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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
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雲の行き先 59 オススメの品 上

「先ずは、ヘヒュニ様にお見せいただいた特別な衣に関連付けておひとつ」

 リュゼーはいつもと口調を変えて話し出す。

「ご存知の方もいるかもしれませんが、キリィという木は不思議な力を持っております。箱やチェストの材料にした場合にその中は衣に適した環境となり、傷みや色変わりがしづらくなるとともに虫を寄せ付けません。私の生まれ育った地ではキリィで箱やチェストを作り、婚姻の贈り物とする風習がございます」

 サッと、リュゼーは周りを見渡す。

 だからなんだ? といった顔が多数ではあるが、話始めのためにまだ聞く耳を持っている。

「エルドレの北を連なる背の高い山には、一年の大半が雪で覆われる場所があります。そこで育った木の質は大変良く、取れる本数も少ないために高級だといわれています。その中でもさらに選りすぐり」

 ここでリュゼーは息を吸う。

 話の途中だと分かるため、何か言いたそうな貴族も口を開こうとしない。これは話に割り込ませないために、師が使うものを真似した。

「末永くエルメウス家とお付き合いをしていただけるようこれからの季節に合った衣と合わせて、木箱にしたものを女王様にお届けする予定です」

「それがどうしたというのだ」

 リュゼーが息を吸った時を狙われて、貴族のひとりが口を挟む。

「ご希望があれば、同じ材質のキリィでどのような物にも加工いたします」

 リュゼーはゆったりとした口調で、直ぐに言葉を返す。

「それは良いことを聞いた」

 ヘヒュニは二本の指で鼻を撫でながらそう言う。余計なことを言わないためか、笑いを隠すためか。声から察するに後者だと思われる。

 それを聞いた先ほどの貴族は、面白くなさそうに鼻を鳴らす。その音だけが辺りに響く。

「期待をして損をした。これぐらいなら誰でも思い付く」

 ウタニュがその貴族を庇うように口を開く。

「これ、ウタニュ。先ずはと言ったではないか」ヘヒュニはリュゼーを見る。「次が続くということでいいな?」

「その通りですが、その前にもうひとつだけ。先ほどいただいたお茶が大変美味しいものでした」

「お前に何が分かる」

 突然、デゴジが言葉を漏らす。

「失礼いたしました」

 リュゼーは頭を下げる。

 気にするなとヘヒュニは手首を振り、次を促す。

「ありがとうございます。キリィで筒を作ると、茶が長持ちすると言われています」

 リュゼーは視界の端でウタニュとデゴジ、それぞれの表情を探る。残念だが、二人に変わりはない。やはりこれでは、まだ弱い。

「確か、デポネルでは茶を好む人が多くいると聞いております。茶を保存するために作られた筒を、こちらへお持ちした記憶があります」

 少し考える振りをしながらリュゼーは、インテリジへと視線を移す。

「フィリーさんが運んだ荷馬車だと思いますが、違いますか?」

「票ではそうなっていたな」

「良かった。この中でお茶が好きな方がいましたら、是非お尋ね下さい。良き品なのできっと気に入ります」

 貴族の一人ひとりと、リュゼーは目を合わせる。

「自分の知識を披露する他に、商いの基本はできているとでも言いたいのだな。良いではないか」

 ヘヒュニはそう言いながら鼻を覆っていた手を下げ、何度か頷きつつ顎をさする。

「何を言われます。あれぐらいは基本にもならない、できて当たり前のことです。それに荷馬車の件は、口裏を合わせればなんとでもなります。騙されてはいけません」

 ウタニュは小さく首を振る。

「調べたら分かることだ。信じようではないか」

 最後に、ヘヒュニは顎を大きくひと撫でしてから、ウタニュに向かって手を小さく振る。それを見たウタニュは首を振るのを止める。

 今度はリュゼーが、ウタニュが息を吸っている間に話し始める。

「マルセール港の近くにある山には雪が降ります。その山には茶の木と同じ種の木が生えているのですが、強い風により真っ直ぐ太く育ちます。その葉を茶にしたらそれなりに美味しいのですが、茂る葉の数が多くありません。ところがです」

 ここでウタニュを見ると、吸った息をそのまま吐いている。それを見て、リュゼーは話を続ける。

「その木は、キリィと似たような性質を持ちます。匂いが少ないといっても、キリィは茶の木とは違う匂いがします。しかしその木なら、茶を摘む木と同じ仲間。筒にすれば中に入れた茶の香りを邪魔しません。それにより香りを保ったまま、長い間保存ができます」

 デゴジに視線を移すと、興味がありそうな顔をしている。

「取り扱っているのはエルメウス家だけですので、ご興味があればお声がけください」

 話の終わりを告げるために、リュゼーは頭を下げる。

 ヘヒュニは体を少しだけ後ろに倒し、ウタニュがいる方に首を傾ける。

「商いはそなたの稼業がうえにそのように申すのかもしれないが、あの歳では中々なことだと思うぞ」

「何を言われます」

 そう言うも、ウタニュから次の言葉は出てこない。

 少しの間が空くが、デゴジからも何も出てこない。見ると、インテリジに話しかけているデゴジの姿が目に映る。

 ヘヒュニに目を移すと、満足そうに酒を口にしている。それから、「次もあるのだろ?」と言いながら、杯をリュゼーに向けて次を促す。

「山のお話をしましたので、次はエルメウス家と深い関わり合いがある、海のお話ができればと思います」

 その言葉にウタニュが反応する。リュゼーはそれを見逃さない。

 ウタニュが海産物を好きなのは分かっている。ここからそれを使って、どうにかして認めさせなければならない。

「楽しみにしているぞ」

 ヘヒュニは、トンッと杯をテーブルに置く。

「キュポ貝をご存知でしょうか?」

 リュゼーは緊張のあまりに先を急いでしまい、言葉尻に被せるように言ってしまう。だからといって、このまま止められない。

「リチレーヌの沿岸部でも食べられているとお聞きしています。いかがでしょうか?」

 沿岸部なら知らない者はいないだろうが、デポネルは海から遠い。リュゼーの問いに、貴族たちは顔を見合わせるだけで何も答えようとしない。だが、貴族が知っていようが知るまいが関係ない。狙いはウタニュだ。そのウタニュなら確実に知っているはずだ。

 自分と目を合わせようとしない貴族たちの顔を見渡しながら、リュゼーは気持ちを落ち着かせる。そのまま知っている者を探す振りをしながら、偶然を装ってウタニュと目を合わせる。

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