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24 長距離飛行 

『作戦は予想以上に順調だ。高瀬との二人だけになった時はどうなるかと思ったが、吾輩の運はまだついていたようだ。小僧の動きは期待以上だ、小者三人を簡単に片づけてすぐに撤退をする判断力、飛行機を扱える技術力、一斗缶を担いで何往復もこなす馬鹿力。何よりこの間の情勢や状況を理解していない幼さ、立派に今作戦の戦力である。

 燃料が使用可能かどうかは賭けだった。駄目だったらここで荷を回収して引き返すところだった。それでもないよりはましなんだがな。しかし失地回復のためには本命を確保せねばならん。まあこれで見通しはたった。これからが作戦本番だ』


  夜明けとともに飛び立つことになった。今日は一日中飛行するつもりらしい。途中で2回ぐらいは地上に降りて小休止するというのだが、その間に機体の手入れをしなければならないようだ。

 スーパー機というのはよくできた実用機で、足回りからして丈夫に作られている。未整地の草原で離着陸を繰り返してもびくともしない。機体の他の可動部もうまく設計されていて、ようは整備しやすいのだ。これが軍用機になると、目いっぱいまで詰め込んだトランクみたいなもので、下手にさわると収めるのに苦労することになる。最近の小型高馬力の戦闘機なんか専門に勉強してないとねじ一本外せない。

 付属の整備手引書をめくってみて気が付いてタカセ飛行士に聞いてみた「これ。うちでつくったやつですよね」英文から日本語に訳した手引書はところどころ見覚えがあった。

 「そうだよ。こいつは満州航空飛行機製造部で組み立てたメイドインマンチュリアンだ」

 内地。特に俺のような田舎者には縁のない話と気にしてもいなかったが、この機体の持ち主たる徳王という方は、先年蒙古の覇者たらんとして軍を立ち上げ蹶起した。日本軍の後押しも受け進軍を開始したのだが武運つたなく中国軍に一敗地にまみれ、涙を飲みついでに無敵皇軍も評判を落とした。という事件がありその後、徳王も飛行機で大陸中を飛び回るというわけにもいかず、関東軍が寄贈したらしいこのスーパー機も最近は暇を持て余していたらしい。

 徳王とずっと懇意にしていた参謀殿としては手ごろな馬がわり、いやラクダがわりだったわけだ。水のいらないというラクダだって飯は要るんだろう。こいつも一日に千キロ以上飛ぶというならせめて油の一つも差さなきゃならんだろうな。部品の破損だけはないことを祈りながら、手引書のページをめくった。


 整備だけで済む話ではなかった。今日も飛行中に何度も操縦桿を握らされた。

 「無理は言わねえからな。真っすぐ飛んでくれればいいんだよ、一時間ぐらいでいいからな」タカセ飛行士はその間に休憩をとるという算段だ。

 高度を三千メートルまで上げ水平飛行に移る。

 「これなら見つかっても追いかけては来ないだろう」おそらく地上からは点にしか見えないだろう。その地上には建物などの構造物はない。草原と山々だけだ。正面といえば青い空に雲が遠く浮かぶばかり、つまりは今どこを飛んでいるのか俺にはさっぱりわからないということだ。

 「計器だけをみてればいいんだよ。リンドバークが大西洋を飛んだみたいにな」彼の人は離着陸時以外では前方を見ることがなかったらしい。そもそもスピリット・オブ・セントルイス号の前方視界はほとんどない構造だったと聞く。

 思い切りの良いことだ、俺にはとてもまねできないよ、と思っていたらいきなり雲の中に入ってしまった。操縦桿の手ごたえも振動が大きくなっていく「タカセさん!起きてください」手も伸ばそうとするが左手はむなしく宙をかく。どうするんだよ、とにかく両手で操縦桿を握りなおした。

 「少年が困ってるぞ」参謀殿がタカセ飛行士の肩をゆすった。

 目を覚ました彼は首をひと回しして計器を睨み「ちゃんと飛んでるじゃねえか」と呟いた。


 二回の小休止を挟み本日の大休止地点に到着となった。三段跳びだな、日本のお家芸だ。もっとも東京オリンピックは中止となったから田島選手も残念だったろう。


 周りの風景も随分と様子が変わった。山の色が黄土色になり、草原も岩などの少ない砂礫にちかいものになっていた。

 こんなところにも小さな小屋があり燃料の補給が出来た。

 「まだ使えますが次は怪しいですな」タカセ飛行士は補給作業をしながら参謀殿に伝えていた。

 「帰りに使えればいいよ」そろそろ目的地が近いようだ。

  

 昨夜にくらべると気温が上がり夜は楽に寝ることが出来た。大人二人は火も焚かず遅くまで翌日の予定を話し合っていたようだ。俺は疲れ切って朝起こされるまで夢も見なかった。


 


 

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