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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
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未来の兵達 7 手紙

「ジュンイト様、お時間をいただいて感謝いたします。コヌセールのエルメウス家に仕えております、エルソンと申します」

「いえいえ、こちらこそ。村の者が助けていただいたらしくありがとうございます。村を代表して礼を申し上げる」

 恭しく執務室に入ってくるエルソンに対して、ジュンイトは両手を広げて立ち上がり歓迎の意思を伝える。そのままエルソンの方へ歩み寄り、手で応接用の椅子に腰掛けるよう勧める。

 ありがとうございます。と、エルソンが座ったのを確認すると、ジュンイトはテーブルを挟んで反対側の椅子に座る。

 一般的に村長といえば歳を重ねた人物が担うことが多いが、ジュンイトは平均的な年齢よりだいぶ若い。黒々とした髪を綺麗に流し、適度に脂肪がついた筋肉質な体型がより若く見せているのかもしれない。才能により取り立てられた者。というのが雰囲気から伝わってくる。

「ただいま、お茶を用意させますので」

 人を呼ぼうとしたジュンイトに対して、エルソンは「お構いなく」と遠慮する。

「そんな遠慮なさらずに」

 エルソンは再び遠慮をする。

「そうでした、あなた方は他人が差し出した水には口をつけないんでしたな」

「決まりのため、気を悪くしないでいただきたい」

「なになに、気を悪くするなどとそんな。忘れておったこちらにこそ非がある。久しぶりにあなた方のような人が訪れたものでしてな、それで気が動転しております」

 ジュンイトは襟を正す。

「さて、御用というのはどういったものですかな?」

「人を探しております」

「かしこまりました。お調べ致します」

「お願い致します」

 エルソン達が行っているやり取りは俗に言う、唾をつける。というものだ。

 対象の人物の名前が分かっていたとしても、明かさないのが決まりとなっている。名前を言わずともその者を言い当てることができる。問い合わせた者の誠意を見せるために始められたことが、年月を重ねる毎に形式化されたのである。

「若くして財を築け、軍部とも繋がりが深いため出世も望める。エルメウス家の目に留まったとなれば、これほど喜ばしいことはない。久しぶりに書く文に、胸が躍りますな」

 王国では幼少期に施す教育を水と呼び、体の成長と共に土と呼ばれる期間に入る。

 個人の適性を見つつ家の稼業を顧慮に入れ、体が出来上がるまで色々な職業を学ばせる。

 近隣の村や町に下宿して学ぶことが一般的なため、自分の村以外の者が対象となることが多い。そのためそれを知らせる手紙を書くことは、とても喜ばしい事となっている。

「離れた集落もこの村の一部となっておりますゆえ、その点はご容赦願いたい」

 決まりといっても形式化されたものであり、分からない場合は名前が告げられる。

 エルソンは自分の見聞きしたことを手短に話す。

「あいつら何かしでかしましたか?」

 話が全て終わる前に、ジュンイトは前屈みになり目を見開く。

「ジュンイト様落ち着いてください、しきたり通りに尋ねている状況ではありませんか。そのようなことは一切ないので、安心してください」

 ジュンイトは「申し訳ない」と、顔を手で拭う。

「あの三人が絡むと碌なことがないもので」

 ジュンイトは座り直すと、使用人にお茶の準備を言い付ける。

「お茶の準備ができるまで、しばらくお付き合い願いたい」

 二人は会話を進める。



「それでは彼のことを尋ねる者がありましたら、エルメウス家へご連絡ください」

 エルソンが立ち上がるのと同時に、ジュンイトも立ち上がる。

「承りました。エルメウス家の名前を聞いて手を引かぬ者などいないでしょうが、何かありましたらご連絡差し上げます」

「ありがとうございます」

「おっと、外までお見送りします」

 ジュンイトはエルソンの横に立つ。

「お気遣いなく。こちらで結構ですよ」

「いやいや、歩きながら少し話を聞きたいなと思いましてね。なに、世間話の一つですよ」

 ジュンイトは手を使ってエルソンが歩くのを促す。

「なぜリュゼーなのですか?」

 三人の中で一人ということならば、リュートが選ばれるのではないかと思っていた。それがファトストでもなく、リュゼーが選ばれた。

 自分の村の者ならば理由を聞くことは失礼に当たらないが、世間話ということにして世辞など入っていない本心が聞きたいとジュンイトは暗に物語っている。

「あの手の者は使い勝手が良く、何かと重宝いたします。若いうちから色々と経験をさせると、それにつれて危険を察知する能力が養われます」

 エルソンは正直に答える。

「それともう一つ。商いにおいて我々が大切にしていることは、弁が立つということです。リュゼーであれば軍部にいくことが叶わなくても、商いで財を築ける可能性があります」

「そのような理由でしたか」

 ジュンイトはここでやっと、腑に落ちた顔をした。

「ジュンイト様を信頼して、判断基準をお伝えいたしました。何卒、口外なきようお願いいたします」

「心得ております」

「それではこの辺で失礼します。今後は一家の者が引き継ぐことになりますので、以後お見知りおきを」

 そう告げると、エルソンは先に走らせている荷へ追いつくために馬に跨った。

 去っていく後ろ姿を見送った後、ジュンイトはリュゼーの家族へ知らせるために、上質な紙と墨を用意させた。

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