第四小節:夕立と変わりゆく
次の日、同じ時間に同じ場所を訪ねてみたがおじさんはいなかった。
おじさんのいない部屋はひどく殺風景に見えた。
もともと殺風景ではあっただろうけど
そこには確かにそう感じる理由があった
「本が…ない。」
本棚にあった本は一つ残らずなくなっていた。
全部をおじさん1人で運び出すのは少し難しい量のはずだったけど…
不思議に思ったが おじさんも帰ってくる気がしなかったので
その日はすぐにその場を去った。
そしてさらに何日か後の夕方。
部屋の中を覗いてみたけどやっぱりおじさんはいなかった
「もしかして、ドッペルゲンガーに見つかっちゃったのかな…」
少し心細くなったけど確証はないのでそれ以上は考えないことにした
起こってもいないことに不安になるのはよそう
しかし
次の瞬間に
それ以上考える必要はなくなってしまった
今日はもう帰ろうと後ろを振り返ったその時だった
一瞬で、両目が記憶した光景は
頭が理解するよりも早く 私の体を凍りつかせた
見てしまった
部屋の奥
夕日で真っ赤に染まる壁にもたれる人陰
顔は影になっていて見えなかった
誰だろう
分かりきったをことをあえて避けるように
自問自答を繰り返し
少しずつ 少しずつ 顔を覗き込んだ
「……っ」
おじさんは
首から血を流して倒れていた
「……っん」
私は泣きそうになるのを必死でこらえた
ここで涙が零れたら
しばらく立ち直れない気がした
自分と同じ境遇の人間が殺されたことや
ドッペルゲンガーを見たものが殺されるという事実。
自分ももうすぐ殺されるんじゃないかという絶望感で
頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだったから
それに いつまでもこんな場所にいるわけにはいかない。
こんなとこ もし人に見つかったら言い訳のしようがない。
「…とにかく、離れなきゃ」
冷静にと、必死に自分を偽って
逃げるように その場を去った
いつの間にか夕日は堕ちていて
雨が、降りはじめていた




