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29 死神

 操縦席前面のガラスに何か小石のようなものが当たる音がした。左から煽られるような突風も吹いてきた。操縦桿のハンドルをしっかり握り、動揺する機体を抑え込もうとする。だが小刻みな震えは泊まらない。

 「助かったぞ、味方じゃ!」参謀殿が嬉しそうに叫んだ。さっきまで中国軍機がいた左側に日の丸の描かれた飛行機が飛んでいた。ずんぐりした中国機と変わり頭の尖ったスマートな機体に見える。今度は日の丸の旗を出して窓から見せている。器用な人だ。そう思ったところで機体の震えがおさまった。なんのことはない、俺が震えていただけのことだった。飛行機が撃墜されるなんてもちろん初めて見た。一瞬で二人死んだわけだ。この機内で一人、もう一人は重傷。外では二人。スーパー機は死神にまとわりつかれたのかもしれない。そして無事に地上に降りれなければ次は俺なんだろう。

 

 参謀殿は現状を味方戦闘機の搭乗員にうまく伝えたようだ。無線通信も使わずに身振り手振りで何とかしたようだ。やっぱり器用な人だ。

 横に一機、前方に一機。さっきまでと同じ組み合わせだが、気分は180度変わってしまった。少しずつ高度を下げながら戦闘機の後を追尾する。

 「あれは95式ですね」川崎航空機製造の複葉戦闘機だ。発動機は水冷12気筒で700馬力ぐらい、最大速度は時速400キロメートル。武装は7.7mm機銃を二つ機首に装備している。そいつをたぶん一連射で相手の機首付近に命中させていた。特に前方にいたのは急降下で落ち落としている。すごいな。

 落とされたのはⅠ-15、ソ連製の戦闘機だった。ずんぐりと太いビヤ樽のような機体だが小回りの利く優秀機だと聞いたことがある。落ち着いてくると次々にデータを思い出してくる。あれは確か7mm機銃を四っつばかり装備していたんじゃなかったか。スーパー機なんかあっという間に火だるまだったな。

 「少し落ち着け少年」参謀殿に肩を叩かれた。ずっとしゃべっていたようだ。

 「落ち着いて着陸するんだ、大丈夫君なら出来る」

 滑走路らしきものが前方に見えてきた。

 

 草原を切り開き凸凹をならして作られた滑走路があった。地上百メートルぐらいから見下ろして通過していく。先導する九五式はゆっくりと左に舵をきった。俺がまともに操縦できないのを承知の上で、大きな円を描くように低空を滑るように飛んでいる。俺も少し機体を傾け後に続く。

 たっぷりとした時間をかけ、再び滑走路に向かう体勢になった。少しづつ下降する。

 「80メートル、70メートル」横で参謀殿が高度計を読み上げてくれている。ありがたいがそいつはあんまり役に立ちませんよ。目で見た方が安心です。「50メートル、40メートル、30メートル、20メートル、20メートル、20メートル、おいもっと下げないと着陸できんぞ!」

 わかっているのだが上手くおとせない、おかしいないっそエンジンを止めてしまうか、昇降舵を下手に下げると頭からつっこんでしまう、エンジンを止めると失速してしまう、たのむあとちょっとさがってくれ!

 その時頭の上からドスンという音が聞こえた。グッと機体が下がり車輪が地面に着いた手ごたえがあった。

 「発動機切れ!」後ろから叫び声があがった。頭上からゴーっというエンジン音が響き上を追い越していく飛行機の腹が見えた。


 滑走路のどこかで機体が停止すると周りから歓声が上がった。

 「ドンピシャじゃあ」

 「ようし皆で押すぞ」窓から横を見ると機体にとりついた人々が押してくれていた。周りを見渡すとどうも滑走路から脇に出そうとしてくれているようだった。プロペラが動かせないから地上滑走が出来ないのだ。こうなると単なる障害物だからな。

 次々と95式が着陸してくる。驚いたことに二機だと思っていたのに三機めがあったことだ。どうもその三機目に上から押されて着陸したようだ。

 見事な着陸風景を眺めていると外から扉が開けられた。

 「どうした、無事なのか」

 なんか、髭の怖そうな人だな。おれは返事も出来ずにその人を見つめていた。

 「おお、けが人がおるんじゃ。ここに医者はおりますか」参謀殿が元気に応えた。


 

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