいでは、辻井の頬がどんどん膨らんでいく。

「それなら俺が…っ」

 立ち上がりかけた辻井を制したのは、僕自身だった。


 辻井と宮前の仲を、これ以上悪化させたくはない。それに不本意ながらも、このクラスで宮前の扱いを一番心得ているのは、やはり僕なのだ。

「いいよ、僕が起こすよ」

「青葉…」

 辻井の頭の上で、あるはずのない犬耳が垂れる。悲痛な鳴き声さえ聞こえる気がした。


 痛む心を抑え、意を決して立ち上がる。

「ありがとう夏木くん!」

 竹内は礼を言うと、行く末を見届けることすらせず、自席へ舞い戻っていった。


「優しいね~夏木くんは」

 にやにや笑う一条を「うるさい」といなし、竹内を恨めしそうに目で追う辻井をなだめ、振り返る。 


「しっかし宮前も、最近は授業中は起きてるようになったな」

「ノートも真面目に書いてるみたいだしね」

 一条と辻井の会話を背中で聞きながら、宮前の肩を乱暴に揺する。

「おい、宮前」


「まぁその代わり終わった途端、寝落ちしてんだけどな」

 いっそう高い声で、一条が笑う。

「昼休みはずっと寝てるよね」

 辻井の言う通り、宮前は授業中起きている分、昼休みは丸々昼寝に充てるようになった。そして昼休みが終わる五分前に起きて、お握りを詰め込むのだ。


 だからこんな時間に起こすのは、少々悪い気もする。

 されど宮前は生物係。望んでなった訳ではないとはいえ、なってしまったのなら役目を果たしてもらわねばならない。

 僕は更に強めに宮前の肩を揺すった。

「おい宮前!」


「…ん」

 重そうに、宮前の頭が上がる。成り行きを見守っていた周囲のクラスメイトから、声にならない『おぉ~』とどよめく声が聞こえた気がした。


「…なに、昼休み終わり?」

 まだ開けきらない瞼の宮前に、「違う、仕事だ」と教卓を指で差し示す。

「…仕事?」

「生物のノートを集めて、理科準備室に持って行くんだよ。もう集まってるから持ってってくれ」

 たっぷり間を置いて、宮前は「あぁ」と頷いた。


「おまえの分もだぞ」

「ん」

 出しっぱなしにしていた自分のノートを取って、宮前が立ち上がる。だけどそこで一時停止する。

「宮前?」

「…理科準備室ってどこ?」

 頭が痛い。


「隣の棟の四階だよ」

 仕方なく廊下に向けて腕を伸ばす。廊下を出て少し行くと渡り廊下がある。そこを通って隣の特別教室棟に行くのだと説明してやる。最初の授業の時に、井上先生が普段はそこに常駐していると話していたのだ。


「へぇ…」

 宮前は廊下へ目をやって、分かったような分かっていないような声を出した。

 これで僕も仕事は終わったと椅子に座り直そうとしたら、「なぁ」と呼び止められた。

「なに?」


「付いて来てくんない? 無事に辿り着けるか分かんねぇから」

「は?」

 即座に断ろうと開いた口は、向かい合う宮前の心細げな顔で閉じてしまった。


 まぁ一生辿り着けなさそうだし…。

「分か…」

「じゃあ俺も行く」

 背後から辻井の声が飛んだ。


 後ろを見たら、怒った顔の辻井が立っていた。

「いや、辻井…」

「俺も行く」

 辻井が僕を通り越して、宮前を睨む。

「…別におまえはいいんだけど」

 宮前と辻井の間で、火花が散る。


「やめろよ…」

 ため息が出る。体力テストで衝突してから、辻井は宮前を目の敵にしている節がある。


 辻井と宮前の対立に気付いたクラスの一部が、好奇の眼差しを向ける。あの時武道場にいなかった人たちにとってはさぞかし珍妙な光景だろう。


 見世物にしたくはないので、場を収めようと二人の間に割り込む。

 しかしそこで意外な人物からの助けが入った。

「オイオイ辻井~。なに必死こいてんだよ、ダッセェなぁ」

 弁当を食べ終えた一条が、皮肉げに口の端を曲げる。


「…は?」

 外部の介入に、辻井が不機嫌そうな声で応える。


 初めて見せた辻井の苛立ちに、岡や小林は判りやすいほどビビっている。

 対して辻井の敵意を直接浴びている一条は、全く動じることなく言葉を繋ぐ。

「もっと余裕持たねぇと。本妻の余裕ってヤツ」


 は?

 一条の言っていることが意味不明過ぎて、言葉が出ない。武道場での一戦を、一条は知らないはず。このやり取りを見ただけで、辻井と宮前の確執の原因に勘付いたのか?


 一条の爆弾発言で、教室にさざ波が広がる。

「本妻って言った?」「やっぱり…」

 やっぱりってなんだ。

 岡と小林も、こちらを見ている。気遣わしげな顔を浮かべてはいるが、どん引いているのも判る。

 訊きたいことは山のようにあるが、とりあえず辻井は本妻などではない。

「何言って…」

「そうだね」

 辻井の身体から、ぱっと怒気が散る。


「は?」

 辻井の方を見ると、やけに晴れやかな表情をしている。

「青葉、ごめんね困らせて。行って来なよ。俺はここで待ってる」

 待ってる、の部分に力を込めて、辻井はにっこりと笑って言う。


 それはまさに、夫がどれだけ外で遊ぼうと、最後には家に帰って来ると信じて疑わない本妻の姿だった。

「いや、辻井…」

 どこか浮かれた足取りで席に戻る辻井に、何か言いたかった。


 けれど「行こう、夏木」と宮前に肩を叩かれたため、辻井の中で育っている大きな誤解を解くことは出来なかった。


 食べかけの弁当にひとまず蓋を被せ、辻井と一条の座る席の間を通る。

「行ってらっしゃい」と手を振る辻井に「…行ってきます」と手を振り返し、親指を立てどや顔を見せ付ける一条はひと睨みする。

 クラスのあちこちから飛んでくる視線は全部無視して、僕らは教室を出た。



 昼休みで賑やかな廊下を、ノートの山を持って宮前と歩く。こんな事態になった経緯を考えると、頭が重たくなってくる。

「なぁ、そういえば係って二人いるだろ? もう一人はどうした?」

 今になって、もう一人の生物係に頼むべきだったことを思い付く。

 隣を歩く宮前は悩ましげに首を斜めに反らした。

「さぁ…?」

「おい」

 こいつに訊いたのがバカだった。


 本館と違って、特別教室棟は静かなものだった。時折、空き教室で自習や雑談をしている人たちを見かける程度で、廊下ですれ違う人はほとんどいない。


 学年の教室や職員室といった主だった部屋は本館にあるが、それ以外の教科室は特別教室棟に集中している。ただしパソコン室や総合実践室など、商業系の教科室は更に奥に建つ、商業棟と呼ばれる校舎にあるから、授業の度に僕らもそこまではるばる行くことになる。

 

 階段を上ると、踊り場の嵌め殺しの窓から商業棟が見えた。ここより更に人気のなさそうな鉄の棟は、もう何度か通っているはずなのに、今は遠い、見知らぬ建物に見えた。


 四階に着き、右と左に伸びる廊下でどちらに進むか迷った結果、なんとなく右方向へ歩くと、理科室が現れた。二分の一の確率は当たったらしい。


 電気の点いていない無人の理科室の隣に、理科準備室はあった。閉められたドアのガラス窓から中を覗き込みたかったが、あいにくクリーム色のカーテンが閉められていた。光がうっすら洩れているから、人は居るのだろう。それが井上先生であれば仕事はすぐに終わるのだけど。


「宮前、ドア開けて井上先生呼んでくれ」

 宮前は一瞬『なんで俺?』という表情を浮かべたが、自身が生物係であることを思い出し、「うん」と頷き、ドアに手を掛けた。


「いや、まずはノックした方が…」

 忠告虚しく、宮前はガラリとドアを開け放した。


 宮前の横から中を覗く。隣の理科室の半分ほどの広さの部屋には、机が二台ずつ向かい合って小さな島を作っていた。その周りを、天井近くまでの高さの棚やらコピー機やらが囲んでいる。


 部屋には一人だけいた。四台の机の一つ、僕らが立つ出入口から一番遠い机で、白衣を着た男性教師がパソコンを叩いていた。彼は僕らに気付くと、ゆっくりと首を回した。

 井上先生ではない。見たこともないその先生は、驚く様子もなく、無表情で僕らを見据えている。


「井上先生、いますか?」

 知らない先生にも、臆することなく用件を伝えられる宮前が、素直に凄いと思えた。実際は何も考えていないか、神経が太いだけなのだろう。


 白衣の先生は、暫く無言で僕らを見ていた。

 ボサッとした重めの黒髪に、真っ黒な目。白衣の下の服も黒い。顔色も土気色っぽく、全体的に黒い印象だ。

 だが、顔立ちは非常に整っていた。大きな目の周りにはびっしりと睫毛が生えていて、目の大きさを際立たせていた。鼻梁はつんと尖り、引き結んだ唇は血色こそ良くないものの、小さな顔にバランスの取れた形と大きさをしている。


 宮前も美形だが、彼が花瓶に活けられた花だとしたら、この教師は崖の下でひっそりと咲く、たおやかな花を思わせる。

 歳は二十代の半ばだろうか。まだまだ若いだろうに、僕らの担任より生気がない。


 沈黙に耐え切れず、僕は「あの」と呼び掛けた。

「僕ら一年五組の生徒で、井上先生に授業をしてもらってます。井上先生の席はどちらでしょうか? ノートを集めたので、置いていきたいんです」

 口早になっているのは緊張のためだろうか。美形な人に無言で見つめられるのは、普通の人より何倍も緊張する。


 長きに渡る沈黙の後、白衣教師はついに声を発した。

「…い…よ」


「え?」

 身体を半分部屋の中に入れ、耳を突き出す。さすがの宮前も、変人を前に不可解な顔になっている。


 白衣教師は自分の声が小さいことに気付いて、

「井上先生、いないよ」

 さっきより幾分大きな声を出した。


 僕もやっと聞き取れ、身体を戻して「あ、そうですか」と返す。

 そんなのは見れば判る。


 無駄な言葉のラリーを交わしたことに軽い後悔を覚える。早くしないと昼休みが終わってしまう。「失礼します」と中へ入る。宮前にも目で合図して中へ呼ぶ。

「あの、井上先生の机どこですか?」

 僕の動きをじっと観察していた白衣は、指を出して、自身の斜め前を差した。


 白衣の対角線の先にある席は、出入口から一番近くにある。

 用件はさっきも言ったのだから、出入口にいた段階でさっさと教えてくれればいいのに。

 この野郎。頭の中で、毒づく。


「ありがとうございます」

 それでも一応は先生だし、教えてくれたので頭を下げておく。宮前もそれに倣う。

 井上先生の机はこまごましたもので散らかっていた。書類や筆記具をどかし、ノートの山を置く。宮前も山を重ねた。

 

 机の端に、湯気の立つマグカップが置いてあった。紺色のそれは、匂いからしてコーヒーが入っているのだろう。

 ん? まだ湯気が立っているということは。


「お~、おまえらやっと持って来たのか~」

 なんとものんびりした、明るい声が聞こえ、僕らはぱっと出入口を見た。


 目尻に皺を作った井上先生が、開けっぱなしにしていたドアから中へ入って来るところだった。

 理科準備室で膨らんでいた、緊張の空気が割れた瞬間だった。


「井上先生…!」

 熱いものが込み上げる。助かった、というのが正直な感想だった。

「全然持って来ないからどうしたかと思ったよ」

 席に座って、救世主は笑いながらノートの山を叩いた。


「すみません…」

 全然僕のせいではないのだが、宮前に謝る気配がないから代わりに謝っておく。ひと睨みしてやったら、宮前もひょいと首を竦めた。

「井上先生、どこにいらっしゃったんですか?」

「ん? トイレ」

 なんでもない顔であっさり答えられ、拍子抜けしてしまう。

 教えてくれればいいのに。『今はいない』と見れば判ることしか言ってくれなかった白衣へ、抗議の念を込めて視線を送る。

 

 白衣はもう、自分には関係ないとばかりにパソコンを叩いていた。

 脳内のどこかで、ぐつりと何かが煮え立つ音が聞こえた。


「宮前、生物係だったんだな」

 宮前を見て、井上先生は意外そうな顔を作る。

「はぁ、まぁ」

 曖昧な調子で宮前が首を揺らす。僕は違うんです、とは説明が面倒だから言わないでおく。


「なんだその反応は」と井上先生はかかと笑うと、

「最初おまえ寝てばっかだったから、どうしたもんかと思ってたけど、最近は真面目に授業受けてるじゃないか。先生は嬉しいぞ」

 腕を伸ばして、宮前の肩を叩いた。

「やれば出来るじゃないか。心境の変化でもあったか?」

 冗談混じりに言った井上先生に、宮前は「まぁ…」と呟いてから、なぜか僕の方を見た。


「?」

 理由が解らず、ただきょとんと見返すことしか出来なかったが、宮前は僕に何も告げようとはしなかった。

「まぁ…そんな感じです」

 答えになっていない宮前の返答に井上先生は頓着することなく、「そうかそうか」と二、三度頷いてみせた。

「これからもその調子でな」

 再び宮前の肩を叩くと、僕に視線を替え、

「夏木もいつも真面目にノートを書いてるな。そのまま頑張れ」と朗らかに笑う。


 白衣教師と違い、水色と白のポロシャツを着て笑みを浮かべる井上先生は、陽だまりのように明るい。あまりの対極ぶりに、斜め向かいの白衣を思わず横目で窺ってしまう。

 白衣は、自分だけの世界に閉じこもってしまったかのように、一人パソコンを叩き続けている。パソコンが邪魔であまり顔は見えないが、逆に見えない方が今の僕の精神衛生上には良いだろう。


「はい、ありがとうございます。じゃあ失礼します」

 頭を軽く下げ、そそくさと部屋を出る。宮前も付いて来た。

「もうすぐテストだからしっかりな~」

 井上先生の見送りの言葉を背中で受け止め、廊下を進んだ。


 そうか、テストが近いからノートを集めるのか。

 突然のノート提出の謎が解けて、僕はやっと自分の仕事が全て終わったことを感じた。


 行きとは違い、手ぶらで気楽な足取りとなる。大した量ではなかったとはいえ、長時間ノートの山を支えていた腕には跡が付いていた。

 

 腕をさすりつつ、階段を下りる。早く教室に戻って弁当の残りを平らげねば。『待ってる』と言った辻井の、寂しげな顔が脳内に立ち現れる。


「…さっきの、俺が真面目に授業を聞くようになったなのは」

「え?」

 宮前の声に、思考が現実へ引き戻される。


 宮前は足元に目線をやって、静かに言う。

「俺が真面目に授業を聞いてるのは」

 踊り場で、宮前が足を止める。一歩前の距離で、僕も止まる。


 太陽の光が降りる場所、金色の輪の中で、初めて見るような真剣な面持ちで、宮前は言う。

「夏木に、あんまりみっともないとこ見せらんねーから」


 見惚れるようにして宮前の言葉を待っていた僕は、想定外の言葉に息を詰めた。

「…は? 僕に?」

 声もなく、宮前はこくんと頷く。


「…なんで」

「夏木がこの前熱弁してたから、真面目に勉強したら、俺にも何か見つけられるかもって思った」

 誇らしげに、胸を張る。


 体力テストでの会話が、遠くから聞こえる。

『なんにもないなんて、言うなよ』

『まだなんでも出来るだろ。なんでもう勝手に諦めてんだよ』


 思い返すと、恥ずかしい台詞だ。熱弁なんて言われてるし。

 でもそんな僕の言葉を、宮前は覚えていた。そして、心に響いていた。


 胸が、熱くなっていくのを感じる。

「…そっか」

「眠いけど、最近は前ほど辛くない。井上先生もああ言ってたし、まぁ…ちゃんとやろうとは、思う」

 覚悟を決めるように深く頷いて、宮前は光の輪を出た。僕を追い越していく、その背中を追い掛ける。


「アイツに、負けてらんねーし」

 背中を向けたまま、宮前はぼそりと呟く。

「アイツ?」

「うん、アイツ」

 誰のことだろう。判らないけど、宮前の心を熱くさせている、もう一つの理由があるようだ。それはそれで良いことなのかもしれない。


「急ごう、夏木。昼休み終了まであと七分しかない」

 腕時計を胸ポケットから取り出し、宮前はさして焦りも見せずに言う。

「は? ヤバいじゃん!」

 駆け足で階段を降りる。宮前が付いて来るのを確認しながら、僕は走らない程度に廊下を急いだ。



 教室に戻ると、もうみんな弁当を食べ終えて五時間目の準備に取り掛かっていた。五時間目は現代文で移動教室がないのが、せめてもの救いか。


「あ、夏木くんありがとー!」

 友達と喋っていた竹内が、身体を揺らしながら駆け寄ってくる。

「あぁ、うん」

 クラスでは声が大きいグループに属している竹内は、僕と目の前の距離でも大きな声で話す。低い声だから耳へのダメージは少ないが、鼓膜にはがんがん響いてくる。気付かれない程度に一歩後退する。

「宮前くんもお疲れ!」

 はきはきとした声にうるさそうに目を瞑りながら、宮前は「ん」と顎を僅かに引いた。


「お帰り、青葉!」

 待っていました、とばかりに辻井が笑顔を弾けさせる。見えない尻尾がぶんぶん振れている。

「ただいま」

 笑い掛けると、嬉しそうに辻井は目をぎゅっと閉じた。


「お帰り~」

 小林の机に座っていた一条も振り返る。岡と小林も「お疲れ」と(ねぎら)ってくれた。

 それに「あぁ」と返しながら、席に座って弁当を広げる。


「お疲れ~、二人とも」

 隣の席の小川からも労われ、「うん」と返す。正直僕が宮前の世話係という間違った認識をクラスに広めた張本人として思うことはあるが、今さら文句を言っても彼女には届かないだろう。

 宮前は隣の加藤からも「お疲れ」と声を掛けられているというのに、それを適当に受け流して、お握りにかぶり付いている。


「井上先生いた?」

 辻井が身体を回して、僕に尋ねる。

「行った時はいなかったよ」

 理科準備室での一幕が蘇り、むかむかしてくる。

「へー、誰かいたの?」

「うん…すっごい無愛想な男の先生が」

 だし巻き卵をあの男に見立て、箸でつつく。固く焼かれた卵は、この程度ではほぐれない。腹立たしく、そしてバカらしくなり、箸でぶっ刺して口に放り込む。


「へー! それは災難だったね」

「ホントだよ」

 だし巻き卵を咀嚼しながら、最後の一品、鮭の塩焼きを摘まみ上げる。それでふと、行きでの宮前との会話を思い出す。

「なぁ、もう一人の生物係って誰だっけ?」


 辻井も忘れていたらしい、「あぁそっか。そっちに頼めば良かったんだ!」と両手を叩いた。

「ムリだよ」

 隣からの声に、辻井と二人で顔を向ける。


 頬杖を突いて、傾けた顔で小川は言った。

「あの子、ずっと休んでるもん」

「え、誰なの?」

 訊きながら、頭の片隅では担任の『今日も休みか…』と寂しげな声が映像と共に聞こえていた。


 小川はふいっと廊下側へ顎を突き出した。

氷川(ひかわ)さん。入学式から二日三日…くらい出て、あとはずっと休み」

 小川が顎で差した、廊下から二列目の席には、確かに一つだけ誰も座っていない席があった。


 氷川…言われてみれば、何人かの先生があの席を見ながら欠席の数を数えていた。

「なんで休んでんの?」

 どんな人だったか、まるで覚えていない。何しろクラスメイトの顔を覚えたのなんて、まだつい最近なのだ。

 それは、氷川という生徒にとっても同じこと。

 ろくにクラスメイトも覚えていない短期間に、彼女の身に何があったのだろう。


 小川は興味もなさそうに、「さぁ?」と目線をずらす。

「病気とかだったら先生もなんか言うだろうし、まぁただの不登校なんじゃない?」

「ただのって…」

 さして親しくもない人だったらこんなものか。諦めて、弁当箱を片付ける。


「早く来るといいね。そしたら青葉が宮前を手伝わなくても良くなる」

 にこにこ笑う辻井の目は、僕を通して、後ろの席の宮前を見ている気がした。

「そう…だな」

 それには全く同感なのだけど、辻井の目の奥にチラチラと燃える火を見つけてしまって、僕はただ笑っておくしかなかった。



 放課後、僕ら一年は朝のホームルームで言われていた通り、部活動紹介を見学するため、ぞろぞろと体育館へ向かった。


 朝はみんな面倒そうにしていたけれど、今は誰もがわくわくしているように見える。なんだかんだ、中学とはまたひと味違った高校の部活動に興味津々なのだ。

 僕もまた、どんな部活があるのかとやはり浮き立っていた。


 示し合わせた訳ではないけど、五組の男子はひとかたまりになって歩いていた。

「なぁ~、やっぱ岡は野球部に入んの?」

 一条に訊かれた岡は、「どうだろうな」と小さく息をついた。

「中学で肘壊してから辞めたんだ。そっからはもう野球なんかって思って、高校で入る気はなかったんだけど…」

 雑踏に紛れそうなほどさらっとした告白に、僕らは目を丸くする。


「え、肘壊してたん?」

 食い気味で尋ねる一条に、岡は「今はもう治ってるよ」と苦笑で返した。

「強かったの?」

 好奇心を隠しもせず、辻井も目をきらきらさせる。

「まぁ…それなりに。一応、二年からレギュラーだった」

 ちょっとだけ誇らしそうに、岡は目元を緩めた。


「すっげー!」「カッコいいね!!」

 わぁわぁはしゃぐ一条と辻井の後ろから、僕は「ここって野球部あったっけ?」と訊いてみた。

 女子が多数を占める商業高校に、野球部などといういかにも男っぽい部活などあったのか甚だ疑問だった。仮にあるとしても女子だけの部ではないのだろうか。


 しかし意外なことに、岡は「あるよ」とあっさり肯定してみせた。

「もちろん強くはないし、人数もギリギリだけど…まぁ俺もそんな本気でやり込みたい訳じゃないし」

 大きな身体に、象のような優しい目で岡は微笑んだ。それは挫折や悔しさなど、負の感情を乗り越えた者だけが獲得出来る、なんの曇りもない真っ白な笑顔だった。


「とか言って、俺が浦商野球部を甲子園に連れて行ってやる! とか思ってんじゃねーの?」

 一条が歯を剥き出してからかう。岡は「そんなんじゃねーよ」と呆れ顔で笑った。


 その様子を、少し離れた場所から無言で見つめている小林。

 いつもなら岡と一緒になって笑っているのに。

 どうしたのかと思った矢先、小林は口を開けた。

「いいなぁ、やりたいことがあって」

 呟いた声は、岡たちには聞こえていない。周りの喋り声にも紛れて、その声が正しく届いたのはたまたま近くにいた僕と宮前だった。


 寝ぼけ眼であくびをしている宮前は聞いちゃいないだろう。

「小林はないのか?」

 小さな目を見開いて、小林は僕を見た。僕が聞いているとは思わなかったようだ。


「小林は、やりたい部活とかないの?」

 もう一度訊くと、小林は恥じるように目線を下げた。

「…ないよ。俺、運動とかからっきしだし」

「そっか。じゃあ文化部に入るのか?」

 太い首を左右に回す。

「俺、デブだからどこ行っても邪魔になるし…。力がある訳でもないから、部活でみんなと上手くやる自信ないんだ」


「そんなの…」

 気にするな、と言ったところで、気になるに決まっている。多分、そう思うようになったきっかけがあるのだ。


 途中で止まった僕の声が、宙に掻き消える。渡り廊下に差し掛かり、乾いた風が僕らの間を通り抜ける。

 同級生たちの楽しげな声も、風の感触も、小林は感じていないようだった。

 世界を閉ざして俯く姿は、いつかの宮前を見ているようだった。


「やりたいことなんて、僕にもないよ」

 小林の小さな目が、少しだけ上がる。

「でも、部活とか、そういう高校らしいことしたい。そんで、色々思い出作りたい。…それでいいんじゃないか」

 歩きながら半身を捻ると、小林の顔は僕を向いていた。目を疑うように、何度もまばたきして。


「小林の居場所も見つかるよ。だから諦めんなよ」

 宮前にも、小林にも諦めてほしくない。前を歩く、一条や辻井や岡みたいに、二人にもこれからを楽しみにしてほしい。

 なんといっても、同じクラスの男子の仲間なのだ。みんなで学校を楽しみたい。


 小林はまだ不安そうに目をしょぼつかせていたが、ふっと肩の力を抜いた。

「なんか…夏木が言うとそうかもって思えてくるから、不思議だな」

「そうか?」


「おーい、何してんのー」

 辻井が身体をこちらに向けて待っていた。少し前に一条と岡もいる。

「早くー」

 じれったそうにしている辻井に「今行くよ」と手を振る。小林が歩調を速めて向かっていく。僕も足を進めた。


「夏木は、そうやって人を変えてくんだな」

 後ろからの声に、「え?」と振り向く。

 宮前が、微笑を浮かべて僕を真っ直ぐ見ていた。

 光の当たり加減のせいかやけに光っていて、目をぱっちり開けた宮前は神々しくさえあった。


「何言ってんだ?」

 訝しむ僕に説明する気はないのか、宮前は「そのまんまの意味だよ」と言い置いて、僕の横を行き過ぎる。どこか楽しそうな足取りに、ますます意味が解らないと首を捻る。


「青葉ー! 早くー!」

 辻井が口元に両手を当てて叫んでいる。もう体育館は目と鼻の先だ。いつの間にか、周りにいた同級生がまばらになっている。「今行く!」と叫び返し、辻井の元へと急いだ。



 体育館に入ると、同級生たちによる喧騒が僕らを迎えた。特に座る位置などは決まっていないらしく、来た順から適当な場所を見つけて床に腰を下ろしている。


「前行こうぜ前!」

 一条が嬉々として舞台の真ん前を陣取る。あまり前だと首を思いっきり上げなくてはいけない。みんなにも容易にその辛さを想像出来るから、前の方は空いていた。

 一条にも教えてやったら、「じゃあこの辺?」と座ったままずりずりと後ろに下がった。そのすぐ隣には、別のクラスの女子の三人グループがいた。それまで楽しげに会話していた三人は、突如出現した男子に明らかに困惑している様子だった。

 彼女らに「ごめん、隣座らせて」と頼むと、三人は視線を交わし合った後、頷いて横にずれてくれた。


 場所を空けてもらったとはいえ、男子が六人座るには少々スペースが足りない。あまり横に広がり過ぎると舞台が見えにくくなる。身体が大きな奴がいることも考えると、ここは分かれた方が良いだろう。

「辻井、僕らは後ろに行こう」

 そう声を掛けたら、辻井は何が嬉しいのか「うん!」と顔いっぱいに笑みを咲かせた。

「俺も行く」

 宮前が僕と辻井の後ろからひょっこり顔を出す。辻井は嫌な顔をしたけど、断る理由もないので三人で移動することにする。


「じゃあ僕らは後ろ行くから」

 辻井と宮前を指で示しながら言うと、一条は「ほっほ~い」と日本一有名な五歳児を真似た返事をした。ついでに右手を伸ばしてひらひら振ってきたので、軽く振り返す。

 僕らに場所を譲ってもらったことを理解した岡は「悪いな」とすまなそうに言い、小林も謝るように首を引っ込めた。

「いいよ、じゃ」

 

 人数が集まってきているので、あまり場所は空いていない。座っている人たちの頭を蹴らないよう外側へ回り込んで、スペースを探しながら後方へ進む。一年生の担任教師たちが壁際に立ち、僕らを含めた、まだうろうろしている生徒たちに、目で『早く座れ』と訴えている。

 こうなったら最後列かなと半ば諦めていたが、辻井が「あ、あそこ空いてる!」と、真ん中の列よりやや後ろを指差した。


 確かに他は一人かせいぜい二人分くらいしかスペースが空いていない中、辻井の差したところはちょうど三人分、ぽっかり穴が空いていた。

 そう、ちょうど三人分。

 両隣に他クラスの女子がいて、気まずい位置だ。身体を縮こまらせないと腕が当たるのではないか。


 僕の葛藤も知らず、辻井はルンルンとスペースへ突き進んでいく。

「隣いい?」

 辻井は軽い調子で隣の女子へ訊いたが、大輪の笑顔には有無を言わせぬ圧がある。お喋りしていた女子はぽかんと口を開けて、壊れた人形のように首を上下に揺らした。


「はい、青葉!」

 座った辻井が隣の床を叩く。圧倒されるように、「うん…」と頷いて僕も座る。

 宮前も隣の女子に会釈をさっと済ませて、僕の左隣に身を収める。宮前側の女子もぽかんとしていたのが、ちょっとだけ面白かった。


 僕らが座ってしばらくしてから、舞台袖、下手側からマイクとプリントを持った女生徒が二人現れた。

 浦商では女子の制服であるセーラー服は、学年によってスカーフの色が分かれている。学年が上がると色はそのまま持ち上がる仕組みで、今年度は一年生は青、二年生は緑、三年生は赤となっていた。ちなみに男子は胸元の校章の色で区別されるが、非常に見辛い。


 現れた女生徒のスカーフは共に緑色。ということは彼女らは二年生か。

 顔はよく見えないが、背丈や体格はどちらも普通サイズといえた。違うのは向かって左の先輩がボブヘアで、右が胸下までのストレートのロングヘアという点くらいだ。


 ロングヘアの先輩が、マイクを口元に持っていく。

「一年生の皆さん、初めまして。私たちは今日の部活動紹介の司会をさせて頂く、二年の新聞部です」

 ボブヘアの先輩と二人で揃って頭を下げる。条件反射のように、僕らは拍手で応えた。


「現在浦風商業には…種類の部活があります」

 プリントを見ながら、ロング先輩が緊張を感じさせない、滑らかな口振りで部活の名前を挙げていく。その中にはよく知られる定番の部活もあれば、商業高校ならではの特殊な部活もあった。


「では、一つずつ部活動を、部員の方々に紹介して頂きます」

 ボブ先輩が上手に向かって手を伸ばす。僕らの目も先輩たちから上手へ移る。すると上手の舞台袖から黒いTシャツと青いハーフパンツを着用した男女が四人出てきた。

「僕たちは陸上部です」

 舞台の真ん中まで来てから、一番下手に近い男子生徒がハキハキとした喋り方で挨拶をした。背が高く、こんがり日焼けしている。四人全員それなりに日焼けはしているが、挨拶をした先輩の肌が一番黒い。


「陸上部には現在部員が…人いて、種目が」

 よく焼けた先輩が幾つか種目を列挙していくと、横に並んだ先輩たちがそれに合わせて順番にジェスチャーしていく。その動きが滑稽で、一年生集団のあちこちから笑い声が洩れた。

 

 辻井も声を上げて笑っている。宮前はどうかと思ったら、睨むような目付きで唇を突き出している。今にも鳥のくちばしのようにつつきそうだ。

 どうせ眠そうにしていると決めてかかっていたから、こんな表情は予想外だ。なぜなのか疑問がよぎった時、宮前の中学時代の部活を思い出した。

『陸上やってたから』

 その後の、宮前の境遇も。


 かつて自分が活躍していた部活を俯瞰(ふかん)して、宮前は何を思っているのだろう。

 その真剣なまでの眼差しに、何かしらの強い思いが込められていることだけは、僕にも判った。


 陸上部が終わり、その後も入れ替わり立ち替わりに先輩たちが登場して、自らの部活を誇りと緊張を感じさせながら紹介していく。

 浦商は部活動が盛んとか聞いていたが、どの部活もこれといって華々しい成績を保持している訳ではなかった。

 クラスの女子が言っていた、『そんなことどこの校長も言っている』は、正解だったかもしれない。


 小林の言葉通り野球部もあった。部員は十人で、三年生が抜けたら六人になってしまうという。そのためか、他の部活に比べても紹介に必死さがあった。


 バドミントン部が去るとロング先輩が、

「次は文化部の紹介です」

 合図を送るように、幕の下手へ手を振った。


「なんかいいのあった?」

 辻井が囁く。僕は、舞台で演劇部が繰り広げるミュージカルを眺めながら、「んー…特には」と答えた。

 どの部活にするか、見当は付いていなかった。どころか運動部にするか文化部にするかさえ、決めていない。

 だからどの紹介も真剣に見ていたつもりだったけど、今のところ、これだというものはなかった。


「辻井は?」

 訊き返すと、辻井も「俺も特にはないや」と苦笑いした。

 僕と一緒がいいなんて言っていたけど、実際、辻井はどうするのだろう。僕自身、入りたい部活が決まるのかだんだん不安になってきた。


 左隣をちら見すると、宮前は寝こけていた。限界を超えたのか、文化部には興味がないのか、あるいはその両方か。

 そもそも宮前は部活になんぞ入るのだろうか。宮前の体質を考えたら、部活は免除されてもおかしくない。でもここにいるということは、宮前としては部活に入る意思があるという訳で…。


 つらつら考えていたら、演劇部が終わり、楽器を持った集団と交代していた。吹奏楽部か、と紹介される前に判った。


 部活動紹介に参加する人数には上限があるのか、どの部活も六人を超えていない。吹奏楽部も二十四人いると話しているが、舞台上にいるのはやはり六人だった。また、ユニフォームを着た紹介者ばかりで気付かなかったが、初めて制服で出てきた吹奏楽部は全員が二年生だった。このことから、参加者の中心は二年生だと考えて良いかもしれない。


 選び抜かれた六人が、思い思いの楽器を持ち上げ、今流行りのJ-POPを奏で始める。これが実はアニソンだと知っている人は案外少ない。

 周りも手拍子で盛り上げるなか、宮前は立てた膝に顔を埋めて動く気配がない。素晴らしい音楽に感動して目を覚ます、なんてドラマチックな展開にはならないようだ。

 

 だが、最後に部員の一人が太鼓のようなものを大きく叩いた時、宮前がはっと顔を上げた。寝ぼけた顔でここがどこなのか、今何しているのかを必死に把握しようとする姿が可笑しかった。


 英語部、写真部…と紹介が続き、ロング先輩とボブ先輩の新聞部も登場した。彼女らも合流し、舞台には四人の新聞部が揃う。こちらも全員が二年で、女子ばかりだ。

「私たちは毎月、ハルカという新聞を発行して、校内に掲示しています。見たことある人はいますか?」

 後から現れた、すらりとした大人っぽい雰囲気の先輩が手を挙げて僕らを見回す。

 

 僕らの中で、何人かの手が挙がる。辻井の手も。

「え、見たことあんの?」

 入学して一ヶ月近く経つのに、僕はそんなもの見たことがない。辻井は「え~?」と眉を下げて笑った。

「下駄箱のところの廊下の壁に貼ってあるじゃん」

「うっそだぁ…」

「嘘じゃないって。まぁ大したこと書いてないから、わざわざ話題には出さなかったけど」

 僕の反応にくすくす笑いながら、さらりと毒を吐く。辻井には、意外とこういう一面がある。


 朝は下駄箱を通ったら真っ直ぐ階段を目指しているから、周りなんてろくに見ていない。下校時も一緒に帰っている辻井と下駄箱方向しか見ていない。振り返ると全然周りを気にしていないことが判って、自分に呆れてしまう。

「宮前は…」

 横を見たけど、宮前は吹奏楽部が終わってから夢の世界へ旅立ったっきり、まだ帰っていなかった。しかしどうせコイツも見ちゃいないと勝手に仲間意識を持つ。


 後から来た先輩、その二が白い歯を零す。

「新聞部は取材をすることが多いので、人と関わることが好きな人にはぴったりです。もちろん、そうでない人も大歓迎です!」

 面白そう、とちょっとだけ思った。調べるのは好きだし、色々な人に関わるなら見聞も広がりそうだ。候補に入れておくことにする。


 運動部は陸上部を除き、男女が明確に分かれているが、男子が入れる部活は少ない。対して文化部は男女混合だ。どの部活にも入る可能性があることを考えると、運動部の時よりもっと身を入れて見学していなければならない。


 新聞部の紹介が終わり、二人の先輩が消えると、壇上に残ったロング先輩とボブ先輩は、上手側の定位置に戻った。

「次は、商業系の部活です」

 ロング先輩が合図を送る。ここからは、商業高校ならではの特殊な部活の紹介となる。


 はじめに簿記(ぼき)部が登壇した。紹介者は男女一人ずつで、他の部活よりも少ない印象を与える。遠いから胸元の校章の色が見えないけれど、恐らく男の先輩も二年生だろう。

 男の先輩も、女の先輩も、緊張からか声が上擦ってしまっていて聞き取り辛い。新聞部が元気だっただけに、否応にも落差を感じてしまう。僕らの中にも白けた空気が漂う。


 簿記は商業高校の(きも)となる教科だ。それを部活で背負っているのなら、誰よりも堂々としているべきではないか? などと思っている間に、簿記部の紹介は終わった。ホッとした顔を隠しもせず、二人の先輩が消えていく。内容は全く覚えていない。


「なんかパッとしなかったね」

 辻井が率直に言う。

「んー…まぁもったいなかったな」

「だねぇ」

 紹介を見る前から興味は薄かったが、今ので決定的になった。これはないかな、と僕は、恐らく辻井も思った。


 その後のパソコン部も珠算部も、多少興味は引かれたものの、本当に入部したいかと問われたら、答えに窮してしまう。


 これは新聞部で決まりかな…と頭の中で固まりかけていたところ、最後の紹介者がやって来た。


 人数は四人。全員女子だが、スカーフの色から、三年生と二年生二人ずつということが判った。

 制服で紹介した生徒たちはみな二年生だったから、三年生がいることに物珍しさを感じる。

 しかし一番目を引いたのは、彼女たちが運んできたホワイトボードだった。


 二年生の、眼鏡を掛け、腰まである長い髪の先輩がマイクを口元に近付ける。

「私たちは、速記部です」

 緊張しているものの、ゆっくりとした話し方のおかげか聞き取りやすい。女性にしては低い声も、耳にすんなり入ってくる。


 希望調査票の部活一覧にも名前は載っていたけど、聞き慣れない名前に、僕たちの頭上にハテナマークが浮かぶ。

 カンペを確認しながら、眼鏡の先輩が説明する。

「速記とは、特殊な文字を使って文章を速く書く技術のことです。今から実践します」


 三年生の二人がホワイトボードの両端に立ち、角度や位置を調整する。三年生はあくまでサポート役らしい。

 眼鏡先輩がこちらに背を向けてホワイトボードの前に立つと、もう一人の二年生がカンペを広げた。


 何かが始まる気配に、みんなの注目が集まる。面白そうなので、宮前も頭をはたいて起こしてやる。

「…?」

 顎で舞台を示す。不満そうな顔で、宮前も舞台へ視線を向けた。


 カンペを持った、四人の中では一番小柄な二年の先輩が「始めます」と声を張る。

「『みなさん、高校生活は慣れましたか?』」

 小柄な先輩の声に合わせて、マジックを持った眼鏡先輩の手が素早く動く。ホワイトボードには、ミミズがのたくったような文字が書かれていく。


 あれが、特殊な文字?

 どう読んでもミミズ文字にしか見えない。先輩は腕を僅かに上下させながら、横へ横へミミズ文字を這わせていく。

「『勉強も部活も大いに励んでください。それは、必ずみなさんの宝となります』」

 みんなが引き込まれるように見守るなか、小柄先輩の声が止まる。同時に、眼鏡先輩の手も止まった。


(やく)してください」

 小柄先輩に促された眼鏡先輩は、マジックの先でミミズ文字を差していきながら、

「『みなさん、高校生活は慣れましたか? 勉強も部活も大いに励んでください。それは、必ずみなさんの宝となります』」

 完璧に訳してみせた。

「正解です」

 小柄先輩が頷く。

 

 後ろに控える三年生が拍手し、僕らも拍手を送る。

 眼鏡先輩は一礼すると、これ以上説明は無用とばかりに、他の先輩たちと一緒に舞台袖へ帰っていった。


「すごいな」

 自然に零れた言葉に、辻井が「うん」と頷く。

「あの文章自体は事前に覚えていたとしても、文字は本物だろうね。あのふにゃふにゃした文字に、全部意味があるんだねぇ」

 僕も同意見だった。どう見ても、居眠りしている間に書いた字にしか見えないのに、あの文字ひとつひとつに、読み方があるのだ。

 心が、動く気配がした。


「決めた」

「え?」

「速記部にするよ」

 辻井に顔を向けて告げる。辻井はぴたりと動きを止めたかと思うと、弾けるように破顔した。

「そっか。じゃあ俺も速記部に入る」

「いや、だから自分で決めろよ」

「自分で決めてるよ。俺もすごいと思ったもん」

 肩をくっつけ、辻井が笑顔を近付ける。


「あんなの出来たらすっごく楽しいよ。それで、青葉がいたらもっと楽しい」

 こうも熱く言われたら、強いて断るのもどうかと思えてきた。速記に心を動かされたのは、辻井も同じなのだろう。

「そうか。じゃあ一緒に入ろう」

「うん!」


 宮前も、少しは感動しただろうか。横目で見てみたが、いつの間にかまた寝てしまっていた。

 宮前は全く凄いと思わなかったのだろうか。それともせっかく起こしてやったのに、見てすらいないのだろうか。

 残念に思いながら、いつか速記を使いこなしてぎゃふんと言わせてやろうなんて、僕はささやかな野望を抱くのだった。



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