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32 空中戦

 「着陸した後にすぐエンジンを止めたな、あれは良い判断だった」カトウさんはそんな話題を振ってきた。通常はそんなことはやらないが、無理矢理の強制接地だったからな。下手をするとバウンドしてもう一度浮き上がる可能性もあった。そうなったらいよいよ失速してどうなったかわからない。

 「あれはタカセ飛行士の指示です」

 「彼は意識不明じゃなかったのか」

 「敵機に囲まれたあたりで目が覚めていたそうです。操縦の邪魔になってはいけないと様子をうかがっていたそうです。で、途中からはこのまま捕まって銃殺だな、と腹をくくっていたと」

 「そこに少佐たちが現れたのか。西部劇みたいな話じゃないか」

 「そうなんです。一安心と、もう一度寝ようとしたらしいのですが着陸を私が行うことに思い当たり再び目が覚めたそうです」

 「わはは、いそがしい奴だな」

 「私が着陸に苦労していたのもわかっていたそうですが、身体も動かせずこれまでかと覚悟したところに上から押されて着地したことに気づき思わず叫んでくれたんです」

 「火事場のなんとやらか」ちょっと違うのでは。

 「おかげでまた傷口が開いてしまったとのことでした」

 「そりゃ一番の被害者だな」そうですね、生き残ったうちでは。


 「大体のところは後ろで寝ている大佐殿に伺ったがな、君も無茶なことに巻き込まれたな。あまり褒められたものじゃないぞ」

 「はい。あれよあれよという間にこんなことに」

 「まあやっちまったものは仕方がないさ。で、君はこれからどうするんだ」

 「それはもちろん会社に戻りますが」

 「ほう。ところで君は目はよいのか」

 「視力ですか、入社の時に身体検査で測りましたが2.0でした」

 「じゃああれはどのように見えるかな」カトウさんは前方上方を指差した。目を凝らすと黒い点が二つある。よく見ると翼がある、当然鳥ではなく飛行機だ。

 「飛行機が二機並んでいますね」

 「そうだな、もう少し詳しく」無茶を言うね。

 「あれは、昨日のとは違いますね。もっとスマートで単葉だ。マークまではわかりませんが、たぶん戦闘機です。高度差は500メートルぐらいですか、同じ方角に向かっています。こちらには気が付いていないようですね」

 「まあそんなところか。昨日のはソ連製Iー15だったようだが今日のはI-16だ。あいつは早いぞ、君ならどうする」どうするって逃げるしかないでしょ。向こうに見つかる前に転舵して。

「やっこさん達気が付くかな」こんなでかい翼が下に来たら普通に気が付くでしょう。


 スーパー機は速度を上げた。最高でも250キロぐらいしか出ないが、上空のI-16は巡航速度なんだろう、少しづつ相対距離は縮んで行く。どんどん近づいて行く。しかもわざわざ翼を振り始めながら。

 ついに気づかれた。二機は左右に分かれて高度を下げてくる。両側から挟むつもりのようだ。

 太い胴体、後方に開放式の操縦席、車輪は収納式なんだ。いかにも馬力で速度を稼ぎそうだ。

 操縦士がこちらに手を振って合図を出そうとしている。昨日と一緒だな。昨日と違うのは。俺にはじっと見つめる余裕があったということだ。だから機体前半分の機関部に機銃弾が数発続けて当たるのがはっきりと見えた。そして打ち終えて急降下していく機体も。昨日の再現だ。

 エンジンを撃ち抜かれたI-16はすぐに爆炎に包まれた、みるみるうちに後方へ下がっていくので視界からは見負えなくなる。左を見ればこちらにいただろうもう一機のI-16の姿も見えない。すぐに左側に95式が現れて機首を並べた。なにやら手信号らしきものでカトウさんとやりとりしている。

 しばらくすると上方へと上がっていった。

 「おい、波多野君。奉天のうまい飯屋を知っているかな」昼飯をおごらされることになったようだ。


 「一撃必殺とはあのことだな」とは、数日後にハルビンに帰り着いた俺がウルグダイ君に語ったものだ。

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