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14 後続なし

 ハルビンでは雪はあまり降らない。乾燥しているというのが理由らしいが、だとすると農業はどうなるのか。義勇軍の開拓団はどうなっているのか。ウルグダイ君は義勇軍のことなど何も知らない。だから間違った情報を伝えてくれたのかもしれない。ウルグダイ君の所属先についていくことにした。

 「あー、なんかそうなってるらしいよ」でもお国の方針で「今度の国会で正式に承認されるらしいね」ですから人数も一気に増えて「なんか年に万単位の少年を集めるらしいな」だったらここにも。

 「それがねえ、全部開拓のほうに行くようだね」

 盧溝橋の事件をきっかけにして中国との戦争が始まっている。名称は事変だけど、何師団も次々と本土から増派されているのは誰でも知っている。そのため兵隊の数を増やさなければならない。召集されているのは内地の人々だけではなかった。各地の開拓団にも召集令状は届いているそうだ。

 「で、不足する開拓団に青少年義勇軍が補充されるというわけさ」

 「じゃあ俺たちはどうなるんですか、開拓村に送られるんですか」

 「そんなわけないだろう」ここまで話してくれたウルグダイ君の上司さんは笑いながら言った。

 「ここまで育てた君たちを手放すわけないじゃないか。いまや君たちは立派な産業の戦士なんだよ」

 奉天やその他に行った連中も、もうすでに義勇軍ではないそうだ。それぞれの会社で地位が保証されて仕事についているらしい。「君なんかは一番不安定な立場だな、まだ技術養成員だものな」そういえばそんな名称だった。給与袋に肩書としてかいてあったな。

 「ちゃんと勉強して早く一人前の社員になってくれよ、さぼってたら開拓団に送っちゃうよ」ひどい冗談ではある。


 開拓団の実情は噂として伝わってきていた。

 あまり良い評判はない。そりゃ今のような季節を荒涼たる大地のもとで過ごすなんて、俺には想像もつかない。

 「心配するなよ、これからもどんどん若手は入ってくるからな。内地や外地でも募集はかけているよ。君みたいな少年でも、こちらで養成すれば戦力になるってわかったからね。まあ新しく入ってくる後輩達の良い見本になってくれよ。あんまり街で暴れちゃだめだよ」なんだそれは。最後のは余計だ。

 どうも俺たちは義勇軍とは切り離されてしまったのかもしれない。


 結論として、満蒙開拓少年義勇軍は国策の一つとなり全国の小中学校から選抜された優秀な少年達一万人を毎年満洲開拓に送り出すことになりそうなのだ。

 「満蒙開拓青少年義勇軍編成に関する建白書」長いな。

 俺がハルビンに来た頃に内地で出されていたものだ。すぐに閣議決定して「満洲青年移民実施要項」ができている。早いな、軍がからむと。この場合は関東軍だけどな。


 だがその中に俺たちのような技術員養成といった目的のグループは見当たらないようだ。すべて農業開拓なのだそうだ。一つの県から数百人規模で集められ、内原で研修を受け、渡満して中隊ごとに分かれて入植地で長期の研修。という流れらしい。そこに俺たちのところに送られてくる人員はないらしい。


 ウルグダイ情報によれば、会社のほうは別に気にしてはいないそうだ。そりゃあそうだな、ウルグダイ君筆頭に満洲現地で新入社員はいくらでも確保できている。内地からだってまともな学校卒業者も来ている。俺みたいな半端者って役に立たないんじゃないか。「そんなことないですよ。ハタノサンは優秀です。勉強も、工場での実習も良く出来ているそうです」ホントカネ。


 なんとなくすっきりしないまま、部屋に戻って掃除をする。心を無にしてひたすら雑巾がけを行い、ためていた洗濯ものを洗う。分からないときは身体を動かす。二時間もすれば部屋はすっかり片付いた。


 「ハタノサンはきれい好きですね」どこかへ避難していた、いや休日残業をしていたウルグダイ君が帰ってきた。小皿に小さなマントウを載せて持っている。これは肉入りだな。「冷えていますから、あとで蒸し直しましょうね」


 無心に瞑想し、そののち甘露をいただく、これ仏道の修行なり。そんなアホな。せっかくの休日だ、外出しよう。幸い今日は暖かい、たかだかマイナス10度ほどだ。

 

ハタノ君は結構のんびりとやっているようですが、夏以降の大陸情勢は大変なことになっています。

7月に日中戦争が始まり(この頃は北支事変と呼んでいたようです)8月には上海事変と拡大し、ついに12月には首都南京が日本軍により占領されています。

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