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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
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世の流れ 3 国の流れ

「北が騒がしいのは聞いてるかい?」

 ルコロフが尋ねる。

「最近、商人が騒いでいるやつよね」

 興味がある話なのか、ルシータの体が前がかりになる。

「戦の匂いが、北からし出したそうだよ」

「商いをしている人ならその辺に敏感になるから、そんな話は直ぐに広まっちゃうんだろうね」

「運ぶ方法や蓄える品を変えなければならなくなるからな」

「ほんと大変」

「それについては、同感だね」

 それを聞いたルシータが笑う。

 以前、ルコロフから聞いたことがある。帝国が隣の国と戦争中なのに、エルドレにちょっかいを出してきている理由を教えてくれた時の話だ。

 エルドレが再び栄え始めたのが原因らしい。これから先、手が付けられなくなる前に攻め込んでしまおうというやつだ。もちろん帝国自らは動かない。先ずはトンポンを使ってハオス公国を乗っ取り、緩衝地帯を広げるのが狙いだ。エルドレといえどもリチレーヌを守りながらだと、帝国から直接攻撃をされたら防ぎ切れるか分からない。

 外交にアスキ家を混ぜたのも、帝国への威嚇が含まれているだろう。それぞれの長は不用意な失言を避けるために、それについて何も語らない。手紙や部下からの情報に耳を傾けるだけにとどめる。その証拠にキタシフは先ほどから口を閉じたままだ。この部屋でそこまでは不要のことなのに、用心深く口を閉じている。

「盗賊が増えたのもそのせいかもね」

「帝国が好きそうな手ではあるな」

 ルシータとルコロフは、かまわず会話を続ける。

「不利な条件でも、武力をちらつかせて治安のことを口に出されたら、そんなの従うしかないよね。その後に国が乗っ取られることを知っていてもね」

「名家の人たちには頑張ってもらいたいな」

「ほんと、それ」

 そう言った後に、ルシータは楽しそうに笑う。

「そうだった」

 キタシフは思い出したように手を叩く。そのまま、ファトストに向かって片手を向ける。

「リュートという者は船に乗れずに外交へは不参加となり、新年には帰って来られるそうだよ」

「そうなのですね」

 ファトストが答えると、話題は外交へと変わっていく。

 村長の近くで仕事をしていると、こういった話が入ってくる。そこは利点だ。

 二人の間である程度話が進み、「それともうひとつ」と、キタシフが話し始める。

「今夜は帰さない、と皆が口を揃えているようだぞ。駄目なら明日は馬車の中で寝て行きなさい」

 晩餐のことを思い浮かべたのか、キタシフは腹に手を当てる。

 ここで帝国に関しての話は終わり、街を巡る順番についての話が始まる。腹が減ってきたファトストは、ついつい晩飯のことを考える。

 隣の人と膝が当たるほど狭かったといわれた食堂も広くなり、麓の街と同じ料理が出てくる。近くには畑になりそうな土地もあり、水路が引かれている最中だ。新しくできる橋を通れば、街とも近い。ここにも小さい集落は生まれそうだ。

 ファトストはそんなことを考えながら、他の人と同じく旅の支度は始める






 昨夜がどんなに遅くても行きの道中で眠れるわけなどない。体に問題がなければ、馬車はその場の長が操る取り決めだ。

 俺は馬に跨り、馬車の後ろについて麓の街へと向かう。

 道は良いとはいえないが、馬に乗る分には支障はない。一番急なところでも車輪を止める必要のない、ゆるい下り坂だ。馬車を引く馬も楽ができる。いつも通りの速さで進む馬車の後ろを、皆でのんびりついて行く。盗賊から荷を守るためにフォレスター家から人を出してもらっているので、旅にしては大所帯である。

 ルコロフとファトストは眠そうだが、ルシータとキタシフは平気そうだ。

「あれだけ引き止められたのに、それでも帰れる心の強さだよな」

「芯のある人の強さを見ました」

 ファトストは少し言葉を強めて言う。

「流れに乗る、大人の上手さもな」

 ルシータに合わせて帰ったキタシフのことを、ルコロフは言葉に包んで暗に皮肉る。

「クリスト王以外の名をあげるのは他の方に申し訳ないが、コールト様も偉大な方だな」

「同じ意見です」

 眠気を誤魔化すためであってどちらが先にということはなく、ルコロフとファトストは話をしながら坂を下る。



 名宰相コールト。

 他国の王が羨み喉から手が出るほどの王佐の才を持つその者は、思想家であり戦略家でもある。個人で動くことを好み、国から再三行われた士官の通知も、権力闘争の場では信念を曲げることになる、と拒み続けてきた。

 それならばと、時の宰相であったシティは、その時はまだ王子であったクリストの教育係をコールトに任じた。成人間近の王子に、新たな教育係を付けるのは異例の事だ。シティがその才を見抜いて行われたものであり、それほどまでにコールトをクリスト王の側に置いておきたかった。

 師弟関係はその後も続き、クリストが王を名乗る今となっても、教育係としての立場のままで宰相の座に着いている。

 ところがそのコールトも高齢となり、表舞台から姿を消す日もそう遠い話ではない。これほどまでに国が富んだのもコールトだからこそであり、次はない。

 それについて話をし終えると、二人から先ほどの言葉が出てきた。

「戦は起こると思いますか?」

 ファトストが尋ねる。

「ハオスの状況次第だろうな」

 ルコロフは答える。「帝国側の焦りを見て浮き足立った貴族が、ハオスで見つかったらしい。どうにかする前にそいつらが変な気を起こして、暴走しなければいいんだけどな」

「その気を失せさせるために今回の外交が行われたんですから、心配いらないんじゃないですか」

「ハオス公国内の問題だったらな。トンポンの裏には帝国がいる。遠方で戦が始まろうが帝国自体に影響はない。起こしたもん勝ちだろ」

「そうですよね」

 それはエルドレ国内で起こっても同じ事。帝国は本物の賊を使って揺さぶりをかけてきた。

 それに対して、人というものには性分がある。ファトストは、まんまとそれに巻き込まれていく。

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