27 襲撃
夜明けとともに飛び立った。今日も晴天、これだけはついているのか,今の季節ではあたりまえなのか。
地図を見せてもらう。どう見ても満州までは千キロ以上あるな、直線で飛べるとは限らないから最低でも一度は補給のために着陸が必要ということか。
機体のタンクを一杯にした上で一斗缶を積めるだけ積んではいる。飛びながら補給出来れば良いのにな。俺が一斗缶を担いで機体の外に出て補給口まで行ければいいのか、サーカスのアクロバットでも無理だな。
エンジンの音は快調に聞こえる。ろくに整備も出来ていないのにとタカセ飛行士に言うと「無理はさせていないからな」とのこと。一定の高度、一定の速度「これが一番だ」そうだ。あと「ワスプのエンジンは丈夫」とも。確かに工場で整備をしていてもそれは感じることがある。油の浸み、どことは言えないガタツキ、動かしたときの振動。確かにアメリカ製は出来が良い、悔しいけれど。
「無理にぶん回して油が吹いたりしたら目も当てられん」
不時着して敵に捕まった仲間もいたそうだ。そんな目にはあいたくないな。
昼過ぎに手頃な草原を見つけて着陸する。上空から見ると平坦に思えるが、実際にはかなりの凹凸がある。一度低空で観察してから着陸するのだが、滑走中は結構な振動がある。脚の折れたスーパー機は見たことがないが丈夫なものだ。
タンクを満タンにした後にタイヤを点検してみた。普通は空気抵抗を減らすためのスパッツというタイヤカバーを着けているのだが、これにはそれがない、むき出しのタイヤはすり減ってはいるがパンクなどはしていない。
「あんなもん着けてたら泥をかんでろくなことはない」とのこと。本来の持ち主である徳王様が使う時は取り付けるのだそうだ。見栄えはそのほうが良いものな。
小休止を終えて出発の準備をしていると参謀殿が叫んだ。
「おい急げ!見つかったぞ」
指差す方を見ると遠くに騎馬の集団が見えた。
「回すぞ!」
食事の跡もそのままにスターターのハンドルを用意する。
「エナーシャ回せ!」タカセ飛行士が声を出す。俺はハンドルを力いっぱい回した。
こちらの様子に気づいたのだろうか、騎馬の群れは駆け足になって迫ってきた。かかったエンジンを暖気する間もなく滑走を開始する。動き出せばこっちのものだが、向こうはなんと乗馬のまま銃を構えて撃ってきた。
滑走する方向はどちらでも良いわけではない、相手が真横から突っ込んでくるというあまり有難くない形になってしまった。昨日のような遠距離の狙撃ではない、もう百メートルもないところからどんどん撃ってくる。突然後ろから銃の発射音が聞こえた。振り向くと参謀殿が窓を開けて小銃を構えている。
「くそ!慣れん銃は当たらんな」それでも相手は少しひるんで馬の勢いが止まったように見えた。この隙にとばかりに速度をあげて一気に離陸する。何人か馬を止めて狙いをつけて撃ってくる。すると何発か機体に当たったような音が聞こえた。当たるじゃないか。参謀殿も反撃するが命中する様子はなかった。
それでも高度を取れればこっちのものだ。
「驚きましたね」と左の操縦席に声をかけると様子がおかしい。タカセさんは歯を食いしばって操縦桿を握っている。
「おい波多野君、操縦を替わってくれ」あわてて目の前にある操縦ハンドルを両手で握った。ほぼ同時にタカセさんはのけぞるように顔をあげそのまま意識を失った。
「田中さん!撃たれました」
なんとか水平飛行を保つと参謀殿はタカセ飛行士を操縦席から運び出し後席に移動した。またも後席は血まみれだ。ありゃあもう交換するしかないな、無事に帰ることが出来ればだが。




