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33 粥の味

 奉天飛行場へ到着し俺は本社の大人達に引き渡された。以降、参謀殿にもカトウさんにも会うことはなかった。スーパー機から降りる際に、肩を叩かれ握手をされたのが最後だった。

 機内での会話は、別に口止めはされなかったが、事実関係だけを聴取の際に答えるだけにした。

 その日は一泊し翌日ハルビンへ戻る列車に乗り込んだ。

 

 ハルビンでも帰社報告をしたが、聴取といった雰囲気ではなかった。なんか家出少年を扱うような感じというか、無事戻ってきてえらかったね、というところのようだ。まあ大人扱いされていないんだろうな。


 翌日から日常が戻った。定時に出勤しキリの良いところまで働き、寮に帰って寝る。


 休みの日が来て、街に出た。ウルグダイ君が一緒だ。

 買い物などをして、いつもの食堂へ向かった。久しぶりの気がするが何のことはない、単に一週間ぶりのこだ。暦の上では。

 食堂は相変わらず繁盛のようだ。にらみ合っている奴もいないし、倒れているのもいない。いたって平和な店だ。俺にとっては少し違ったが。

 「✖✖✖✖✖!」聞き取れなかったが怒られているようだ。そして頬っぺたを平手打ちされた。

 さすがに店中が静かになった。

 何を言っているのかわからないが淑華は随分と怒っている。こんなに顔色が白かったかなあ。頬だけが赤くなっているから余計に色白が目立つ。

 しばらく怒られていたが、急に抱き着かれた。今度は泣いているようだ。泣きながらやっぱり怒られているようなので、俺としては謝るしかなかった。

 見かねたのか主人が出てきて店の奥に二人まとめて連れていかれた。背後で店の中に喧騒が戻ったのが分かった。

 奥の長椅子に座らされて、今度は主人が何か言い出した。こっちも早口でさっぱりわからない。さすがに付いてきたウルグダイ君が通訳をしてくれた。

 「うーん、要はね」

 ここでの大騒ぎの後、警察は来るは、ヤクザは来るは、しまいには軍関係まで来て色々聞いていったらしい。もちろん俺の消息なんか誰も説明してはくれない。

 軍が動いたところでまずヤクザが現れなくなった。店にだけではなく近隣から消えた。警察は何事もなかったかのようにふるまった。何を尋ねても知らないの一点張り。軍関係は一昨日現れて見舞金と称して封筒を置いて行ったそうだ。これは主人が有り難くいただいた。

 会社からは何の動きもなかったようだった。もともと日本人客も少なかったからな。

 当然俺の消息など誰も答えてはくれなかった。どころか、何のことだと言わんばかり。いなかったことになっていたのだ。

 そこへ俺がのこのこと現れればね。


 「ヤクザと軍がからんでいちゃあね、もう二度と会えないだろうと思っていたようですよ」そりゃあ大変なことなんだろうな。

 「当たり前です。利権がらみってことですからね」なんだよそれ。

 「まったく、ハタノサンは世間知らずですね」俺が悪いのかよ。

 「まあ後でゆっくりね。今はお嬢さんをしっかり安心させてあげてはいかがですか」

 

 淑華の言っていることが聞き取れるようになり、俺の頬っぺたのヒリヒリも治まった頃になって「これでも食べて落ち着きなさい」とばかりに主人が粥を出してくれた。ここらの住人が朝食でよく食べているやつだ。搾菜や何かが入っていてなかなか美味いが、俺は昼時専門だからあまり食べる機会がない。

 せっかくだから蓮華を持って食べようとすると、蓮華を淑華にひったくられた。粥をすくい味見をするように確かめてからそのまま俺の口元へ差し出してくる。そして。

 「アー」と言うからつい口を開けてしまった。良い塩加減だ。次々と蓮華は繰り出される。あっという間に一杯の粥は俺の腹に収まった。

 「ちゃんとご飯は食べてたの」そういえば腹が減って困ったということはなかったな。


 俺を椅子に座らせたまま淑華は器を持って行った。たまりかけている洗い物を済ませるようだ。横ではウルグダイ君と主人が何事か話している。蒙古語のようだがいよいよ聞き取れない。俺が呆けたようになっていると「良かったですね、随分と心配していたようです」なにが良かったのか。

 「どうします。お嫁さんにもらいますか」

 

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― 新着の感想 ―
淑華さんて何人になるのですかね。この時期の満州はロシア含めて入り混じっていたように思いますし。なんやかやでも言葉がある程度わかるハタノさん偉い。
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